ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第二十五話

37階層は『白宮殿』とも呼ばれている。

その名の謂われは白濁色に染まった壁面と、そしてあまりにも巨大な迷宮構造だ。これまでの階層とはスケールそのものが異なり、通路や広間、壁に至るまでの全ての要素が広く大きい。アイズ達が休息に使用した小部屋など例外も存在するが、ほとんどの道や『ルーム』は幅十Mを優に超えている。

また円形の階層全体が城塞のごとく五層もの大円壁で構成されており、階層中心に次層への階段が存在する。

冒険者達は大円壁の間にある開放的な通路やいくつもの段差を昇り降りして中心部を目指さねばならない。オラリオに匹敵しようかというその範囲領域は、正規ルートが確立されているとはいえ、迷い込んだ瞬間二度と出てこれなくなるほどだ。

頭の上に存在する空間も果てしなく高く、上級冒険者の視力をもってしても天井を確認できないほどである。暗澹とした闇に塞がれていることで、薄暗さも際だっており、白濁色の壁面に等間隔で灯る燐光だけが冒険者の横顔を照らした。

 

「やっぱり街の事件からアイズ、ちょっと怖いわね。鬼気迫っているというか。そんなに調教師の女って強かったのかしら?」

 

「アキヒロと一回模擬戦をやったけどさー、アキヒロのあれ、ズルでしょ!!腕四本とか!!そんなアキヒロとやりあってたんだから相当強かったと思うよ?あ、あたしも前、行くね!」

 

二十以上のモンスターの大群に襲われる中、ティオナが大双刃を振り回し強引に道を開け、アイズのいる前方へ駆け出していく。

妹の分まで敵を受け持つことになったティオネは、遠ざっていく背中に叫び散らした。

37階層はその広大さもあってモンスターの数は40階層以上の領域では郡を抜いており、インターバルも非常に短い。

モンスターが階層の各所に均等に散らばっている事が唯一の救いだが、気まぐれのように固まっている群れへぶつかってしまうと、第一級冒険者とはいえ手を焼く事になる。

広大な通路内で前面から押し寄せるモンスター達に対し、ティオネやフィン、リヴェリアは二名のサポーターを守るに迎撃していた。三日月と昭弘に関しては、アイズ達とローテーションで戦闘を行っていた為、今は休憩中である。

 

『ウオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

「っ!」

 

パーティ前方奥の敵を一手に引き受けるアイズは、巨身のモンスター『バーバリアン』の天然武器を回避する。両手に装備された棍棒が地面に叩きつける中、アイズはサーベルの一振りで相手を灰に変えた。

 

『ハァァッ!』

 

「!」

 

その大顎を開け、長い舌を打ち出してくる『バーバリアン』。

ねじれ曲がった角を生やすモンスターの舌撃を切り払い、打ち上がる悲鳴ごと斬り伏せる。

すかさずアイズは走り、ずんぐりした黒石の塊である『オブシディアン・ソルジャー』を両断した。

アイズの足もとにモンスターの亡骸が、灰がうずたかく折り重なっていく。サーベルが銀の射線を刻めばたちま血複数の相手が散り、血しぶきを飛ばした。

意思の炎に燃える金の瞳はどこまでも敵を求めた。眦を吊り上げ彼女は円を描くように足を捌き、旋風のごとく、四方のモンスターをまとめて横一線に切り飛ばす。

円状に断末魔が巻き起こった。

 

「流石に腰が引けるなぁ・・・リヴェリア、何も話を聞いていないのかい?一度辛酸を舐めさせられたくらいで、ああにはならないだろう」

 

「駄目だ。『何でもない』の一点張りで、何も話そうとしない」

 

フィンが困ったように目を細め、リヴェリアはその心労を語るように盛大に嘆息する。

もはや手持ち無沙汰に陥る彼らの視線の先で、金髪金眼の少女はティオナとともに時間をかけず残った敵を殲滅していった。

 

