ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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お気に入りデート・ア・オルフェンズを越えました!

(まじでか・・・)

三日月ぽくなかったらごめんなさい。
では、どうぞ!


第七話

ダンジョンは決まった階層域ごとに、その地形を大きく変える。

地上に直結する一階層から頻繁に見られる標準的な迷路構造を始め、森、湖、荒野など様々な形態が存在し、地中の中とは思えない小世界を階層内に広げている。

下層に進むにつれ、そういった自然環境の変化は著しい。

彼等【ロキ・ファミリア】が今、進んでいる場所は岩窟だった。剥き出しの岩石から造られる通路は無秩序に張りめぐらされた横穴の他にも縦穴が存在し、天然の洞穴と言って過言ではない。

壁面上部に灯る燐光は篝火のように揺れ、薄暗い迷宮内を照らしている。

 

「まだまだ行けたのにー。暴れ足んないよー」

 

「しつこいわよ、あんた。いい加減にしなさい」

 

「だって、五十階層で引き返しちゃうなんてさぁー」

 

五十階層で繰り広げた激戦の後、【ロキ・ファミリア】は未踏達階層の進出を諦め、三日月と共に地上への帰還に行動を切り替えていた。つまり、事実上の今回の『遠征』の終了を意味している。

口を尖らせブー垂れるティオナを、ティオネがたしなめている。

 

「団長がもう何度も説明したでしょ?あのモンスターにやられて、物資が心もとないって」

 

「食べ物は迷宮で調達すれば何とか持ったじゃん・・・」

 

「武器や道具はどうにもならないでしょう。特に得物の方はほとんど溶かされて、手もとには行きの道で使い潰した磨耗品しか残っていないわ」

 

あんたの分の予備なんて零じゃない、とティオネは言う。

 

「三日月が貸してくれたじゃん・・・」

 

「あれは、私達の武器がないから貸してくれてるだけで、あんたの物じゃないでしょ」

 

武器や防具は当然消耗品だ。研師や加治師の整備が受けられなければ刃はこぼれて切れ味は鈍り───防具であるのなら損傷を蓄積し耐久性を下げ───最後には壊れてしまう。一部の不壊属性を除けば、いくら優れた武具と言えど長規模の戦闘には耐えられない。

冒険者の体力がどれだけ有り余っていようが、装備が使いものにならなければ、モンスターとの戦闘にも支障が出る。

 

「そう言えば、今回アイズは何も言わなかったね?普段だったら何かとごねてたのに」

 

アイズはティオナにそう言われたが、その問いに何とも言えない反応をする。

 

「えっと・・・・」

 

困惑するアイズの視線は三日月へと向けられる。

当の三日月はその視線を気にする事なく、物珍しげに周りに視線を向けながらも見張りをつづけている。

単純に、三日月の強さが気になると言うのが理由だ。

だが、それを口にするのが何と言うか、気まずくて口に出すことが出来ない。

そんなアイズの反応にティオナは「そういうこともあるか」と言って、再びブー垂れる。

 

「う~っ、悔しい~。せっかく苦労して五十階層まで行ったのにぃー」

 

首領であるフィンの采配から、深層からの退却を実施して既に六日。

何度同じ内容で論破されているティオナは頭の後ろで手を組んだ。装備品をなにも所持していない彼女は、隣で歩くアイズと三日月を羨ましそうに見る。

愛剣の収まった鞘をキラリと輝かせるアイズと、今は纏っていないバルバトスを持つ三日月は、その視線に気付いて全く同じように小首を傾げた。

 

「あのモンスターのせいで・・・結局何だったの、あれ?」

 

振られた質問に対しティオネは「わからないわよ」と肩をすくめる。

 

「未確認のモンスター、としか言えないでしょう。・・・確かにおかしな点はあったけどね」

 

言いつつ、ティオネは胸元に手を伸ばし、モンスターの『魔石』を取り出した。

自分には欠片も存在しない深い谷間を見せつけられるティオナは、今度は恨めしそうに実姉を睨む。

 

「って、それ、もしかしてあのモンスターの魔石?ティオネ、どうやって見つけたの?」

 

「手を突っ込んで直接引きずり出してやったわ」

 

芋虫型のモンスターは例外なく、倒した後はその漏れ出した腐食液で時間をかけて全身を溶かした。体内にあった魔石も例外なくだ。

あれだけの数を苦労して撃破したにもかかわらず、ティオナ達は一つの魔石も回収できていない。

溶解することも構わず無茶な戦法を取ったティオネだけが、その破天荒な方法から魔石を入手していた。

 

