ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第十話

街の中心地を過ぎた辺りで、姿をくらましていた冒険者達を発見した。

大して広くもない路地に密集しる人集りは、とある洞窟の入口前に出来上がっている。今は傾いている壁にかけられた看板は、共通語で『ヴィリーの宿』と書かれていた。

話に聞いた宿屋はここで間違いなさそうである。

 

「なんか、いっぱいいるね」

 

「・・・うん」

 

「うわ〜、ちょっとこれ、進めなさそう・・・」

 

「宿の中はっ、入れないんでしょうか?」

 

多くの亜人が形成する人立ちはとてもではないが割って進めそうもない。そこら中からざわめきが聞こえてくる中、今のティオナとレフィーヤが首を伸ばしていると、フィンが動く。

 

「ちょっと僕が見てくるよ。リヴェリア達はここにいてくれ」

 

小柄な小人族の体格を活かし、彼は人集りの足もとを縫うようにスルスルと奥へ入っていった。

おおー、とアイズや三日月が感心する横で、一人取り乱すのはティオネである。

 

「団長っ、待ってください!?───ちょっとあんた達、どきなさいよ!」

 

「ひっ、【ロキ・ファミリア】・・・・・!?」

 

ティオネの形相と叫びを浴びせられた冒険者達が一斉に左右に割れる。

怯えながら道を開ける彼等にどうも気まずいものを覚えつつ、アイズ達は逸るティオネを先頭に人混みの中を進んだ。洞窟の入り口には見張りらしき冒険者が数人立っていたが、フィンに丸め込まれたのか、あっさりとアイズ達を宿の中に通す。

天然の洞窟を宿屋にしている『ヴィリーの宿』は、アイズ達が横に並んでも優に移動できる広い通路が、曲がりくねった状態で奥へと続いていた。頭上も高く、洞窟特有の閉塞感はそこまでない。

入り口をくぐって間近には受付場所らしきカウンターが置かれており、周囲の壁には少々奮発したような燭台型の魔石灯が数本設置されていた。観賞用の絵画のように三振りの短剣も等間隔に飾られている。足元に敷かれている毛皮の絨毯は、モンスターのドロップアイテムだろうか。

この広い玄関だけでも、『ヴィリーの宿』は『リヴィラの街』の中でも上等は宿屋であることが窺えた。剥き出しの石壁と壁の割れ目から生える青水晶に囲まれながら、アイズ達は先に進んでいたフィンと合流し、宿屋の奥へと向かう。

通路の左右にはいくつもの縦長の穴があり、帳───臙脂色模様の布帛がそれぞれ垂れ下がっている。中を窺ってみるとベッドが置かれた空間があり、どうやらこの帳が客室の扉代わりのようだ。アイズ達は三名ほど冒険者が入口前に待機している部屋を見つけ、うろたえる彼等に頼み込み、中へ踏み入らせてもらった。

 

「・・・・・っ!」

 

部屋に入ったアイズは一瞬、言葉を失った。

洞窟の一番奥まった場所にある部屋は、真っ赤に染まっていた。そして惨憺たる姿で床に横たわるのは、頭部を失った男の死体だ。

下半身のみ衣服を纏った、鍛えられ筋張った褐色の肉体。無造作に投げ出された手足は男の苦悶を物語っているかのようだった。頭は踏み潰されたのか、首から上は弾けた果実のように成り果て生前の容貌は知るよしもない。大量の血の海に浮いている薄紅色の肉片と、脳漿が辺りに散らばっていた。

 

「見ないで、レフィーヤ」

 

有無を言わせない口調でアイズは、レフィーヤの視線を死体から遮る。狼狽する彼女を背後にやりながら、あらためて部屋全体を見渡す。

もともと赤い生地の絨毯は血溜まりによって赤黒く変色し、木編みの籠、小棚、そしてベッドまでもが飛び散った鮮血を浴びている。持ち込まれた複数の魔石灯で隅々まで明るく照らし出されている長方形の部屋の内装は、今や無残な色合いに塗装されていた。

部屋に飾られてある多くの水晶の装飾品が、固まりかけている赤い血を滴らせている。

 

「ぐろ・・・・」

 

眉間を歪めながらティオナが呟くと、室内にいた二人の男性が振り返った。

遺体の横で膝をつき、現場検証をしていた彼等の内の一人が、アイズ達を見るなりその太い眉を吊り上げる。

 

「あぁん?おいてめえ等、ここは立ち入り禁止だぞ!?見張りの奴等は何やってやがんだ!」

 

「やぁ、ボールス。悪いけど、お邪魔させてもらってるよ」

 

