お気に入りももうすぐ1000人を越えるのを見て、皆さんもいつまでも三日月やオルフェンズが好きなんだろうなと思うと嬉しい鉄血です。
今回は、少し短くて、三日月の出番は少ないですがどうぞ、お楽しみください!!
一階層、更に一階層、もう一階層───。
猛牛のモンスターの暴走は破竹の勢いとばかりに続いた。各階層を出鱈目に走り回り、あるいは集団から離れたミノタウロスが散り散りとなることで、アイズ達の追跡を結果的に攪乱していく。
彼女達にとって何より悲運だったのが、モンスター達は上層階層に繋がる連絡路をことごとく突き止め、上へ上へと進出していったことである。ベートの言葉は見事的中してしまった。
各階層に散らばったミノタウロスを処理するため、一人、また一人と団員の追跡部隊から姿を消していく。
中層を越え、『上層』───地上と直結する一階層から十二階層からなる層域───に突入していき、六階層へと到達する頃には、既にアイズとベート、そして三日月しかミノタウロスを追うものがいなかった。
「ひぃっ!?」
「どけえっ!」
冒険者に襲いかかろうとしていたミノタウロスを間一髪ベートが倒す。
『上層』は地上に近い階層域だ。出現するモンスターは低級と称される力の弱い種ばかりで、新米を始めとした下級冒険者達の領分である。
彼等がミノタウロスと対峙する羽目になれば、一瞬も抵抗できないまま惨殺されるだろう。
もはや犠牲者がいつ出てきてもおかしくない状況だ。
(見失った・・・!)
アイズも別のミノタウロスの撃破に成功するが、残る最後の一匹を取り逃してしまった。
選択肢となる道がいくつもある迷宮の中で、その乏しい表情の下に焦燥を隠していた。
「来い、アイズ!」
鼻を一度鳴らし迷いなく走り出すベート。
獣人の種族の彼は嗅覚が一段と優れている、ミノタウロスの残り香を恐らくは突き止めたのだろう。
後に従い通路を突き進む。そして私の後ろに続くように三日月もスピードを落とさずについてくる。
「なんでてめえまでついてくんだよ!」
ベートが吠えるように三日月に言うと、三日月は何でもないように返答した。
「俺、この辺知らないし、アンタ達に着いていけば道は分かるだろ」
「チッ・・・」
三日月の返答に舌打ちをするベート。
やがて筋骨盛り上がる赤銅の背中が見えた。最後とばかりに速度を振り絞るが、上階への逃走を許してしまう。
「・・・・・!」
五階層。
駆け上がった階段の先はルームの中央に通じていた。薄緑色の壁面で構築される迷宮はあたかも嵐の前のように静まり返っている。四辺形の広間から伸びる通路口ら各辺に一つずつ存在し、都合四つ。他の人影は見当たらない。
耳を研ぎ澄ませ、素早く辺りを見渡すと────
『ヴヴォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
「ほぁああああああああああああああっ!?」
聞こえた。
その声が。
「っ!」
一気にアイズと三日月は駆け出す。
ベートより先に飛び出し、叫び声と咆哮が絡み合う方向へと身を馳せる。
ミノタウロスと、そしてその人物はすぐに見つかった。
雪を連想させる真っ白な髪。今にも涙が滲みそうな瞳の色は深紅。一見して兎のような外見を持つ、ヒューマンの少年。
追ってくる赤い猛牛に背を向けて、命懸けの逃走を繰り広げている。
「ド素人じゃねえか!?」
後から追い付いたベートが叫ぶ。
貧相な防具は一目でギルドの支給品とわかる。
逃走一つ取っても動作の節々からは我流の拙さが窺えた。
駆け出しも駆け出し。
ミノタウロスにとっては獲物どころか、もはやただのいい餌だ。
足に力を込め、彼我の距離を埋めようと疾走する。
アイズは少年とミノタウロスを追いかける。
『ヴゥムゥンッ!!』
「でえっ!?」
ミノタウロスの蹄。
背後からの一撃はその細身の体を捉えることこそはしなかったものの──いや間一髪回避した───土の地面を砕き、ちょうど少年の足場も巻き込んだ。
