ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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三日月っぽくなかったらごめんなさい。


第九話

「ここが外か」

 

三日月がそう言って周りを見渡す。

地球やクリュセで見た近代的なビル群ではなく、見たことのない木造や石で作られた建物を見て感想を漏らす。

迷宮都市オラリオ。

広大な面積を誇る円形状の巨大都市は、堅牢な市壁に取り囲まれている。

修繕跡から覗く、外敵の迎撃を度外視したその設計は、防壁が持つ本来の目的とは裏腹に、内部より溢れる怪物に対して築かれた障壁の証だ。長い年月を感じさせるもの言わぬ巨岩の壁は、『古代』当時のダンジョンの要塞としての面影を残している。

外界と隔てる市壁の内側は大小様々な建物が立ち並び、そして都市中央には、天を衝く白亜の巨塔がそびえていた。

地中に開く大穴、ダンジョンの入り口を塞ぐ『蓋』として建設された摩天楼施設『バベル』。

このバベルが、ダンジョンを中心にしてオラリオは今もなお栄え続けている。

薄暮が迫る街は迷宮から帰ってくる冒険者達で溢れ、彼等の生還を祝いもてなす酒場の賑わいに満ちていた。

多くのヒューマンと亜人が肩を並べ酒をあおり、悪乗りした一部の神がジョッキを片手に乱入する。種族の壁も、敬意の念も忘れた彼等の間に響く笑い声が、この都市の───この世界の縮小図だ。

ポツポツと照り始める街灯、『魔石灯』の明かりが、喧騒の途絶えることのない都市を彩っていく。

 

「やっと帰ってきたぁ・・・・・」

 

都市北部、北の目抜き通りから外れた街路沿い。

周囲一帯の建物と比べ群を抜いて高い、長大な館が建っていた。

高層の塔がいくつも重なってできている邸宅は槍衾のようでもあり、赤銅色の外観もあって燃え上がる炎のようにも見える。塔の中でも最も高い中央塔には道化師の旗が立ち、今は茜色に染め上げられていた。

【ロキ・ファミリア】本拠、黄昏の館。

 

「あー、疲れたー、お肉たくさん頬張りたーい」

 

「私は早くシャワーを浴びたいわね」

 

「あはは・・・・・」

 

ティオナ達姉妹の言葉にレフィーヤが苦笑する。

 

「三日月はこの後どうするの?」

 

「報酬貰って、仲間を探しにいく」

 

「・・・・そう」

 

三日月の言葉にアイズは顔を少しだけ下げる。

それも仕方のない話だろう。元々彼は部外者だ。

用が済んだら出ていく。それが当たり前だ。

アイズは暗い気持ちになりながら、三日月の後ろを歩いていく。

ダンジョンから地上に帰還したアイズ達はホームを眼前にしていた。三十人規模の一団がそれぞれの物資を抱え、あるいは引きずり、正門の前に到着した。

 

「今帰った。門を開けてくれ」

 

フィンの言葉を受け、開門される。

狭い敷地面積に建てられたホームは横が駄目なら上にとばかりに伸びた格好なので、当然門をくぐった先にある庭園もそこまで広くはない。

門と館の間の空間を利用した本当に最小限のものだ。

僅かな植栽と色とりどりの花が風に撫でられ揺れている。

フィンを先頭にアイズ達はぞろぞろと敷地内に足を踏み入れた。

 

「────おっかえりぃいいいいいいいいっ!」

 

と、いきなり。

アイズ達の入門を見計らっていたかのように、館の方から走り寄ってくる影があった。

朱色の髪を揺らす彼女は男性陣には目をくれず、アイズ達女性陣のもとへまっしぐらに突き進んでくる。

 

「みんな無事やったかーっ!?うおーっ、寂しかったー!」

 

両手を突き出し飛び付いてくる彼女を、ひょい、ひょい、ひょい、とアイズ、ティオナ、ティオネがすんなり回避する。

最後尾にいたレフィーヤはとばっちりに合い、え、ちょ、きゃあー、と悲鳴を上げながら抱き着かれ、押し倒される。

 

「ロキ、今回の遠征での犠牲者はなしだ。到達階層も増やせなかったけどね。詳細は追って報告させてもらうよ」

 

「んんぅー・・・了解や。おかえりぃ、フィン」

 

「ああ、ただいま、ロキ」

 

