ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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今日から二巻へ突入!!


第二章
第一話


暗い部屋だった。

光源は壁にかけられた小型の魔石灯一つのみしかなく、隅には影が溜まっている。石の香りもほのかに漂う陰湿な室内を唯一彩るのは、銀や鉄とともに加工された水晶の品々であり、壁や天井からぶら下がるそれら洒落た装飾品が、時折蒼くきらめいていた。

蝋燭の火のような微弱な灯りに照らされるのは、赤い絨毯、木編みの籠、小棚、そして粗末な作りのベッドだ。

やがて一室に二人の人影が入ったくる。

一人は全身型鎧を身に付け、もう一人は薄汚れたフード付きのローブを頭から被っていた。

言葉少なに会話する彼等はバックパックを始めとした荷物を部屋の隅に置くと、木製のベッドへと直行する。

顔面すべてを覆い隠す兜、つま先まで包む装靴、全身型鎧の下のインナーまで脱ぎ出す男性───引き締まった体をした冒険者は、あっという間に半裸になった。下半身の衣服を残してベッドに腰かける彼の側で、ローブを纏う人物は、外衣の上からでもはっきりわかる豊かな胸もとや細い腰をあらわにしていく。

 

「おいっ、早く脱いでくれ。ここまで来て生殺しなんて、勘弁してくれよ」

 

「待て。がっつくな」

 

興奮を隠せない男の声に、起伏のすくない響きを持つ高い声音が返る。細い指がローブを始めとした衣を脱ぎ去っていき、最後には古びた紐を解いて、長い髪を背へと流す。

艶かしい女だった。

男性ならば飛びつきたくなるほどの美しい曲線を描く身体。張りのある大きな双丘は欲情をそそる。

そんな中、ベッドへ腰かける男は、扇情的な体はもとより、フードを取り払った女の顔に息を呑む。

魔石灯の光が陰影を作っている美貌に、喉の鳴る音が響き渡った。

 

「何でこんな綺麗なのに、顔を隠しているんだ?」

 

「お前みたいな男に一々絡まれるのを防ぐためさ」

 

半ば陶然としている男は、その淡々とした返答にも笑みを漏らし、一糸纏わぬ女を引き寄せる。

 

「さっきの話だが、何の依頼を受けたんだ?」

 

ことに及ぶ直前、女が口を開く。

仰向けに寝る彼女へ唇を落とそうとしていた男は動きを止め、ああ、と間を空けて呟く。

 

「変な依頼だった。30階層に行って、わけのわからんものを回収してこいなんて・・・」

 

何かを思い出すように視線を上げる冒険者の男。

決して大柄ではない彼のたくましい体を、女は黙って見上げている。

 

「おっと、これは極秘だった。聞かなかったことにしてくれ」

 

「そうか・・・」

 

女はそう言って、男の視線を絡め、手を彼の頬に伸ばした。

触れるか触れないかのところで撫でるように指をなぞらせたかと思うと、すっ、とそのまま首へ這わす。

そして一気に、握り締めた。

 

「!?」

 

鍛えられた男の首に五本の指が食い込む。全裸で無手だったことから無警戒だった男は驚愕をあらわにし、表情を激変させその指に手をかけるも、女の細腕はびくともしない。

激しい抵抗をものともせず、メリメリと音を立てる凄まじい握力。男の瞳は血走り、開閉を繰り返す口唇が掠れた音を漏らしていく。

その様子を無感動に見つめる女は、次には───ぼきり、と。

あっけなく、男の首の骨を折った。

 

「・・・・・」

 

だらりと力を失いのしかかってくる冒険者の男を、女はぞんざいに横へ放り捨てた。鈍い音を立て、こと切れた男の体が床に転がった。

うっすらとした灯りに肌を舐められながら、彼女は静かに起き上がり、その長い脚でベッドから立ち上がる。足もとの死体には一瞥もくれず、部屋の隅へ向かう。

裸のまま男の荷物に歩み寄り、無遠慮に中身をこじ開けた。

しばらく物色を続けていると・・・女の手は唐突に止まった。

 

「・・・・・ない」

 

呟いた後、体の動きを停止していた女は、ちっ、と大きな舌打ちを放つ。

ぎりっと歯を噛み締め、男の亡骸を睨んだ。忌々しそうな目付きで苛立ちを隠せないでいると、癇癪を起こしたかのように立ち上がる。

女は乱暴に死体へと近付き、そして────。

 

グシャッ、と。

踏み潰された男の頭部が鮮血を撒き散らし、部屋を真っ赤に染め上げた。

 

それと同時期────ダンジョンにて青い人影がモンスターを手当たり次第虐殺していた。

 

