朝食を食べた後、私達は訓練所へと向かった。
訓練所には三日月とハッシュが二人でトレーニングをしていた。
そんな二人に私は声をかける。
「三日月」
私の声に反応して三日月が振り返る。そして私を視認すると、三日月は言った。
「ん?なに?」
「模擬戦終わったら一緒にダンジョンに行かない?ティオナ達と一緒に」
三日月は少し考える素振りを見せた後、言った。
「・・・・・いいよ」
三日月の返答に私は少しだけ頬を緩める。
そんな私に三日月は言った。
「んじゃ、今からやる?」
「うん」
三日月の問いに私はそう答えて〈デスペレート〉を鞘から引き抜いた。シャランと音を立てて銀色の刀身が鈍く光る。
三日月もバルバトスを纏いながら巨大すぎるメイスを手にして構えた。
そんな私達に審判として連れてきたフィンが言った。
「じゃあ、今から模擬戦を始めるよ。三日月に関しては今回、アイズの要望で全力を出しても良いけど、大怪我をなるべくさせないようにしてね」
「わかった」
三日月はフィンの言葉にそう答えた。
「アイズも夢中になって周りが見えなくならないようにね」
「うん、気をつける」
私もそう答えて剣を構えた。
そして───
「では、始め!」
フィンの言葉と同時に私は駆け出す。
「【目覚めよ】」
駆け出しながら私は〈デスペレート〉に風を纏わせて弾丸と化する。始めから最高速度、今出せる最大の一撃。その一撃を私は三日月に対して放つ。その一撃に対して三日月もその巨大なメイスで迎撃した。
私の〈デスペレート〉と三日月の巨大なメイスが衝突する。
ガァァァン!!と火花と爆音と共に私達は吹き飛ばされた。
「ふっ!!」
吹き飛ばされたその衝撃を利用して私は地面に足をついて一回転、二回転した後、体勢を整え三日月へ突撃する。
立て直す速度もかなり早くできた私は、そのまま体勢をもとに戻そうとしている三日月に向かって剣を振り上げる。と、次の瞬間。
“ガコン”という音が三日月から聞こえてくる。私はすぐに攻撃の体勢を止めて防御の姿勢を取った瞬間。
三日月の両腕から魔力の弾丸が私に目掛けて撃ち出された。
「───っ!」
発射される魔力の弾丸を私は斬り伏せていく。一発、二発、三発
と弾いていくが、それでも数が多く、いくつかは弾き逃して腕や足にかすり傷を作った。
弾丸の嵐が収まった頃には三日月はもう体勢を戻し、こちらへ牽制の射撃をしながら私に向かってくる。
そして巨大なメイスを私目掛けて振り下ろした。
三日月のその攻撃に対して私はすぐさま回避行動を取る。
彼の攻撃を受けたら最後、私だと一撃で仕留められる。
三日月の巨大メイスが回避した私のすぐ横を通り過ぎ地面へと叩きつけられた。
地面へと叩きつけられた巨大メイスは地面に巨大なヒビ割れを作り、大量の土煙を上げる。その破壊力を見て私は顔を少しだけ引き攣らせた。あんな攻撃、当たったらしばらくどころか当分再起不能になる可能性が高い。
三日月の攻撃を見て、レフィーヤとティオナも顔を引き攣らせている。
「三日月、全力でやるって言ってたけどアイズ殺す気でやってない?アレは流石にやり過ぎなんじゃあ・・・」
「地面があんなにヒビ割れるって、直撃でもしたら私達でも致命傷ですよ・・・?」
ティオナとレフィーヤの言葉に賛同をせざるを得ない。
なるほど、これはフィン達からも手加減するように言われている訳だ。私の予想よりも遥かに超えていた。
「考えてる暇なんてあるの?」
三日月が私にそう言って、尻尾状のブレードを私目掛けて射出された。”キュルルル“と音を立てながら、まるで生き物のように私を追ってくる。
「【吹き荒れろ】!」
私はそう言って剣に纏わせていた風を一気に開放する。
暴風となった風でそのブレードは吹き飛ばされるが、すぐに三日月のもとへ戻っていく。
落ち着いている暇もなく三日月は私へ接近し、巨大メイスを私めがけて投擲した。
その攻撃を私は回避し、三日月目掛けて疾走する。
それに対して彼は背中のブレードを射出し迎撃しようとするが、私はそれを弾き、三日月目掛けて〈デスペレート〉を振り下ろした。
