年下少女漫画家とドキドキ!? 共同生活!   作:チャンドラ=グプタ

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解雇通告

 次の日、俺は瞳の家に戻り、アシスタントの仕事をしていた。

 両親から「もっとゆっくりしておけばいいのに」と言われたが、仕事を休むわけにはいかない。

 それに今週の土曜日は瞳と共に遊園地に行く約束をしている。その為にも少しでも作業を進めておかなければならないのである。

 

「桃仁少年、いよいよクライマックスが近づいてるって感じだな」

 俺が背景を担当しているのは敵の最強幹部と技の応酬を繰り広げているページである。次の話で決着がつきそうである。

「うん。今の敵を倒し終わったらラスボスの修羅鬼との戦いになるよ」

 

 修羅鬼とは序盤から登場していた主人公の宿敵である。その正体は主人公である桃太郎の兄であるのだが、まだ本編では明かされていない事実だ。

 

「そっか。それも終わればいよいよ終わりなんだな」

「うん、そのつもりだよ。すごい最終回にする予定だから楽しみにしててね!」

 

 前にもうすぐ終わらせるつもりであることを聞いていたから特段驚かないが改めてもうすぐ終わりであることを作者から聞くと、一読者としてやっぱり寂しいものである。

 

「ああ。楽しみにしてるよ」

 

 金曜日には何とか仕事を終わらせ、遊園地に行く予定であった土曜日が訪れた。

 『エレメントドラゴン』の一話目のネームも無事完成し、心置きなく俺たちは千葉県にある『ディスティーランド』に訪れた。

 

「うわぁ! すごい人数だね」

 休日ということもあってか、ディステニーランドにはたくさんの人がいた。

 入場券を購入し、入場ゲートを潜る。真っ先に目に入ってきたのは大きな噴水であった。

 周りはまるで外国を彷彿とさせるような洒落た建物がいくつも点在している。

「健二くん、写真撮ろう! 写真!」

「そ、そうだな」

 瞳はとてもテンションが高かった。俺たちは噴水の前に立ち、スマホで写真を撮る。

「それじゃ、早速アトラクションに乗るか」

「うん! まずはスクラッシュマウンテンに乗りたい!」

 

 スクラッシュマウンテンとは丸太型のコースターに乗り、高いところに登り、激しい落下のスリルを楽しむアクションである。最後の落下では水しぶきを浴びることになるらしい。

 

「いきなりスクラッシュマウンテンか?」

「うん、もしかして健二くん絶叫系苦手だったりする?」

「いや……別に大丈夫だ」

「えー? 本当?」

「ほ、本当だよ……」

 ぶっちゃけ少し怖いがそんなこと言えない。

「なら問題ないね。早速行こう!」

 

 スクラッシュマウンテンは人気アトラクションである。すでに長蛇の列ができていた。

 待ち時間が表示されているが二時間待ちである。

 

「二時間待ちか……」

「ふっふっふっ……安心したまえ、健二くん」

 不敵な笑みを浮かべる瞳はポケットからどこぞの二十二世紀のタヌキ似のロボットのごとく、『あるもの』を取り出した。

「そ、それは……」

 瞳の手に持っていたのは『アーリーパス』である。アーリーパスとはアトラクションを早く乗ることができる優先チケットである。

「三日前に買っておいたんだ。これで五つのアトラクションはあんまり並ばないで乗ることができるよ!」

「おお、それはいいな」

 

 スクラッシュマウンテンのアーリーパス持ちの列に並ぶ。そこの列もまぁまぁ人が並んでいるが、一般列に比べれば雲泥の差である。

 十分後くらいにはスクラッシュマウンテンに乗ることができた。落下防止用のレバーが自動的に降りてくると、ゆっくりとコースターが動き出す。

 

「いよいよだね……」

「そ、そうだな」

 出来るだけ平然を装っていたが内心かなりビクビクしていた。コースターは勾配が強い坂を登る。頂上まで達すると一気に落下した。

「うわ!」

「あははは! おもしろーい!」

 

