ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第八話

「は?」

 

三日月はアイズの言葉にそう返事を返す。

 

「仲良くなったって、ベルの事?」

 

三日月がそう聞き返すと、アイズは頷く。

ジッと此方に視線を送り続けるアイズに、三日月は言った。

 

「アイツは昭弘が今、世話になっている所の冒険者だからそれで知り合いになっただけだよ」

 

「・・・本当?」

 

「あ、ああ。そうだが・・・」

 

アイズは顔を昭弘へと向ける。

昭弘は威圧的なアイズに少しだけ戸惑いながらも、そう答える。

 

「・・・・分かった」

 

アイズは短く返事をし、三日月の肩から手を放す。

そんなアイズを見て、三日月は言った。

 

「アイズはベルと仲良くなりたいって考えてる?」

 

「・・・うん」

 

質問にアイズは頷く。

そんなアイズを見て、昭弘は言った。

 

「なら、まずはベルの方を何とかしないとな」

 

「そうだね」

 

「・・・?どういうこと?」

 

二人の言葉に首を傾げるアイズ。そんなアイズに昭弘は息を吐きながらアイズに理由を説明する。

 

「ベルの奴はな。アンタに憧れてんだとよ」

 

「憧れて?」

 

前にもその話を聞いたことがあるような気がする。だが、詳しい事は聞いていなかった。そんなアイズの考えている事を読み取ってか、昭弘は言葉を続ける。

 

「ああ。ベルの奴にとって、アンタは目指す目標みたいなもんなんだ。だから、ああやってアンタを見かけると逃げ出すんだとよ」

 

まぁ、ベルのあの様子だと他にもあるだろうがな。と付け加える昭弘の言葉に、アイズはポツリと呟く。

 

「そう・・・なんだ」

 

どうやら自分の思い違いだったらしい。

でも、何度も逃げ出されるとこう、胸にくるものがある。

 

「まぁ、今度は俺からもベルに話してみるさ」

 

「・・・お願いします」

 

昭弘にアイズはそうお願いする。と───

視界の隅で、何か光るものを捉える。

 

「・・・これ」

 

「ん?」

 

歩み寄り、草原に落ちていた光のもと───防具を拾い上げる。

エメラルドの輝きを放つプロテクター。光源はどうやらこの盾のようだ。

 

「コイツは・・・ベルのヤツだ。落としていったのか」

 

昭弘がそう呟くと、アイズは昭弘に言った。

 

「あの・・・これ、私があの子に直接返してもいいですか?」

 

「!ああ。アイツも喜ぶだろうよ」

 

アイズの言葉を聞き、昭弘は頷く。と、さっきから一言も喋っていない三日月が視線を霧の奥に向けたまま見つめているのが視界に入った。

 

「・・・三日月?」

 

立ち込める霧にアイズは視線を向ける。

 

「くる」

 

「・・・・!」

 

三日月の言葉と同時にアイズはプロテクターを右手で持ち、左手で鞘を収めた剣を再び抜剣した。昭弘も気づいたのか、ハルバードを両手に持つ。

三人の視線の霧の奥に“何かが”いる。

 

『・・・気付かれてしまうか。お見逸れする』

 

やがて霧が揺らめいた。

霧の送りから浮かび上がるのは、漆黒の影。

黒ずくめのローブを全身に纏った、謎の人物。闇で塞がったフードの中身は何も見通せず、両手には複雑な紋様のグローブをはめている。肌の露出が一切存在しない。

性別も分からない黒衣の人物に、三日月は警戒を緩めず尋ねた。

 

「俺達になんか用?」

 

「ああ。正確には彼女にようがある。だが言う前に、その武器を下ろしてほしい。私は君に危害を加えるつもりはない」

 

確かに、敵意の欠片も感じられない。あえてアイズ達の間合いに入り、自身の生殺を此方に委ねている。

話をどうか聞いてほしい、という裏のない姿勢に、アイズと昭弘はひとまず武器を下げた。

 

