ハイペースで投稿してますが、何処にも行けないストレスからか早くなってるだけです。はい。
では、どうぞ!!
三日月っぽくなかったらごめんなさい。
あの後、話が進みベートの悪ふざけがあまりにも酷かったのか皆からの制裁をベートが受ける事となった。
そして、その話を全て聞かれてしまっていた。アイズが助けたその少年に。
それなのに私は酒場を出ていく彼を追うことが出来なかった。
昔の、幼い時の自分なら追いかける事が出来ただろう。
しかし今の自分には出来なかった。
三日月の目は追いかけても良いと語っていたが、それでも今の私には追いかける事なんて出来なかった。
何故なら─────。
追いかけて行ったら、"二度と彼の隣に立てないと思ってしまったから"
◇◇◇◇◇
東の空より朝日が上がり、広大な町並みが照らし出されている。
高い市壁に囲まれるオラリオにも朝の日差しは届き始めていた。
清涼な空気に都市全体が包まれている。
「今日も元気がないなぁ、アイズたん・・・」
胸壁に寄りかかりながら、ロキはぽつりと言った。
ホームの空中回廊。塔と塔を繋ぐ石造りの渡り廊下から眼下にある中庭が見晴らせる。
ロキの視線の先、数本の庭木と僅かな芝生がある空間の中で、金髪の少女が一人長椅子に座っていた。
「昨日一日もずーっとあんな感じやったし・・・」
「珍しいを通り越して不可思議だな、アイズが時間を無為に過ごすのは」
「そうやなぁ・・・・」
回廊にはロキの他にもう一人、アイズを見守る亜人がいた。
流れるような翡翠色の長髪に同色の瞳。長身の身体は華奢な印象が強く、エルフ特有の線の細さが表れている。
その白い肌は透き通るようでさえあった。
冷涼かつ凛々しい雰囲気を纏う麗人、リヴェリアは、胸壁に肘をついているロキの隣で言葉を交わす。
「いつもなら遠征の後だろうがダンジョンに突っ込むし、止めても聞かんし・・・まぁ、目の届くところにいてくれる分、こっちは安心できるんやけど」
「そこは同感するが、さて」
胸壁に背を向けているリヴェリアは、見目好いロキ以上に整った美しい相貌を浅く苦笑させる。
「ああも塞ぎ込んでいる原因は、やはり酒場の一件だろう」
「そんなにベートにセクハラされたの嫌やったんかなぁ。あ、ちなみにベートもすごい勢いでへこんでるで」
「知らん。自業自得だ」
酒場で開いた祝宴はもう二日前になる。
アイズが一人で外に出て三日月達が帰ったあの後、ティオナ達はよってたかってベートに報復した。アイズと三日月達を不愉快にさせ挙げ句祝いの席から出ていかせてしまった諸悪の根源と見なし、縄で身動きを封じた後、店の外に吊し上げたのだ。アイズと三日月達のためにリヴェリア自身も────ベートに言ってはならない事を言われたので頭を踏んづけてやった。
酔いが醒めてことの顛末を聞いたベートは、今はやってしまったとばかりにうなだれており、ティオナ達の手でアイズに近付けさせてすらもらえていない。
あの狼人にはいい薬だと言って、リヴェリアは吐息する。
「でもあんなやり取りで落ち込むほど、アイズたん繊細やないし・・・」
「他に原因があったということか」
「多分な。それこそアイズたんしかわからへんって言いたい所やけど、三日月が大体察しとったようやからな・・・」
「あの青年か」
リヴェリアは三日月の事を思い浮かべる。
アイズが出ていく直前、三日月はアイズを抱きしめていた事を思い出す。
本人曰く、アイズが泣いていたから慰めていたと言っていたが、おそらくそれと関係あるのだろう。
恐らくアイズにとって無視できない何かがあったのだろう。そしてそれを察しての行動をした三日月。
ロキの言葉通り、自分達では判断できない。
「そういえば、三日月はどうした?姿を見ないが?」
話題の三日月の姿を最近見ていないリヴェリアはロキに尋ねると、ロキから返答が返ってくる。
「三日月ならハッシュと一緒にフィンやティオナらとダンジョン行ったり、街中に行ったりしとるで?」
三日月は基本的に仲間を探すのが目的で一時的に加入している。今日も仲間を探すためにあっちこっちしているのだろう。
「どうするんだ。放っておくのか」
「どうなんやろうなぁ。確かに元気取り戻して、おりゃー、ってまたダンジョンにこもられても困るんやけど」
んー、と間延びした声を漏らしていたロキは、やがて「ん!」と言って胸壁から起き上がった。
「頼んだ」
「・・・・なに?」
「リヴェリアに任せた。うちがあれこれするより、そっちの方がええやろ」
それにな、とロキはリヴェリアが何かを言う前に言葉を被せる。
「放っておくつもりもないのに、放っておくのかぁー、とか澄まし顔したらあかん。何かあったか聞きたいんやろう?」
「・・・・・」
にやけた顔で自分の台詞を真似るロキにイラッとしつつも。
見透かされている本意に、リヴェリアはその美しい眉をひそめた。