 俺は恐怖心から思わず目を瞑ったが、瞳は楽しそうに叫んでいる。休む間も無く、先ほどよりも勾配が急な坂を登り始める。

 

「ま、マジか……」

 軽いGが身体にかかると一気に落下するのが分かった。なんかぐわんと来た。ぐわんと。

「あわわわわ……」

 

 想像以上に激しいアトラクションである。もうそろそろ終わりか――そう思った矢先、これまで勾配が急な坂をコースターがゆっくりと登り始めた。

 

「う、嘘だろ……し、死ぬ!」

「うわ! すごい超楽しみ!」

 顔面蒼白な俺とは真逆に瞳はウキウキとしていた。コースターは頂上へと登り切ると、真っ逆さまに落下する。

「ぎゃあああああああ!」

「たーのしー!」

 まるで身体が宙に浮かんでいる様な感触。落下する瞬間、俺たちは軽く水しぶきを浴びることになった。

 

「いやー、楽しかったね健二くん!」

「そ、そうだな……」

 正直この時点で俺のライフはゼロに近い。しかし、こんなところで弱気な姿を見せるわけにはいかない。

「ねぇ、次どこに乗る?」

「そうだな……次はもうちょっとゆったりとしたアトラクションがいいな」

「ゆったりとしたアトラクションか……『イッツアミニワールド』なんかどう?」

「ああ、良さそうだな。そこにしよう」

 

 イッツアミニワールドはボードに乗り、人形に扮した世界中の子供たちが「小さな世界」を歌い、世界一周の旅を楽しむという内容である。

 イッツアミニワールドはマウンテン系のアトラクションと比べて大分空いており、アーリーパスを使わずすぐに乗ることができた。

 ボートに乗り込むと、水流に沿ってゆっくりと動き出す。進んだ先には可愛らしい人形が所々に置かれており、音楽に合わせて動いている。

 

「おー! 見て見て健二くん、人形だよ!」

「たくさんいるな」

 瞳はスマホを取り出すと、次々と人形を撮影した。

「これはなんかインスピレーションが湧いてきそう……人形を操って戦う敵とかいいかもしれない」

 急に漫画家モードになり始めたのか、何やらスマホに高速で入力し始めた。多分、メモを取っているのだろう。

 そんな瞳を他所に楽しそうに動いている人形を俺は呆然と眺める。

「助け合う世界か……」

 

 自然と独り言が飛び出た。

 漫画家という仕事において、助け合うなんて場面はほとんどない。

 連載している他の作家、連載を目指す作家は全てライバル、すなわち敵である。

 しかしながら、漫画家にも漫画家同士の繋がりというものが確かにある。

 

 初めてアシスタントする時、面倒を見てくれた先生は仕事に関しては厳しい人であったが、プライペートではとてもよくしてくれた。

 ストーリーの組み立て方、キャラクターの作り方など、時間外でも丁寧に教えてくれ、今の俺の漫画家活動に生かされている。

 しかしながら、打ち切りにあってしまい、その後は特にヒット作も出すことなく、ジョークから戦力外通告を受けた。

 

 あの先生、元気にしているだろうか

 次にアシスタントした先生はギャグ漫画家の先生で、かなり変わった先生であった。ぶっ飛んだギャグが持ち味の作品を描いているとはとても思えないほどの口数の少ない先生で、常に仕事の指示が紙で渡された。

 さらにその先生は仕事中、ホラー映画を流す。しかも大音量で。ある程度、ホラー映画に耐性のある俺は何とか耐えられたが、他のアシスタントは次々と辞めていった。

 その先生の作品は普通に完結したため、アシスタントを辞めることになったが、ホラー映画を見たせいか、グロテスクなキャラクターを描くのが上手くなった。

 

 漫画家という職業は常に他の漫画家と勝負強いられる。だが、決して孤独というわけではない。

 アシスタントという仕事をすることでできる繋がりが確かにあるのだ。

 俺と瞳の繋がりもこうしてできた。

 だが、もしも俺が連載を獲得すれば、瞳はライバルとなる。

 

