年下少女漫画家とドキドキ!? 共同生活! 作:チャンドラ=グプタ
「終わったー!」
俺と瞳はハイタッチした。ようやく『桃仁少年』の最終話の原稿が終わった。最終話ということもあり、全てのコマに魂を注ぎ込めて描いた。
「お疲れ様、健二くん!」
「瞳もお疲れ様」
桃仁少年は一番盛り上がったところで終わったと言えるだろう。こんな風に最終話を迎えられる漫画はそうそうない。
「うん。けど、休んでる暇はないよ!」
「だな」
俺たちは新しい漫画を描かなかればならない。千尋さんをうんと唸らせるような漫画を。
「それじゃ、早速新作のへの打ち合わせと行こうか」
まずはお互いに描きたいジャンルを話し合う。出てきたものの中から得意なジャンルへと絞り込み、お互いの持ち味を出せそうなものを選択する。
次に舞台を決めていく。現実に近い世界にするか、ファタジーの世界にするか。
そして、主人公の設定を考えていく。主人公の性格、能力、背景など。細かく設定していく。
一人で考えるとなかなか進まないものであるが、瞳と一緒だとドンドン面白いアイディアが生まれていく。その分、絞り込んでいくのも大変であるのだが。
そうしているうちにあっという間に時間が過ぎていった。
「とりあえず今日はここまでにしようか」
「そうだな」
メモ帳には文字がビッシリと羅列されている。
「健二くん、明日の昼くらいまでに設定を元に主人公のイラストを何枚か描いてみてくれる? 私も描いてみるから」
「分かった」
まだ大まかにしか主人公のイメージ像が浮かんでいないが、描いていくうちに主人公像というのが鮮明になっていくことだろう。
その日の夜、俺は自分の部屋で早速、主人公のイラストを描いてみることにした。
主人公は中肉中背で茶髪の少年。目元をやや切れ長にする。
主人公の絵を一枚描いてみたが、『どこにでもいる普通の少年』といった感じだ。
「これじゃ、印象薄いよな……」
主人公は異世界転生によって、舞台となるファンジターの世界へとやってきた。生前は若いサラリーマンで、会社に馴染めず不幸な事故でなくなったという過去を持つ。
「もうちょっと、暗そうな感じにするか」
雰囲気を変えるため、目元に隈を付け足した。確かに暗そうな感じにはなったが、これじゃ逆に敵っぽい。
「くそ……難しいな」
結局、その日は朝まで試行錯誤しながら主人公のキャラクターを描くことになった。
次の日、俺は瞳と朝ごはんを食べた後、睡眠を取った。昨晩の夜に徹夜したためである。
起きると、早速昨日描いたイラストを持って、仕事場であるリビングに向かった。
「おはよう、健二くん。しっかり眠れた?」
「ああ、まぁな」
おはようっていうかもうお昼なんだけどな。俺はテーブルに描いたイラストを並べていた。
「うわぁ、すごい。こんなに描いたんだ?」
「瞳のも見せてくれるか?」
「うん!」
瞳から五枚のイラストを受け取った。さすがは瞳である。どれもこれも主人公がかっこいい……というか美形である。
「健二くんのイラスト、やっぱりいいね」
「瞳、正直に言ってくれ。瞳が描いたものの方がいいと思うか?」
「うーん、どうだろ。私、主人公はかっこよくしなきゃって思ってた……けど、健二くんのイラストを見ていると割と普通の主人公でも良いかなって思ってきたよ」
確かに俺は出来るだけ普通にしつつ、どこか普通とは違うように描いた。
言葉で説明するのはとても難しいが、物語の主人公にする以上、『完全な普通』ではダメなのだ。
「瞳、普通じゃダメなんだ。俺が描いたイラストの中で一番、普通じゃないのってどれだと思う?」
「うーん、これかな?」
瞳が指差したイラストは最後に描いたイラスト――見た目的な特徴は薄いものの、目つきが悪く、どこか近寄りがたい雰囲気を持つ少年である。
「そうか。俺も自分が描いた中ではこのイラストがいいんじゃないかって思ってた」
「なら、この子にしよう!」
