ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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今回、三日月は出ません!!
次かな、出るのは。
では、どうぞ!!
三日月っぽくなかったらごめんなさい。


第十七話

西日が照り、街が茜色に染まっている。

市壁の奥で日の入りが始まる中、ティオナ達はホームへの帰り道を消化しようとしていた。

 

「あー、遊んだぁー」

 

控えめではあるがアイズの顔には笑みが戻っており、強引に連れ出したことが功を為したとティオナもご満悦気味だ。最後の方は彼女の気分転換関係なしに遊び倒しだったため、レフィーヤなどは苦笑いとともに疲れを滲ませている。

四人固まって談笑を交わしながら、ティオナ達はホーム沿いに出る街路を折れ曲がった。

 

「あれ?」

 

「馬車・・・?」

 

館の正門に見慣れない乗り物を見つけ、ティオナとレフィーヤは不思議そうにする。近寄ってみると、豪華な黒いドレスを着こなしたロキが今まさに馬車に乗り込もうとしているところだった。

 

「わ、ロキ、何その格好!?髪型まで変えちゃって!」

 

「ん?お~、帰ってきおったか四人娘。ぬふっ、どや、似合う?」

 

ロキは帰ってきたティオナ達に言った。

 

「はい、似合ってますけど・・・どこかに行かれるんですか?」

 

ロキの言葉にレフィーヤはそう言うと、ロキはすぐに返答した。

 

「ん、ちょっと神どもが馬鹿騒ぎする『宴』に足を運ぼうと思ってなぁ」

 

「あら、でも『神の宴』には興味ないとか言ってなかった?ロキ?」

 

疑問に思ったティオネはそうロキに返すが、ロキは笑いながらよく分からない事を言う。

 

「───フヒヒ。ちょっと愉快な情報耳に挟んでなぁ、貧乏神のドチビをいじりに行ってくるわ」

 

ロキの言葉に首をかしげるティオナ達。

とりあえず、よからぬことを考えていることだけは、その下卑た笑みを見て悟った。

髪まで夜会巻きにしたロキはそれから馬車に乗り込み、扉を閉める。商人から借りたと思われる箱馬車はまた高級感溢れる立派な作りで、車両本体には天蓋や窓が付き、数人が楽に腰かけられる空間も備わっている。御者席にいるのは「何で自分が・・・」とばかりにがっくりと首を折っているラウルだ。

うわぁー、と気の毒そうなティオナの視線が寄せられる中、ぶるるっ、と毛並みがいい馬が嘶く。

 

「ほんじゃ、行ってくるわー!ご飯は適当に食べといてなー!」

 

ぱちんっ、という鞭の音とともに馬車が動き出す。

窓から手を振るロキを眺めた後、ティオナ達はホームの中へと入っていった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

都市が夜の闇に包まれ、星の海のごとく魔石灯の光に溢れていく。

今日も酒盛りに耽る賑やかな喧騒が絶えない中、いくつもの馬車が止まり、多くの美男美女が足を運ぶ敷地がある。

笑みを貼り付ける彼等神々が目指すのは、一つの建築物。

象頭人体を模した、巨大な像だった。

真っ当な神経を持つ者ならば己の目を疑うような造りだ。一見モンスターにも見えるその外観はしかしどこか愛嬌があって憎めない。違和感もその分激しかったが、神々は特に気にした素振りもなく、胡座をかいた巨人像の股をくぐっていく。

 

「相変わらず奇天烈な形しとるな・・・」

 

本日の『神の宴』の主催者である【ガネーシャ・ファミリア】のホームに到着したロキは、御者の手を借りて馬車から降り立つ。

白い塀で囲まれた広大な敷地内、その中央で鎮座しライトアップされる巨象の建物を、御者と並んでしばらく眺めた。

 

「それにしてもラウル、女の扱い方上手くなったなぁ。いいエスコートやったで」

 

「は、はぁ・・・・ありがとうございます」

 

「で、悪いんやけど、もうちょい付き合ってくれんか?遅くなるかもしれんけど、うちが帰るまで待っとって?報酬は弾むで!」

 

わかりました、と苦笑いする御者のラウルににんまりと笑い返し、じゃ行ってくるとロキはドレスを翻す。履き慣れていない踵の高い靴も器用に歩きこなし、広い庭を越え、建物の中へ入っていった。

ロキが長い廊下を抜け大広間へとたどり着くと───。

 

『俺が、ガネーシャだ!』

 

『イェーッ!!』

 