怒るヒューマンの男に、フィンは勝手知ったる様子で話しかけた。

筋肉隆々の巨漢だ。凶悪な人相に黒い眼帯をしたいかにもといった風貌で、見るものを萎縮させる迫力を備えている。

上半身には袖無の戦闘衣を身に付け、盛り上がった肩や腹筋を剥き出しにしていた。

ボールス・エルダー。

この『リヴィラの街』で買取り所を営む上級冒険者だ。『オレのものはオレのもの、てめえのものもオレのもの』と言ってはばからない彼は、事実上の街のトップでもある。

そんな彼にフィンはまぁまぁと両手を上げた。

 

「僕達もしばらく街の宿を利用するつもりなんだ。落ち着いて探索に集中するためにも、早期解決に協力したい。どうだろう、ボールス?」

 

「けっ、ものは言いようだなぁ、フィン。てめぇ等といい、【フレイヤ・ファミリア】といい、強え奴等はそれだけで何でもできると威張り散らしてやがる」

 

「アイツ自分のこと棚にあげてない?」

 

と、ティオネが不遜な口ぶりでフィンと話をしているボールスを睨みつける。

 

「それで、どうなっているんだい?この冒険者の身許や、手にかけた相手について何かわかったことはあるのかい?」

 

「ああ・・・くたばった野郎は、ローブの女を連れこんできた全身型鎧の冒険者だ。兜まで被っていたから顔はわからねぇが、連れの女が消えているから、犯人はソイツで間違いねぇ・・・そうだな、ヴィリー?」

 

「ん、少なくとも俺はこの部屋にその男と女しか通してねえよ、ボールス」

 

ボールスの他に部屋にいた獣人の青年、ヴィリーはその確認に頷いた。中背中肉でボサボサの髪、左右の頬には赤の線でペイントされている。

宿屋の主人である彼は捕捉するように話を続ける。

 

「昨日の夜に、二人で来てよ。どっちも顔を隠して、宿を貸し切らせてくれって頼まれたんだ」

 

「たった二人なのに、客室を全て貸し切り・・・ああ、そういうことか」

 

「ああ、そういうことだ。うちの宿にはドアなんて気の聞いたもんはないからよ、喚けば洞窟中にダダ漏れだ。やろうと思えば覗き放題だしな」

 

フィンは言わんとしていることをすぐに察し、話に耳を傾けていたレフィーヤも何かを悟ったのか、か〜っと相貌を真っ赤に染める。

 

「まぁ、男の浮かれたような声に何しに来たのかわかっちまったからな、こっちは白けたが、もらうもんはもらっちまったし・・・くたばっちまえなんて思いながら部屋を貸したら、このざまだ。ゾッとしちまったよ」

 

軽い調子で語る彼だったが、その顔には肝を冷やしたという感情の名残がありありと残っていた。片手を首に回す彼は参ったように溜息をつく。

リヴェリアが悼むように遺体の潰れた頭部へそっと布を被せる中、フィンは質問を投げる。

 

「そのローブの女の顔は見なかったのかい?」

 

「フードを目深に被ってたんだ。男と同じで、顔は全然分からなかった。・・・あー、でも、ローブの上からでもわかるくらい、めちゃくちゃいい体してたな」

 

「おお、実はオレ様も街中で、ちらっと見かけたんだが・・・ありゃあーいい女だ。顔は見えなかったが、間違いねぇ」

 

力説するヴィリーに続き、ボールスまでもがその話をする。

鼻息が荒くなっている彼等に、ティオナを始めとした女性陣が冷たい視線を送る。

アイズは三日月に視線を向けるが、三日月はそんな話に興味すらないのか、死体の状態を観察していた。ちょっとだけほっとするアイズを片隅にリヴェリアが言った。

 

「宿の支払いは、証文で行わなかったのか?」

 

「悪い、してないんだ。破格の魔石を気前よくどんどんと渡されちまって、釣りはいらないっていうもんだから、それで済ませちまった」

 

リヴェリアの質問に対してヴィリーがすまなそうに答える。

 

「まぁ、今からこの野郎の身許を直接聞くところだがな。───おい、『開錠薬』はまだか!?」

 

廊下に向かってボールスが叫ぶと、ヒューマンの冒険者がちょうど駆けつけてきた。

慌てて来た彼は、部屋の前で待機していた獣人の小男とともに入室し、携えていた小瓶を渡す。

ボールスが遠慮なく仰向けの遺体をひっくり返すと、襟巻きをしている小男はそばに歩み寄った。

かがみ込み、小瓶の栓をきゅぽんと引き抜く。赤い液体を背中に垂らすと、彼は模様を描くように肌の上で指をなぞり始めた。

 

「『開錠薬』って、確か・・・」

 

「我々の恩恵を暴くためだけの道具だ。正確な手順を踏まなければ、それ単体だけでは神々の錠は解除できないがな」

 

