ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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キリがいい所まで投稿です。
て言うか、お気に入りがデート・ア・オルフェンズをもうすぐ抜きそう・・・。
今回は三日月の出番は少なめです。
では、どうぞ!!


第六話

「終わったー!」

 

アイズが最後のモンスターを斬り伏せ、彼女達以外に動くものはなくなった。

モンスターが倒れ灰になるのを見届けティオナが沸く中、魔法を解除したアイズは握っている片手剣を見おろす。

フィンに預けてある愛剣とは異なり、既に刃はぼろぼろで、今にも折れてしまいそうなほど磨耗している。

アイズの剣技と、何より風の出力に剣身が耐えられなかったからだ。

アイズの魔法は使い勝手がいい分、武器や防具に強い負荷がかかってしまうのが欠点だった。

だが・・・。

 

(まだ、足りない)

 

三日月に追いつくにはまだ足りない。もっと、もっと強く今よりも強くならなくちゃ隣に追いつけない。

私は"絶対に追いつかなくちゃいけない"

三日月のあの眼を見てから私は自分の目標が見つかった。

だから・・・もっと頑張らなくちゃいけない。

アイズはずきずきと疼痛を訴えてくる身体を、いつものように無視をする。

 

「手こずらせやがって・・・キャンプに残ってたあいつ等、無事なんだろうな」

 

「あれ、ベート、リヴェリア達を心配してるの?めっずらしー!」

 

「うるせぇっ、あいつ等が荷物を守ってねえとここから帰れねぇだろうが!勘違いしてんじゃねえ!」

 

恒例のようにティオナとベートが言い争いを始める中、弛緩した空気が流れ出していた。

くっついて離れないティオネとフィンにへたり込むラウルに背中を叩くガレス、そして笑いかけてくるレフィーヤ。そして今は顔が見えないけれど、周りを見渡して警戒を続ける三日月。

全員五体満足で、張り詰めていた彼等の表情は和らぎかけている。

私はじっと三日月を見つめるが、警戒続けたまま鎧を外さない三日月に私は眼をそらす。

そして仲間の姿を見回したアイズは野営地の様子を確かめようと、一枚岩の方角に振り返ろうとした。

その直後。

 

「──────!」

 

音が響く。

木をまとめてへし折る、遠方から響いてきた破砕音が。

誰もがその方角を振り仰いだ。それぞれの武器を再装備し、臨戦態勢を纏い直す。

木々の悲鳴は依然として木霊してくる。一枚岩の上、高台から既に音の正体を視認しているだろうリヴェリア達の沈黙が、声を失ったような静寂が身構えるアイズ達の不安と緊張をかき立てる。

どれほど待ったか。

大した時間はもしかすると、かかっていなかったのかもしれない。

油断なく音源の方角を見つめていたアイズの視界に、やがて、それは現れた。

 

「・・・・あれも下の階層から来たっていうの?」

 

「迷路を壊しながら進めば・・・なんとか?」

 

「馬鹿言わないでよ・・・」

 

半ば呆けたようなアマゾネスの姉妹の会話が、静まり返った場に通る。

およそ六Mといった所か。

先程まで戦っていたモンスターの大型個体より、更に一回り大きい。

黄緑色の巨体に扁平状の腕。芋虫型のモンスターの形状を引き継ぐ姿は、しかし全容の作りが大きく異なっている。

 

「人型・・・?」

芋虫を彷彿させる下半身は変わらない。ただ小山のように盛り上がっていた上半身は滑らかな線を描き、人の上体を模していた。

エイ、あるいは扇にも似た厚みのない扁平上の腕は二対四枚。後頭部からは何本も垂れざかる管のような器官。

黄緑の肌には例の極彩色が塗料のように浴びせかけたように秩序なく及んでおり、まるで得体の知れない毒に蝕まれているようにも見える。

濃厚な色彩が及ぶ顔面部分には鼻も口も存在しないが、どこかその線の細さから女性のものを連想させる。

が、大きく盛り上がった腹部が女性的な要素を全て台無しにしている。

妊婦と呼ぶにはその腹は丸みを帯びてはおらず、何よりあまりにも醜悪で、どす黒かった。

 

