「えっと・・・今なんて言ったの?」
アイズは三日月の言葉に困惑しながら言う。
自分の耳が大丈夫であれば聞き間違いでは無い筈だ。だからこそ心配になる。
「・・・?風呂に入るから手伝だってって言ったけど」
聞き間違いじゃなかった。
三日月の爆弾発言にアイズは顔を赤くして、三日月に言う。
「えっと・・・三日月一人だと出来ないの?」
「右手が動けば話が別だけど、動かなくなった時はハッシュか、仲間に手伝ってもらってた」
「─────────っ」
そう言えばそうだ。三日月は右腕が使えない。水浴びをすることは出来ても、体を洗うことが出来ない。だから、仲間に頼るしかなかった。
「嫌なら別にいいけど」
三日月はアイズにそう言って聞いてくるが、アイズはそれに答えた。
「やらせて」
「・・・別に無理しなくていいよ」
「私が決めたことだから別にいい」
「そう、ならお願い」
三日月はそう言って、大浴場へと歩いていった。
◇◇◇◇◇
(勢いで、言っちゃったけどやっぱり恥ずかしい)
今、アイズはタオル一枚、身体に巻いて大浴場で三日月の背中を洗っていた。
この状況をレフィーヤに見られれば、おかしくなるか、見ていられない光景を目にするだろう。
(三日月の背中、小さいのにこんなにもしっかりしてる)
アイズはそう思いながら三日月の背中を洗っていく。恥ずかしさも確かにある。だが、このチャンスを逃す訳にはいかなかった。
三日月に聞きたい事がいくつかあったから。
「・・・三日月」
彼の背中を洗いながら私は言う。
「なに?」
「三日月の背中についてるこれって、何?」
三日月の背中に突き出すように出ている三つの突起。アイズはそれを触りながら三日月に聞いて見る。
「阿頼耶識の事?」
「アラヤシキって言うの?」
「うん」
アラヤシキ。聞いたことのない言葉に私は疑問を浮かべる。これが何か三日月の強さと関係があるのだろうか。
「いつ、これを着けたの?」
「ずっと昔」
ずっと昔。子供の頃からだろうか。三日月の事をもっと知りたくて聞いて見る。
「どれくらい?」
「子供の頃」
「何歳の時にやったの?」
「・・・・・・・・・」
三日月が押し黙る。まるで思い出すかのように沈黙する彼にアイズは手を止め、お湯を三日月の背中に流す。
泡が水と共に流れ落ち、三日月の体が綺麗になっていった。
そのお湯が流れる音が終わるのと同士に三日月が言う。
「確か・・・一番最初は俺が初めて“人を殺した”歳だから七歳くらい」
「えっ・・・・」
人を殺した。三日月はそう言った。つまり彼は犯罪者ということだ。アイズは周りを見渡すがこの大浴場には今、二人しかいない。
だから“私以外に知らない“。
「・・・どうして、殺したの?」
ちょっとだけ気になり聞いて見る。彼が悪い人には見えない。むしろ仲間にはとても優しい彼が、人を殺すなんて絶対に何か理由があると思うから。
「ソイツがオルガを殺そうとしたから殺った。それだけ」
「オルガ?三日月の仲間なの?」
その人の事が気になり、アイズはは三日月に聞く。
だが、それがアイズにとっての間違いだった。
「うん。俺達の家族」
家族。今のロキと私達のような関係だろうか?私はもう少しだけ聞いて見る。
「三日月はオルガさんの事、大事・・・なの?」
「うん」
アイズの問いに三日月は即答した。そして三日月は言う。
「だって俺は、“俺の命はオルガにもらったものだから。俺の全部はオルガの為に使わなくちゃいけない”」
「────────────」
何も言葉が出なかった。
「どういう・・・こと?」
アイズは掠れた声でそう呟く。
アイズの呟きに三日月は疑問を浮かべる顔をしながらも言う。
「俺があの日、オルガにあった時から決めたんだ。俺の命はオルガがくれた物だから、俺の全部はオルガの為に使わなきゃいけないって。だからオルガが目指す先が俺の目指す先なんだ」
意味が分からない。何いってるの?いつもの三日月に戻って。
私はそう思いながらも、黙って三日月の言葉を聞き続ける。
そして、三日月の事を理解してしまった。
三日月は私の事を見ていない。“後にも先にも、三日月の視線はオルガという人にしか向けられていない“。
それを確かめたくて、私は言った。
「三日月は・・・私とオルガって人とどっちが“一番“?」
今までの話で分かってるはずなのに、でも聞かずにはいられなかった。そして三日月は私に一言。
「ごめん」
三日月は私に謝った。
謝ってほしいわけじゃない。ただ、自分が勝手に聞いてみただけだから、そんな顔をしないで。
「・・・そっか」
「でも私、頑張るから。三日月に追いついて三日月も守れるくらいに頑張るから」
三日月の強さの理由。私はそれが分かった。
三日月には守りたい人がいる。それだけで三日月は強くなった。
だから、追いていかれないように強くなるためじゃない。三日月や皆を守る為に強くなりたい。強くなる理由が他に分かった気がする。
と、
「アイズは家族を守りたいの?」
「うん」
「そっか、ならすぐに出来るかもね」
三日月はそう言って立ち上がる。そして私に言った。
「俺もあるよ、目指す所」
「どんな所?」
私は聞き返してみる。三日月の目指す先がどういったものかを。
「飯がいっぱいあって、寝床もちゃんとあって、皆で馬鹿笑い出来るそんな場所に行くこと」
「叶えばいいね。三日月の夢」
「うん」
私の言葉に三日月はそう言って大浴場から出ていった。
一人大浴場に残されたアイズはポツリと誰もいない大浴場で呟く。
「三日月、凄かったな」
アイズはそう呟いて口を湯船につけた。
◇◇◇◇◇
「神様!行ってきます!」
白髪の少年が小さな女の子にそう言って手を振る。
「行ってらっしゃい、ベル君!気を付けるんだよ!」
「はい!気をつけて行ってきます!“昭弘”さんも今日からしばらくダンジョンに行くんですよね?」
少年は神様と言った女の子の少し後ろにいる大柄な体躯をした青年に聞く。
「ああ、しばらくな。それに家族が此処にいるって事も分かったからな。それに“アイツ“なら絶対に“ソコ“に向かう」
低い声で少年にそう言って、昭弘は荷物を肩に背負う。
「ベル、もう時間だろ。俺達にかまってないでさっさと行ってこい」
「あ、はい!じゃあ行ってきます!昭弘さんも家族、見つかるといいですね!」
「ああ、そうだな」
それじゃあ行ってきます!と大声で叫ぶ彼にツインテールの彼女は彼に言う。
「もう、行くのかい?」
「ああ、世話になった」
「ボクとしてはもう少しゆっくりでも良いと思うんだけどね」
彼女は昭弘にそう言って笑うが、彼は静かに言う。
「俺の家族が此処にいるって事が分かったんだ。なら、早いとこ合流した方がいい」
「そう言うもんかなぁ」
「そう言うもんだ」
彼女の疑問にそう答えて明弘は言った。
「もし、家族と合流できたら一度顔を出す。ソイツも連れてな」
「うん、楽しみにまってるよ。アキヒロ」
「ああ、楽しみにしていろ」
昭弘はそう言って歩き出す。彼の大きなその足はしっかりと前を進み続けていた。そして空を見上げながら彼は思う。
(三日月、お前は一体どこにいる?昌弘、アストン、ラフタ・・・もし会えたらその時に詫びさせてくれ)
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