ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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ウダイオス見てると、ハシュマルの劣化・・・
いや、まさかねえ?


第ニ十九話

「リヴェリア、三日月、昭弘、手を出さないで」

 

三日月の不意打ちを受けて倒れ伏すウダイオスにアイズは歩みだす。

今の状態で既に打ち止めとなった己の器を昇華させるため、アイズはアイズの限界を超克する。

より強く、もっと強く、もう誰にも負けず屈しないように。

弱い己から脱却するために、更なる力を手に入れるために。

脳裏に浮かぶ赤髪の女の姿を、目の前の漆黒のモンスターに重ね合わせ、アイズは金の瞳を吊り上げた。

 

「アイズ、本当に一人でやるつもりか?」

 

アイズの背に、リヴェリアが強張った声を飛ばす。

起き上がったウダイオスは、上下の顎骨を開口し、凄まじい咆哮を放ってくる。アイズは剣の銀光を静かに散らした。

そんなアイズに昭弘が声を投げる。

 

「サポートはいるか?」

 

「ううん。大丈夫」

 

アイズは絶対の決意を胸に、唇を開く。

 

「すぐに終わらせるから」

 

黒骨の巨身が震えた。

射程圏内へと一人足を踏み入れたことで、凶悪な戦意が開放される。

全身の骨格を軋ませ、臨戦状態へと移行する最強の敵を前に。

アイズは地を蹴って、その無謀な戦いへと身を投じた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

一直線、敵のもとへ駆け抜ける。

数々の死闘をくぐり抜けた愛剣を右手に提げ、アイズは見上げるほどの大巨躯の懐へ、真正面から疾走した。

 

『オオオオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!!』

 

突貫してくるアイズに、ウダイオスは大気を震わす雄叫びを上げる。

揺らめく朱色の怪火で金色の影を睨め付け、剥き出しの長骨が黒く照る歪な左腕、その巨大な鈍器を背に溜めた。

大気を抉りながら、矮小な影に向かい、横薙ぎの一撃を繰り出す。

 

「【目覚めよ】!」

 

押し寄せる一撃必殺に対し、アイズは超短文詠唱を唱えた。

またたく間に風の気流が防具ごと体を包み込む。伴って速力が増したアイズは、叩きつける左足で地面を爆発させ、一気に加速した。

ぐんと体を前に倒し、ウダイオスの左腕が体を捉える前に懐に入り込む。攻撃の範囲外である至近距離、視界の死角へとかき消える速度で侵入されたモンスターは、一瞬アイズの姿を見失う。

一方で空洞の肋を眼前にするアイズは、跳んだ。

宙を貫き接近するのは敵の左脇中段。腕が薙ぎ払われたことでがら空きになった左の胸部目がけ剣を構える。更に剣身に付与される風の出力を上げ、威力と射程を底上げした。

腰をひねり、右手の《デスペレート》を左肩に溜め、お返しとばかりに音速の横切りを放つ。

 

『ウゥゥッ!?』

 

「!」

 

胸骨内部に存在する巨大な『魔石』、肋の隙間を狙って滑り込ませようとした風剣の一撃を、第五肋骨が上下動することで阻んだ。いきなり己の中枢を奇襲してきたアイズに、ウダイオスは索敵と反応を一瞬にしてのけ防衛行動を取る。

─────惜しい。

切り裂くことはおろか掠り傷も走らない漆黒の肋骨を横目で観やりながら、アイズは無表情で呟く。

中枢にヒビの一つでも入れることができたなら、相手の動きは格段に鈍る。そうそう好機は訪れないだろうが狙えるものなら果敢に攻め込むべきだ。

体の左脇を抜けてウダイオスの後方に出るアイズは地面に着地し、すかさず反転する。

隙だらけの背後、背骨を晒す階層主へ斬りかかった─────次の瞬間。

走るアイズの足元から、伸び上がる槍のごとく漆黒の柱が放出された。

 

「っ!」

 

顎の下から突き上がる鋭い一撃を、上半身の動きだけで回避する。

耳朶を掠める漆黒の柱によって金の長髪が乱れる中、続いて地面より射出された五本の矛からアイズは素早く横手へと逃げた。

地面を破って現れる槍衾、あるいは剣山は執拗にアイズを追いかけ、眼下から攻撃を加える。

──────これだ。

旋回能力が乏しい階層主に、大人数の攻略隊でさえも一気に攻めかかる事ができない理由。

この地面から放たれる無尽蔵の逆杭によって、敵を近付けさせないのだ。迂闊に飛び込もうものなら相手を連続で串刺しにする剣山は、ウダイオスの攻守一体の武装である。

上半身しか出現させていないウダイオスは、下半身を無意味に埋めているわけではない。

いや、正確にはウダイオスに下半身は存在しない。

巨大な根を地中へ張り巡らせる大樹のごとく、骨盤から夥しく派生した体の一部をこの広間全域の床へ広げているのだ。つまりアイズの足もとには、ウダイオスが設置した剣山の地雷が数え切れないほど埋まっている。

 

『ルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

「くっ!?」

 

巨体に見合った鈍重さで振り返る上半身とは相反するように、恐ろしい速度で射出される剣山が途切れることなくアイズに襲いかかる。今や既にアイズの周りには無数の漆黒の柱が立ち並んでいた。

 

「アイズ!」

 

手を出さないでと懇願されているリヴェリアが外から叫んだ。

昭弘もいつでもサポート出来るように大型の滑腔砲を手にしている。だが、三日月は他の二人とは違い、ただ私を見るだけだ。

ジリ貧となるこの戦局に対し、アイズが決定打を入れようとしたその時──────。

 

“ドス”と鈍い音ともに右足に鋭い痛みが走った。

 

「〜ッッ!!」

 

剣山のその先端がアイズを捉えたのだ。

そしてアイズに向けて振り下ろされる巨大な拳。

間に合わないと思ったその時だった。

“ゴッ”!とアイズの鎧越しから“誰かに蹴り飛ばされる”。

その勢いのついた衝撃でアイズの足から杭が抜けて吹き飛ばされた。アイズは着地姿勢を取り、着地すると一体誰がと思ってアイズが視線を向けた。そこにいたのは“三日月”だった。

あの一瞬で三日月はアイズの元へ向かい、アイズを蹴り飛ばしたのだ。そして──────

ウダイオスの拳が三日月に直撃する。

 

「三日月ィィィィィィィ!!!」

 

アイズは自分を守った三日月に絶叫した。




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