「じゃ、後はお願いな、母親」
目の前を通り過ぎていく際、肩にぽんと手を置いて、ロキは回廊から去っていく。頭の裏に手を組んで遠ざかっていくそんな主神の後ろ姿を、リヴェリアは無言で見つめた。
リヴェリア・リヨス・アールヴは、【ロキ・ファミリア】の中でも古株の古株だ。
ロキはもとより、彼女はアイズとの付き合いが長く、何よりも深い。
「・・・誰が母親だ」
言葉にしつつも、反感を抱いていない自分に対し。
やれやれと溜め息をつきながら、リヴェリアは中庭へと向かった。
◇◇◇◇◇
「アイズ」
中央塔を囲むようにしてできている中庭の形は円環型だ。
周囲には複数の塔が並び立ち、日の光は入りにくいが、団員達の手によって手入れされ草木はよく育っている。
小さな噴水や魔石灯のポールも設けられていた。
中庭に下りたリヴェリアは芝を踏んで進みながら、アイズに声をかける。
「リヴェリア・・・・」
「相変わらず早いな。剣は振っていないようだが」
アイズは木陰にある長椅子に腰かけていた。
木の根本には本来の愛剣ではないレイピアが立てかけられている。大方、日課の素振りをしようと出てきたが、気分が乗らずそのままにしているのだろう。
視線をリヴェリアと合わせていた彼女は、そっとその金の瞳を芝に落とす。
「・・・・・」
「・・・・・」
ほんの少し、間が空く。
リヴェリアはどう切り出すか一度迷ったが、構える必要はないとすぐに思考を放り投げる。
回りくどいことはしない。
それが自分と彼女の間にある決まりだ。
「何があった」
アイズは顔を上げ、小さく視線をさまよわせる。
葛藤が見て取れる中、しばらくその場でたたずんでいると。
ぽつぽつと、アイズは話し出した。
「酒場であった、ミノタウロスの話・・・」
「ああ」
「私は、男の子・・・冒険者を助けたんだけど・・・」
語られていく内容に耳を傾けていたリヴェリアは、話が進むにつれ納得を得て、同時に頭も痛めた。
まさか笑いの種にされていた当人があの酒場にいたとは。
二日前の光景と照らし合わせて、あの時何が起きていたのか悟った。そしてすぐにあの場での話を止めるべきだったと自らも後悔する。
三日月はその事を知っていたからあの時、帰ったのだろうと理解する。そうだとしたら自分達の印象もあまり良くは思っていない筈だ。
ひとまず、疑問が氷解したリヴェリアは全てを打ち明けたアイズの顔を窺った。普段と変わらない乏しい表情に見えるが、その顔は暗い。消然としているのが手に取るように分かる。
直接少年を傷付けたわけではないが、いやその誘因を招いたことに、応えているようだ。
ダンジョンと鍛練以外の事柄に珍しく感情を動かしているのを喜ぶべきか複雑だったが、リヴェリアは落ち込んでいるアイズに再度尋ねた。
「お前はどうしたい?」
うつむきがちになるアイズに、後は何も口にしない。
強要はせず、彼女が胸の内の答えを探しだすのを待つ。
「・・・・分からない、けど」
やがて。
「謝りたい、んだと思う・・・・」
小さな声で、そう答える。
「そうか・・・」
「・・・・・」
会話が途切れる。そしてまた見計らったように、館全体へ伝わる鐘の音が鳴り響く。
朝食を知らせる合図だ。
────とそこに中庭に入ってくる人影があった。
「・・・あっ」
アイズは声を漏らす。
リヴェリアがそちらへ視線を向けるとそこに居たのは三日月だった。
何時も隣にいるハッシュの姿は見えない。
一人でいる彼にアイズは視線を向けている。
するとその視線に気付いたのか此方へ身体を向ける。
「朝飯だけど、行かないの?」
三日月は二人に向けてそう言う。
「ああ、今向かう」
「分かった」
三日月はそう言って踵を返す。
そして三日月は何か言い忘れがあったのか足を止め、アイズに言った。
「何か迷ってるみたいだけど、自分の事は自分でけじめをつけなきゃいけないから」
「えっ?」
一言。迷っているアイズにそう言って三日月は中庭から出て行った。
「・・・凄いな彼は」
アイズの指針のきっかけを彼は一言で与えた。
一体彼は彼等はどういった場所にいたのかというくらい彼は強い。心も意思も実力も。
なら自分もアイズに言う事を言わねばならない。
「自信がないのなら、まだ悩め。言ってくれれば、相談にも乗ってやる」
「うん・・・・リヴェリア」
「?」
「・・・・ありがとう」
「・・・それは三日月にも言ってやれ」
変わらない少女の表情に淡い温もりを見つけ、リヴェリアは頬を緩める。
振り向いた顔を戻し、中庭から塔へと向かう。
今の彼女にとって三日月は必要な存在だろう。
三日月・オーガス。
彼等は鉄華団は一体何者なのだろうか。
リヴェリアは疑問を抱きながら食堂へと向かった。
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