ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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投稿です。
来週もしかしたら投稿できない可能性もあるので。
今回はあるオルフェンズキャラの登場です。


第十一話

少女がいた。

感情豊かな少女だ。

笑い、驚き、悲しみ、喜ぶ。

ころころと表情を変えては、頬を染め、無邪気に破顔する。

目の前で開かれた本、頭の上から紡がれる幾つもの物語。

一面が穏やかな白に包まれる中、少女は頻りに話の続きをせがんでいた。

物語を朗読する声音はたどたどしい。そして慈愛に満ちている。

胸の中にもたれる少女が顔を上げれば、美しい金の長髪を揺らし、姉妹のように。少女もまた笑う。

やがて物語終わった。

深い森の奥に閉じ込められた永遠の眠り姫。

彼女は一人の若者の手によって目を覚ます。

自分を見つけてくれた彼にその心を溶かし、末長く寄り添い、幸福に暮らす。

彼女は救われたのだ。

この物語は好き?と女性は訪ねる。少女はそれに頷いた。

お母さんは?と少女は聞き返す。女性も少女の問いに頷いた。

私も、あの人のおかげで幸せだから、と彼女は屈託なく笑った。

全貌と憧れを瞳の中に抱きながら、少女は一度本に視線を落とし、再び彼女を見上げる。

女性はまた、無邪気に微笑んだ。

 

『あなたも素敵な相手に出会えるといいね』

 

笑みを咲かせ、少女は嬉しそうに頷いた。

 

 

場面が変わる。

一転して周囲は剣呑な薄暗さに包まれた。

響き渡る怪物の吠え声。

どこまでも残響するように、凶暴なその鳴き声はその光景から途切れない。

空は塞がれ、湿った空気が漂う場は複雑な通路が錯綜している。隘路がそこら中に溢れ、もの言わない冷たい壁が周囲に続いていた。

地下迷宮の中で、少女は醜い怪物に襲われていた。

止めどなく涙を流す瞳は恐怖を帯びている。玉の肌にはいくつもの擦り傷を負い、服の裾にも土と埃に汚れていた。糸の切れた人形のように、座り込んでしまったその場から逃げ出すこともできない。

瞳の中で大きくなっていく黒い影。嗚咽を漏らす間にも怪物が徐々に迫ってくる。

何も出来ない少女の目の前で、理不尽にその歪な爪が振りかぶられた。

その爪に切り裂かれれば少女の命は終わるだろう。

"あの二人の少年の絵本"の結末のように。

だが─────次の瞬間。

銀色の閃光が走る。

震える少女の前で怪物は倒れる。代わりに現れたのは、年若い青年だった。

黒い襟巻きに薄手の防具、銀の長剣。少女は瞳を一杯に見開き、彼のもとへと飛びつく。

青年は少女を抱きとめ、その頭に手を乗せた。

ぎこちない動きで髪を撫でるその手付きは何も咎めはせず、ただ優しい。涙滴をぽろぽろと落とす少女が顔を上げると、彼は不器用に微笑んだ。

少女の瞳がぐっと潤む。青年の姿に、あの大好きな物語の若者を幻視し、一層強く抱きついた。

青年は膝を付き、少女の目線に合わせて、言う。

 

『私は、お前の英雄になることはできないよ』

 

既にお前の母親がいるから、と彼は続け、ゆっくりと目を細めた。

 

『いつか、お前だけの英雄にめぐり逢えるといいな』

 

その言葉を最後に。

全ての光景が遠ざかっていく。

でも、大丈夫。

 

私には─────あの時に出会ったから。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「・・・・・」

 

意識がゆっくりと浮上していく。

ぼやけた視界の中に映るのは、夢の続きではなく、見慣れた殺風景な自室だった。

うっすらと瞼が開いていき、アイズは二度三度と瞬きを繰り返す。

しばらくそのままでいた彼女は、ゆっくりと手を付き、ベッドから身を起こした。

未だ覚醒しきっていない頭で周囲を見回す。

薄闇は姿を消し、部屋は明るい。

白いカーテンの隙間からは日の光が滲んでいる。

朝だ。

 

