そして新章スタート!
第一話
多くの叫び声が轟いていた。
男達の絡み合う怒号は野太く、続く女の悲鳴は甲高い。鉄靴やブーツからなる無数の足音が入り乱れ、そして幾重もの怪物の咆哮が迫っていく。
「何なんだっ、あの数は!?」
「つべこべ言ってないで走れ!!」
広大な通路を埋め尽くすモンスターの大進行。
【ファミリア】の異なった複数のパーティが同時に巻き込まれ、一蓮托生とばかりの退却を強いられる。
通路上にいた新たな冒険者パーティも巻き添えを食らい、悲鳴の数が加速的に増加していった。
「どっかの馬鹿がモンスターどもを引っ張ってきたのか!?」
巨大蜂、蜥蜴人、剣鹿、毒茸。階層中の様々なモンスターが迫りくる光景を顧みて、冒険者の一人が『怪物進行』─────何者かにモンスターを押し付けられたのかと、そのように罵声を飛ばす。
「最近のこの階層はおかしいぞ・・・!?モンスターとの遭遇の数が半端じゃない!」
『中層』の中でも深部に位置する、ダンジョン24階層。
現階層にもぐり慣れた冒険者達は悲鳴を上げながら、地上を目指すのだった。
24階層のモンスターの大量発生。
【剣姫】の手によってウダイオス撃破が成し遂げられた、二日後のことであった。
◇◇◇◇◇
『───────────────!!』
“天使”が咆哮する。
その白い天使はその咆哮と同時に、淡いピンク色のビームを街に放つ。
鉄をも溶かすそのビームは天使の前に存在する街を一瞬にして焼き払った。
一瞬にして炎の海と化したその街には悲鳴と怒号が入り乱れる。
そんな中、天使は自身の一部でもある“プルーマ”を燃え盛る街に向かわせる。
プルーマ達は残っていた男、女、老人、子供、赤子にいたるまで全ての人間を殺戮していく。
ある者は轢かれ、ある者は背中から打たれ、ある者は、ある者は、ある者は─────
そして、“誰もいなくなった“。
血と鉄と炎とそして、肉の焼ける臭いが辺りに立ち込める。
誰もいなくなった街にもう用はないと言わんばかりにその天使は進行方向を変えて、次の街へと向かっていく。
かの天使を止められる方法はただ一つ。
“人間を止めた悪魔だけだ“
◇◇◇◇◇
(また、謝れなかった・・・)
【ロキ・ファミリア】のホーム、黄昏の館の食堂にてアイズは部屋の端で落ち込んでいた。
純白の部屋着に包まれた膝へ顔を半分埋めて、盛大と言っていいほど意気消沈している。
塞ぎ込むアイズの脳裏に浮かぶのは、昨夜の光景であった。
37階層で階層主を倒した帰り道、アイズはダンジョンで行き倒れの冒険者─────開会を望んでいた少年と出会った。
不始末によって取り逃してしまったミノタウロスから救い出し、そして酒場に傷付けてしまった、あの白髪の少年である。
気絶している彼をモンスターから護衛し、図らずも謝罪する絶好のチャンスを手に入れたアイズだったが・・・結果は、惨敗。
脱兎のごとく逃走されるという、非情な現実が彼女をうちのめした。邂逅の時と全く同じ、悪夢の再来である。
─────やっとのことで出会えた少年に、全力で!
悲しみと言うには生温いほどの衝撃を受け、アイズは失意のどん底に落ちた。派手に項垂れでホームへ帰ってきた彼女の姿に、他の団員は勿論、流石のティオナとティオネもぎょっとうろたえ、声をかけることさえかなわなかったほどだ。
ただ一人、少年を発見した直前まで同行していたリヴェリアにどうしたのだと問いかけられ、アイズはぽつりぽつりと訳を話した。
『・・・ちゃった』
『なに?』
『また、逃げられちゃった・・・』
『・・・・くッ』
肩を揺らし確かに笑ったリヴェリアを、アイズはどんっ!と両手で突き飛ばし、そしてアイズは食堂まで逃げ出してきたのだ。
(リヴェリアがいけないんだ・・・)
ぐすん、とアイズは人知れず泣きべそをかく。
少年が逃げたのは、彼女が命じた膝枕、あれが原因だったに違いない。
実知らずの他人に膝枕をされ、少年は取り乱すほど仰天していたのだ。
きっと、きっとそうである。全てリヴェリアがいけないのである。両膝を抱えるアイズは幼児退行に走り、いじけてしまう。
(それに・・・三日月も三日月だ・・・)
今、この場にいない三日月にもアイズはあたり始める。
昨日三日月と一緒に帰ってきた後、ハッシュが『俺、強くなったんで一緒にダンジョン行きましょう!!三日月さん!』と言って三日月はハッシュと一緒にダンジョンに行ってしまったのだ。
それ以降、アイズは三日月ともあっていない。
いじけるアイズは椅子から立ち上がり、調理場へと向かう。
“こんな時はお酒を飲もう“。
嫌な事はお酒を飲んでパーっと忘れるべきである。
フィンやロキ達からはお酒は禁止と言われているが、こういう時は許してくれるだろう。多分。
アイズはそう考え、調理場へ足を運んだ。
◇◇◇◇◇
「ったく、アイズたん何処行ったんや?」
ロキはそう呟きながら廊下を歩く。
リヴェリアの話を聞いたかぎりだと、ダンジョンで謝りたい冒険者に会ったはいいものの、逃げられ、ショックを受けて何処かに行ってしまったと聞いたが、何処に行ったのだろうか?
「はぁー、用があんのに何処行ったんやろうなぁ・・・」
ロキはボヤきながら食堂へと入る。
「なぁ、アイズたんおらへんか?」
ロキがそう言いながら食堂を見渡す。
食堂を見渡すと、部屋の端の机に頭をつけているアイズを見つけた。
「おっ?おった、おった」
ロキは寝ているアイズに足を運ぶ。
机の上にコップと瓶が置かれているが、ジュースか何かを飲んでグズリ疲れて寝てしまったのだろう。
そんなアイズにロキは肩を揺らす。
「おーい、アイズー、起きぃや」
「・・・・・ぅにゅ」
肩を揺らされたアイズはロキの言葉に目を覚ます。
とろんとした目がロキを見つめる。
「おー、起きた起きた。起こして悪いんやけどこの後さ・・・」
ロキがそう言った瞬間─────
「・・・・ヒック」
「・・・・・え?」
アイズのしゃっくりにロキは冷や汗を流す。
そして─────
「りる・らふぁーが」
呂律が回らない口でアイズはそう言って─────暴風がロキを襲った。
惨劇の始まりである。
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