今回の宴の主催者、ガネーシャの馬鹿でかい声が響き渡った。

 

「盛況やなー、っと」

 

コツコツと靴を鳴らしながら、一部熱くも和やかな会場をロキは見て回る。

滅多に宴に顔を出さない彼女は比較的早く他神達の目を集め、にわかに騒々しくなった。

 

『あちゃー、ロキ来ちゃったよー』

 

『残念女神頂きましたー』

 

『おいよせ、ロキの悪口は止めろ!』

 

『お前等あとで殺されるぞ』

 

周りからロキに対して様々な反応が聞こえてくる。

ゲラゲラ笑う一部の神達ににこりと微笑むと、彼等は足並み揃えて速やかに会場を出ていった。

けっ、と吐き捨てるロキは給仕の一人を呼び止め、ぐいっと乱暴にグラスをあおる。

神は基本、掴みどころがない。

娯楽を追い求め下界に降りてきた彼等は常に飄々としており、下界の者からすれば奇異に映る者が大半だ。命知らずな彼等は今のように簡単に喧嘩を売ってくる真似もすれば、身を翻す速度もまた速い。

 

「にしても、ドチビおらんなぁー・・・ガセやったか?」

 

参加するつもりがなかった宴にロキが足を運んだのは、気まぐれだ。

正確には、目の敵にしているとある貧乏女神が恥も知らず、パーティー出席の準備をしているとちょうど今日小耳に挟んだのだ。

もし来なくてもそれはそれで良し、もし本当に来ていたとしたら・・・ドレスも用意できないその哀れかつ惨めな姿を、思いっきり馬鹿にして笑ってやろう、とロキはそう画策していた。

漏れ出そうとする邪笑を噛み殺しながら、彼女は気ままに広間を歩く。

 

「おお、ロキ、ロキじゃないか」

 

「ん?」

 

混み合う神の間を縫って進んでいると、声がかかる。

目を向けると、細身の男神が目を弓なりにして笑いかけていた。

富国の王子。その印象につきる。

邪気のない笑みを常に纏っており、多くの女性が妬んでしまうであろう柔らかそうな金髪が首の辺りまで伸びている。華奢な体は中背で、手足はすらりと長かった。

周囲と同じように正装に身を包む彼は、怖じけることもなくロキに「どうだ、話さないか」て気安く誘ってくる。

 

「よぉー、ディオニュソス。来とったのか」

 

「ああ、せっかくの宴の場だ、情報収集もかねて足を運ばせてもらっているよ。私の【ファミリア】はロキのところほど強くもなければ、非常識でもないからね」

 

ディオニュソス、と呼ばれた彼はやはり笑みを浮かべながら答えた。

品の良い物腰は上流階級の人間の鏡のようだ。ふざけ半分で貴族の真似事をしている神々の中で、彼だけが非常に浮いているようですらある。

そんないかにもといった立ち姿は、一方で僅かな隙も窺わせないほど泰然としている。

逆にその硝子のような瞳で相手の胸の内を見透かそうとしているかのようだった。

食えない神の一柱、というのがロキの勝手な印象だ。

と、そこに────。

 

「あらぁ、ロキ。お久しぶり。元気にしていた?」

 

「おおぅ・・・デ、デメテル、いたんか」

 

「ああ、今の今まで私と話していてね」

 

グラスを手に持ちおっとり微笑むのは、豊満な身体付きをした女神である。

背に流れる神はふわふわとした蜂蜜色で、浅く曲がっている目尻は柔和、その見た目通り纏う雰囲気も優しい。

胸元が開いているドレスからはその巨大な双丘が今にもこぼれ落ちそうだった。自分には皆無であるその存在を見せつけられ、ロキは引きつりそうになる顔を何とかとどめる。

性格がおおらかであるデメテルは、あらゆる意味でその懐が大きすぎて、ロキは彼女に対して一欠片の反感も抱くことができない。

 

「ロキ、【ファミリア】の調子はどう?貴方の眷属の活躍を聞かない日はないけれど、みんな元気にしている?無理はさせてはいない?」

 

「ああ、うちの子達はみんな元気や。逆に、ちょーっと元気過ぎて、派手にスッ転ばんか心配なんやけどなぁ・・・デメテルの方はどうや?」

 

「うちの【ファミリア】も色々なところに御贔屓してもらっているわ。ありがたいことにね。先日野菜が沢山取れたから、今度ロキのところにもおすそわけしてあげる」

 

「おお、ありがとなー」

 