その攻撃に三日月は両腕をクロスさせて防御の姿勢を取る。が、“私の方が速い”。
私の刃が三日月に当たる瞬間。
“ガッ”と私の剣を持つ“腕が掴まれた”。
「えっ?」
掴まれた違和感に私は唖然するように呟く。このタイミングで防御姿勢を取っていた三日月が掴める筈がない。私は剣を振り下ろした腕、掴まれた場所を見るとその掴まれた手が何なのか分かった。
それは三日月の“巨大な腕から伸びた金属で出来た腕”。
それによって受け止められた私は成すすべもなく。
「捕まえた」
三日月に両腕を掴まれ、身動きが取れなくなった。
そして、身動きが取れなくなった私に対して三日月が言う。
「これでアイズは何も出来ないだろ?俺の勝ちでいい?」
「っ、まだ!」
三日月の言葉を否定する様に私は、〈デスペレート〉に纏わせていた風を開放する。が、“三日月は吹き飛ばかなかった“。
「───なんで?」
吹き飛ばなかった三日月に私はそう呟く。
「気になるなら足元見てみれば?」
私の呟きに三日月がそう答える。三日月の返答に私は言われた通り視線を足元に向けると、理由が分かった。
三日月の足裏、正確には踵部分。鉄柱が地面に突き刺さり、吹き飛ばされない様に固定されていた。
「さっき吹き飛ばされたんだ。警戒くらいはするよ」
つい先程、一度見せただけで対応する三日月に私はただ呆気に取られるしかなかった。そんな私に三日月は言葉を続ける。
「でも、さっきのはヤバかった。サブアームが間に合わなかったら多分負けてたと思う」
「・・・でも、結局届かなかった」
三日月の褒め言葉は素直に嬉しかったが、三日月には届かなかった。そのことが悔しくて私はそう呟く。
「なら、次はもっと強くなればいい。アイズならすぐに追いつくんじゃない?」
三日月はそう言って手を放す。
「俺の勝ちでいいよね?」
三日月はフィンにそう言うと、フィンもそれに答える。
「ああ、三日月の勝ちだよ。アイズもそれでいいね?」
「・・・・・うん」
私はフィンにそう言って〈デスペレート〉を鞘に納める。
「俺は一回風呂に入ってくるけど、皆はどうすんの?」
「んー、僕は少しやる事やってから行こうかな。僕もたまには気ままに、じっくりと探索しておきたいし」
派閥の首領として『遠征』では常に団員達を統率する身であるが故に、プライベートな迷宮探索も時には楽しみたいとふは笑う。
「じゃあフィンも決まりねー」とティオナがにこやかに言い、また自動的にティオネも参加が決定した。
「せっかくだし、リヴェリアもどうだい?最近は雑務に追われていただろう?」
と、いつの間にいたのか、フィンはリヴェリアにもそう言う。
「・・・そうだな、私も行かせてもらおう。私達が留守の間は、悪いがガレスに任せるか」
リヴェリアもフィンの言葉に乗り、これでアイズ達を入れて七人。レフィーヤを除いて五名もの隊員が第一級冒険者と、三日月という豪華なパーティが出来上がった。
「あ、このことベートには内緒ね!聞いたら絶対に付いてくるし、付いてきたらうるさいし」
朝のことをまだ根に持っているのか、ティオナは意地の悪い笑みで釘を刺す。
フィン達は苦笑を浮かべつつ、いっぺんに派閥の主力が出払うのも考えものなので、異議は挟まなかった。
「それじゃあ、各自準備を行って、正午にバベルに集合と行こうか」
『おー!』
片腕を突き上げるティオナとティオネを真似て、アイズも恥ずかしがるレフィーヤとともに控えめに右手を伸ばす。
「三日月は僕達に声をかけるか、アイズかティオナと一緒に来てくれてもいいよ。道に迷うかもしれないからね」
「分かった」
三日月はフィンの言葉にそう返して風呂場へと向かった。
リヴェリアが場に委ねるように両目を瞑る中、一同はフィンの提案に賛同するのだった。
そして、私も三日月の言葉を胸に刻みつける様に心に決める。
(後、もう少しで三日月に追いつく。もっと・・・強くならなくちゃ)
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