ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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投稿です!!

今回は書いてて楽しかった!

では、どうぞ!


第二十四話

三日月の様子がいつもと違う。

私は今の三日月を見てそう感じた。

なんと言えばいいのだろうか。今の三日月は怖い。

まるで・・・悪魔のような・・・。

黙り続ける自分に、三日月は私に言った。

 

「なに?」

 

声音はいつもと同じ筈なのに、プレッシャーが三日月から発せられている。

でも、傷ついて動けないハッシュを放って置くわけにはいかない。私は背中を向けている三日月に言った。

 

「ハッシュが・・・レフィーヤを庇って動けないの。傷が深くて早くしないとこのままじゃ・・・」

 

「ん」

 

言葉を言いきる前に三日月は私に一本の小さなボトルを渡してくる。

その見覚えのあるボトルを見て私は呟いた。

 

「エリクサー?」

 

万能薬。一本だけでもかなりの値段がするそれを三日月は私に渡して言った。

 

「それで、ハッシュが治るんでしょ」

 

三日月はそう言って目の前のモンスターを見る。

 

「俺が時間稼ぐから、ハッシュを治してやって」

 

三日月は巨大すぎるメイスを構え直し、前の食人花を見る。

食人花モンスターは三日月を見て何処か怯えているように見えた。

 

「私もやる」

 

「え?ちょっと!?」

 

私もそう言ってティオネに万能薬を渡す。武器が無くても時間稼ぎくらい出来る。

私は三日月の横に立つ。あのモンスターは魔法に反応して狙ってくるのが分かっている。なら私にもやることはあるはずだ。

 

「あれ、アイズ。武器はないの?」

 

先の戦闘で壊れてしまったレイピアの柄を見て、三日月が私にそう言ってくる。

 

「さっき、無茶させて壊しただけだから」

 

私は三日月に一言言ってモンスターを見る。

さっきまで怯えたような様子のモンスターは私と三日月を前にすると再び触手を鞭のようにふるい始める。

そんなモンスターに私は飛び込もうとした時。

 

「ん」

 

三日月から何かを渡される。

バルバトスの巨大化したその手に握られていたのは、片刃の反った刀身を持つ剣だった。

確か、刀という武器だったか。【タケミカヅチファミリア】の人達が使っている武器に非常似ていた。

 

「使っていいの?」

 

私が三日月にそう言うと、三日月は私に言う。

 

「別にいいよ。俺にはもう必要ないしね」

 

三日月はそう言って私に腕を伸ばす。

黒光りする肉厚の刀身は三日月用に作られたのか、かなり頑丈そうだった。

私はその太刀を握る。ずっしりとくるその重量に私は違和感を覚えながらも、私は風を太刀に纏わせ、モンスターに向かって飛び込んだ。それに遅れて三日月も動き始める。

レフィーヤとハッシュから遠ざけるように前進し、連続で触手による攻撃を回避する。

空を切った敵の口が地面に突き刺さり石畳を噛み砕く。さらに伸びてくる夥しい触手の鞭は、太刀で切り払いつつ、紙一重のところで避けていく。

三日月の方にも攻撃が飛んでいくが、それに対して三日月は力任せに巨大メイスで押し潰していっている。

うねる蛇状の体が通りを暴れまわり、並んでいた屋台をまとめて吹き飛ばしていく。

殺到するモンスターの攻撃に、私は一度距離を取ろうとしたその時だった。

 

「────」

 

アイズの視界に人影が映り込んだのは。

一般人。逃げ遅れたのか。

屋台の影に隠れるようにして獣人の子供が座り込んでいる。恐怖に震える彼女の目と視線がぶつかった。

かねてからの退避方向である右手に逃げれば、あの長大は体躯に屋台ごと巻き込まれること間違いない。

判断は一瞬だった。

風の気流を全開で纏う。

既に潰されている左手の退路に、アイズは突っ込み。

そして、捕まった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

悶え苦しみながら倒れ伏した格好になっていたハッシュに、外から手が伸ばされる。

 

「かはっ、げほっっ、あ・・・?」

 

血の欠片を交ぜながら咳き込むハッシュは、ギルド職員を見る。

 

「アンタは?」

 

