ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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ところで、ジャガ丸くんあずきクリームって味、気になりません?


第ニ十六話

僅かな油断も許さず、自身へ緊張感を課しながらモンスターの集団と剣を交えること五分。

残る最後のスパルトイへ、アイズは大上段から《デスペレート》を振り下ろした。

 

『グォオオオオオオオオオオオッ!?』

 

頭頂から股下まで一直線に両断されたモンスターは断末魔の後、破壊された『魔石』の後を追うように灰へと変わる。

スパルトイ達を全滅させたアイズは、ヒュンッと剣を振り鳴らし、切っ先を地面に向ける。

辺りには滑らかに切断された骨の一部が数え切れないほど散乱しており、未だ上半身に付着している魔石が紫紺の輝きを散らしていた。

十を超すモンスターの亡骸の中心で、アイズは一人、戦闘の余韻に身を預けるように無言でたたずんだ。

 

「結局一人でやっちゃったし・・・」

 

「ちょっと苦戦でもしてくれると、もっと可愛げも出てくるのにね・・・」

 

どこか非難がましい言葉と、皮肉めいた溜息をティオナとティオネがそれぞれ口からこぼす中、アイズは先に戦闘を終わらせていた彼女達のもとへ向かった。

《デスペレート》を鞘に収めて歩んでいくと、レフィーヤともう一名の団員とすれ違う。

 

「・・・アイズさん、お疲れ様です」

 

「うん・・・後はお願い、レフィーヤ」

 

眉を下げながら笑いかけてくるレフィーヤに、アイズは背後のスパルトイの戦利品収拾を任せた。

もう一人のサポーターにも声をかけ、彼女達にモンスターの魔石処理をお願いする。

 

「はいはい、お疲れアイズ〜!回復薬いる?万能薬は?アイズの大好きな小豆クリーム味のジャガ丸くんはどう!?」

 

「そもそも、傷一つ付けられてないんだから、回復薬も何も必要ないわ」

 

気を取り直したように明るく、ティオナが自らも歩み寄って迎えてくる。

姉に軽く突っ込まれる中、彼女はまるで戦闘をこなし消費したアイズの腹を見越していたかのような、絶好なタイミングで、ジャガ丸くんという名の餌付けを行った。

微妙に声の調子が高い。

 

「大丈夫、ティオナ。ありがとう。・・・最後のは欲しい」

 

休息の前から何も入れていなかったせいか、くぅ、とその細い臍の辺りから音が鳴る。

アイズはきりっと顔を構えながらも、少々耳を火照らせながら、ティオナからジャガ丸くんを受け取った。

保存状態が整っていなかったようで、腐りかけて食べられない事が分かると、しゅんと落胆の反動が大きかったが。

 

「アイズ」

 

「・・・!三日月」

 

久しぶりに三日月の方から声をかけられる。

若干嬉しく思いながらも、アイズは何の用だろうと首を傾ける。

 

「ん」

 

三日月がアイズに手を出す。

アイズは不思議そうに手の平を差し出すと、三日月はアイズの手に袋に入った何かとチョコレートを渡した。

 

「いいの?」

 

「飯、食べて無かったでしょ。ならそれ食べて次に備えて置いたら?」

 

三日月はそう言ってポケットに手を突っ込むと、デーツを一つ取り出して口の中に入れた。

三日月の咀嚼と共に、アイズは銀色の袋の先端をピリッと破ると、中から出てきたのは棒状のクッキー生地のような何かだった。

アイズはおそるおそるソレを口にする。

 

「おいしい・・・」

 

サクサクとした生地ながらも、店などに出される肉料理の濃い目の風味が口に広がる。

アイズがそれを一口、二口と食べているのを見て、三日月が口を開く。

 

「美味いでしょ。それ」

 

「うん。美味しかった」

 

そんな三日月を端に、アイズは三日月から貰ったチョコレートを口に入れる。チョコレートの程よい甘さが、アイズの口の中を満たす。

そんな二人に対し、リヴェリアがフィンを見下ろす。

くまなくとは言わずとも37階層は一通り踏破した。階層中央付近であるここから先に進むとなると、必然的に38階層へ向かうことになる。

迷宮は階層一つ下がるごとに危険度が増す。心もとない手もとの物資の量、そして武器の損耗具合も顧みた上で、彼女はパーティのリーダーに意見を仰いだ。

 

