ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第十三話

「・・・・・」

 

かつん、かつん、と靴音が反響していく。

魔石灯の光が心もとない長い階段。ロキは壁に手をつきながら段差を降りていく。

────ギルドの起源は今から約千年前にまで遡る。

『古代』と呼ばれている時代、この地では地下に置いた大穴から溢れ出るモンスターと人類がしのぎを削り合っていた。

大穴を塞ぐ『蓋』────塔と要塞の完成が求められる中、ギルドの前身機関が主導するモンスターの地上進出阻止の計画は、しかし、何度もくじかれる事となる。

完成のあと一歩のところでことごとくモンスター達に破壊され、その度に数え切れない犠牲者が出た。

偉大なる多くの英雄もまた、散っていった。

やっとの思いで塔を一度築き上げるも、もう何度目とも知れない計画崩壊に、人類が絶望に打ちひしがれていたその時────天から光は降り注いだ。

神々の降臨である。

モンスターに蹂躙される下界の各地に神が現れ、この地にも多くの神々が降りたった。そしてうろたえる人類に『娯楽でやって来た』と言ってはばからないそんな彼等の中に、その男神はいた。

精力的に塔と要塞着工に取り組んだ一柱の神。

この地に最初の『神の恩恵』をもたらしたのは、他ならない彼であった。

他の神々の協力もさることながら、彼の尽力によってモンスターの侵攻を防ぐことに成功し、オラリオの原型となる要塞都市は完成に至ったのだ。

現代でもなお、多くの者達に崇められているその神の名が────ウラノス。

 

「・・・よお、ご無沙汰やな」

 

階段を下りた先は、長い年月を感じさせる石造りの広間、祭壇だった。

大きな石版が床を覆い、隠された神殿の地下を彷彿させる。暗闇に包まれる周囲を照らすのは魔石灯ではなく、赤い炎を揺らす四つの松明だ。

そして、四角を描くそれら松明に囲まれる祭壇の中心。

大きな石の玉座────神座に腰掛けている巨体の老神は、フードの奥から視線を投げ、その蒼色の瞳をロキに向けた。

 

「何の用だ、ロキ」

 

重々しい声音が空気を揺らす。

ニMを超すたくましい体はローブに包まれていた。皺が深く刻み込まれている整った顔立ちは顎に白髭を生やし、同色の髪がフードからちらついて見える。静謐な表情はまるで彫像のように揺れ動くことはない。

 

「なに、ちょっと顔を出しに来ただけや・・・ちょっと、な」

 

祭壇の中心に上がるロキは、神座の前まで歩み寄る。

 

「フィリア祭では散々やったな。色んなところから叩かれているみたいやけど、大丈夫なんか?」

 

「都市の運営はロイマン達に一任している。私が関知するところではない」

 

オラリオの礎を築いて以降、ウラノスは『君臨すれども統治せず』の姿勢を崩していない。

都市の管理はロイマン達職員に任せ、彼自身はこの祭壇にとじ込もっている。余計な諍いを防ぐため『神の恩恵』を職員たちに与えることもなく、ギルド自体はあくまで都市の管理者という立場に徹していた。

【ウラノス・ファミリア】と名乗らないのは、武力の放棄を謳うためだ。

彼が私兵を隠しでもしない限り、ギルドに戦う力はない。

 

「ロイマン達も貧乏くじや。こんなジジイにあれやこれやと面倒を押し付けられて」

 

「何が言いたい」

 

ロキの言葉にウラノスが返す。

ウラノスがこの場所から離れようとしないのは、ギルドが懇願するように主神をこの祭壇へ閉じ込めているからだ。その理由は、彼がダンジョンに『祈禱』を捧げているため。

ウラノスが『祈禱』を捧げることで────彼の強大な神威がダンジョンを抑え込むことで、モンスターの大侵攻は発生しない。多くのモンスターを地下にとどめ、『古代』では頻繁に巻きおこっていた地上進出を食い止めている。

少なくとも、ギルドはそう信じ込んでいる。

ロイマン達は何より、現在のダンジョンの均衡が崩れる事を恐れているのだ。

ロキから言わせてみれば、神にお祈りをさせるなっちゅーに、とぼやく思いだが。

 

「今年のフィリア祭は色々あったなぁ。すこぶる気色悪い、けったいなモンスターも出てきた。あれをどこから運び込んだのか、どこの誰が命じたのか・・・気になってなぁ」

 

「・・・・・」

 

尋問するように言葉を並べるロキに、ウラノスは沈黙するのみであった。

身動ぎすることなく、神座に深く座り続ける。

都市を統べる裏の支配者、ギルドの手綱を根本で握る神物に、ロキは事件の核心を尋ねる。

 

「食人花のモンスターの糸を引いとるのは、ギルドか?」

 

パチっ、と松明の炎をが弾ける。

火の粉が宙を舞い、その巨体を炎の光に照らし出されながら、ウラノスは口を開いた。

 

「それは違う」

 

蒼い瞳をロキの朱色の目と合わせ、そう告げる。

 

「“それは“、な」

 

呟くロキは、距離を置いて座っている神の顔を見つめた。

フードの奥に隠れている厳しい顔は、最初から変わらず静謐なままでいる。その蒼く透明な瞳の奥をしばし覗き込んでいたロキは「そうか」と声を落とした。

 

「邪魔して悪かったな。お勤め、頑張ってな」

 

くるりと回転し、ロキはウラノスに背を見せる。

松明の燃える音だけが響く祭壇に靴音を溶かしながら、出口の階段へと向かった。

色々思うところはあるが、ウラノスは事件の首謀者ではなさそうであると。答えはまだ保留にしつつも、ロキはそう判断した。

と────

 

「まて」

 

「ん?なんや?」

 

ウラノスの呼び止めにロキは足を止め、振り返る。

ウラノスが呼び止めること滅多にないが一体何を言いたいのだろうか。ロキはそう思いながらも、ウラノスを見る。

 

「ロキ、あの“悪魔”を飼っているようだが、早い内に手を切っておく事だ」

 

 

「ほぉ、理由を聞いてもええか?」

 

ロキはウラノスの言葉に聞き返す。

ロキの言葉に対してウラノスは口を開いた。

 

「あの悪魔は厄災だ。神をも殺せる力を持ち、願いを叶えるたび、契約者を、周囲を蝕み続ける」

 

そして何よりと、ウラノスは言った。

 

「あの“悪魔“達は契約者とその周囲のモノを最終的には食い殺す。もっとも、貴様のファミリアの中でその悪魔に魅了されたものモノもいるようだが」

 

「・・・何やて?」

 

ウラノスの言葉にロキは言葉を返した。

悪魔に魅了された者。三日月に積極的に関わろうとしていたのはアイズやティオナだが、そのどちらかが、悪魔に魅了された?

そんな疑問にロキは考えて込む。

そんなロキにウラノスは言った。

 

「故に、なるべく早い段階でその悪魔を“殺して“おくべきと忠告しておこう」

 

「・・・分かったわ。その忠告有り難く受け止めさせて貰うで」

 

ロキはそう言って、踵を翻し出口へと歩いていった。

その背をウラノスは黙って見つめるだけだった。




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