ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第二十五話

距離は埋めた。

十分に近付き自身の射程圏内に目標を捉える。

 

「俺が三日月さんの代わりにアイツを引き付ける。アンタはどうすんだ?」

 

ハッシュの問いにレフィーヤは答える。

 

「私は魔法であのモンスターを倒します!今から詠唱を行いますから、ちゃんと引き付けてください!」

 

「言われなくても!」

 

レフィーヤの言葉にハッシュはそう言って、剣を片手にモンスターの元へと駆け抜ける。

アイズに群がるモンスター達を見据え、レフィーヤは詠唱を開始した。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う】!」

追い縋るしかないのだ、結局。

あの憧憬に追い付くためには。

 

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来たれ】」

 

血反吐をいくら吐こうとも、何度も地に足をつこうとも、溢れる涙でその頬が枯れることはなかったとしても。

追い縋る者には、追いかけることしか許されない。

 

「【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ】」

 

意志は折れる。何度でも折れる。折れない誓いなどありはしない。

その折れた意思を何度でも直す者が、諦めの悪い者がいるだけだ。

いくら無様に転ぼうとも、何度でも立ち上がる、不屈を叫ぶ者がいるだけだ。

 

「至れ、妖精の輪】」

 

レフィーヤは歌う。

守られるだけの自分を脱却するため、憧憬に追い付くため、詠唱を奏でる。

 

「【どうか───力を貸し与えてほしい】」

 

歌を届けよう。

歩みの遅い自分が、遥か先にいる彼女にも聞こえる歌を。自分を奮い立たせた彼にも。

例え振り返ってもらえずとも、彼女の耳に届け、彼女を癒し、彼女を守り、彼女を脅かす敵を打ち払ってみせよう。

森を踊る妖精のように。愛する者を救ってきた精霊のように。

自分だけに許された歌を、どこまでも。

この魔法を届けよう。

 

「【エルフ・リング】」

 

魔法名が紡がれる。それとともに、山吹色の魔法円が、翡翠色に変化した。

 

「レフィーヤ!?」

 

「っ!?」

 

収斂された魔力にティオナが気付く。伴って、アイズの風に牙を突き立てていたモンスター達も、より強い魔力の源へ振り返った。

アイズの瞳もまた驚愕に見開かれる。

 

「三日月さん!」

 

「ハッシュ?」

 

それと同時、ハッシュも三日月のもとへ到着する。

そして三日月に言った。

 

「三日月さん、ここは俺に任せて下さい!」

 

「・・・・・」

 

ハッシュの言葉に三日月は無言でハッシュを見つめる。

三日月の青い瞳はまるで自身を見定めているように見えたが、ハッシュは引かない。引くつもりもない。例え駄目だとしても、食いついていく。そのつもりでこの場所に来たのだ。

その覚悟が三日月に伝わったのか、もしくは偶然か。

三日月はハッシュに言った。

 

「分かった、こっちは頼んだよ。ハッシュ」

 

 

「・・・・!!はい!」

 

三日月が後ろへと下がる。後は自分で何とかしなければならない。だけど・・・・。

 

「アイツにも負ける訳にはいかねぇんだ!だから、退くわけにはいかねぇ!」

 

ハッシュはそう言ってレフィーヤのもとへ行くモンスターを手当たり次第攻撃していく。

そしてその遥か後ろでは、

 

 

「【───終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け】」

 

レフィーヤの詠唱が続く。

完成した筈の魔法へ更に詠唱を上乗せ、別種の魔法を構築していく。

───魔法の習得可能数は上限が存在する。

【ステイタス】に確保される魔法スロットは最高三つ。つまり才能ある者でも三種類の魔法のみしか行使することはできない。

その中でレフィーヤが最後に習得した魔法は───召喚魔法。

同胞の魔法に限り、詠唱及び効果を完全把握したものを己の必殺として行使する、前代未聞の反則技。

二つ分の詠唱時間と精神力を犠牲にし、彼女はあらゆるエルフの魔法を発動させることができる。

その魔法にちなみ、オラリオの神々が彼女に授けた二つ名は、【千の妖精】。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

