年下少女漫画家とドキドキ!? 共同生活!   作:チャンドラ=グプタ

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郡山一志

「うお……」

 

 会場を歩いていると俺は瞳と青年が話しているのを見掛け、俺は思わず柱の陰に身を隠した。

 瞳と話している青年は銀髪で整った顔立ちをしており、歳はおそらく俺より一つか二つほど下くらいである。さっき、千尋さんが言っていた郡山先生だろうか。

 

「久々だな、瞳。元気にしてたか? 俺、別れた後も色々と瞳のこと考えてたんだ」

 話の内容からしてやはりこの青年は郡山先生で間違いないようだ。

「う、うん……そっか」

 話しかけられた瞳はとても気まずそうな表情をしている。別れた理由からして気まずくなるのも無理はないが。

「俺、ずっと瞳に謝りたかったんだ! すまない、お前を苦しめてしまって!」

 郡山先生は瞳に対して深く頭を下げた。この態度を見れば確かに申し訳ないと思っているというのが伝わってくる。

「う、ううん……気にしなくてもいいよ」

「ごめんな、本当に。あの……良かったら俺たちもう一度やりなおさないか?」

 ダメだこの青年。瞳も案の定困った……いや、もはや怯えたような表情をしている。

 もう見てはいられない。

「え、えっとそん……私は……」

「二人が話している時にすみません」

 悪いとは思いながら半ば強引に二人の会話に割り込んだ。

「なんだあんたは? 悪いが今、大事な話をしているところなんだ。後にしてくれないか?」

 郡山先生は明らかに不機嫌そうに俺を睨んできた。

「悪いけどそういうわけにはいきません。俺は先生のところでアシスタントをしている白河健二って言います。さっき、やり直さないかって先生に言ってましたよね? お二人の関係に首を突っ込む気はありませんが……先生は多忙なんです。恋愛する時間なんて今は到底ありませんよ」

「なんでアシスタント風情にそんなこと言われなきゃいけないんだ。これは俺と瞳の問題なんだ。引っ込んでいてくれるないか?」

 

 予想通り郡山先生から反論された。この人からは確かに瞳が好きだったという思いが伝わってくる。

 しかし、千尋さんの話や瞳への態度から察するに、愛情が強すぎてすれ違いが起きてしまったのだろう。

 

「ちょっと一志くん! 健二くんにそんなひどいこと言わないで! 健二くんは絵がとても上手いし、連載だってしてたすごい人なんだから!」

 アシスタント風情という言葉に怒りを覚えたのか、瞳が意義を唱えた。

「へぇ……その人、連載していたのか。なんて漫画を連載してたんだ?」

「えっと、その……『白銀の爪』っていう漫画を」

 俺が連載していた漫画のタイトルを述べると郡山先生は馬鹿にしたように薄ら笑いを浮かべる。

「あー、あのすぐに打ち切りになったやつね。絵は確かに上手いって思ったけど、あんな中身のない漫画を描けるなんてある意味すごい才能だと思うよ」

「一志くん! どうしてそんなひどいこと言うの!」

 

 くそ、ここまであからさまに言われる流石にムカつくな。

 言い返したい気持ちが強くなるが、俺はまだ結果を出していない。

 

「ひどいこと? 事実を言っただけだろう。この世界は完全実力主義。才能のない奴が生き残っていけるほど甘い世界じゃないんだよ。はっきり言ってあんな漫画しか描けないならプロアシを目指すか、作画担当になるしかないと思うが」

「それは聞き捨てならない言葉ですね」

 

 横から凛と透き通る声が聞こえてきた。ツカツカとハイヒールと床がぶつかり合う音が周囲に響く。

 この場に颯爽と現れたのは千尋さんであった。

 

「えっと、あんたは確か……瞳の担当だったか?」

「はい。そこにいる健二くんの担当でもありますけどね。どうも郡山先生」

「どうも……それで、聞き捨てならない言葉ってなんのことだ?」

「さっき、郡山先生こう言いましたよね。『才能のない奴が生き残っていけるほど甘い世界じゃないんだよ』って。私もそう思います。いや……この世界は才能があったとしても、運が無くて生き残れないことだってざらにあります。

 だけど、私は……健二くんがこの世界で生きていける作家だと思っていますよ」

「本気でそう思ってるのかよ? 確かに絵はジョークの中でもまぁまぁ上手い方だとは思うけど、内容がハッキリ言ってゴミだろ」

 『ゴミ』という単語が郡山先生の口から出た時、千尋さんの眉がピクッと動いた。

「まぁ……健二くんが話を作るのがまだ不得意なところは認めざるを得ないところだと思う。けど健二くんは成長しています。泊まり込みで岩泉先生のところで住み込みでアシスタントをしたおかげでね!」

 

 おいおいおい、ここでそんなこと言っちゃう? バカじゃない? 

