ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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投稿です。
三日月とアイズって基本的に喋ることが少ないから会話がめっちゃ少ない・・・。
では、どうぞ!


第十八話

『───ガッッ!?』

 

強烈な一撃が『ガン・リベルラ』を真っ二つにする。

鋭く振り抜かれたレイピアの餌食となる蜻蛉型のモンスター。片手剣ほどもある敵の体躯が灰へ変わっていく最中、アイズは振り向きざま剣を一閃二閃させる。

飛翔してきたガン・リベルラ達は同時に切り裂かれ、灰化、針に糸を通すような正確さでことごとく魔石を破壊された。

アイズはそのまま前進していく。

舞い散る灰の霧をくぐり抜け、残る最後のモンスターへと肉薄する。

 

『ァアアアアアアアアアアアッ!』

 

待ち構える大型級モンスター、『バグベアー』は雄叫びを上げ、その毛むくじゃらな巨腕をアイズ目がけ振り下ろす。

眼前に迫る大爪をアイズはあえて避けず、剣で迎撃した。敵の攻撃を置き去りにする速度でレイピアを閃かし、銀の斜線を走らせると、バグベアーの腕は切り飛ばされていた。

片腕を失って硬直する熊にも似たモンスターに、アイズはすかさず剣閃を見舞う。

 

『───────』

 

胸部中央に深々と突き刺さり、背を抜ける長剣のレイピア。

断末魔も発せぬままバグベアーは色素を失っていき、やがて大量の灰となって崩れ落ちた。

アイズは無言でヒュンと剣を鳴らし、切っ先を地面へと向ける。そして顔を自分の少し先、三日月が戦っている方へと向けると─────。

 

「ふっ!」

 

ソードメイスが勢いよく振り下ろされる。"ゴシャッ!"という鈍い音と共にアイズが先ほど倒した同じバグベアーの頭が、血飛沫を撒き散らして肉塊となって潰れた。その巨体が倒れる前に三日月は体の向きを変えて、三日月の周りに飛び回っていたガン・リベルラを次々と腕の銃砲で撃ち落としていく。

 

「ん?」

 

『ゴアアアアアアアアアァァ!!』

 

咆哮が聞こえた方へ頭を向ける三日月の目の前で、バグベアーがその腕を振り下ろす。

振り下ろされたその巨腕を三日月は"片腕で掴み取った"。

 

『グオッ!?』

 

腕を掴まれたバグベアーは困惑と焦りを感じさせるように、腕に力を加える。だが、動かない。

 

「コイツで終わり」

 

三日月はそう呟いて指先を揃えると、貫手でバグベアーの巨体を貫いた。

魔石ごと貫かれたバグベアーの巨体が灰に変わっていく。中階層とはいえ、あれだけの数を息も荒くせず全て一人で倒しきった。

 

(・・・もっと・・・強くならなくちゃ)

 

アイズは胸の中でそう呟く。

三日月に追いつくにはもっと強くならないといけない。

そう考え込んでいると三日月が此方へと向かってくる。

周囲にはいくつもの灰の塊だけが残った。

場所は20階層。

樹木の内部を思わせる木肌は広大な迷路の形状を作り、天井や壁に広がっている緑の苔が不規則に発光している。秘境の森に迷い込んだような錯覚をもたらす大樹状の迷宮に、アイズと三日月はいた。

最初はハッシュもついて来ようとしていたのでだが、ガレスに捕まり、トレーニングに付き合わされている。

遠征の祝宴から数えてはや四日目。ティオナ達にも元気づけてもらったアイズは、それまで何もせずに過ごしてしまった時間を取り戻すようにモンスターとの戦闘に明け暮れている。

趣味は迷宮探索、と言えるほど、アイズはプライベートな時間を利用してよくダンジョンへと赴く。

こうして中層域にもぐるのも慣れたものだった。

今はもう探索自体は切り上げており、帰路の途中だ。

 

「ん、終わったよ」

 

三日月が私にそう言って顔を見てくる。

 

「じゃあ、拾おっか」

 

「分かった」

 

三日月は私の言葉に短く答えて地面に落ちている魔石を拾い集める。

私も手にしたレイピアの輝く刃を鞘に収め、ひとまず発生したドロップアイテムを回収し始めた。

一日かけてダンジョンに潜り続けているせいか、腰に取り付けているポーチは既に魔石で溢れかけていた。筒型のバックパックもあまり余裕がない。もう大分前からモンスターを倒す際には、魔石を直接狙う戦法に転換している程だ。