「・・・貴方は、誰?」

 

「なに、しがない魔術師さ。・・・以前、ルルネ・ルーイに接触した人物、と言えばわかってもらえるだろうか」

 

相手の発言に、アイズははっとした。

ルルネ・ルーイ。『リヴィラの街』で殺害されたハシャーナから荷物を受け取っていた、獣人の少女。彼女は謎の依頼人に依頼され、運び屋の任務を引き受けたと言っていた。

 

『真っ黒なローブ』『男か女かもよくわからない』・・・彼女が語った依頼人の情報が、目の前の人物と合致する。

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン・・・君に冒険者依頼を託したい」

 

驚愕が抜け切らないアイズに、黒衣の人物は本題を切り出す。

 

「24階層でモンスターの大量発生、イレギュラーが起こっている。これを調査、あるいは鎮圧してほしい」

 

報酬は勿論用意しよう、と黒衣の人物は続けた。

 

「ことの原因の目星はついている。恐らく階層の最奥・・・食料庫」

 

アイズ達は黒衣の人物の言葉を黙って聞く。

 

「以前にも30階層───ハシャーナを向かわせた場所で、今回と酷似した現象が起こっていた。

 

「「「!」」」

 

アイズの肩が、震える。

ここまで言えばもうわかるだろう、とあたかも告げるように。

 

「『リヴィラの街』を襲撃した人物・・・例の『宝玉』と関係している可能性が高い」

 

息を呑む。

これは自身を釣る為の餌だ、と自覚しつつも、心は激しく揺れてしまった。

己の身体をざわつかせた不気味な『宝玉』。そして『アリア』と呼んできた赤髪の女。アイズの脳裏に一連の記憶が蘇る。

 

「事態は深刻だ。【剣姫】、どうか君の力を貸してほしい」

 

懇願する黒衣を前に、アイズな三日月に視線を向ける。

この問題に足を突っ込んでいいものなのかと。そんなアイズの視線に気づいてか三日月はアイズに言った。

 

「やるかやらないかはアイズが決めなよ。これはアイズが決める事だから」

 

「三日月・・・」

 

アイズは三日月の言葉を聞き、ややあって、その細い顎を引く。

 

「わかりました・・・」

 

そのクエストを、アイズは受託した。

アイズは赤髪の女と『宝玉』に関する手がかりが欲しい。

アイズの了承に黒衣の人物は「恩に着る」と礼を告げる。

 

「できれば今すぐにでも向かってほしい。いいだろうか?」

 

相手の要請に、アイズは返事をためらう。

このまま一人、、独断で突き進んでもいいものかと悩む彼女に三日月は言った。

 

「なら、俺も行く」

 

「三日月、でも・・・」

 

この件に関係ない三日月を巻き込んでしまうのに躊躇いを覚えるアイズに三日月は言う。

 

「別に気にしなくていいよ。仲間がやるって言うなら俺も全力で手伝うから。昭弘はベルを探してもらっていい?この辺りだとベル一人だと結構きつい筈だから」

 

「分かった。三日月、無茶するなよ」

 

「分かってる」

 

二人は短いやり取りをした後、昭弘はその場から離れていく。

 

「ごめんね。三日月」

 

「いいよ。俺が自分で首を突っ込んだんだし。気にしなくて」

 

二人のやり取りを黒衣の人物は見つめながらも、見えない口を開く。

 

「まず、『リヴィラの街』に寄ってくれ。『協力者』が既にいる』

 

「わかりました」

 

特定の酒場に向かい『合言葉』を言え、という指示の内容に、アイズは頷いた。

最初の目的地は18階層。

黒衣の人物が言う『協力者』と合流し、直ちに24階層へ向かう。

調教師の女や『宝玉』の事を思い浮かべながら、アイズ達は現在地から出発した。




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