ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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投稿ですが・・・今回も三日月の出番は無し!!(まじかよ・・・)

ですが、ダンまち原作キャラ勢のベルと三日月考察となります!
では、どうぞ!


第十九話

三日月と一緒にダンジョンに行った翌日。

あの後、リヴェリアとロキにダンジョンに行っていたことがバレて今日、ロキとフィリア祭に行く事になった。

 

「え~っ、アイズ、ロキとフィリア祭行くの~?」

 

部屋を訪ねにきたティオナは、怪物祭への誘いを断るや否やそう言った。

 

「ごめん、ティオナ・・・・・」

 

「う~ん、でもしょうがないか。さっさと声かけておかなかった、あたしのせいだし。あーぁ、ロキに先、越されちゃったなー」

 

窓の外は祭り日和とばかりに晴れ渡っていた。

鳥の囀ずりが穏やかに響き渡り、清々しい一日の始まりを告げている。

扉の前で悔しがるティオナは、すぐに一転して笑いかけてきた。

 

「じゃあ、あたしは三日月誘ってティオネ達とすぐに東のメインストリートに行くけどさ、あっちで合流できたら、一緒に祭り見ようね!」

 

「うん」

 

ティオナの言葉に私は軽く笑い返す。その後、ティオナと大食堂へ向かった。

依然酔いが抜けきらないのか、前日と同じようにロキは朝食の席に姿を見せず、三日月とティオナ達が一足早くホームを発つ。

部屋に一度戻ったアイズは着替えを済ませた。

 

「・・・・・」

 

丈の短い上衣にミニスカート。ティオナからもらった服だ。

鏡の前に立つ自分の格好はやはり気恥ずかしさが先に立ったが、せっかくもらったプレゼントだ。このような日に着ない手はないだろう。・・・三日月に見られなかったのが唯一の救いだ。

念のため剣帯を服の上から巻き、護身用にレイピアを差す。一気に物々しさが増してしまったが、仕方ない。デートなどとは言うが、一緒に行動する以上、ロキの護衛も兼ねるべきだ。

ブーツを履き、アイズはエントランスホールへと足を運び、ロキが来るのを待った。

 

「おはようー、アイズ。ごめんなー、遅くなって」

 

「大丈夫です」

 

ふらふらと現れたロキに、アイズは座っていた椅子から立ち上がる。

どこか気だるげそうではあるが、昨日より顔色は良くなっているように見えた。

 

「ん?おお、その服・・・イイな!?めっちゃ可愛い!まさにアイズたんのこんな格好を拝めるとは!」

 

「・・・ありがとう、ございます」

 

「まさかうちのためにオメカシしてくれたん!?うっひょー、萌え萌えやー!似合ってるでー!抱き着きー!」

 

条件反射で反応してしまったアイズは、飛び付いてきたロキに高速で張り手を見舞い、横手の壁へ叩きつけた。顔面が壁面にめり込み、すぐにドサッと落下する。

顔を両手で覆いごろごろとのたうち回っていたロキだったが、やがて何事もなかったように立ち上がった。

 

「うん、アイズたんのスカートの中身確認できたし、よしとしよう」

 

「・・・見たんですか?」

 

「えっ、あ、見てへん見てへん。転がったついでに確認したなんて言えへん」

 

「・・・・・」

 

ロキの隠せていない言葉を聞いたアイズは再び手を上げて────

 

"スパァン!"

 

強烈な張り手をロキへと送った。

一悶着が起きた後、しばらくして。

ぼろぼろのロキに引き連れられ、アイズは怪物祭へと出発した。

 

「アイズ、すまん。ちょっと行くところあるんやけど、寄ってもええ?」

 

「はい・・・朝ごはん、ですか?」

 

「ん~、それもあるんやけどな」

 

北のメインストリートを南下し、バベルが建つ中央広場に出た後、東のメインストリートへ進む。

東のメインストリートは既に多くの人で込み合っていた。この日のために立ち並んだ多くの出店は活況を呈しており、雑踏の流れを至るところで止めている。

ヒューマン、エルフ、ドワーフ、獣人、小人族、アマゾネス。老若男女関係なく他種族の人間が入り交じる光景は圧巻であると同時に壮観だ。

完全に浮き足立つ群衆は大通りを埋めつくし、都市東端にある円形闘技場にまでその列を伸ばしていた。

 