召喚するのはエルフの王女、リヴェリア・リヨス・アールヴの攻撃魔法。

極寒の吹雪を呼び起こし、敵の動きを、時さえも凍てつかせる無慈悲な雪波。

詠唱が紡がれる中、レフィーヤの玉音に加えもう一つ、美しい玲瓏な声音が重なり合う。

翡翠色の魔法円がまばゆい輝きを放ち出した。

 

『──────────────ッ!!』

 

食人花のモンスター達、三匹が急迫する。

破鐘の鳴き声を上げ、未だ高まる魔力の高まりへと殺到した。

 

「はいはいっと!」

 

「大人しくしてろッ!!」

 

「ッッ!」

 

『!?』

 

だが、神速とばかりに一瞬で追いついたティオナ、ティオネ、アイズがモンスター達の前に立ちふさがり、殴り蹴り弾いてその突撃を阻む。

彼女達の背中に守られるレフィーヤは、次いで腹を庇い前屈するように身を丸めた。

地面から槍ぶすまのごとくモンスターの触手が突き出すが、その攻撃に、

 

「やらせるかよッ!」

 

「ふッ!」

 

ハッシュと三日月が押さえつけた。

その光景に目を丸くしながらもレフィーヤは、紺碧の双眼を吊り上げ一気に詠唱を終わらせた。

 

「【吹雪け、三度の厳冬───我が名はアールヴ】!」

 

拡大する魔法円。

そして唇が、その魔法を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

三条の吹雪。

射線上からアイズ達が離脱する中、大気をも凍てつかせる純白の細氷がモンスター達に直撃する。体皮が、花弁が、絶叫までが凍結されていき、やがて余すことなく霜と氷に覆われた一輪の食人花は、完全に動きを停止させた。

佇立する一体の氷の像。モンスターが溶けることのない氷結の檻に封じ込められる一方で、街路全体もまた氷の世界へと、白と蒼の凍土へと変わり果てていた。

蒼穹に舞う氷の結晶が、日の光を反射し、きらめくように輝いていた。

 

「ナイス、レフィーヤ!」

 

「散々手を焼かせてくれたわね、この糞花っ」

 

歓呼するティオナと若干鶏冠に来ているティオネが、氷ついたモンスターの懐へ着地する。

深い蒼色の氷像へ、二人は滑らかに淀みなく、申し合わせたように同じ動きをなぞった。

 

「ッッ!」

 

「いっっくよおおおぉ───────ッ!」

 

一糸乱れない、渾身の回し蹴り。

褐色の素足が体躯の中央に炸裂すると同時に、夥しい亀裂が刻まれ、食人花の全身は文字通り粉砕された。

 

 

 

「アイズー」

 

「・・・ロキ?」

 

ティオナ達がモンスターを粉々にする横で、アイズは自分を呼ぶ声に視線を向ける。

半壊した商店の屋根に立つ二つの影。見覚えのあるすすり泣く獣人の少女と、彼女を腰に抱き着かせたロキだ。

アイズの主神は、ほいっと言って剣を放り投げた。

 

「これは・・・」

 

「ん、そっから、ちょちょっとな」

 

ロキが指差す方向は、モンスターに潰された屋台の一つ。

日差しを反射する刀剣類の光を覗かせるのは、武器の出店。

朝、見て回った際に見つけたものと同類の店だ。

 

「じゃ、頼むなー」

 

笑いかけてくるロキに、いつのまに少女と一緒に回収したのかという言葉は呑み込んで、アイズも小さく笑った。

 

「・・・・・」

 

その中で三日月は一人、バルバトスを解除して、ヴィダールが飛び去った方向をじっと見ていた。

アイズはそんな三日月が気になったのか、三日月に言った。

 

「・・・・三日月?」

 

「・・・・・」

 

私の声かけに反応しない三日月に、私は不思議に思って三日月の前に立ち、再び言った。

 

「三日月」

 

「ん?」

 

二回目になってようやく気づく三日月に私は言った。

 

「さっき、返事しても反応なかったけどどうかしたの?」

 

「さっきから、"右の耳がちゃんと聞こえないんだ"。ゴメン」

 

「えっ?」

 

三日月の言葉に私は一瞬、頭が真っ白になった。

 




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