「今、灸を据えても意味はなさそうだね・・・やれやれ」

 

「あの、団長、リヴェリア様・・・アイズさん、大丈夫なんでしょうか?」

 

「ああいった状態の時は、大抵空腹になれば治まるが・・・腹を空かせた素振りを見せたら、すかさず餌付けをしてみろ。落ち着くかもしれん」

 

「は、はいっ」

 

勝手知ったる様子で話すリヴェリアに、レフィーヤは汗を流して頷く。

そんな中で、フィンはアイズの戦闘を黙ってみていた三日月に聞いてみる。

 

「三日月、アイズの今の状態を見てどう思う?」

 

フィンの言葉に対し、三日月は答えた。

 

「別に。しばらくほっとけば?“酷くなるようだったら”俺が無理矢理止めるけど」

 

三日月はそう言った後、ポケットからデーツを取り出して口に含んだ。

そんな三日月にフィンは息を吐く。そして隣にいる昭弘にも聞いてみた。

 

「アキヒロはどうだい?」

 

話を振られた昭弘は筋トレの手を休めると、アイズを見て答えた。

 

「何かに対して焦っているように見えるな」

 

「焦ってる?」

 

「ああ、それが何かはわからないが・・・そんな感じがするだけだ」

 

昭弘はそう言った後、筋トレを止めて身体を起こす。

そんな彼らに対し、レフィーヤはアイズ達の元へ向かい、戦利品を回収する。

一行は階層の奥へ進み、最も内側の大円壁を越え階層の中心部で探索を続けた。 

37階層には闘技場と呼ばれる、一定数を上限にモンスターが無限のごとく湧き出る大型空間も存在する。アイズが一度単身で乗り込もうとした際には流石に止めたが、以降は無難な探索が続いた。

アイズも仲間達を危険に晒す真似はせず、積極的にモンスターと戦闘をこなすものの、行動そのものはパーティの一員に沿ったものだった。戦闘が終了すれば、普段の感情に乏しい表情を纏い、ティオナ達の会話にもはっきりと受け答えをする。

唯一その剣の冴えだけが、普段とは異なっていた。

 

「もう相当モンスター達を倒してるし、結構お金も溜まったんじゃない?ダンジョンに五日くらいもぐって探索してるしさぁ」

 

「そう、かな」

 

「地上で普通に換金すれば、三千万くらいはいくんじゃないの?レフィーヤ、今持っている証文はどのくらいの金額?」

 

「待ってください、えーと・・・『リヴィラの街』で買い取ってもらったのだけだと、一千万ヴァリスには届かないくらいです。三日月さんとアキヒロさんの集めた分も含めれば別なのですが・・・」

 

話題を探すようにして、ティオナが明るくアイズに話しかける。アイズとティオナはもともと代剣と大双刃の借金の為にダンジョンに赴いたのだ。当初の目的を今更のように思いだしたアイズは、そこでふと引き寄せられるようにある少年の謝罪も思い出したが、頭を振って思考から追い出した。気にかける暇はないとそう言い聞かせる────その一方で、今の自分が彼の目の前に出る瞬間を想像すると・・・まるで宝物を汚すかのような思いに囚われてしまい、どうしてか、怖かった。

そして今、一番怖いのが今、三日月が自分に向けてくる“視線”だ。

時々自分に向けられるあの目。まるで考え込む自分を見定めているようなあの視線。

その見定められる視線がアイズにはプレッシャーとなっていた。

強さを求める選択。

その選択を間違えると、三日月が離れていってしまいそうで、“怖い”という脅迫概念がアイズを包み込んでいた。

ただの思い込みだろうと思っていても、その視線が消えることがない。

 

「期待を裏切らないようにしなきゃ・・・」

 

その責任感に、アイズは地中から生まれた『スパルトイ』に《デスペレート》を振り鳴らし、戦闘に臨んだ。




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