「ここや、ここ」

 

祭りの開催を前にして否応にも興奮が高まっている中、ロキとアイズは人の群れを縫って、大通り沿いに建つある喫茶店の前に出る。

ドアをくぐり鐘の音を鳴らすと、すぐに店員が対応してきた。ロキが一言二言交わすと二階に通される。

アイズがその場に足を踏み入れた瞬間に感じたのは、時間が止まったような静けさだった。

客の誰もが心をどこかに置き忘れ、口を半ば開きっぱなしにし、全ての視線を一ヶ所に集めている。

彼等が見入っているのは、窓辺の席で静かにその身を置いている、紺色のローブを纏った一人の神物だった。

 

「よぉー、待たせたか?」

 

「いえ、少し前に来たばかり」

 

彼女のもとへ真っ直ぐ足を運んだロキは、気さくに声をかける。

相手もまた深く被るフードの下で微笑を浮かべた。

 

「なぁ、うちまだ朝飯食ってないんや。ここで頼んでもええ?」

 

「お好きなように」

 

どうやらロキは彼女に会うため、あらかじめ連絡をしていたらしい。

椅子を引いて正面に座るロキと会話を続ける女神には昔馴染みと呼べるほどの雰囲気がある。

天界での古い付き合いを感じさせるやり取りだった。

邪魔にならないよう護衛の位置に控えるアイズは、フードの奥から覗くその銀の髪を見て、初めて会った女神の正体を察する。

 

「ところで、いつになったらその子を紹介してくれるのかしら?」

 

「なんや、紹介がいるんか」

 

「一応、彼女と私は初対面よ」

 

女神の瞳もアイズの顔に向けられる。髪の色と同じ銀の双眼に、アイズは一瞬引き込まれるかのような錯覚を感じた。

【ロキ・ファミリア】と同等の戦力を保有し、一部の者からは都市最強派閥とも囁かれている【ファミリア】の主神。

同時にその美しさと蠱惑さから『魔女』の異名を持つ、美の化身。

女神、フレイヤ。

 

「んじゃ、うちのアイズや。これで十分やろ?アイズ、こんなやつでも神やから、挨拶だけはしときぃ」

 

「・・・初めまして」

 

アイズは生まれてこの方、リヴェリアより美しい女性を目にしたことはなかったが、眼前の女神の美しさは完璧に王族である彼女のそれを越えていた。

絶世独立の美貌。いっそ寒気すら覚えるその艶麗さは下界の者を、同格の神々さえも惑わせる力を持っている。

ローブで身を隠しているにもかかわらず、周囲の客の時を奪い魅了しているのがいい証拠だ。

衰えぬ容色を持つ神々の中でも殊更抜きん出た美しさやを誇る、『美の神』にふさわしかった。

 

「可愛いわね。それに・・・ええ、ロキがこの子に惚れ込む理由、よくわかった」

 

ロキに許可をもらい隣に腰を下ろすアイズに、フレイヤは笑みを浮かべ見つめてくる。

噂はかねがね聞いていたが、こうして相対すると、彼女の美にまつわる話が決して誇張ではない事を思い知らされる。その顔立ちもローブの上からでもわかる抜群のプロポーションも、同性である自分でさえ誘惑しかねない、魔性と言うべき色香がある。

アイズの金の瞳とフレイヤの銀の瞳が視線を交わし合う。

"ゾクッ"

久しぶりに感じた畏怖を胸に抱きながら、アイズは乏しい表情のまま頭を下げた。

くすり、と笑みを漏らす気配が伝わってくる。

 

「どうしてここに【剣姫】を連れてきたのか聞いても?」

 

「ぬふふっ・・・!そらお前、せっかくのフィリア祭や、この後しっかりきっちりアイズたんとラブラブデートを堪能するんじゃあ!」

 

アイズとフレイヤの邂逅を他所に、ロキは相変わらずの調子だった。

おもむろに、手を伸ばす。

 

「・・・ま、それに、『遠征』も終わってやっと帰ってきたと思って放っておくと、まーたすぐダンジョンにもぐろうとするからなぁ、このお姫様は」

 

「・・・・・」

「誰かが気を抜いてやらんと一生休みもせん」

 