「ンー、そろそろ帰ろうか?今回はお遊びみたいなものだし、ここで長居して、帰り道でダラダラと煩うのも面倒だ。リヴェリア、君の意見は?」

 

フィンもリヴェリアと同意見だったようで、撤収の潮時だと口にする。

 

「団長の指示なら従うさ。・・・お前達、撤収するぞ!」

 

 

「「はーい!」」

 

リヴェリアの指示にティオナとティオネが返事をし、サポーター業に精を出しているレフィーヤ達からも「わかりましたー!」と声が返ってきた。

そんな中で、アイズが口を開いた。

 

「・・・フィン、リヴェリア。私だけまだ残らせてほしい」

 

アイズがそう申し出た。

驚いてばっと振り返るティオナとティオネ。

彼女達の視線を浴びながら、その感情に乏しい表情は顔色一つ変えず、むしろ確かな意志を窺わせていた。

 

「食料も分けてくれなくていい。みんなには迷惑かけないから。お願い」

 

最後には懇願するように、アイズは階層への居残りを彼等に願う。

 

「ちょ、ちょっと〜!アイズ、そんなこと言う時点であたし達に迷惑かけてる!こんなところにアイズ取り残していったら、あたし達ずっと心配してるようだよ!」

 

心配するティオナ達に三日月がアイズに向けて言った。

 

「何でアイズはそんなに強くなろうとするの?」

 

「・・・・っ」

 

三日月の問いに、アイズは黙り込む事しか出来なかった。

そんな彼等の視線が集まる中、三日月は「はぁ」と息を吐く。

そして、フィンに言った。

 

「なら、俺も残るよ」

 

「三日月!?」

 

三日月の言葉に、ティオナが驚いた声音で三日月に視線を向ける。

 

「ここまで来るのに殆ど何もしなかったし、アイズがまだ“扱えきれてない力“を使わないように監視するのも必要でしょ」

 

そう言う三日月にフィンは顎に手を添える。

その様子を見た昭弘も、彼に言った。

 

「三日月が残るなら、俺も残る。この二人だと何処までも突っ走って行きそうだからな。なら、ソレを止めるのが俺の仕事だ」

 

「ンー・・・」

 

唸るフィンに対し、一歩離れて見守っていたリヴェリアは息をつく。

彼女はフィンに振り向いた。

 

「フィン、私からも頼もう。アイズの意思を尊重してやってくれ」

 

「「リヴェリア!?」」

 

まさかというティオナとティオネの声が響き渡る。

アイズもまた内心で驚いていた。

リヴェリアには、必ず戒められ、反対されると思っていたからだ。

 

「ンー・・・・?」

 

そんなリヴェリアの真意を問うように美しい顔を見上げる。

 

「アイズが滅多に言わない我がままだ。聞き入れてやってほしい」

 

「・・・分かった、許可するよ」

 

フィンはもったいぶるように頷いた。

 

「アイズが一人だったら、駄目だって答えていたけどね、三日月と昭弘が一緒にいるなら大丈夫って判断するよ?だけど、リヴェリア、君もついて上げて欲しい。昭弘だけだとちょっと心配だからね」

 

「もとよりそのつもりだ」

 

そんな二人の会話を余所にティオナ達が、不服そうな顔で抗議を上げる。

 

「えー!それならあたしも残るー!何だ、簡単じゃん!」

 

「ア、アイズが残るなら私も残ります!絶対に足手まといにはならないのでっ、サポーターをやらせてください!」

 

「物資が残ってないって言ってんでしょ。三日月達は自分達で買っていたからまだしも、分け合う食料と水はアイズ達にも私達にも残ってないわよ」

 

「「うう〜〜〜〜〜っ・・・」」

 

ティオネの指摘にレフィーヤとティオナの首が仲良く惨たらしく折れた。

レフィーヤとティオナは泣く泣く退くのだった。




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