身動ぎすれば痛みが走る自分の身体に、その柳眉を寄り合わせながら、ハッシュは何とか視線を周囲に巡らせた。

通りは荒れていた。石畳の通路はことごとく巻き上げられ、両端の商店は全壊か半壊の差があるだけで全てひしゃげている。周りに並んでいた屋台はもう原型をとどめておらず跡形もなかった。

視線を奥に向けるとそこには────。

 

「三日月さん・・・!」

 

自分の憧れる人がそこにいた。

バルバトスも本来の姿となっているのを見て、ハッシュは安心する。

そしてさらに周りを見渡すと、自分の横に一人、凍りついたようにその戦場を見る少女が一人。

レフィーヤと言ったか。そんなエルフの少女が凍りついたように三日月達が戦っている戦場を見つめている。

そんな彼女を見てハッシュは胸の奥が怒りで熱くなる。

そしてハッシュはそんなレフィーヤに言った。

 

「アンタはそこでなにやってんだよ・・・!」

 

ハッシュの言葉にビクリと肩を震わせて、レフィーヤは顔をこちらへ向ける。

 

「え・・・?」

 

その顔は後悔と、自分が無力な事を物語っているように見えた。

そんなレフィーヤの顔を見て、ハッシュは過去の自分を思い重ねる。阿頼耶識の手術の失敗で動けなくなったビルスが死んだとき、何も出来なかった自分に。

 

「アンタはまだ、戦えるだろ!そこでなにやってんだって言ってんだよ!」

 

一人そこで座り込んでいたレフィーヤにハッシュは叱咤を入れる。

 

「でも・・・私・・・」

 

自分より強い癖に、いざとなったら何も出来ないのか。

ハッシュはレフィーヤにそんな感情を抱きながら、さらに言う。

 

「アンタにだって追い付きたい奴がいるんだろ!!俺にだっている!今の俺は弱いからまだ追いつけねぇけど、だからその人に追いつく為に俺は"此処で止まる訳にはいかねぇんだよ"!三日月と約束してんだ。絶対に追いつくって!俺より強いアンタが、こんなとこで止まってたら絶対に追いつきたい奴に追いつかねぇぞ!」

 

ハッシュの言葉にレフィーヤはうつむいて、目を瞑る。

そして左手を握り締め、勢いよくその両目を見開いた。

立ち上がる。

 

「・・・・っ!?」

 

「───私はっ、私はレフィーヤ・ウィリディス!ウィーシェの森のエルフ!」

 

瞠目するハーフエルフの彼女に見上げられながら、弱音を全て追い払うように声を上げた。

 

「神ロキと契りを交わした、このオラリオで最も強く、誇り高い、偉大な眷属の一員!ここで、止まるわけにはいかない!」

 

言葉が力に変わる。魔法と同様、自身を奮い立たせる。

ハッシュはそんな彼女を見て、自分もまた立ち上がった。

全身がズキズキと痛む。だが、傷は塞がっているし、まだ動ける。

ならまだ、戦える。

お互いに追いつきたい人がいる。今はまだ足手まといかも知れない。これまでもこれからも、自分達は彼等に守られていくのだろう。

彼女達を助けようと死力をつくしても、最後にはきっと遠ざけられる。

大丈夫だからと言われ、側にいることも許されない。

 

(どんなに強がっても、私はあの人達に相応しくない!)

 

(どんなに頑張っても追いつかないのは分かってる。けど・・・)

 

追いかけても、追いつかない。追い縋っても、差はなお開く。

劣等感に苛まれるほど、卑屈に陥ってしまうほど、あの憧憬は遠すぎる。

 

((でも(な)・・・!))

 

追いつきたい。

助けたい。頼りにされたい。力になりたい。

できることならば、一緒にいたい。

自分を受け入れてくれた彼等の、自分を何度も救い出してくれた彼女達の隣にいることを、許される存在になりたい。

 

「俺が絶対、アンタより先に三日月さんに追いついてやる!」

 

「何言ってるんです?私が貴方より先にアイズさんに追いついてみせます!」

 

お互い二人は顔を合わせて言う。

 

「だったら・・・」

 

「なら・・・」

 

そして─────────

 

「「どっちが先にあの人に追いつくか、競争だ(です)!」」

 

そして二人は駆けていった。

憧れの人に追いつくために。




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