レフィーヤの隣で、死者を辱める真似をするボールス達をリヴェリアは險しく見据えていた。

 

「あーいうの、どこで覚えて帰ってくるんだろうね・・・」

 

「冒険者が金にがめつくて何でもする『物好き』なのは、今に始まったことじゃないでしょ」

 

呆れ顔のティオナ、半眼を作るティオネの視線の先、獣人の小男は【ステイタス】が隠れている背中に指を淀みなく走らせていく。

溶液を垂らし複雑かつ正確な動きを刻めばいかなる神々の錠も解錠できる道具を駆使し、ややあって、碑文を彷彿させる文字群をその背に浮かび上がらせた。

 

「へぇ、こんな風になってんだ」

 

三日月は呟きながら物珍しそうに見る。

 

「ボールス、できた」

 

「おう、でかした」

 

小男が退く中、錠を開けた【ステイタス】を見下ろすボールスは、しまった、と言うかのようにぱしんと頭を叩く。

 

「いけねぇ、【神聖文字】が読めねぇ・・・オイお前等、外に出て、もの知ってそうなエルフを一人二人連れてこい!」

 

「待て。【神聖文字】なら私が読める」

 

「私も」

 

使い走りへ声を張るボールスに、リヴェリアとアイズが口を開いた。

眼帯をしていない右目を丸くした彼は、肩を上げて道を開ける。進み出た彼女達は【ステイタス】を俯瞰し、【神聖文字】の解読に移った。

やがて、ゆっくりと、彼女達は唇を動かした。

 

「名前はハシャーナ・ドルリア。所属は・・・」

 

「・・・【ガネーシャ・ファミリア】」

 

アイズがリヴェリアの言葉を引き継いだ瞬間───場は水を打ったように静まり返る。

一瞬、室内から音が消え去った。

そして次には、にわかに騒然となる。

 

「【ガネーシャ・ファミリア】!?」

 

「おいっ、間違いじゃないのかよ!」

 

瞬く間に上がる悲鳴のような声々に、アイズも、リヴェリアも遺体の【ステイタス】に視線を縫い付けたまま動かない。張り詰めた眼差しを浮かべる彼女達に、三日月以外の皆も目を見張った。

骸の正体は都市有数の実力派【ファミリア】───【ロキ・ファミリア】にも迫る派閥の団員という情報に、ヴィリー達が顔を青くする中。

わなわなと震えるボールスは、平静を欠いた声で、何よりも看過できない事柄を叫んだ。

 

「冗談じゃねぇぞ───【剛拳闘士】っつったら、LV.4じゃねえか!?」

 

アイズ達の口からもたらされた、第二級冒険者の死。

同時に導き出されるのは、ローブの女───犯人は少なくともLV.4以上の実力者という事実。第一級冒険者に相当する殺人鬼が、まだこの街に潜伏しているやも知れない可能性に、凍てつくような戦慄が走り抜けた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

「ハァ、ハァハァ・・・クソ!?何なんだよ!?アイツは!?」

 

男はそう叫びながらも、ダンジョンの中を走り続ける。

男達がモンスターを倒そうとしていたら急に横やりが入り、そのモンスターを搔っ攫って倒した青い奴がいた。男はそれに対して、文句を言おとしたのだが突如その青い奴がその男達に攻撃し始めたのだ。一番低いLV.でも2という中層までなら普通に行けるメンバーだった筈なのに、一瞬にして“二人が殺された”。

そんな奴にその男は逃げ出した。

あんな化け物に勝てる筈がない。男はソレを察して逃げ続けた。

かなりの距離を走った所で、男は足を止め後ろを振り返る。

 

「ここまで来ればもう大丈夫だろ・・・」

 

男は安堵し、溜息を付いた瞬間。

 

“カチャリ“

 

と、金属の音が鳴り響く。

 

「誰だ?」

 

男がそう言って振り返ると、そこにいた。

血で塗られた剣を片手に青い装甲をつけた“怪物“が。

 

「・・・嘘だろ?」

 

いつの間に後ろに居た?それよりも、何故コイツは俺のいる場所が分かった?

思考を巡らせる男にその怪物は剣を構え、そして───

男を貫いた。

 

「ゴボォ!?」

 

男が大量の血を吐き出す。血の海に倒れ伏し、男がその怪物に顔を上げて最後に見たのは。

足裏に付けられた刃で、自分を踏み潰そうとする悪魔の姿だった。

 

 

コイツでは駄目だ。

せめて、あの“怨敵の横にいたあの女と同じ実力者”でないと自身を扱うに相応しくない。

“魔石を吸収“し、意思を持った悪魔はダンジョンの中を放浪する。




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