年下少女漫画家とドキドキ!? 共同生活! 作:チャンドラ=グプタ
筆ペンにインクを付け、ベタ塗りする。作業を始めると時間を忘れて作業にのめり込むことが出来た。
「ふー……やっと終わった」
ベタ塗り、スクリーントーンの貼り付け、背景の書き込みといった一連の作業を行い、ようやく渡された原稿を終わらせることが出来た。
しかし、これを今度は岩泉先生にチェックしてもらい、やり直しがないか確認してもらう必要がある。
「岩泉先生、チェックお願いします」
原稿に向き合っている岩泉先生に話しかけたが、集中しているためか全く反応がなかった。
「あの、岩泉先生!」
少し大きめの声で話しかけるとようやくこちらを振り向いた。
「ああ……どうしたの?」
「渡された原稿、作業終わったので確認してもらえますか?」
「あー、分かった。それよりさ、お腹空いたから何か作ってくれない? 冷蔵庫に入っているもの適当に使っていいから」
そういえばすでに時刻は十三時半となっており、お昼ご飯のことをすっかり忘れていた。
「分かりました。何か食べたいものとかありますか?」
「任せるよ」
岩泉先生はそう言うと、再び原稿に向き合った。任せるね……一体、何を作ったら良いだろうか。
とりあえず、冷蔵庫に入っているもの見て決めるか。
「これは困ったな……」
冷蔵庫の中を見てみたが、中には碌なものが入っていなかった。
人参、ジャガイモ、そして大量のチョコレートが入っている。チョコレート好きなんだろうな。
そして、カレールーもあった。
「これはカレー、一択だな」
具は人参とジャガイモのみになるが仕方がない。
キッチンにまな板を置き、ピーラーを使って人参とジャガイモの皮を剥いた。
皮を剥き終えると、包丁で細かく刻んでいく。鍋にサラダ油を敷き、人参とジャガイモを炒めた。
丁度良いくらいまで火を通ったら水を投入し、十分ほど時間をかけて温める。火を弱火にし、カレールーをゆっくりと溶かしていく。
カレールーを入れてから五分ほど経過すると、全て溶かし終わり、カレーが完成した。適当に皿を見繕い、炊いた米とカレーをよそい、リビングに持っていった。
「岩泉先生、昼食作りました。ここに置いておきますね」
リビングにある大きな木のテーブルにカレーを置いていた。無我夢中で仕事をしていた岩泉先生はすぐにカレーの方を見た。
「うわぁ……美味しそう」
カレーを見た岩泉先生は目を輝かせた。テーブルに駆け寄ると手を合わせ、「いただきます」と言い、早速カレーを食べ始めた。
よし、俺も食べるか。正座し、カレーを一口食べた。
うん、我ながら上手い。
「美味しいよ、健二くん。千尋の言っていた通り、料理上手なんだね」
「褒められるほどじゃないですよ。一人暮らしだから料理することが多いってだけです」
「そうなの? 私は一人暮らしだけど全然料理できないよ?」
「そ、そうですか……」
不思議そうな顔で見つめられても困る。なんて答えたらいいんだ。
「それにアシスタントとしてもかなり優秀みたいだね。さっきの原稿、オールオーケーだった」
オールオーケーか。少しばかりホッとした。
俺が初めてアシスタントした時、担当の先生からボロクソにけなされ、心に大きなトラウマを残したことがある。
「ちょっと聞きたいんだけどさ、健二くんはどんな漫画が好きなの?」
「好きな漫画……そうですね。やっぱり、カギリリス先生の『ロボット・プラネット』ですかね」
「ふーん、そっかぁ……私の漫画はあんまり好きではない感じ?」
あ、やばい。ここは嘘でも「岩泉先生の桃仁少年が一番好きです!」と言うべきだっただろうか。
いや、俺は漫画に関して嘘はをつくことはできない。
「いえ、そんなことありません。岩泉先生の『桃仁少年』も毎週楽しく読ませていただいてます。ただ、正直に言うと個人的には『ロボット・プラネット』の方が好きです!」
「そっか。『桃仁少年』の中で一番好きなキャラはいる?」
俺の発言について何も気にする様子もなく、岩泉先生が一番好きなキャラについて尋ねる。
『桃仁少年』は桃太郎を基にしたバトル漫画で、魅力的なキャラクターがたくさん出てくる。
また、主人公の桃太郎は剣を用いた必殺技を操り、戦闘シーンは一見の価値がある。
「そうですね……雉島趙ですかね」
雉島趙は主人公、桃太郎の仲間で、雉族という飛行能力を持つ一族であり、銃を用いて戦闘を行うキャラクターである。天真爛漫な性格であり、とあるごとに事件を巻き起こす、トラブルメーカーでもある。
「そっか。やっぱり雉島は人気キャラみたいだね」
昼食を食べ終わった後、お皿を片付け、再び仕事を再開することにした。岩泉先生から新しい原稿を渡された。先ほどよりも背景を描く量が多く、かなり時間が掛かりそうであった。
資料を見ながら丁寧に背景を描きあげていく。今まで連載できず、ネームばかり描いていたため、背景などしばらく描いていなかった。
そのため、一枚描き終えるのにかなりの時間が掛かってしまった。気がつけばすっかり日が暮れており、夜六時になってしまった。
「岩泉先生、作業終わったので確認お願いします」
「分かった。後、悪いんだけど夕食作ってくれる?」
「構いませんけど……食材が碌なものないので何か買ってきますね」
「分かった。それじゃ、ちょっと待ってて」
岩泉先生は立ち上がると、別の部屋へと移動した。すぐに戻ってくると「はい」と白い財布を渡してきた。
いきなり財布を渡されて戸惑った。
「え、えっと……」
「領収書はちゃんと取ってきてねー」
そう言うと、岩泉先生は再び仕事を再開した。いきなり財布をまるごと預けてくるとは想定外だ。
俺は気を取り直し、スーパーへと向かうことにした。
「ふー、すっかり遅くなってしまったな」
スーパーへと買い物に向かった俺であったが、献立を考えていなかったため、何を買うか模索していたらすっかり買い物を終えるのが遅くなってきた。
鍵の掛かっていない部屋の扉を開け、中に入った。よく考えたら不用心だな。今度買い物に出るときは鍵を持って出るようにするか。
リビングに顔を覗くと、岩泉先生がリビングにいなかった。トイレだろうか?