何も言い返せない。

不意打ち気味に告げられた、自分を気遣うその言葉にアイズは視線を下げる。ぽんぽんと、頭を優しく叩いてくるその手を素直に受け入れた。

フードの中で、フレイヤもまた可笑しそうに微笑む。

そして、それから間もなく、二柱の女神達はここに集まった本題とばかりに雰囲気を豹変させた。

この場に自分を呼び出した理由をフレイヤが尋ねると、ロキは口を吊り上げ、単刀直入に用件を切り出す。

どうやらロキは近頃妙な動きを見せるフレイヤを警戒していたらしく、先日顔を見せた『神の宴』にも尋問を及ばせた。あれほど興味がないと言っていた筈なのに、何故今頃になって参加したのかと。

【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】。

迷宮都市の双頭と比喩されるほど実力が拮抗している両派閥の間には、勢力争いが絶えない。

隙あらば蹴落とす関係にある二つの【ファミリア】は、伯仲たりうる存在であるからこそお互いを無視できず、一方が動けばもう一方も動かざるをえなくなる。ロキはフレイヤの思惑を知る一方で、面倒を起こすなと、そう釘を刺すのが目的だったらしい。

いつの間にか周囲の客は姿を消していた。睨み付け微笑み返す女神達からは放たれる物騒な神威に気圧され、みな出ていったようだ。ただ一人彼女達の側に座るアイズは、表情を崩さず静かに二つの横顔を見守る。

窓の外で、何も知らない人々の喧騒が響いていた。

 

「・・・男か」

 

何かを悟ったように、ロキが一言を発する。

変わらず微笑だけを返してくる美の女神に、緊張を解いたロキは思い切り溜め息を出した。

 

「はぁ・・・つまりどこぞの【ファミリア】の子供を気に入ったちゅう、そういうわけか」

 

なんや、アホくさと、と一人で見当をつけてしまったロキに、アイズは一瞬置いてけぼりを食らう。

少ない情報で考えをまとめると、どうやらフレイヤは、他派閥のとある団員を見初めてしまったらしい。『神の宴』に出たことも含め盛んに行動していたのは、その下界の者の情報を集めるためだった、ということだろうか。

今までのやり取りで何とか推測したアイズがちらと窺うと、フレイヤは正解とも不正解とも言わず、フードの奥でただただ面白そうに笑っていた。

 

「ったく、この色ボケ女神が。年がら年中盛りおって、誰だろうがお構いなしか」

 

「あら、心外ね。分別くらいあるわ」

 

「抜かせ、アホどももタブらかしとるくせに」

 

「彼等と繋がっておけば色々便利だもの。何かと融通が利くわ」

 

そこで二人の会話が一旦途切れ、しばらく間が空いた後。

ロキが笑みを作った。

 

「で?」

 

「・・・・・?」

 

「どんなヤツや、今度自分の目に止まった子供ってのは?いつ見つけた?」

 

「・・・・・」

 

「そっちのせいでうちは余計な気を使わされたんや、聞く権利くらいあるやろ」

 

ロキのややもすると強引な言い分に、フレイヤは窓に顔を向ける。

ローブの中で、美しい銀の髪の一房が首からこぼれる。

 

「・・・一人は、強くはないわ。貴方や私の【ファミリア】の子と比べても、今はまだとても頼りない。少しのことで傷付いてしまい、簡単に泣いてしまう・・・そんな子」

 

「でも、綺麗だった。透き通っていた。あの子は私が今まで見たことのない色をしていたわ」

 

「だから目を奪われたの。見惚れてしまった」

 

幼い子供を慈しむようなその声音は、次第に熱を孕んでいっているように私は感じた。

言葉を立て続けに口にした彼女は、窓の外の光景を見下ろしながらまた呟く。

 

「見つけたのは本当に偶然。たまたま視界に入っただけ・・・・」

 

フレイヤはそう言って顔の位置を戻す。

 

「もう一人は・・・ただ、すれ違っただけ。誰よりも強く、決して意思を曲げない子」

 

フレイヤはフード越しに私の顔を見る。銀の瞳が私を見透かされるように見えた。

それと同時にすぐに理解出来た。彼女が言う"二人目"が三日月だということも。

 

「でも、あの子は絶対に止まらない。私の言葉でも決してね。だって、あの子の行く先には」

 

フレイヤの最後の言葉に、私は────。

 

「きっともう、何もないと私は思うわ」

 

自分では何もしてあげられない。

私はそう考えてしまった。




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