 

 案の定、郡山先生は大きく口を開け、パクパクさせていた。

「なん……だと……今、なんて言った?」

「えー? だから、健二くんは成長してるって」

 これはわざとやっているな千尋さん。

 千尋さんはたまにこういう意地悪をすることがある。多分、Sなのだろう。

「ちっげーよ、その後だよ! 住み込みでアシスタントしてるのか? そいつが?」

「はい、そうですよ。アシスタントだけじゃないです。家事全般もやってくれています」

「ほ、本当なのか? 瞳?」

「う、うん……」

 瞳は戸惑った様子を見せながらも頷いた。郡山先生は肩をプルプルと震わせていた。

「まじかよ、ふざけんなよ! 恋人でもないのに、泊まり込みでアシスタントさせるとか、集用社も落ちたもんだな」

「本人同士が合意しているなら私に止める権利はないですよ。それに、二人は上手くやっています」

 まぁ、俺も元々泊まり込みでアシスタントすることは全く聞かされていなかったけどな。

「てめぇ……瞳に手を出してないだろうな?」

「は、はい……」

「瞳、本当か?」

「うん、健二くんはそんな軽い人じゃないよ」

「ならいいが……瞳、悪いことは言わない。泊まり込みでバイトさせるなんて真似はもうやめるんだ」

「えっと、その……」

 瞳は反論の理由が上手く思いつかないのか、言葉を詰まらせた。俺が泊まり込みでアシスタントしたいというのも郡山先生に変な誤解を招く恐れがある。

「それは郡山先生、あなたではなく、岩泉先生が決める話ですよ。岩泉先生はどうしたいの?」

「わ、私は……」

 瞳は一度顔を伏せた後、再び顔を上げ郡山先生を見つめる。

「私は健二くんにこれからも住み込みでアシスタントして欲しい!」

 瞳は自分の思いを正直に郡山先生に伝えた。さすがにショックを隠しきれないのか、一志は顔を強張らせている。

「決まりね。それじゃ、健二くんこれからもアシスタントよろしくね」

 

 千尋さんは満足そうにその場から立ち去ろうとした。しかし、

 

「待てよ、担当さん」

 

 郡山先生に呼び止められ、足を止めた。

「何でしょうか?」

「ちょっと勝負しないか?」

「勝負……ですか?」

「ああ。前に俺の担当から聞いたのを思い出した。確か健二先生の新作、十月発売のジョークで掲載されるんだろ? 実は俺も読み切り作品を一つ発表するんだ。健二先生の作品が掲載される前の号でな。どうだ? どっちの順位が上か勝負しないか?」

 順位がどちらか上か勝負か……漫画とかであれば燃える展開だが、どう考えてもこっちが不利だし勝ったとして俺に何のメリットがあるというのか。

「勝負したとして……健二くんが負けたら?」

「健二先生を瞳のアシスタントから辞めさせろ。別にアシスタントだし、代わりの人は見つけられるだろ?」

「私たちが勝ったら?」

「もう……瞳と関わるのはやめる」

「ちょ、ちょっと待ってよ! そんな勝負おかしいよ!」

 

 勝負の内容を聞いていた瞳が意義を唱えた。確かにおかしい話である。穏便に済ませることができるなら穏便に済ませたい。

 そう思っていた。しかし、一方でこんな気持ちもある。

 俺の作品を『ゴミ』と言ってきたことを後悔させてやりたいと。

 漫画を面白く作れないのは確かに作者の技量の問題だ。

 これは揺るぎない真実。だが、俺にとって自分が作り出した作品は自分の子供のような存在。

 自分の作品をバカにされて黙っていられるほど、俺は大人ではない。

 

「健二くん、この勝負受けてくれるかしら?」

 千尋さんが尋ねる。答えはもう決まりきっているが俺は人差し指を立てた。

「郡山先生、俺が勝った時の措置を一つ追加でお願いさせてもらってもいいですか?」

「なんだ?」

「俺が勝ったら俺の作品をゴミだと言ったこと……謝ってください」

 俺が真顔で依頼すると、郡山先生は『フン』と鼻で笑った。

「ああ、いいぞ。負けたら土下座で謝ってやるよ」

 この自信のある態度。よっぽど自身があるようだ。これは絶対に負けてられない。

「それじゃ、ギスギスしたのはもうやめにして後はパーティを楽しみましょう!」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 郡山先生はその場から離れた。千尋さんも「それじゃまた」とだけ言い残し、会場の準備に戻っていった。

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