足をとられ、ごろごろとダンジョンの床を転がっていく。
「───」
アイズの姿が霞む。
ベートを置き去りにし、軽やかに音もなく、視線の先の光景に向かって加速する。
三日月はアイズが加速するのを見て、その進めていた足を止めた。
ルームの隅に追い込まれた少年はミノタウロスの巨体を見上げ、笑みと呼ぶにはあまりにも引きつった口のゆがみを浮かべていた。
埃まみれの白髪、涙腺を決壊させる赤い瞳、振りかぶられた剛腕が振り下ろされるのを待つだけの、哀れな子兎。
強い既視感を覚えながら───アイズはその光景へと追い付き、剣を一閃させた。
「え?」
『ヴぉ?』
少年とミノタウロスの間の抜けた声。
背後から音速の斬撃を胴体に見舞い、手を止めず無数の線をモンスターの全身へと刻み込む。
最後の剣閃から、銀の光が瞬いた。
『グブゥ!?ヴゥ、ヴゥモオオォォ───!?』
原型をとどめていた巨体が、思い出したように斬撃の軌跡に沿っていくように、ずり落ちる。
断末魔とともに血飛沫を上げながら、ミノタウロスはいくつもの肉の欠片となって崩れ落ちた。
そして、彼と目が合う。
呆然と見開かれる深紅の瞳と、透いた輝きを帯びる金色の瞳。
崩れ落ちたミノタウロスの奥から現れる少年と、邂逅を果たす。
三日月とはまた違う瞳の色だとアイズは思いながら、地面に腰を付き、時を止める彼と向き合いながら、アイズはそっと声をかけた。
「・・・大丈夫ですか?」
正面から見下ろす格好のアイズの問いかけに、少年は身じろぎ一つさえしなかった。
言葉を失ったように、アイズのことを静かに見上げてくる。
少し戸惑った彼女は、もう一度尋ねてみる。
「あの・・・大丈夫、ですか?」
反応は返ってこない。
変わらない表情の裏で困り果ててしまったアイズは、座り込む少年のことをあらためて見つめる。
ミノタウロスの流血をまともに浴びてしまった体は血まみれになっており、こちらにとてつもない申し訳なさを与える。涙の引いた双眼は再び湿り出しており、アイズを真っ直ぐ見上げる顔も熱病のように、じわじわとその肌を赤くさせていった。
熱っぽく見える少年のことが心配になったアイズは、剣を鞘に収め、手を差し伸べた。
「立てますか?」
ちょうど何かを言いかけようとした少年の唇が、ピタリと止まった。
差し出される手に一瞬視線を止め、再びアイズの整った相貌を仰ぐ。
瞬く間に彼の耳や首、肌という肌が紅潮した。
「だっ────」
「だ?」
アイズに首を傾げる暇も与えず、少年はがばっと跳ね起きる。
次の瞬間。
「だぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
全速力で、アイズから逃げ出した。
「・・・・・・・・・・・」
ぽかんと、アイズは目を開いて立ち尽くす。
逃げ去った通路の奥から少年の奇声が木霊してくる中で、彼女は誰にも見せたことのないような、呆けた表情を作った。
「・・・・・っ、・・・・・っっ、・・・・くくっ!」
後ろを振り返れば、震えながら腹を抱えるベートが、笑いに堪えており、三日月はと言うと───
「・・・アイツ・・・すばしっこさならガリガリ以上かもね」
そんな訳のわからない事を言っていた。
「・・・・・・・・・」
そんな恥ずかしい所を見られたアイズは頬を赤く染めて、三日月達を睨み付けた。
紆余曲折はあれ。
三日月とアイズ達の長い遠征は、こうして幕を閉じた。
感想、誤字報告、評価よろしくです。
ボツネタァ!
三日月の場合
血まみれになったバルバトスがベルを見つめている。
ベルはそんなバルバトスを見て─────
「うわああああああああああああ!?」
恐怖のあまり全速力で逃げ出した。
「・・・・・は?」
三日月はそう呟いて走り去った少年の方向を見る。
そして隣でアイズは三日月に言った。
「多分・・・今の三日月が怖くなってるからだと思う」
「そういうことか」
三日月は血まみれになったバルバトスを消してポケットの中のデーツを口にし、踵返して歩いて言った。