買ってきた食材を冷蔵庫に入れ、料理を開始することにした。
俺がこれから作る料理はオムライス。俺の得意料理の一つであり、実家暮らししていたとき、俺が作ってやるとよく妹が喜んでくれた。
まずはチキンライスを作る。パック用のご飯をレンチでチンし、鶏肉から脂肪を切り取り、角型に切る。
「ふー、さっぱりしたー」
ふと、後ろから岩泉先生の声がした。後ろを振り向くと、バスタオルを巻いた岩泉先生がいた。
「え、え!? い、岩泉先生!?」
すぐに岩泉先生から目を逸らした。なんで服を着ないでそのまま出てくるんだ!
「キャッ! か、帰ってたの!」
岩泉先生はなぜか脱衣所ではなく、リビングの方へと駆け込んでいった。
やばい……心臓がバクバクと激しく鼓動している。陶器人形のように白い素肌に膨よかな双丘……大事な部分は辛うじて隠れていたが、淫美な姿が頭から離れなくなりそう……って何考えているんだ俺は!
「す、すみませんでした! 岩泉先生!」
キッチンから大声でリビングにいる岩泉先生に謝った。
「う、うん! 気にしないで! 着替えたら呼びに行くから」
そこまで怒っているようではなさそうだ。気を取り直し、再び料理を再開することにした。
フライパンにバターをやや弱めの中火で熱し、バターが溶け終わるのを確認した後、鶏肉と玉ねぎを炒める。鶏肉と玉ねぎに火がしっかりと通ったら、塩と胡椒をかけて混ぜる。
火の火力を少し上げ、ご飯を加えてほぐしながらフライパン全般に広げた。
ご飯がパラパラとしてきたら、トマトケチャップを加えて混ぜながら炒め、ケチャップが全体に馴染んできたら火を止め、チキンライスをボールに移す。
次にボールに卵を二つと牛乳と塩少々加え、箸でしっかりとかき混ぜる。さっき使用したフライパンを軽く洗い、サラダ油を投じ、強めの中火で一分ほど熱する。
卵液を加え、固まる前にフライパン全般に広げる。卵が半熟状になったら火を止め、チキンライスを加え、ラグビーボールのような形になるようにして乗せる。そして、フライ返しを使って、卵をそっとチキンライスにかぶせる。
卵が破れないように充分に注意しながら皿に移し、卵にケチャップを掛けたら一人分のオムライスが完成である。
「ねぇ、健二くん?」
「うわ!」
急に背後から話しかけられ、振り向くと岩泉先生がしかめっ面しながら立っていた。ちゃんと服は着ている。だが、相変わらずのジャージ姿だ。
「すみません、さっきは……」
俺は反射的に深く頭を下げて謝罪した。ビンタされるのも覚悟している。
「ううん、私も服を着ないでウロチョロしていたのが悪かったし……それ、オムライスだよね? すごく美味しそう!」
「はい。今、一人分作り終わったところです。もう一つ作るのでそれまで待っててください」
「うん、分かった!」
岩泉先生がリビングに戻るのを確認し、もう一つオムライスを作る。さらに買い込んだ食材で野菜スープも作った。
料理をリビングへと持っていき、テーブルの上に並べる。すでに岩泉先生は椅子に座っていた。
「それじゃ、健二くん。食べよう!」
「そうですね」
こうして、二人で夕食を食べることにした。スプーンでオムライスを一口掬い、口に入れる。卵のほんのりと甘い味が舌鼓を打つ。我ながらなかなか美味しかった。
ふと、岩泉先生を見ると、満足そうな顔でオムライスを食べていた。なんか少し妹に似てる気がしないでもない。
「美味しいですか? 岩泉先生」
「うん。すごく美味しい……けどね」
けど……何か気に入らないところでもあっただろうか。
「健二くん。敬語で話さなくてもいいよ」
岩泉先生からそう言われて少し戸惑った。一応、岩泉先生は俺の雇い主に当たる。そう考えると敬語で話すのは当然のことである。
「そ、そういうわけには……」
「健二くんの画力の凄さは今日の働きぶりを見てよく分かったよ。全然原稿も指摘する必要ないし、さすがは連載していただけのことはあると思った」
「連載していたと言っても、半年だけですし……」
「まぁ、そうだけど……とにかくさ、敬語は禁止ね! あと、私のことも瞳って呼んでいいから」
「ひ、瞳……ですか?」
「そう。ほら瞳って呼んでみて」
「ひ、瞳……」
「そうそう、良く出きました! それじゃ、改めてよろしくね健二くん」
「あ、あぁ……」
岩泉先生もとい瞳の指示となれば仕方がない。俺は敬語をやめ、彼女と接することにした。