ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第八話

「・・・・・」

 

黄昏の館の中央塔、その最上階。

酒瓶や物珍しいアイテムで溢れ返っている自室で、ロキは一人、黙って情報紙を読み取っていた。

商人や一部の【ファミリア】が販売している数枚重ねの羊皮紙の巻物は、共通語でびっしり書かれた記事がいくつも載っている。

中には精緻な挿画がついているものもあり、大胆で目立つタイトルやウィットに富んだ文面など、客の購買意欲をそそるよう趣向が凝らされていた。

面白おかしく綴られる噂話が半分を埋める情報紙の中で、ロキはモンスターが街頭で暴れ回る挿画付きの記述─────先日の怪物祭に関しての文面を目で追っていった。

 

「ん〜・・・・・やっぱどこも似たり寄ったりのことしか書いとらんかぁ」

 

椅子に腰をかけるロキは、ぽいっと情報紙をテーブルに放る。卓上には今しがた読んでいたもの以外にも数部の巻物が広げられていた。そしてそのほとんどが、挿絵を併用した大々的な記事で怪物祭の事故を取り扱っている。

【ガネーシャ・ファミリア】の不手際、都市外の密偵による襲撃、あるいは気まぐれな神による愉快犯・・・祭の途中で脱走し都市を騒がせたモンスターの一件に、紙面では様々な憶測が飛び交っているものの、ロキの求めるような情報────食人花モンスターについて────が載っている記事は一つもない。

ふぅむ、と頭の後ろで両手を組みテーブルを見下ろしていたロキは、何かを考えるように視線を天井に向けた後、やおら立ち上がった。

部屋を出て螺旋階段を下りていく。空中回廊を経て塔の一つに足を運んだ。

通りかかる部屋の前で誰かいないか見て回りつつ、ぶらぶらとするように歩きながら、やがて団員達がよく集まる応接間に辿り着いた。

 

「おろ、ベートだけか?アイズたん達は?」

 

「・・・ダンジョンだとよ。フィン達とあの気にくわねぇ野郎を巻き込んで、しばらく帰ってこねーらしいぞ」

 

談話室としてもよく使われる廊下に面した部屋には、ベートが一人でソファーの上に寝転がっていた。彼はロキを一瞥した後、寝たままぶっきらぼうに答える。

 

「なんや、取り残されたん?」

 

「ちげぇーよ!」

 

上体を起こし、声を荒らげるベート。馬鹿を言うなとばかりに半眼を作り上げ、持ち上がった尻尾でばちん!とソファーを叩く。ともすれば図星を指されたようにも見える彼の姿に、ロキはまぁまぁと言って宥めた。

それから今日の予定を訊ねると、「・・・何にもねぇよ」と亭杢を挟んでそっぽを向かれる。

 

「・・・・・なぁベート、悪いんやけど、今日一日うちに付き合ってくれんか?」

 

「あぁ?」

 

なにすんだ、と怪訝そうな表情を浮かべるベートに、ロキは答えた。

 

「ちょっと、“調べもん”をしたいんや」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

アイズ達は予定通り、正午頃バベルを発った。

ダンジョンに入ると早速とばかりに『ゴブリン』や『コボルト』が現れ、そしてすぐに追い払われる。道すがら前衛に配置されたティオナとアイズ、そして三日月がばったばったと敵を倒していくと、その瞬殺振りに敵わないと悟ってか、彼女達の前に立ち塞がるモンスターは激減していった。

周囲にいた冒険者も関わるまいと言うように姿を消す。

アイズ達はあっという間に『上層』を超え、『中層』の17階層半ばまで足を進めた。

 

「あー、やっぱりこれがあると落ち着くなー」

 

「ティオナさん、作り直してもらっていた武器、完成したんですか?」

 

「うん、《ウルガ》二代目!できたてほやほやだよ〜!」

 

レフィーヤの問いにティオナは、片手で持った大双刃《ウルガ》を軽々と回しながら答える。

探索前に【ゴブニュ・ファミリア】から受け取ってきた超大型の専用装備に、彼女は機嫌の良さを滲ませた。

以前のものに比べ若干剣身の厚みが増し、一方で鋭さも増しているのだろうか。アイズの持つ《デスペレート》以上の費用をかけて作られている上級鍛冶師達の力作をもって、ティオナは無謀にも飛出してくる虎のモンスター『ライガーファング』を一撃で叩き斬る。

 

「【ゴブニュ・ファミリア】の苦労が目に浮かぶわね・・・」

 

嘆息しながらもティオネがモンスターの死骸から『魔石』を摘出する。

サポーターを兼任するレフィーヤとともに、彼女は筒型のバックパックを背負い戦利品を収集していた。フィンやリヴェリアがゆるりと傍観する中、アイズの屠ったライガーファングからも紫紺の結晶とドロップアイテム『ライガーファングの毛皮』が採取される。

代剣の弁償代金のためにも戦闘は積極的にこなしていかなくてはならないが、本番はここよりも更に下部の階層である『下層』、そして『深層』からだ。

資金集めも、下層、深層で探索を行った方が遥かに資金集めの効率はいい。

目標資金額四〇〇〇万の道のりは遠い。アイズはこっそりと気合いを入れながら、まずは下層域を目指すべくパーティの先陣を切っていった。

 

「階層主いないけど、誰か倒しちゃったの?」

 

「ンー、街の冒険者が総出で片付けたみたいだよ。交通が滞るからって」

 

大人数のパーティでも通行が可能な洞窟状の巨大通路を経て、アイズ達は17階層最奥にある大広間に到着する。会話するティオナとフィンの視線の先、冒険者の行く手を阻む『迷宮の孤王』の姿はなく、代わりに『ミノタウロス』を始めとしたモンスター達が広大な空間にのさばっていた。

