年下少女漫画家とドキドキ!? 共同生活! 作:チャンドラ=グプタ
「け、健二くん……どうしてあんなこと……」
「すまない瞳。実はさっき、千尋さんから郡山先生のことを聞いてたんだ。余計なことをしたのなら謝るよ。もし、郡山先生のことがまだ好きだったなら俺がちゃんと謝ってくるよ」
「いや……正直迷惑していたから助かったよ」
やはり迷惑していたのか。俺たちは近くにあった長椅子に座った。
「その……どうして別れたか聞いてもいいか? 千尋さんからは漫画に専念したいからって聞いたけど」
「うん。理由はそれで間違いじゃないよ。最初に会ったのは授賞式の時でね。お互い年が近かったのも会って、一緒に連絡先を交換して会ったりするようになったんだけど……会ってから二ヶ月後くらいに一志くんから告白してきたんだ」
「それで付き合い始めたのか?」
「いや、最初は断ったんだけどね、その後も付き合って欲しいって何度も迫られて勢いに負けて付き合うことになって。けど……一志くん、すごい束縛が激しくてね。お互い連載を抱えていたのに、週に一度は必ずデートするよう強要してきて、毎日必ず一時間は電話しないと気が済まないんだ」
ここら辺は千尋さんから聞いていたのと変わりなかった。郡山先生のことを擁護すると、週に一度のデートというのは毎日の電話を要求するのも年頃の男であれば特段おかしな話ではない。
もっとも、それは二人が連載を抱えていなければの話である。漫画家というのは何と言っても多忙な仕事である。
週刊連載であれば尚更だ。『週刊連載は休んじゃダメなんだ!』っと言う漫画の主人公がいるものの、実際のところ週刊連載に耐えられず休む作家は結構いる。
「それに……一志くん、会うたびにその……ヤりたいって言ってきて。断っていたんだけど段々と一志くんのことが怖くなって別れようって言ったんだ」
なるほど。郡山先生も年頃の男だし、そういうことに興味があるというのも分からなくはない。
この二人のケースのように付き合ったカップルの性行為に関する価値観のスレ違いで別れるというのもよくある話ではある。
「そうか。それで別れたのか?」
「うん。けど別れた後も連絡してきて、ある時は待ち伏せして来たりして、正直……本当に怖かった。前の担当の人にさ、このことを相談しても全然何もしてくれなかったんだけど、千尋が担当になってからは新しい引越し先を紹介してくれたり、色々と一志くんから離れられるようにしてくれたんだ」
話から察するに郡山先生に非があると言っても言いだろう。瞳のことが好きだと言うことに間違いはない。
だがこれは愛情というより……独占欲に近い。
「そんな体験して、よく俺を住み込みでアシスタントさせようと思ったな」
「こう見えてもね。私、今でも男性恐怖症なんだよ? でも、千尋が『優しい人だから絶対に大丈夫! 男性恐怖症から克服できるチャンスだよ』っていうもんだから信じたんだ」
千尋さん、そんな大事なことなんで話してくれなかったのだろうか。というか、俺信頼されすぎじゃないか。
「ねぇ……健二くん。一つだけ約束してくれるかな?」
「え、なんだ?」
「さっき一志くんすることになった勝負だけど……絶対に勝ってね。私、健二くんにこれからもアシスタントして欲しい」
勿論、俺は郡山先生に勝つつもりである。しかし、これだけは瞳に告げておかなければならない。
「勿論、勝つつもりだよ。けど、アシスタントについては連載が決まったらやめなくちゃならない。そのことだけは覚えておいて欲しい」
俺はずっとアシスタントしていくつもりなどない。さっき、一志がプロアシを目指すか作画担当になるしかないなどと言ってきたがどちらもゴメンである。
「あ、ううん……そうだよね。分かってるよ」
瞳は少しく答えると、彼女は『会場に戻るね』と言い、パーティ会場へと戻った。
一人長椅子に座っていた俺はゆっくりと立ち上がる。
「さてと、俺も戻るかな……」
その後、俺は知り合いの作家さんに挨拶し、パーティが始まると豪華な料理を楽しんだ。今だけはこのパーティを楽しむことにしよう。