「わ、何それ。変な色」

 

「ええ・・・普通の魔石とは、少し違うわね」

 

モンスターの胸部に隠されている魔石は大きさや形に違いはあれど、その色は一様に紫紺色だ。

ティオネの手の中にある魔石は、中心が極彩色、残る部分は紫紺色と見たことのない輝きを放っている。

ティオナが横から覗き込んでくる中、ティオネは魔石を頭上へと掲げゆらゆらと燃える燐光に照らし、目を細めて眺めた。

やがて、一行は広いルームに辿り着く。

深層域と比べ狭い道幅の関係で、【ロキ・ファミリア】はこの十七階層に上がる前に部隊を二つに分けていた。

集団の規模があまりにも大きいと身動きが取りづらくなり、モンスターの襲撃にも対応できないからである。

リヴェリアが管轄するこの前行部隊は、ティオナ達も含め十数人ほどの団員達が固まっている。フィンやガレスは後続の部隊だ。

遠征の帰り道ということもあってか、団員達、特に荷物を運搬するサポーター役の下っ端等の疲労は色濃い。

 

「・・・リーネ、手伝おうか?」

 

「えっ?あ、だ、大丈夫です!?」

 

ヒューマンの少女にアイズが声をかけると、滅相もないと勢いよく断られた。第一級冒険者に荷物持ちなど任せられない、という意識が見て取れる。

ほぼ名目上とは言え幹部を務めているアイズには───その浮き世離れした雰囲気もあって───ほとんどの団員達がこのような畏まった態度を取る。

 

「止めろっての、アイズ。雑魚に構うな」

 

一部始終を見ていた獣人、狼人のベートが声を挟んだ。

一八〇Cに届く長身の持ち主で、特にその引き締まった足はすらりと長い。左側の額から顎にかけて稲妻のような青い刺青が施されており、その端整な顔立ちに荒々しい印象を上塗りしていた。

彼は追い払うようにサポーターの団員を軽く蹴りつけ、アイズと向き直った。

 

「それだけ強えのに、まだわかってねえのか、お前は。弱ぇ奴等にかかずらうだけ時間の無駄だ、間違っても手なんて貸すんじゃねー」

 

「・・・・・」

 

「精々見下してろ。強いお前は、お前のままでいいんだよ」

 

鼻を鳴らしながら口を吊り上げるベートに、アイズは沈黙する。

ベート・ローガ。

【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者で、典型的な───いや過度とも言える──実力主義者だ。剣士として一流であるアイズのことを一目置いている節がある。

悪い人ではない・・・とアイズは思っている。

意見の対立からよく真剣な口論に発展するリヴェリアがこぼしていたが、「誤解を招かなければ気が済まない獣人だ」という皮肉らしき言葉を聞いたことがある。

ティオナともよく言い争いをするのも、あくまで一匹狼である彼の性がそうさせるのかもしれない。

───と。

 

「これ、持ってくよ。どこに運べばいい?」

 

「えっ?いいですよ!私達がやるので!」

 

「別に、やることないからやるだけだよ。気にしなくていいよ」

 

「えっ、・・・でも・・・」

 

三日月が左手だけで荷物を運搬しようとする彼に、サポーターの団員が困惑している。

 

「・・・・・っ」

 

私はその様子をただ見ている事しか出来なかった。

すると後ろからティオナから声がかけられる。

 

「アイズ駄目だよ、ベートの言うことなんか聞いちゃあ!時間の無駄だから!」

 

「くたばれ、糞女。てめえこそあいつ等の雑用を引き受けろっての。手ぶらだろ、間抜け」

 

「うるさぁーいっ!?」

 

言っている側から口喧嘩を始めるベート達だったが、すぐに。

その言い合いは途切れることとなった。

 

『───ヴゥオォ』

 

進行中のルームに獰猛な気配と、そして荒い息づかいが迫ってくる。

複数ある通路口の向こうから、大量のモンスターが姿が現した。

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオ!!』

 

岩窟を震撼させる咆哮が響く。

並みの冒険者ならば裸足で逃げ出す迫力を有しながら、そのモンスターは荒縄のように筋張った肩と腕を隆起させる。踏み出された一歩によって地面が蹄型に陥没した。

筋肉質な巨大な体に、赤銅色の体皮。

モンスターの代表格にも数えられる牛頭人体モンスター、『ミノタウロス』だ。

 

「ほら、ベートがうるさいから『ミノタウロス』が来ちゃったじゃん!」

 