「あんな、でかいの倒したら・・・」

 

───とてつもない量の腐食液が周囲に飛び散る。

階層主にも匹敵しようかという巨体と、その体液が溜め込まれているような黒い腹部を見て、ラウルは愕然とする。

これまでの戦闘を振り返っても、芋虫型のモンスターの大半は力尽きる瞬間、その身体を破裂させていた。

あのモンスターも、もし死に際に内包する体液を根こそぎ撒き散らすのだとしたら。

撃破したとしても、辺り一帯にいる全ての者が巻き添えだ。

だれもが最悪の光景を脳裏に想像した。

 

「あの巨体じゃと、魔石だけを狙うのも難しそうだのう」

 

「そもそもどこに埋まってんだよ・・・」

 

ガレスが目深に被っていた兜をくいっと持ち上げ、ベートは苦々しそうに言葉を吐き捨てる。

灰色の樹林を破壊しながら姿を現したモンスターは、アイズ達から大きく距離を残したまま立ち止まる。

真正面から改めて見ると、その姿はケンタウロス、いやラミアに近いか。

巨大な女体型のモンスターと平地を挟んで正対する。

 

『・・・・・』

 

「来る」

 

三日月の言葉と共に、女体型のモンスターが動いた。

その四枚の扁平状の腕を、まるで愛する者を胸の中へ誘うように、ふわっと広げる。

舞う光。七色の粒子群。燐粉、あるいは花粉か。

極彩色の微細な光粒がアイズ達のもとに漂ってくる。

瞬間、背筋がわなないた。

第一級冒険者達は直感に突き飛ばされるまま、すぐにその場から退避する。

間を置かず、無数の爆光が連鎖した。

 

「きゃあああああああああ!?」

 

「ぐっ・・・・・・・!」

 

散乱していた腐食液ごと、地面が爆砕される。レフィーヤの甲高い悲鳴が響き渡りながら、凄まじい熱気が頬を叩いた。

花粉など生易しいものではない。

大気中にばらまかれるあの極小の一粒一粒が、凶悪な爆弾だ。

盛大な砂煙が舞う中で、吹き飛ばされたアイズ達は態勢を立て直す。

 

「総員、撤退だ」

 

フィンはそう告げた。

ばっと多くの目が振り返る中、彼は油断なく女体型のモンスターを見据えて言う。

 

「速やかにキャンプを破棄、最小限の物資を持ってこの場から離脱する。リヴェリア達にも伝えろ」

 

「おい、フィン!?逃げんのかよ!」

 

「あのモンスターを放っとくの!?」

 

ベートとティオナがフィンに噛み付く。第一級冒険者としての矜持が、何よりロキ・ファミリアとしての誇りと責任者が、眼前のモンスターを野放しにすることを許さない。

この安全階層に現れたように、今後もしあのモンスターが更に階層を上がっていったとしたら、その時は多くの冒険達が犠牲となるだろう。

 

「僕も大いに不本意だ。でも、"あのモンスターを始末して"、かつ被害を最小限に抑えるにはこれしかない。月並みの言葉で悪いけどね」

 

これから言い渡す内容に自分自身に嫌悪するように。

 

「"アイズあのモンスターを討て"」

 

そして、フィンは三日月を見て言う。

 

「三日月君も悪いけど、アイズを手伝ってくれないかい?」

 

二人でだ、と小人族の少年は二人の顔を見上げて言った。

 

「待ってください、団長!?」

 

誰よりも早く、レフィーヤが悲鳴を上げるように叫ぶ。

ティオナ達もすぐに詰め寄ろうとするが────爆撃。

女体型のモンスターが動いた。

腕を広げ、そして蠢くように多脚を動かし進行を開始する。

 

「・・・時間がない。ラウル、リヴェリア達に撤退の合図を出せ!」

 

「ねぇ、ちょっと、フィン!?何でアイズと三日月二人だけなの!?あたしもいくよ!」

 

「女と余所者に尻を守られるなんて、尚更冗談じゃねぇぞ!?」

 

「団長、私からもお願いします。ご再考を」

 

吹き飛ばされかけてもなお、しつこく食い下がろうとしたティオナ達は、しかし。

次の言葉で完全に反論を封じ込められた。

 