エルフの少女の体を堪能する女性は顔を上げ、にへらっと笑いかける。

黄昏時を見る者に思わせる朱色の髪。細目がちな瞳は今は弓なりに曲がり、その端麗な顔立ちとともに相好を崩している。フィンにそそがれる眼差しは子の息災を喜ぶ、神のそれだ。

天界での堕落した生活に飽き、娯楽を求め下界に降り立った気まぐれな神々の一柱。

人類ともモンスターとも次元が異なる、超越存在。

彼女こそがアイズ達と契りを交わした【ファミリア】の主神、ロキだ。

 

「ロキー、レフィーヤが困ってるから離れてくんなーい?結構疲れてるしさぁー」

 

「おおっと、すまんレフィーヤ。感極まって、ついなぁ」

 

「い、いえ・・・・」

 

ロキ達の会話に入り込むように、話を聞いていた三日月が言った。

 

「アンタが、ここのボス?」

 

「ん?」

 

ロキは聞き慣れぬ声に反応し、三日月へと顔を向ける。

 

「なんや?フィンの知り合いか?」

 

三日月を見て、ロキはフィンに言う。

 

「知り合いと言うより、命の恩人だ。彼がいなかったら今回の遠征に死人が出る所だったからね」

 

「ほぉー・・・その話はまた詳しく聞かせてもらうわ。んで少年、名前は?」

 

「・・・・三日月・オーガス」

 

三日月の名前を聞いた後、ロキは三日月に言った。

 

「三日月な。・・・ありがとうな。家族を守ってくれて」

 

ロキからの感謝の言葉に三日月は言った。

 

「別に。仕事だよ」

 

三日月はロキにそう言ってポケットからデーツを取り出し、口に入れる。

 

「変わった子やなぁ・・・」

 

ロキはそう言ってアイズに顔を向けて言う。

 

「アイズも、お帰りぃー」

 

「ただいま、ロキ・・・・・」

 

おもむろに顔を向けてくるロキに、アイズもはっきりと言う。

どこか嬉しそうにえくぼを作った後、女神はその糸目をうっすらと開く。

 

「ん。体、ずきずき痛むなー。ちゃんと休まなあかんよ?」

 

「・・・・・・」

 

魔法の酷使によって呻吟を漏らしている体の状態を、あっさりと看破される。

全てを見透かしているような朱色の神の眼は、それ以上何も言わなかった。押し黙るアイズに一笑し、背を向けて、彼女はまた別の団員のもとへ足を運ぶ。

 

「アイズ、どうしたの?またロキに変なことされた?」

 

「ううん・・・何でも、ないよ」

 

ティオナの問いに答えながら、はた迷惑そうなリヴェリアに纏わりつく主神の姿を見つめ、アイズはその場から離れた。

居残り組の団員達が遠征組の持ち帰った荷物を受け取り運搬していく。すれ違いざま「おかえりなさい」とにこやかに出迎えの言葉を送られる中、アイズ達は館の中へと入る。

エントランスホールはないスペースを無理矢理使って広い設計にしたので解放感がある。

その分他の部屋や通路が割りを食った形になっているが、アイズは何かと手狭で雑多なこのホームの造りが嫌いではない。

手の空いている者から入浴を済ませろと指示され、暗黙の内にアイズやティオナ達に一番手を譲られる。

何かと優遇されている───その立ち位置を考えれば当然と言えば当然なのだが───後ろめたさが少なからずあるが、浴室も効率よく使用しなければ回らないのでありがたく甘えさせてもらう。

アイズは先に大浴場へと足を運んでいった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

三日月とフィン、そして話を詳しく聞いたロキはロキの部屋で報酬の打ち合わせをしていた。

 

「さて・・・報酬の話なんだけど」

 

「うん、なるべく手短にね」

 

「ざっくりしすぎやで、少年?」

 

自分の報酬の件についての話し合いなのだが、当の三日月は興味なさそうに言う。

三日月はこう言った話し合いに向いていない。その仕事は本来、オルガやユージンの仕事だ。

三日月は金には対して執着を持たない。

今は直ぐにでもオルガや鉄華団の皆を探しに行きたいが、今の自分には金がない。金がなかったら食べ物も買うことが出来ないし、住む場所もてに入れる事は出来ない。

だったら手っ取り早く金が必要になってくる。

だからこそ、この商談に乗った。

 

「三日月には先に報酬を渡しておく。命の恩人だからね。正当な報酬だ」

 

大量のヴァリスが入った袋をフィンは三日月の前に差し出す。

三日月はその袋の中身を確かめる事なく、自分の懐にしまい込むと立ち上がって言った。

 

