黒の剣士…、キリトは焦っていた。
「つまり、貴様が同盟大使であると、そう言いたいわけだな?」
「テストだ、貴様の実力を試してやる。」
ユージーン、赤髪の男がそう言う。
ここで、負けてしまえば終わり。キリトは、何としてでもテストとやらに、クリアしなければならない。
一人のプレイヤーが、ユージーンの後ろから、歩み出る。赤髪の、凛々しい女性だ。どうやら、ユージーンと何か話しているようだ。
彼女が、戦うのか…。とても信頼されているようだった。
「彼奴が、貴様の言っていた男だな。」
「ああ。そうだ、私の待ち人だよ。それで?今、呼ぶと言うことは、私がテストして良いんだろう?」
彼女は、両手剣を振りながら、こちらの方を一瞥した後、後ろへ振り返る。
「ユージーン、短剣を売ってくれないか?彼奴とやり合うなら、両手剣では不都合だ。」
彼女は、短剣を受け取り、感触を確かめ、満足したようで、真剣な表情で、こちらへ向き直る。まるで、スイッチでも入ったかのように。
「条件はこうだ。お前が勝てば同盟とやらを認めよう、ただし、私が勝った場合は、お前…、軍門に下れ。」
「分かったよ。その条件で構わない。」
キリトは、両手剣を中段に構える。どうやら彼女は、短剣一本で戦うつもりらしい。…これが終われば、急いで世界樹に向かわないといけない。出来るだけ、早く終わらせようと、思案する。
「始める前に一言だけ。」
「何だ。」
「自己紹介だよ。私の名前は、アキ。君とは、旧知の仲と言うことになるのだろうか。思い出してくれたかい?」
「アキ…?どういう事だ!アキは男で、お前とは声も話し方も違う、お前がアキな筈は…。」
アキの事は知っている、間違える筈が…。
「始めようか。」
何度目かの、剣戟。キリトは、未だダメージを与える事すら、出来ていなかった。行動を、読まれている、漠然とそう感じる。
本来なら、有り得ない事なのだ。全て動きを読み取り、前兆の間に、防御姿勢を取られる。いや、アキなら出来るのかもしれない。駄目だ、彼女が、アキと名乗った事がキリトの頭から離れない。
「不思議に思っているだろう。攻撃が完全に読まれている、ダメージを与える事が出来ない。
キリト、聞いたことぐらいはあるだろう?メンタルトレースだ。
今、私は、お前の心の中を写し取っている。お前の攻撃は、勿論のことながらお前が何を考えているかだって、分かるんだよ。
諦めろ。お前は私には、勝てない。お前の目的は把握している、私含めサラマンダー達の目標とも、共存出来る望みの筈だ。 」
「俺は、負けない。アスナに会うまで、皆をたすけるまで。」
キリトは、勢い良く突撃する。その一撃は、彼女の顔に一筋の切り傷をつける。
確信する。メンタルトレースとやらは万能ではない。
彼女は、経験則、そして、攻撃の意思を感じ取りタイミングを合わせる事によってこの神業を成しているのだと。ならば、長期戦にはとんでもない負荷がかかる。
ヒントはあった、仮に彼女がアキだとするのなら、俺はデュエルで負けた事がないのだ。
わざわざ始める直前に、動揺させようとしたのも、懐柔しようとしたのも、アキに…、彼女に、勝ち筋がないからだと考える。防御に撤する事による神業、たしかに凄いが、防御に徹する間は、彼女にも攻撃は出来ない。
俺との剣戟に耐えきれないのか、短剣にひびが入る。これ以上の継戦は、彼女も不可能な筈だ。
「しょうがない。使いたくは無かったのだが、奥の手を使わせて貰おうか。」
そう言って、彼女は、ひび割れた短剣を掲げる。
「システムコール、アキ。」
光が瞬く。数秒の後、光が晴れると彼女の手元には、かつてのアキの愛剣が収まっていた。