ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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投稿!!今日からまた週一になります。
では、どうぞ!!


第一章エピローグ

あの後、色々なことがあった。

怪物祭の事件は【ガネーシャ・ファミリア】と冒険者の手によって犠牲者はゼロ、被害も最小限に押さえられた。だが、その中で私達が心配したのは三日月の件だった。

なぜなら、三日月の右耳が聞こえなくなるという障害を負ったからだ。あれから三日月に聞いてみても、殆ど話そうとしてくれない。話しても、俺のやったことだからと言って済ませるばかり。

バルバトスの姿が変わった時から三日月の様子が変になった。私は三日月の障害の原因がアレにあるのだと予想するが、決定的になる情報がなかった。

辛いときは私達を頼ってほしいのに、三日月はハッシュにだけ頼り、私達には頼ってくれない。

三日月・・・貴方は一体何を隠しているの?

私の疑問に誰も答える人は誰もいない。

だから、私は"私一人で何とかする"。

 

 

三日月は、私が何とかしてみせる。だからもう少し待ってて。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

抜けるような蒼穹が広がっていた。

澄みきった空はどこまでも続き、どこまでも高い。

うろこ状の白い雲が浮かぶ中、穏やかな日の光を浴びながら、今日もアイズはダンジョンに向かう。

いつもと変わらず賑わう街の大通り。

売り子の声、客の喧騒、石畳を蹴る多くの靴の音。

往来する馬車は車輪を回し、嘶きを周囲へと響かせていく。大通りは沢山の笑顔と活気に溢れていた。

アイズと三日月は人込みに紛れながら、様々な亜人とすれ違っていく。

歩みを進めるにつれ、武装した冒険者達の視線が自然と彼女のもとに集まっていった。ひそめられた話し声が耳に届いてくる。

曰く、最強の女性冒険者。

曰く、不死身の剣士。

曰く、できないことはない。

過剰な評価。

畏怖が畏怖を呼び、名声だけが独り歩きをしている。

そして時折、三日月のことも耳に入る。

悪魔。

彼の戦いぶりやバルバトスの見た目から、彼は悪魔と呼ばれている。彼は悪魔なんかじゃない。私はそう言い返したいけど、言えなかった。

好き勝手に述べられる内容に対し、アイズは頓着しないようにしていると、ふと、視界に過った光景があった。

目尻に涙を溜める、幼いヒューマンの少女。

雑踏から弾き出され、一人路傍にいる彼女に近寄ろうとする者は誰もいない。

歩みを止めたアイズはしばらく悩んだ末、少女ともとに足を運んだ。

 

「どうしたの・・・?」

 

「・・・うぇぇぇっ」

 

静かに声をかけると、途端、少女はじわっと目を潤ませ、堰を切ったように泣き出した。

これに驚いたアイズは何とか泣き止めさせようとするが、ろくな言葉もかけられない。

悲しげな嗚咽だけを浴びせられ、彼女自身困り果て、立ち尽くしてしまう。

ともすれば、滑稽だった。

独り歩きしている名声にせせら笑われる。

そこに凛然とした【剣姫】の面影は欠片もなく。蓋を開ければ、アイズ・ヴァレンシュタインは、このような些末なことにもうろたえる。

最強だろうがモンスターをいくら倒そうが、何もかもできるわけではない。

むしろ、できないことの方が有り余る。

 

「・・・少し、待ってて?」

 

響き渡っていく泣き声からややもすると逃げ出すように、アイズは一旦その場から離れる。

と、三日月は泣き続ける彼女にポケットからチョコレートを取り出して言う。

 

「食べる?」

 

三日月の声に彼女は顔を上げる。

そして彼女は言った。

 

「・・・食べる」

 

「・・・ん」

 

三日月はそう言ってチョコレートを少女に渡すと、少女はチョコレートを食べ始める。

そして泣き止む彼女に、三日月は顔を近づけて匂いを嗅いだ。

そして──────。

 

三日月は顔をあげると、彼女を連れて表通りに出る。

 

「あっ、三日月・・・」

 

私はそう言って三日月についていく。

 

「あれか」

 

三日月がそう言うと、少女が笑顔になって走り出す。

 

「お母さん!!」

 

人混みに紛れる少女に私は顔を上げると、あの少女の母親らしき人と少女が一緒にいる所が見られた。

そんな二人の様子を見て、三日月は言った。

 

「行くよ」

 

「えっ?うん・・・」

 

身を翻して歩き始める三日月に私は彼の後ろについていく。私が出来なかった事を三日月はすぐに解決してみせた。彼が見せた優しさを見て、彼は悪魔なんて呼ばれる人じゃないと私は再度思う。

 

「なに?」

 

見つめる私に気づいたのか、三日月はそう言って私を見る。

 

「・・・なんでもない」

 

私はそう言って目をそらす。

 

「ふーん」

 

立ち止まるアイズを置いて三日月は再び歩きだす。

何も知らない、すれ違った一つの足音が、彼女から遠ざかっていく。

 

澄んだ風に白い雲はなびく。

見上げたオラリオの空は、今日も青かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

遥か地中の底、その■■は眠っていた。

かの厄災は未だに目を覚まさない。




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あと、アークナイツ、『片翼の彼と嘘つき堕天使』も投稿していますので、お楽しみください!

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