「二度も言わせるな。"急げ"」

 

声音が、冷酷な暴君のごとき威圧を秘める。

その小さな少年にもう誰もが逆らえなかった。

こうなったフィンには何人も口答えできないということを、ティオナ達は身をもって知っている。

うなだれながら、あるいは悔しさを堪えながら、若い団員達は撤退の準備に入った。

 

「せ、せめてっ、せめて援護だけでも!?」

 

場に残されたレフィーヤが、最後まで取りすがろうとするが。

 

「アンタがいると邪魔だからいらない」

 

三日月はレフィーヤに向けて言った。

その言葉にレフィーヤは三日月に向けてキレる。

 

「"部外者の貴方には聞いていません!!黙っていてください"!!」

 

「・・・んじゃ、アンタが前に出て戦う?」

 

三日月はそう言ってレフィーヤに顔を向ける。

向けられた三日月のその顔を見たレフィーヤ達の"背筋が凍った"。

バルバトスを解除した三日月の素顔に驚いた訳ではない。

三日月がレフィーヤに向けている殺意にだ。

まるで狼に首もとを咥えられているような濃密な殺気にフィン達は冷や汗を流す。

緊迫する空気の中、レフィーヤのその細い肩を背後から掴まれ、そっと引き戻された。

 

「レフィーヤ・・・大丈夫だから」

 

「───」

 

アイズが入れ違うように、前へ出て、とんっ、と優しく胸を押される。

結局、最後には突き放すように。

強すぎる彼女は、レフィーヤの事を遠ざけた。

 

「・・・・・」

 

レフィーヤは一瞬時を止めた後、じわっと目尻に涙を浮かべ、ティオナ達の後を追う。

走り去っていく後ろ姿をアイズは黙って見つめ、すぐに前を向いた。

 

「すまない、アイズ、三日月君」

 

「ううん」

 

「いいよ。別に」

 

派閥の首領として時には非情な命令を下すフィンが、このようは場で頭を下げて謝罪するのは珍しかった。

恐らくは、半日前にアイズへ説いた責務の持論と今の指示が乖離していることを、彼自身が割りきれていないのだろう。そして、赤の他人である三日月を巻き込んでしまった事に頭を下げて詫びるのも。

 

「アンタは仲間の為に指示を出したんでしょ?ならそれはアンタのせいじゃないよ」

 

三日月はそう言ってフィンを見る。

フィンが最善と言うなら、それが最善なのだ。ティオナ達も本当はわかっている。

あのモンスターを相手にするのは、誰よりも二人が適任なのだと。

 

「ここから十分に距離を取ったら信号を出す。それまでは時間を稼いでくれ」

 

「わかった」

 

「了解」

 

フィンは口早に指示を伝え、自身もすべきことのため素早く場に後にした。

去り際に返された〈〈デスペレート〉〉を装備し、アイズと三日月二人は女体型のモンスターと対峙する。

地を這う多脚。揺らめく複腕。極彩色に彩られる怪物的な威容。

迫る巨大な敵を前に、気負いも動悸もなく、ただ静かに。

金色の瞳を強く構え、呟く。

 

「【目覚めよ】」

 

風が召喚される。

ヒュンッと、アイズは愛剣を振り鳴らす。

 

『────!』

 

女体型が震える。

呼び起こされた風に反応するように、アイズと三日月を標的と見なし、その上半身を反った。

のっぺらぼうに見えた顔面部に、横一線の亀裂を走らせ、口腔を解放する。

鉄砲水のごとき勢いで撃ち出される腐食液。

量、速度ともに先の戦闘の比ではない。アイズと三日月は回避を選択し横へと跳ぶ。

すぐに轟く途方もない溶解音。アイズ達が立っていた地面をどろどろにして大きく抉り、更には奥の一枚岩まで突き進む。

岩壁が悲鳴を上げ崩れ落ち、あっという間に変色し、膨大な黒い湯気が立ち上ぼる。

 

「あれは食らったらヤバイな」

 

三日月はそう呟いて、スラスターを吹かせて加速する。

 

(誘い出さないと)

 