間の主がいない広間をアイズ達はまっすぐ縦断した。襲いかかってくるモンスター達をティオネとフィンも加わって軒並み倒していく中、白兵戦が苦手であるレフィーヤもリヴェリアの指導のもと、苦戦しながらも杖術で撃退していく。

そんな中でも一番モンスターを倒していくのが三日月だ。尻尾状のブレードでミノタウロスを突き刺し、他のモンスターに向けて放り投げたり、巨大メイスで叩き潰す、両手の大型のネイルで敵に突き刺し盾にするなど、やりたい放題。もはやモンスターが可哀想に思えるくらいに蹂躙、瞬殺していく。

 

「ん、終わり」

 

等の三日月は特に感情を表に出すことなく、そう口にして《バルバトス》を解除していく。

そんなことがややあって、大広間の奥の壁に空いた洞窟─────次階層の連絡路へと進んだ。

 

「ん〜、ようやく休憩〜」

 

傾斜を描く洞窟を抜け、ティオナが一段落とばかりに伸びをする。18階層に降り立ったアイズ達を迎えたのは、頭上よりそそぐ暖かな光、そして木々が疎らに生えた森の入り口だった。

モンスターが溢れる地下迷宮に相応しくないほどの穏やかな光と清浄な空気。まるで地上に舞い戻ったような錯覚を催すこの階層は、アイズ達が以前の『遠征』の際に利用した50階層と同じ、ダンジョンに数層存在する安全階層だ。

 

「いつ来ても綺麗ですね、この階層は」

 

「うん、そうだね・・・・・」

 

森を始めとした自然を好むと好むエルフの性か、頬を緩ませるレフィーヤにアイズは頷く。

 

「三日月はどう?」

 

「あー、うん。綺麗だと思う?」

 

若干疑問系の三日月にアイズは苦笑する。

 

「今は・・・どうやら『昼』のようだな」

 

手で傘を作り、リヴェリアが頭上を見上げる。

森の中で大きな日溜まりを作るほど枝葉の屋根が薄れているその先、階層の天井には、無数の水晶が隙間なくびっしりと生え渡っていた。

中心には太陽のように輝くいくつもの白水晶の塊、そしてその周囲には優しく発光する青水晶の群れ。咲いた菊の大輪を連想させる水晶がそれぞれ光を放つことで、18階層には地下でありながら『空』が存在している。多くの冒険者達の目を奪ってきた、ダンジョンの神秘だった。

形作られたこの地下の『空』は時の経過によって水晶の光量が落ちていき、『朝』、『昼』、『夜』の時間帯を作り上げる。

また時間帯の変化は一定ではなく、地上とは少しずつずれが生じ、時差は大きくなったり小さくなったりと変動していた。

 

「ねぇねぇ、どうする?このまま19階層に行っちゃう?」

 

「街に立ち寄る方が先よ。来るまでに集めたドロップアイテムを売り払っておかないと、どうせすぐに荷物が一杯になるわ」

 

アマゾネス姉妹が会話を交わす中、アイズは三日月が何か食べているのに気づき視線を向ける。

 

「三日月、何食べてるの?」

 

「ん?ああ、これ」

 

三日月はそう言って上着のポケットから何かを取り出す。それは何かの植物の実か種らしきものだった。

 

「それは・・・なに?」  

 

「デーツ。上の店で売ってた。食べる?」

 

三日月は私にデーツを持った手を私に向けてくる。

 

「じゃあ、食べる」

 

興味本位でアイズは三日月からデーツを数粒受け取り、口に含む。甘い味が口の中に広がる。噛めば噛むほど甘さが出てとても美味しかった。アイズはもう一つ口に含み、噛んだ瞬間。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?ケホッケホッ!?」

 

噛んだ瞬間、凄まじい苦味やエグみがアイズの口の中を襲った。

 

「アイズさん!?大丈夫ですか!?」

 

レフィーヤがアイズが突然咳き込んだことにより、心配するように声をかけるが、アイズはそれどころではなかった。突如口の中を襲ったあの味にアイズは目に涙を浮かべながら三日月に聞く。

 

「三日月・・・さっきの・・・」

 

「それ、ハズレが入ってるからそれ食べたんだと思う」

 

三日月はそう言ってデーツを口に含んだ。

 

「・・・ハズレ?」

 

だとしたらとんでもない物を食べさせられたものだ。だけど、あの甘さは確かにクセになる。ハズレを引かなければだが。

今度買ってみようかなと思うアイズは最後に残ったデーツを口に入れる。それは当たりだったのか、口直しにはちょうどいい甘さだった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

15階層・・・・

 

「オォラァ!!」

 

昭弘は巨大なハルバードをモンスターに振り払う。その振り払われた軌道にいたモンスターは一瞬にして灰へと変わった。

 

「くそっ、一つ一つは弱ぇが数が多いな」

 

昭弘はそう呟き、《グシオン》を解除する。

 

「しっかし、相変わらずコイツにはなれねぇ。“自分がモビルスーツになったみたい“でやりづらい」

 

阿頼耶識で操るとはまた違った感覚でまだ慣れない。

 

「文句言った所で仕方ねぇか。早く三日月を探さねぇと」

 

三日月がこの“オラリオ”と言う場所で“冒険者”というものをやっているのは分かってる。三日月が此処にいるのなら、“死んだアイツら“も此処にいる筈だ。

慣れない場所で一人でいるのは危険過ぎる。昭弘は更に下の階層へ続く階段を下りていった。




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