(・・・・懐かしい)

 

壁際に置かれた姿見を見て、目もとをそっと拭う。

久しく見ていなかった夢だ。

ここ何年も思い起こすこともなく、風化しかけていた遠い記憶。

何故今になってと考え、すぐに答えを見つける。

恐らくは、昨日助けたあの少年に境遇を重ねたからだろう。

あの白髪の彼に、幼心の自分を見たのだ。

 

「・・・・・」

 

でも、私にはもういる。あの頃にいなかった私だけの英雄が。

夢を運んできてくれたのかもしれない白兎に、アイズは自覚がないまま、唇を小さく和らげる。

 

「アイズー?起きてるー?もう朝食だよー」

 

ややあって、ドアの向こうからティオナの声が届いてきた。

どうやら起床時間を寝過ごしてしまうほど、珍しく深い眠りについていたらしい。

遠征の疲労からか、それともあの追憶のおかげか。

どちらにせよ昨夜までにはなかった安らぎを覚えながら、アイズはティオナに返事をして、支度を始めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

朝食を終えて、アイズ達は遠征の後処理を済ませることになった。

ダンジョンから持ち帰った戦利品の換金や、武具の整備もしくは再購入、アイテムの補充など、遠征から帰還した後はやらなければならないことが山積みになっている。扱う量が量なのでほぼ団員総出だ。

それぞれが役割を振り分けられ、正門で準備を整えたアイズ達はホームを出発する。

三日月に関しては私達と一緒に同行だ。荷物持ちとしてだが。

 

「夜には打ち上げやるからなー!遅れんようにー!」

 

ロキに送り出され、街路を経て目抜き通り───北西のメインストリートに出た。

オラリオには八本のメインストリートが存在する。都市の中央から放射状に、北、北東、東、南東、南、南西、西、北西の八方位に巨大な大通りが伸びているのだ。円形を作る都市の形状もあって、上空から俯瞰すれば、八分割されたホールケーキに見えるだろう。

アイズ達が向かった北西のメインストリートは通称『冒険者通り』とも呼ばれ、オラリオの中でも特に冒険者の往来が激しい場所だ。

時刻は朝の九時を回った頃。多くの者がダンジョンに向かう直前の時間帯なので、明記探索の前準備のため、大通りは冒険者であふれている。

武器屋へと消える大剣を担ぐ獣人、ばたばたと忙しげにアイテムショップを駆け巡っている小人族の魔導士、バックパックを背負う冒険者お付きのサポーターも多い。

その中でも、アイズ【ロキ・ファミリア】は周囲から多くの視線を集めている。オラリオでも指折りの実力を持つ彼等の存在は誰もが知るところであり、様々は羨望とやっかみ、何より畏怖を向けられる。

集団で固まる彼等の道を阻む者は一人としていない。

自然に、アイズ達には道が開かれていった。

 

「なんかやだなー、こういうの。ベートは喜びそうだけど。ね、三日月」

 

「俺達が気にしたって周りのやつがどう思っているのかなんて変わらないでしょ」

 

三日月はティオナにそっけなく言う。

すると二人の会話を聞いていたガレスがティオナに言った。

 

「ベートもそこまで下品ではないぞ、ティオナ。あやつはあやつなりに、第一級の誇りと自覚がある」

 

「えー、ガレス、なんでベートの肩なんか持つの?絶対嘘だー」

 

「蔑むのと増長するのは、あやつの中では同じものではないらしい」

 

「意味わかんないよー」

 

雑用を押し付けホームで待機している青年の話も挙がる中、アイズ達はメインストリート沿いに建てられたギルド本部の前までやってきた。

白い柱で作られた万神殿は荘厳の一言に尽きる。記念碑が設置されてある広い前庭を有し、今も数多くの冒険者が足を進めている。

オラリオの運営を一手担うギルドは、伴ってダンジョンとそれに関わる全ての管理も務めている。オラリオの住人として一定の地位と権利を約束する冒険者登録から始まり、迷宮から回収される利益を都市の発展に反映させるため、ダンジョンの諸知識・情報を冒険者達に進んで公開、更に探索のためのサポートも行うのだ。