「─────────」

 

意識のないソレは探し続ける。

自分を扱うにふさわしい相手を。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

カァン、カァン、と金属を打つ音が生じている。

周囲から頻りに鳴り響いてくる甲高い打撃音。舞い狂う音の後に眩い火花が飛び跳ね、辺り一帯に閃光を撒き散らす。

槌を振るい、大粒の汗を流す精悍な男達の声も折々聞こえてくるこの場所は、鍛治場と呼ぶに相応しかった。広い屋内の壁際、激しく燃え立つ計四つの大型の炉が真っ赤な炎を猛らせ、熱気を立ち込めさせる。

獣人やドワーフの職人が鎚を振りかぶる横で、見習いらしき小人族の少女が薪や道具を抱えてせっせっと忙しなく周囲を駆けずり回っていた。

 

『うおおおおおおおっ!!大切断、てめぇっ、くたばりやがれええええええええええ!?』

 

とある作業場の一角では、大の男達が五人がかりで特大の超硬金属を鍛えあげている最中だった。大型級のモンスターの頭さえかち割れそうな巨鎚を交互に振り下ろし、並みならぬ硬度の金属の形状を変え、不純物を取り除いていく。

不眠不休の怨嗟も込められた、友人の少女に対するそんな雄叫びを耳にしながら。

三日月に至っては自身の身体よりも大きい巨大なメイスを職人に見せて、「これより重いヤツある?」と言って職人を困らせている。

その職人ですら机を押し潰した三日月の巨大メイスを持ち上げられていないのだから、この場にはきっとないだろう。

そしてアイズは肩身狭そうに、とある神物の前でたたずんでいた。

 

「まさか、五日で使い潰すとはな・・・」

 

重く、そして呆れ返ったような鍛治神の言葉に、びくりとアイズの肩が震える。

ドワーフを連想させる小柄ながらたくましい体つきの初老の男神は、ちらっと彼女の顔を見やり、奥の三日月にも視線を向けて溜め息を吐き出した。

怪物祭からしばらくしての朝。

アイズと三日月は今、整備を頼んでいた愛剣〈デスペレート〉を受け取るため、【ゴブニュ・ファミリア】の本拠『三鎚の鍛治場』に訪れていた。工房でもある広い平屋の中心にいる彼女達の周りでは、鍛治師の団員が早朝にもかかわらず汗水垂らして働いており、鍛練の作業に没頭する者、炉の炎を調節する者、設けられた掲示板に貼り出されている武器の依頼書を確認する者など様々いる。

忙しなく動き回る彼等に囲まれるアイズは〈デスペレート〉を受けとると同時に、ゴブニュから整備の間借り受けていた代剣────レイピアを返却していた。

無残にも刀身が砕け散った、ガラクタの状態に変えて。

 

「お前らはほんとうに鍛治屋泣かせだな」

 

「・・・・ごめん、なさい」

 

台の上に乗っている"レイピアだったもの"を、ゴブニュと挟んで見下ろしながら、アイズはしゅんと項垂れる。

仲間の壊し屋のことも含まれた神の皮肉に、かき消えそうな声で謝った。

怪物祭にて脱走したモンスター達と交戦し、その中でもものの見事に破砕した代剣は、今は台の上で無数の破片となって転がっている。柄のみが原型を残したレイピアはもはや誰の目から見ても修復不可能だ。

アイズの剣技と『魔法』に耐えきれなかった武器の末路が今、目の前のこれである。

また【ロキ・ファミリア】かよ、というげんなりした視線を周囲の職人達から浴びながら、アイズはひたすら恐縮する思いだった。

そしてゴブニュは後ろにいる三日月に言う。

 

「坊主、それより重くてデカイ武器はワシの所にはないぞ」

 

男神の言葉に三日月は言った。

 

「そっか、分かった」

 

三日月はそう言って、自身の武器を魔力に戻して私の所へと向かってくる。

羨ましいなぁと私は思いながらも私は目の前の男神に代金について恐る恐る話してみる。

 

「・・・あの、お代は?」

 

「四〇〇〇万ヴァリス、といったところか」

 

───ガンッ!と音を立て『四〇〇〇万』という言葉がアイズの頭上に降って直撃する。

その重みに頭の天辺をさすりながら・・・しばらくダンジョンにもぐって返済しなきゃ、と。

腕を組んでやれやれとこぼすゴブニュの顔を見ながら、申し訳なく、そして落ち込みながら私は思った。

少年への謝罪は、まだまだ先になりそうだ。

と、後ろから三日月がデーツを食べながら私に言った。

 

「そんなに落ち込むなら、始めから壊さなかったらよかったんじゃないの?」

 

ごもっともである。




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