「ありがと。んじゃ、俺行くね」

 

三日月はそう言って部屋から出ていこうとすると──

 

「ちょっと待ってくれないかい」

背中からフィンに声をかけられ足を止めた。

 

「なに?」

 

三日月は体の向きを変えてフィンとロキを見る。

 

「三日月君は無所属なんだろう?ならファミリアに入るつもりはないのかい?」

 

フィンは三日月にそう言った。

三日月という命の恩人を放って置くことが出来ないのが一つと、三日月と会ってからアイズの様子が少し可笑しくなったのが気になると言うのが、三日月をファミリアに誘う理由だった。

 

「ファミリア・・・ああ前にアンタが言ってた組織の事?」

 

「そうだね」

 

「俺の家族は鉄華団だけだよ。アンタ達の組織に入って俺になんか良いことでもあるの?」

 

三日月の問いにフィンは答える。

 

「ああ、ファミリアに入って恩恵を手に入れると冒険者になれるんだ。モンスター討伐から、採取、捜索までね。それで君の仲間を探すことも出来る」

 

「それにウチらのファミリアはここら辺では有名やから、三日月の探しとる人もすぐに見つかると思うで」

 

フィンの説明の後、ロキも三日月に言った。

 

「じゃあ、聞くけど俺が仮に入ったとしてアンタ達はオルガや俺の仲間を探してくれるの?」

 

三日月はそこが気になっていた。

仮にその組織に入って給料をもらうとはいえ、仲間が探せないようじゃ意味がない。

三日月の目的はオルガや皆を探すことだ。こんな場所で足を止めている訳にはいかないのである。

 

「情報があれば勿論君に連絡するよ。君には世話になっていたからね」

 

「・・・・ふーん」

 

三日月は少し考える素振りを見せる。

そして、フィンとロキに言った。

 

「分かった。アンタのその"ふぁみりあ"ってヤツに入るよ。でも、オルガ達が見つかるまでね」

 

「うん、分かった。その提案を飲もう」

 

フィンも了承する。

 

「話は済ませたかいな?後でアイズたん達にも上手く誤魔化さんといかんなぁ・・・。んじゃ恩恵を刻むから服脱いでぇな」

 

「分かった」

 

三日月はそう言って服を脱ぐ。

そしてその三日月の身体付きに二人は絶句した。

余分な脂肪や筋肉がない鍛え上げられた身体、ラウルと同じ位の年頃だと思う三日月の肉体は既に完成されていた。そしてその背中には────。

 

「なあ・・・三日月、その背中に着いとるこれはなんや・・・?」

 

「阿頼耶識のこと?」

 

ロキが言ったのは三日月の背中に着いている三つの突起。阿頼耶識のことだった。

 

「阿頼耶識?それは一体なんだい?」

 

フィンが三日月に問いを投げる。

その質問に三日月は答えた。

 

「バルバトスを動かすのに必要なやつ。これでバルバトスを出している間は右目と右腕が動くんだ」

 

「そ、そうかいな」

 

三日月の何ともない言葉にロキは冷や汗を流す。

まるで開けてはいけない箱を開けるかのような緊張感だった。

そして三日月の背中に恩恵を刻み込んだ次の瞬間。

三日月の背中から血のように赤い紋章が浮かんでくる。

ロキのものではない。

円上の紋章の真ん中に十字架のような模様が描かれている。

そして円の形に合わせるように名前が書かれている。

 

BARBATOS

 

バルバトス。それはかつて存在した狩人を象徴する八番目の悪魔の名前だった。

そしてさらに驚愕するのはその【ステイタス】だった。

 

三日月・オーガス

 

LV■

 

力A952 耐久A822 器用 B754 敏捷B750 魔力E215

 

狩人(天使)A 耐異常A 悪魔の鎧(バルバトス)

 

その得体の知れないスキルとステイタスを見てロキはただ、開けてはいけない箱を開けてしまったような錯覚をその身で感じてしまった。

 

三日月・オーガス。

 

彼は・・・・一体どの様な戦場で生きていたのだろう。

 




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悪魔の鎧(バルバトス)

装着時、自身のステイタスアップ。
対魔法対物理攻撃の大幅軽減。
精神攻撃の無効


デメリット

リミッターの解除により代償が必要。
使用時、魔法の効果無効。







レベルアップまたは天使討伐時、バルバトス自身の変化能力解放。


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