「なぁ、瞳」

「なに?」

「あ、ありがとうな。俺をアシスタントとして雇ってくれて」

 瞳にお礼を言うと、彼女は目を丸くした。

「どうしたの? 急に」

「いや、色々あったと思ってな。瞳のところでアシスタントしてから楽しいことばかりだよほんと」

 

 仕事で瞳の原稿に触れるのは自分にも実りのあることであった。

 瞳の描いている姿を見ると、いつもよりもやる気が湧いてくる。

 漫画を描いている時の瞳は実に熱情的で、魅力的であると思っていた。

 

「私だって……健二くんには感謝してるんだよ。家事とかいろんなこと手伝ってくれたりさ」

「はは、家事だけかよ」

「そ、そうじゃないけどさ……」

 

 冗談のつもりで言ったのだが、なぜか瞳は悲しげに顔を俯かせる。

 俺と瞳の間に何とも言えぬ静寂が生まれ、アトラクション内に流れるBGMと水がさざめく音のみが聞こえる。

 

「どうしたんだ? 瞳」

「あの……私さ……」

 『ガタン』とボートが大きく揺れ動いた。気が付けばアトラクションが終わっていた。

「上がるか」

「う、うん……」

 

 イッツアミニワールドを後にした俺たちは園内で昼食を食べ、他のアトラクションを見て回った。

 さっき瞳が言おうとしたことが気になるが、なんだか怖くて訊かないでおいた。

 夜も更け、外が暗くなるとメインイベントであるディティニーランドのマスコットキャラクター達によるパレードが行われる。

 電光色が施された大きな車の上にはマスコットキャラクター達が楽しそうに踊っている。

 さらに何発もの花火が打ち上がり、夜空には様々な色に光り輝く花が咲き誇る。

 

「ねぇ、健二くん」

 じっと花火を見ていると、不意に瞳が話しかけてきた。

「ああ、なんだ?」

「私さ、できることならずっと健二くんと一緒にいたい」

 瞳がぎゅっと俺の手を握ってきた。手からほんのりと暖かい瞳の体温が伝わる。

「ずっとって……そんなの無理に決まってるだろ」

 俺が連載することになる場合はどうやったって瞳の家から出て行かなきゃならない。

「どうしても……無理?」

 

 悲しげに顔を俯かせた。俺のアシスタントの実力を見込んでこれからも一緒に仕事したいと思ってくれた彼女の気持ちは嬉しいのだが漫画で成功するためにはいつまでもアシスタントしているわけにもいかない。

 

「俺はそんなに描くの早いわけじゃないからな。連載するなら新しく仕事場を借りなくちゃいけないだろう。そうなったら……」

「違う。そういうわけじゃないの」

「そういうわけじゃない? ど、どういうことだ?」

「健二君。私が言いたいこと分からないの?」

「ああ、全く分からない」

 

 アシスタントの仕事において、瞳が俺に求めている仕事は彼女の指示で全て理解することができた。だが、今の瞳は何が言いたいのかさっぱりである。

 

「そっか。分からないなら……いい」

 瞳は俺から背を向けると逃げるように歩き始めた。

「お、おい……瞳、どこに行くんだよ!」

「帰ろう。もう遅いし」

「か、帰るなら帰るって……それなら」

 瞳を見て驚愕した。なんと彼女は泣いていた。

「ひ、瞳……」

「健二くん、悪いけど今日限りで解雇してもいい?」

「え……」

 

 

 

 突然の解雇宣言である。あまりの出来事で頭が追いつかない。

 

 

 

「千尋さんには私から後で説明しておくから。荷物は健二くんの実家宛に送っておくね。それじゃ、また」

 

 そう言い残すと、瞳はその場から走り去っていった。他のお客さんたちが楽しそうにパレードを見つめている中、俺は孤独な世界へと取り残された。

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