【デメテル・ファミリア】は野菜や果物などを栽培して売り出す商業系の派閥だ。

都市郊外に広い農地を有し、収穫物の多くがオラリオに出回っている。

将来農場をしたいと思っている、この場にはいない三日月には興味がありそうなファミリアだ。

 

「今ここで出回っているワインも、デメテルのところの葡萄を使っているんだろう?葡萄酒にはうるさい私が認めるよ、これは美味い」

 

「ふふっ、ありがとう、ディオニュソス」

 

「えっ、ほんま!?」

 

素直に賞賛するディオニュソスと、照れたようにはにかむデメテルの話を聞き、ロキは早速給仕を捕まえ、葡萄酒を頂戴する。

 

「で、ディオニュソスのところはどうなん?大した噂はここんとこ耳にせんけど」

 

「私の【ファミリア】かい?可もなければ不可もなく、といったところかな。落ちぶれない程度には頑張らさせてもらってるよ」

 

「もぅ、さっきからはぐらかして。ずるいわ、ディオニュソス」

 

冒険者の情報を管理するギルドによれば、【ディオニュソス・ファミリア】の実力は迷宮都市の中堅どころだ。

上級冒険者と認められる第三級───【ステイタス】Lv,2──の団員を複数人抱えつつも、華々しいダンジョン内での功績がないせいか、あまりぱっとした印象を持たれていない。

 

「ロキのところは遠征が終わったばかりなんだろう?何か収穫はあったか、もしよければ土産話を聞かせてくれないか」

 

「自分のことは何も言わんくせに、ほんまずけずけ聞いてくれなぁ」

 

のらりくらりとかわすディオニュソスを呆れた目で見やりながら、ロキ達は雑談する。

そして、ディオニュソスが、思い出したかのようにロキに言った。

 

「そういえば・・・ロキ、最近君の所の"剣姫"の横に最近小さい子どもと青年がいるって話を聞いたんだけど、その話は知っているかい?」

 

「あー?最近入った眷属やけど?それがどうかしたん?」

 

おそらくディオニュソスが言っているのは、三日月とハッシュの事だろう。

ロキは彼にそう言って葡萄酒を煽る。

 

「いや、最近眷属達が噂にしていたものでね。あの『剣姫』にお気に入りが出来たんじゃないかってね」

 

「あー、まあ確かに小さい方はそうやで?デカイ方は違うけどな」

 

ディオニュソスの言葉は否定しない。

アイズはどういう理由か知らないが、三日月の事を気に入っているみたいなのだ。

一回本人に聞いてみたのだが、はぐらかされて終わってしまった。

 

「良い情報ありがとう、ロキ。そういえば、ロキは何しにこの宴に参加したんだい?」

 

「んー?ちょーっと噂を聞いてな?ドチビがファミリアを作ったてな。それを確かめに来ただけや」

 

「ああ、ヘスティアのことかい?彼女なら先程彼方に見えたよ」

 

彼が指差す方向へロキは顔を向けると、紅髪の女神と銀髪の女神、そして漆黒の髪を二つに結わえた幼い女神。

口端をにいっとロキは吊り上げ、残ったワインを勢いよく一飲みして、腕で荒っぽく口もとを拭った。

 

「ほんじゃ、ディオニュソス、デメテル。うちそろそろ行かせてもらうわ。また今度な!」

 

彼等に背を向け、ロキは見付け出した女神達のもとにつま先を向けた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「・・・・・」

 

遠ざかっていくロキの背中を、ディオニュソスは無言で見つめる。

その姿が雑踏の奥に紛れて消えるまで、視線をそそぎ続け、そして誰にも気づかない小さな声で呟いた。

 

「まだ彼の本質には気がついていない・・・か」

 

■■とは人を惑わす存在だ。約束は律儀に守るモノもいれば情に寄り添うモノもいる。

だが、その本質・・・自分に利益のある契約しかしないのも彼等■■だ。

そんな彼等にあの『剣姫』が見入られる。それはそれで"おもしろい"

 

「また何か悪巧み?」

 

投げかけられる声。

微笑みながら問いかけてくるデメテルに、振り向いたディオニュソスは、次には苦笑を顔に張り付ける。

 

「人聞き悪いな、デメテル?私がいつ悪巧みをしたっていうんだい?」

 

そんな彼に対し、女神はなおも微笑んだ。

 

「だって、ディオニュソスがそんな顔をする時、決まって何かが起こるんですもの」

 

 




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