回収しきれない魔石とドロップアイテムを無闇に道端へ放置していくのはあまり誉められた行為ではない。

他の冒険者に労せず甘い蜜をすすらせてしまうのはもとより、時には彼等に───美味しい話には裏があるとばかりに───警戒させてしまうこともありうる。

アイズは地面にあらかじめ置いておいたバックパックの中に、何とか『バグベアーの爪』を詰め込んだ。

このような時ほどサポーターのありがたみが身に沁みる。慣れっこといえば慣れっこだが、バックパックを左肩一方に背負いながらアイズは思った。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

話題が何も出てこない。

20階層は自分の足音と三日月の足音くらいしか聞こえないほど静かだった。

中層にもなると、モンスターはともかく、上層で度々見かける同業者も少ない。時々モンスターの遠吠えが響くだけで、剣戟の音が聞こえてくることはなかった。

ぼうっと灯る苔の燐光に横顔を照らされながら、アイズと三日月は通路を進み続ける。

と────、三日月が足を止めた。

 

「・・・?三日月?」

 

私は急に立ち止まった三日月に疑問を浮かべながら、顔を見る。その青色の瞳は私の顔を写しながらも、さらに前を見ていた。

 

「・・・・来る」

 

「えっ?」

 

三日月の言葉に私は前へと顔を向ける。

アイズと三日月の視線の先、冒険者の一団が横穴から出てきた。

巨大なカーゴを引きずっている彼等は充実した防具に隙のない身のこなしを纏っており、相当な実力者達であることが窺えた。

 

(【ガネーシャ・ファミリア】・・・)

 

武装に刻まれている象の顔のエンブレムを見て、アイズと三日月は冒険者達の正体を観察する。

伴って、あの黒鉄のカーゴの中身も悟った。

彼等は明日に迫った怪物祭のため、モンスターの捕獲に来ているのだ。

年に一度のファミリア祭は闘技場で開かれる。迷宮から連れてきた凶暴なモンスターを【ガネーシャ・ファミリア】のテイマーが相手取り、倒すのではなく、手懐けるまでの一連の流れ───テイムを観客たちに披露するのだ。

ギルドが企画するこの催しを疑問視する者は少なくない。都市の平和を謳っておきながら、危険因子であるモンスターを自分達から地上に放つとは本末転倒ではないかという者もいれば、市民に媚を売るための見え透いた政策だと鼻で笑う者もいる。

アイズは、怪物祭に関しては何とも言えない。

モンスターをダンジョンの外に運び出すのは確かに危険だと思うものの、催し自体の狙いは市民と冒険者のための緩衝材だろう。

何かと問題を起こし、荒くれた無法者と思われがちな冒険者のイメージを、盛大な祭り───血を流さないクリーンな調教を通して都市民から払拭する。迷宮から効率的に利益を回収するためにも、ギルドは冒険者達を庇わなければならない立場にいるのだ。

【ガネーシャ・ファミリア】も主神の意向なのか、純粋に群衆を喜ばせたいがためにギルドへ協力している節がある。この催しを見るために、都市外から足を運ぶ者までいるのもまた事実だった。

各々の思惑はあるだろうが、一概に悪いと断ずるのは、それはそれで難しいと、冒険者の一人であるアイズは思っている。

 

「どうする?」

 

三日月が私にそう聞いてくる。

その問いに私はすぐに返答した。

 

「・・・別ルートで行こう」

 

「分かった」

 

がたがたと揺れるカーゴを眺めた後、アイズと三日月は進路を変える。

【ガネーシャ・ファミリア】の邪魔にならないよう、別ルートで上階へ向かった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

地上へ帰還し、ホームへ帰り着く頃には、すっかり夜になっていた。

 

「ごめんね・・・付き合ってもらって」

 

「いいよ別に。俺はこの後、ハッシュとトレーニングするけど、アイズはどうすんの?」

 

「えっと・・・一回部屋に戻る・・・かな」

 

私は三日月にそう言って廊下を進んでいく。

そして廊下の先から誰かが歩いてくる音が聞こえる。

そして前に現れたのは──────。

 

「お疲れ様です。三日月さん!」

 

ハッシュだった。

 

「ん」

 

三日月も短くハッシュに返答する。

 

「三日月さん、水持って来てからトレーニングに向かうんで、先行っといてください」

 

「分かった。じゃあ先に行ってる」

 

ハッシュは三日月にそう言って走って食堂へと向かっていった。

三日月とハッシュのやり取りに私はポツリと呟く。

 

「仲・・・結構良いんだ」

 

「まあ、うん」

 

三日月は曖昧にそう返答して歩き始める。

私も、その後ろをついていくように後を追いかけた。

三日月の身長は私よりも小さい。けれど、その背中はとても大きく感じられた。

ハッシュも私と同じように三日月の背中を追いかけ続けているのだろう。その気持ちは何となくだけど分かる。

でも。──────

三日月。貴方は一体何を目標にしているの?

私は三日月の強さ。その理由が知りたかったけれど、私は聞けなかった。

 




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