フィンに言われた通り、まずはティオナ達が引き上げるための時間稼ぎが優先だ。

同時に、こちらに有利な地形へと敵を誘導する。

幸いあのモンスターは自分達を狙っている、付かず離れず距離を保てば追ってくる筈──────という、そのアイズの思惑は。

半分当たり、半分裏切られることとなった。

 

『!』

 

四枚の腕が、腕の前で×の字を作るように、大振りされる。

目を疑うような夥しい量の光粒が、アイズ達の頭上を覆った。

 

「────」

 

きらめきを放つ極彩色の粒子群が、アイズ達を中心に広範囲へ拡散し、降り注ぐ。

周囲一帯を焦土とする規模だ。モンスターを釣ろうと疾走していた彼女は、離脱は間に合わないと判断し、風の気流を全身に張り巡らせて防御を固める。

と───。

 

「───え?」

 

急に視界が加速した。

するとすぐに、遠方から爆発と轟音が襲う。

 

「無事?」

 

三日月がアイズを抱えながら、加速して爆破範囲から離脱したのだ。

三日月本人は、何の傷もなく女体型モンスターの方角をじっと見つめている。

巻き起こる煙を突き破り、ぬうっと黄緑色の巨体が現れた。

そして再び腐食液を吐き出す動きを見て、三日月は言った。

 

「距離を開けたら爆発か、アレがくる。なら距離を詰めてアイツをやるよ」

 

三日月はアイズにそう言って腐食液を避けながらアイズを担ぎ突貫する。

────────そしてその瞬間。

 

「え?」

 

「あ」

 

そして回避行動をした瞬間───モンスターの目の前で落とされる。

三日月の予想外の行動にアイズは呆然とする。

 

──冗談?

 

アイズはそう思いながらも、急いで風を纏い直す。

そして急制動と急加速を用いながらモンスターの攻撃をやり過ごし、その懐に進入、後方を取って巨体を支えるその短い脚を狙う。

しかし、女体型の反応速度も高かった。四枚の腕の内、下部についている腕を伸ばしアイズの攻撃を防御し、残りの二枚で三日月を攻撃する。

 

───死角は、ない?

 

女体型はその図体からは想像できないほど機敏で、かつ可動範囲の広い扁平型の腕は前後左右全ての襲撃に対応できるようだった。

そのまま敵の真後ろに出ても、多脚を目まぐるしく動かした向き直ってくるが、三日月の妨害で上手く出来ていないようだった。

アイズは敵の情報を更新しながら、何度も斬りかかる。

 

「・・・・・っ!」

 

【エアリアル】を行使して剣に強風を付与し、モンスターの攻撃を打ち払い、凌いでいく。

しばらく戦闘は膠着し、我慢比べが続く中。

状況が動いたのは、女体型の行動によってだった。

 

「!?」

 

敵の側面及び後方を取ろうと、何度目とも知らない撹乱からの回り込みを行った時だ。

後頭部からは生えていた何本もの管が意思を持ったように蠢き、アイズ目がけて腐食液を撃ち出す。

 

───え、ずるい。

 

無警戒だった頭上からの射撃。

何条もの腐食液が殺到する光景に、アイズは身に纏っている気流だけでは防ぎ切れないと判断、剣を走らせながら斬り払う。

するとアイズの周りには数え切れないほどの光粒が広がっていた。

これで終わらせるつもりなのか、今までにない量の爆粉がつぎ込まれる。

腐食液の砲撃まで準備しようと身を仰け反らせる女体型は───次の瞬間、動きを止めた。

 

「ふっ!」

 

三日月が腐食液の発射口に何か細長いものを投げ入れたのだ。───そして。

 

ボゴォォォォォォォン!!