そして、再び連載を勝ち取り、今度こそカギリリス先生に会うと心に決めた。
年明けの九月の中旬の深夜過ぎ。俺は必死になって作業を行なっていた。読み切り作品の原稿の締め切りに追われているのである。
締め切りは明後日であるが、まだ手付かずのページがたくさん残っている。
連載しているわけではないため、アシスタントも手配されることなく、一人で黙々と筆を動かしていた。
作業していると『コンコン』と扉からノック音が聞こえてきた。扉を開けると、コーヒーカップを手に持った瞳が立っていた。
「お疲れ様。中に入ってもいい?」
「ああ」
瞳が部屋の中に入る。ここ数日間、自分の原稿に専念するため、瞳に頼みアシスタントの仕事を休ませてもらっていた。
食事と風呂以外は基本的に部屋に引きこもり作業に没頭している。
「健二くんコーヒー淹れたんだけど飲む?」
「ああ、それじゃありがたくいただくよ」
瞳からコーヒーカップを受け取ると、椅子に座りブラックコーヒーを飲んだ。
目が冴えてきたような気がする。やはり眠い時はやはりこれに限るな。
「原稿は順調?」
瞳が原稿の進捗具合を尋ねる。正直言って順調とは言い難い。締め切りに間に合うか危ういものである。
しかし、例え間に合いそうになくても間に合わせるのがプロである。
「正直、順調とは言い難いな。けど、絶対に完成させる」
背景や登場人物の服装のデザインに時間を割いていたら思ったよりも時間が掛かってしまった。
さらに新年会の後、千尋さんに頼んで内容もさらに改良させてもらった。その所為もあり、作画に取れる時間が減ってしまった。
しかし、郡山先生と勝負している以上、作画の力を抜くことだけは絶対にしたくなかったのである。
「良かったらさ、私も手伝ってあげようか?」
「え? でも……」
さすがにそれは申し訳なさすぎる。それに、今の俺が瞳にお返ししてあげられることなど何もない。
「遠慮しなくても良いよ。今週は締め切りに余裕があるし、それに……少しでも健二くんに力になりたいって思うんだ。結構感謝してるんだよ。健二くんには」
「そっか。それじゃ、ちょっとお願いしたい」
瞳にアシスタントをしてもらうことになった。普段は俺が瞳のアシスタントをしている為、なんだか新鮮な感じだ。
出来上がっているページにベタ塗りとトーンの貼り付け、背景の描き込みなどやってもらった。
俺はひたすら無心で作業を行う。漫画制作というのはこんな風に時間に追われながら行うことが日常茶判事である。
連載が始まれば今以上に過酷な生活が訪れるだろう。だが、それでもジョークに自分の漫画が載った時の感動を思い返せば何ということもない。
「ねぇ、健二くん」
黙々と作業をしていた瞳が話しかけてきた。
「なんだ?」
「読み切りの原稿が終わったらさ……忙しい?」
読み切りの結果次第だが連載を狙える順位を取った場合、連載用のネームを描く必要がある。
「読み切りの結果次第だが……多分忙しくなるかな」
「そっか……読み切りの原稿終わったら少し……っていうか一日、いや二日間くらい時間ある?」
「ああ、それくらいなら」
「良かった。ちょっと付き合って欲しい場所があるんだ」
「付き合って欲しい場所? どこなんだ?」
「遊園地とか映画とか色々と。健二くんと一緒に観に行きたいな。私たち、一緒に住んでるけど、今まで一緒にどこかに出掛けたこととかなかったじゃん。連載になったら健二くんもこの家から出て行っちゃうんでしょ? だからその前に付き合って欲しいんだけど、どうかな?」
瞳がこんな誘いをしてくるとはな。いつも漫画に真剣に向き合っている為、ちょっと驚いた。
「ああ、別に良いぞ」
「やった! いい? 絶対に付き合ってよね!」
「ああ」
こうして瞳の協力があって無事、読み切り用の原稿を完成させることができた。自分から見ても今回の原稿はかなり自信がある。千尋さんにも良い原稿であると認めてもらうことができた。後は結果を待つだけだ。