迷宮を攻略するには彼等の協力が必要不可欠と言っていい。

 

「僕とリヴェリア、ガレスは『魔石』の換金に行く。みんなは予定通り、ここから各々の目的地に向かってくれ。換金したお金はどうかちょろまかさないでおくれよ?ねぇ、ラウル?」

 

「あ、あれは魔が差しただけっす!?本当にあれっきりです、団長っ!?」

 

「ははっ。じゃあ、一旦解散だ」

 

ダンジョンから回収した資源はギルドや【ファミリア】に買い取ってもらうことができる。

とりわけ、モンスターから排出される『魔石』は、売買を始めとした権利をギルドが独占しており、例外なく彼等のもとで換金することになっていた。

『魔石』は加工することで、『魔石灯』を始めとした様々な魔石製品を製造することができる。

照明だけではなく発火装置や冷凍器など幅広い応用が可能な魔石製品は、今や日常生活を送る上でなくてはならない存在だ。当然世界中からの需要も高い。

無限にモンスターが湧いて出るダンジョンからは無限の魔石が回収でき、ギルドはその魔石の利権を独占することで、莫大な富を築き上げているのだ。

疑いようもなく世界一の魔石製品輸出都市であるオラリオは、ダンジョンの恩恵───魔石産業による利益を受け、大陸の一国家より遥かに発展しているのである。

世界の中心とも言われる一つの由縁だ。

 

「さ、私達も行くわよ。アイズ、三日月をお願い」

 

「分かった」

 

一度此処で二手に別れる。

ティオネ達はドロップ品の換金を。そして私は三日月と一緒に冒険者登録だ。

三日月は一応【ロキ・ファミリア】の所属になったとはいえ、まだ冒険者としての登録はしていない。

ならば、何故あの場所に居たのか聞いてみた所、「仲間を探してる」のことだった。

仲間を探しにダンジョンの奥深くまでいくとは、他の仲間も相当な実力者なのだろう。

あまり深く探らずに私は、三日月と一緒にギルドのロビーへと入る。

ギルドの受付へと真っ直ぐ向かい、そして。

 

「彼の冒険者登録をお願いします」

 

だが、アイズはこの時知らなかった。

三日月が文字を読めない事に。

数十分後・・・・・。

 

 

「・・・・大変だった」

 

アイズは若干疲れたような表情で近くの椅子に座る。

ギルド登録する際に三日月が文字が読めない書けないということが発覚し、結局私が代理として書くはめになった。

 

「何か、ごめん」

 

「いいよ、大丈夫だから」

 

三日月には、今後文字の読み書きを教えないといけないだろう。

そういった使命感を持って私は立ち上がると、後ろの受付から叫び声が響き渡った。

 

「だから、俺をその冒険者って奴にしてください!」

 

「ですから、一度何処かのファミリアに入ってくださらないと・・・」

 

「そのファミリアってヤツの場所がわからないんで、こうして頼んでるんすよ!」

 

どうやらファミリアの場所が分からない事で揉め事になっているらしい。

すると三日月は顔を上げて、呟く。

 

「この声・・・ハッシュ?」

 

「・・・・え?」

 

三日月は立ち上がると、歩いて受付へと向かっていく。

私も慌てて立ち上がって後を追う。

そしてその場所には一人の青年がいた。

薄い茶色の髪に黒と茶色のジャケットを着ている。そしてそのジャケットの背中には三日月の着ているジャケットにも描かれている華の柄が描かれていた。

三日月は彼に近づいていく。────そして。

 

「ハッシュ」

 

「だからって・・・・え?」

 

青年が三日月の声に気付き振り向く。

─────そして。

 

「三日月さん!!」

 

まるで弾けたような屈託の笑顔を浮かべ、三日月の手を取った。

私はそれを見て─────。

 

「は?」

 

威圧的にそう呟いてしまった。




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