 

極大の爆発が発射口の中で発生した。

三日月が投げ入れたのは対艦ランスメイスという特殊な武器で先端に大量の火薬等が入れられており、衝撃を加えると爆発が発生するという代物だった。

その爆発によって女体型のモンスターが更に姿勢を仰け反らせて怯む。

その瞬間をアイズは見逃す訳がなく、爆粉の範囲外へと逃れ出た。

そして───ドンッ、と。

遥か上空に閃光が打ち上げられた。

撤退完了の信号。"目標撃破の許可"。

アイズは軋む身体を無視しながら、今以上の強い風を纏う。

直後、軽く前傾し、疾走する。

 

『─────』

 

モンスターの反応を振り切る。これまでとは一線を画する加速から敵の右脇を抜きさり、地に縫いつくその多脚を横一閃、まとめて断ち斬る。

 

『!?』

 

「やるね」

 

三日月の言葉にアイズは嬉しくなり、さらに加速させる。

片側の脚を全て失い、バランスを失うモンスター。右手へと傾く巨体を咄嗟に同側の二枚の複腕で支える。

足を狙い、地に落とす。階層主、及び大型級モンスター対処のセオリー。

気分を高揚させたアイズの動きは止まらない。敵の真後ろで素早く方向転換、地を蹴り爆風を巻き上げ、モンスターの下半身に上って疾走する。後頭部から生える管もすれ違いざま斬り刻み、そして肩口から伸びる扁平型の腕を、切断した。

本体から切り離された腕は器官制御が狂ったのか、地に落ちた、たったそれだけの衝撃で、ふわっと極彩色の粒子群を舞い上げる。

三秒後、爆火。

 

『────────────ァァァァ!?」

 

懐で巻き起こった爆発の連鎖に、女体型のモンスターは絶叫した。

自爆が自爆を呼び込み、残った管の髪や腕を振り乱し悶え苦しむ。

トッと膝を軽く溜め、連続宙返り。

一度の回転で凄まじい距離を稼ぎながら、地を続いて蹴りつけ、舞う羽根のように後方へと進む。

スカートの裾が翻り、しなやかな腿があらわになる。

そして背後にそびえた一枚岩、その上部壁面に、"着壁"。

壁に足をつけた体勢で、大量の煙を立ち上らせる目標をその金の瞳で射抜く。

最大出力。

もはや嵐と言って過言ではない風の大気流を全身に纏い、アイズは剣を溜める。

繰り出されるのは強力な攻撃魔法に匹敵する一点突破の神風だ。

 

『───アイズたんっ、必殺技の名前を唱えれば攻撃の威力は上がるんやでー!』と、己の主神に騙されている彼女は。

その名前を口にする。

 

「リル・ラファーガ」

 

主神命名の一撃必殺を唱え、アイズは風の弾丸となった。

 

『!!』

 

閃光のごとく、神速の勢いで急迫する風の螺旋。傷ついた女体型のモンスターは直前のところで反応し、残った三枚の腕を重ね盾として構えるも。

 

「邪魔」

 

三日月の持つあまりに巨大すぎるヴァルキュリアバスターソードで両断される。

そして無防備になったモンスターに。

風を纏い突きだされた銀の剣尖によって、拮抗することなく、貫通する。

 

『──────────────』

 

モンスターの体が穿たれる。

とどめに等しい風穴を開けられた女体型は、硬直し、瞬く間に全身を膨張させる。

膨れ上がった体は一気に飛散し、更に、爆粉と腐食液の間で特殊な反応が発生したのか桁外れの大爆発が起こった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「アイズさんっ!?」

 

レフィーヤの悲鳴が弾ける。

視線の先で巨大な火球がドームを形作り、周囲一帯ものを吹き飛ばした。

モンスターの自爆を回避するため、フィンの指示のもと、十分な距離を離した上でアイズ達の戦闘の行方を見守っていた彼等【ロキ・ファミリア】のところまで爆発の余波が届く。押し寄せる熱風と衝撃に誰もが目を覆った。

視界が灼熱に包まれ、全てが赤く染まる。

爆心地には炎の海が広がりその勢いは止まらない。

灰色の森へと燃え移り、あちこちから火の手が上がっていった。

 

「アイズ・・・・」

 

顔を火の色に焼かれながら、ティオナは視線の先の光景をじっと見つめる。

次の瞬間、彼女の目が見開かれた。

炎がうねりを上げる中で、内部から押しのけるような動きで炎の壁は震え上がり、次には風の流れによってその身を左右に開かれる。

割れる炎の海に、青いスラスターと悪魔の影。

そして、俵のように抱えられている金髪金眼の少女が帰還してくる。

そして大歓声が上がった。




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