「関係ねえだろっ。ちっ、馬鹿みてえに群れやがって・・・」

 

ミノタウロスの群れはルームへと続々と侵入し、アイズ達を包囲するように輪を作る。

 

「牛?・・・人?・・・どっちだ?」

 

「牛・・・だと思う・・・」

 

三日月とアイズは緊張感のないやり取りをしながら周りを見渡す。

血走った眼を向けてくる猛牛のモンスター達は、呼吸の度に体を上下させ興奮していた。

 

「リヴェリア、これだけいるし、私達もやっちゃっていい?」

 

「ああ、構わん。ラウル、フィンの言い付けだ、後学のためにお前が指揮を取れ」

 

「は、はい!」

 

ギルドから階層領域ごと定められる脅威評価、最高に認定される中層最強のモンスターに対し、アイズ達は動じることはなかった。

既にこの十七階層から三十以上も深い階層を探索する彼等とミノタウロスの間には、隔絶した力の開きが存在する。

本来、比較的浅い階層では、下の団員に【経験値】を積ませるためにもアイズ達第一級冒険者は出しゃばらないのが規則だ。いくら下っ端と言っても、この場にいる団員はみな中堅【ファミリア】の冒険者達より遥かに格上の実力者でもある、中層出身のモンスターに遅れを取ることはまずない。

が、今回は数が数だった。

ティオネの申し出からアイズ達も戦線に加わる。

 

『ヴォォオオオオオオオオッ!』

 

そして、その後の戦闘の一連の流れは、誰もが予期せぬ方向へと転がった。

 

『ヴォォオオオオオオオオッ!?』

 

「・・・ん?なんだ?」

 

あっという間に半数のミノタウロスを返り討ちにした時だ。

あまりの戦力差に怯えをなしたのか、一匹のミノタウロスがアイズ達に背を向けた。

そこからまるで恐慌が伝染するかのように、残っていたモンスター全てが足並みを揃えて一気に逃走した。

 

「ええっ!?」

 

「お、おいっ!?てめえ等、化物だろ!?」

 

その光景にティオナとベートが驚愕する。

我先にと、もの凄い勢いでモンスター達がルームを飛び出し通路の奥へ消えていく。

アイズもその光景に金色の双眼を見開いた。

 

「逃げてくけど、あれほっといていいの?」

 

「追え、お前達!」

 

三日月の言葉に我に変わるリヴェリアの号令が飛んだ。

一瞬動きを止めていたアイズ達は、弾かれたようにミノタウロスの群れを追いかける。

 

「遠征の帰りだって言うのに・・・っ!」

 

「あの、私っ、白兵戦は苦手で・・・!?」

 

「杖で殴り殺せんだろ!殺れっ!」

 

「は、はいぃ・・・・!」

 

ティオネが苦虫を噛み潰したような顔をする横で、ベートの叱咤がレフィーヤを叩いた。

事情を知らない三日月以外、誰も彼もその表情には余裕がない。

ダンジョンには当然アイズ達以外にも冒険者がいる。この中層に見合った能力で迷宮探索をしている彼等からしてみれば、押し寄せるミノタウロスの群れなど悪夢そのものだ。自分達が取り逃したモンスターによって多くの冒険者が帰らぬ者となってしまえば、ギルドや他派閥から糾弾が上がるのは間違いなく、なによりそれ以上に寝覚めが悪くなる。

 

「ちょっと、そっちは!?」

 

ミノタウロス達が十六階層に繋がる階段を駆け上がっていく。ティオナの悲鳴も虚しくモンスターの群れは上の階層へと消えていった。

 

「面倒な予感しかしねえぞ・・・・!?」

 

多大な足音を出しながら、被害を出すまいと階段を飛び越えて走り続ける。

アイズ達は死にもの狂いでミノタウロスを追いかけていった。




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ボツネタァ!!

「うわわあああああ!?」

ベルが目の前のミノタウロスを見て叫ぶ。
ミノタウロスの上腕が振り下ろされる瞬間。

「ぐふっ!?」

ベルを何者かが蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたベルはミノタウロスの横をすり抜けていき、ボールのように飛んでいくベルに構わず、その人物はミノタウロスの頭に巨大な金属棒を振り下ろした。
グチャリと嫌な音を立てて、頭が潰れるミノタウロスにベルは咳き込みながらも自身を助けてくれた人を見る。
悪魔のようなフルフェイス兜に白い鎧がとても特徴的だった。
彼は潰したミノタウロスを一目して、次に僕を見て───。

「生きてる?」

そう一言だけ言って僕を見た。

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