ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第十八話

「なにモンスターの侵入を許してやがる!?見張りは何やってんだ!」

 

ボールスの怒号が響き渡る。

高い街壁を乗り越え、街の至るところから吠声を上げる食人花のモンスター達に、街中央部の広場は騒然となっていた。冒険者達が集まるこの水晶広場を目指し、その長駆を蛇行させ、蠢かし、周囲からモンスターの群れが殺到してくる。

一部破壊された街壁の方角からは見張りの者と思わしき絶叫も響く中、天幕や小屋を押し潰す破壊音が押し寄せてきた。

 

『────────アァッッ!!』

 

水晶の柱を破壊し、光り輝く破片の雨をばらまきながら、一輪の食人花が広場へと到達した。

それを皮切りに、一挙、他のモンスターたちも雪崩れ込む。

触手を振り回すモンスターの群れに悲鳴が連鎖するのは、瞬く間のことだった。

 

「ティオネ、彼らを守れ!」

 

フィンの指示とともにティオネが疾走した。

ククリナイフを手に人込みを飛び越え、食人花のモンスターに接敵し、敵の頭部と触手を切断する。

 

「フィリア祭の時と言い、こいつ等どこから現れるのよ!ティオナやアイズ達も何処にもいないし!」

 

いぜんの戦闘とは異なり、己の得物を駆使し、敵の身体を断絶するティオネの斬撃。

彼女達の攻撃が有効打を与える一方で、周囲の冒険者達はモンスターの群れに蹴散らされていった。無数の触手に叩きつけられ、体当たりによって宙を飛び、その醜悪な大顎に捕まり、咀嚼される者もいる。中には、連携を行い奮闘する者たちもいるものの、食人花のモンスターの方が街の冒険者達より能力が高い。

敵わぬ相手と知り、ばらばらに逃走する冒険者達。

パニックを来たした彼等は広場の外、街の各所へと散らばってしまう。

止むなくティオネは疾走し、逃げ惑う冒険者達とモンスターを追った。

 

「リヴェリア、敵は魔力に反応する。できる限り大規模な魔法で付近のモンスターを集めろ!ボールス、五人一組で小隊を作らせるんだ、数で当たれば各班一匹は抑えられる!」

 

「わかった」

 

「お、おう!?」

 

戦域内の視界情報を一瞬で精査、判断し、フィンは適切な指示を周りに繰り出した。

リヴェリアが広場の中央で魔法円を広げ、ボールスが周囲の冒険者に怒鳴り散らす。ハイエルフの美しい詠声によって広場近辺のモンスターが引き寄せられる中、フィン自身も全面に立ち長槍で多くのモンスターを屠っていく。

口腔の奥にある『魔石』を正確に一突き。跳躍し、あるいは長駆を駆け上がりモンスターに一撃必殺を見舞う小人族の勇姿と、そして喉が枯れんばかりのその鼓舞の声に、冒険者達は奮い立った。

混乱が収まり、彼等は次々と迎撃に乗り出すわ、

 

「でき過ぎているな・・・・!」

 

広場での戦況が立て直されていく光景を脇に、フィンはモンスター達の襲撃に目を細める。

ここから確認できるだけでも、街を暴れまわる敵の数は五十以上、まだ増えるか。島の断崖の上に築き上げられた天然の要塞でもあるこのリヴィラに、接近の予兆さえ感じさせず現れたモンスターの大群に果てしない違和感と、奇怪な感情を覚える。

いや、あまりにも“作為的過ぎる”。

フィンは走り出し、なぎ倒された水晶の柱や大岩の上を跳んで、広場から街中を真っ直ぐ縦断した。

あっという間に崖際まで到達し、欄干から身を乗り出す。

 

「っ・・・・・」

 

崖下を見下ろしたフィンの碧眼が、驚愕に揺れた。

高さ二百M以上ある絶壁の下、今は闇の蒼色に揺れる湖の中から、夥しい数の食人花のモンスターが水面を突き破り断崖をよじのぼっている。

湖の中に、いや安全階層に群れをなして潜伏────モンスターのありえない行動に、フィンの頭の中に衝撃と確信の光が走り抜ける。

今まで姿を隠し、一斉に襲いかかってきたこのタイミング。

怪物には不可能である戦略的行動。介在している人の意思。

これだけのモンスターの統率、信じられない。が、だがそれしか考えられない。

フィンは顔を歪め、導き出された答えを口にした。

 

「まさか、調教師か・・・・・!」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「・・・なに・・・あれ」

 

アイズは崖下に見える光景と、街を見てそう呟く。

街をが大量のモンスターに襲われている。その光景を前にして、昭弘も驚愕した顔のまま、口を開いた。

 

「こりゃあ、一体どういう事だ!」

 

「街が襲われてる。それにアイツは前に戦ったやつと同じやつだ」

 

三日月の視線の先、湖からは怪物祭の時に出てきたあの食人花が大量にひしめきながら、崖を登って街に向かっている。

 

「このままいくと街が全滅だ!三日月、先に行かせてもらう!」

 

「わかった。俺達も後で合流するから、昭弘も気を付けて。アイツら見た目の割にやたら硬いから」

 

「おう、三日月も早く来いよ!」

 

昭弘は三日月達にそう言って、先行していく。

先に行った昭弘を三日月は見た後、アイズに視線を変えて三日月は口を開く。

 

「アイズ、本当にもう大丈夫?」

 

「えっ・・・?大丈夫だよ」

 

三日月の訳の分からない気遣いにアイズは三日月に視線を向けながらそう言う。だが、三日月はそんなアイズに言った。

 

「大丈夫ならそれでいいけど、“気分とか悪くなったら言ってね”。すぐに向かうから」

 

三日月はそう言った後、バルバトスがすぐに顕現する。

 

「じゃあ、昭弘が正面を押さえてるから、俺達は崖下のアイツらをやろう。アイズも好きに動いたらいいよ」

 

「わかった」

 

アイズは〈デスペレート〉を手から引き抜き、三日月と共に最前線へ跳躍する。

一つだけ、心の奥底では自分にまだ〈悪魔〉の力を使えないのを不満に思いながら────。

 

 




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