「いいのか?」
「うん!」
あっさりと瞳は主人公のデザインを俺が最後に描いたイラストにすることに納得した。
「健二くんが魂を込めて描いた主人公だもん。必ず面白くなるよ!」
「そ、そうか……そうだな」
「それじゃ、主人公のデザインも決まったところで一話目のネーム作りといこうか!」
「だな!」
瞳と話し合い、一話目のネームの構想を練っていく。冒頭は主人公が異世界転生するところから始める。
会社で上司に叱られている主人公。半ば人生に絶望しつつ、歩いていると、主人公は腕に痛みを感じた。
不運にも主人公はスズメバチに刺された。蜂に対してアレルギーを持っていた主人公はアナフィラキシーショックにより命を落とした。
目を覚ますと、主人公はエルフ、獣人族といった元の世界では見たことない種族を目の当たりにする。自分の頬を抓ってみると痛みがあり、夢ではないことに気づく。
これは異世界転生だと理解した主人公は異世界転生お約束の神からチート能力を与えられたと思い込み、冒険者になることを決断する。
冒険者になるには少なくともモンスターを倒すという実績が必要となる。
主人公は冒険者になるべく、弱いモンスターがいるという試練の森に入ることにした。
しかし、無謀にも装備なしで森に入ったため、早速ピンチに陥った。
モンスターである『シャープネイルベアー』という熊のモンスターに出会ってしまった。
地面にある石を投げたり、魔法の使用を試みるも全て失敗に終わった。
腰が引けて動けなくなった主人公の顔面に熊の鋭い爪が降り注ぐ――その瞬間、主人公の身体は人間の身体から蜂の姿へと変貌した……というところで一話目が終わる。
「一話目はこんな感じかな」
「掴みとしてはいいかもな。二話目はどうする?」
「そりゃ、もちろん。熊を爽快に倒しちゃうでしょう!」
「まぁ、そうだな。こういうの今流行ってるんだっけ? 異世界転生モノとかいうやつだろ?」
俺はあんまり目にすることはないが、ラノベで流行っているジャンルらしい。主人公が異世界へと旅立ち活躍するのが主流であるが、必ずしも主人公が強いとは限らなかったりする。
「うん。奈緒ちゃんが小説家を目指しているってのを聞いてピーンと浮かんできたんだ。私、結構ラノベも読むんだよね」
「ラノベか……俺、あんまり読まないんだよな」
俺は活字に触れるのがあまり得意ではない。文字ではなく絵でストーリーを楽しみたいと思うタイプである。それゆえ、文字が多い漫画も個人的にあまり好きではない。
「そっか。健二くんも読んでみたらいいよ。オススメは『このすご!』とか『リイチ』とかかな」
「あ、あぁ……暇な時にでも見てみるよ」
瞳の勢いに押され、ラノベを読むと宣言した。漫画の為であると思えそれほど苦ではないが漫画よりも読み終えるのに時間が掛かるだろう。
瞳と共に二話目と三話目のネームの叩き台を数日間掛けて作り上げていく。
主人公のスキルの設定、三話目に登場する主人公の仲間の職、服装、扱う武器のデザインなど、細かく考えていけばかなりの時間が費やされる。
叩き台が完成したら、そこからさらに時間を掛けてネームを作り上げる。ネームはあくまでも完成版である原稿の設計図となるものであるが、千尋さんにも分かるように書かなければならない。
コマ割りについて、あーでもない、こーでもないと瞳と四苦八苦しながらもなんとかネームを作り上げた。
「や、やっと……三話目まで終わったね」
「だな……」
徹夜で作業し、時刻は午前八時となっていた。千尋さんにネームが完成した旨、連絡すると、『十二時頃に向かおうと思うんだけどどうかしら?』と返ってきた。
「千尋さん、十二時に来たいって」
「私は大丈夫だよ」
「そっか。それじゃ、返信しておくわ」
「うん。私、ちょっと寝てくるね」
瞳は椅子から立ち上がると、自分の部屋へと戻っていった。俺は合鍵を持ち、家から出て『とある場所』へと向かうことにした。