ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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前回投稿しそこねた分をある程度書き直して、投稿!!


第九話

10階層から出発したアイズと三日月は、早くも18階層へ到達した。

天井の水晶群が青空を形作る中、安全階層に広がる森林、大草原を越えて西部の湖畔に向かう。黒衣の人物の指示通り、巨岩の島の上に築かれた『リヴィラの街』へと立ち寄った。

つい最近までいた場所に三日月は周りを見渡しながら呟く。

 

「もうここまで直ってるのか。凄いな。ここの人」

 

三日月の言うとおり、ローグ・タウンは多くの店が修繕されていた。既に十日以上の前の出来事とはいえ、食人花の大群に襲われたにもかかわらずだ。

三日月の呟きに、アイズは同意しつつも、アイズはまず特定の酒場を探す。

喧騒から離れた街の小径を通り、簡潔に教え込まれた道筋へ。

やがて着いたのは街の北部、長大な水晶の谷間が形成された郡晶街路付近の裏道。

ごつごつとした岩壁に口を開けた、洞窟だった。

 

「こんなところに、酒場があったんだ・・・」

 

狭い袋小路は階層天井の水晶光が届かず薄暗い。人気が全くない場所でひっそりと構えている店にアイズは呟きを漏らす。『リヴィラの街』は長年利用しているが、こんな場所に酒場があるとは知らなかった。

黒衣の人物に指定された酒場は、『黄金の穴蔵亭』という店だった。

洞窟の入り口には看板が飾られ、赤い矢印が斜め下の方向を示している。洞窟の中に設けられた木製の階段が奥へと続いていた。

洞窟の入り口で立ち止まるアイズを置いて、三日月が先に木製の階段をギシギシと音を鳴らしながら下っていく。

 

「・・・あ、待って」

 

そんな三日月の後を追うように、アイズもまたその木製の階段を下っていった。

階段を下り切り、扉も仕切りもない空洞へ二人は足を踏み入れると、そこには同業者がたむろする酒場の光景が広がっていた。

まず目につくのは空洞の中央に生える、黄の光を宿す水晶の柱だ。白や青の水晶は18階層の至る場所で散見できるが、このような黄水晶は初めて見た。きっとここにしか生えていない稀有なものなのだろう。

驚嘆しつつアイズは周囲を見回す。黒い岩が剥き出しの酒場は広さがほどほどと言ったところで、複数のテーブルと椅子が用意されている。天井や壁に設置された魔石灯と黄水晶に照らされる中、卓の上ではにやけた冒険者達がカードゲームに興じていた。

客の姿は存外に多く、五つあるテーブル席は全て埋まっている。空いているのは酒場の隅のカウンターしかない。

繁盛しているのかもしれない、と思うアイズは、あまっているカウンター席へと向かった。

三日月は入り口の近くの壁に背中を預けながら周りを見渡している。どうやら、見張りをしてくれるらしい。

アイズが向かった先、長台の内側には色とりどりの瓶が置かれた酒棚と、無愛想なドワーフの主人。

そして一つだけ埋まっている席には、獣人の少女が腰掛けていた。

 

「んん?あれっ【剣姫】じゃないか!?こんなところで、奇遇だな!」

 

「・・・・ルルネ、さん?」

 

アイズに気がついた犬人の少女────ルルネは、驚きの後に笑みを浮かべる。

件の『宝玉』を巡ってアイズとレフィーヤが一時的に行動を共にした他派閥の冒険者だ。今のアイズと同じように、黒衣の人物に雇われ運び屋を引き受けていた経緯がある。

アイズが不思議な縁を感じていると、彼女は気軽に話かけてきた。

 

「前は世話になったな。おかげで死なずに済んだよ。あらためて礼を言わせてくれ」

 

「いえ・・・体は、大丈夫ですか?」

 

「あはは、この通りピンピンしてるよ」

 

にこやかに接してくるルルネの好意を辞退させてもらいつつ、アイズは黒衣の人物に言われた隅から二番目のカウンター席────ルルネの真隣に座る。

彼女は一瞬訝った顔をしたが、すぐに笑みを纏い直した。

 

「今日は一人で探索かい?この店を知っているなんて【剣姫】も通じゃないか」

 

「いえ・・・今日は三日月と一緒です」

 

アイズがそう言って入り口近くにいる三日月に顔を向ける。

ルルネもつられて三日月に視線を向けると、首を傾げた。

 

「あの人?見た感じ何も持っていないし、強そうに見えないけど」

 

「でも、私より強い」

 

彼女の訝しげな顔に対してアイズはそう答える。

 

「【剣姫】より強いって本当かよ?だったら名前が知れ渡っている筈だろ」

 

冗談はよせと笑う彼女にアイズはムッとしながらも、アイズはカウンターの中を見た。

ドワーフの主人は無愛想な顔のまま歩み寄り、問いかけてくる。

 

「注文は?」

 

「『ジャガ丸くん抹茶クリーム味』」

 

その時だった。

アイズが『合言葉』を伝えた瞬間────ガシャーンッ!!と。

隣の椅子が、盛大な音を立てて引っくり返る。

驚いて横を見れば、床に尻もちをついたルルネが信じられないといった顔で放心していた。

 

「・・・・あ、あんたが、“援軍”?」

 

────まさか、とアイズが思っていると、周囲でも動きがあった。

酒を飲んでいたヒューマンが、カードゲームに興じていた獣人の達が、三日月以外の全ての客が一斉にテーブルから立ち上がりこちらを見つめる。身構えるようにアイズも椅子から離れた。

陽気に酒を飲んでいた姿勢を消し、真剣な眼差しを向けてくる彼等の姿を見て、アイズはようやく悟る。

つまり・・・ルルネを含めたこの酒場にいる客全員が、黒衣の人物の言う『協力者』だったのだ。

 

「彼女で本当に間違いないんですか、ルルネ」

 

「ア、アスフィ・・・・」

 

アイズを囲むように立ち上がった者達の中で、一人の女性冒険者が歩み出てくる。

水色の滑らかな髪は一房だけ白く染まっている。瞳は髪の色に近い碧眼だ。銀製の眼鏡をかけた相貌は整っており、知的な印象を感じさせた。

装備は純白のマントに、金の翼の装飾が巻き付いた靴。マントから一部覗く腰のベルトには、短剣の他にも複数のホルスターが吊るされている。

彼女と視線を交わしながら────そして驚きを覚えながら────アイズは眼前の美女が何者であるかを察した。

 

(アスフィ・アル・アンドロメダ・・・)

 

【ヘルメス・ファミリア】の首領でありオラリオに五人といない『神秘』保有者。

【万能者】の二つ名を持つ、稀代の魔道具作製者である。

都市屈指の実力を持つ第一級冒険者とはまた違った分野で、その名声は知れ渡っている。

アイズがアスフィを見つめる横で、問いかけられたルルネは「そうみたい・・・」と言って立ち上がる。

 

「・・・貴方達も、依頼を受けたんですか?」

 

こちらの質問に対し、アイズより年上だろうアスフィは、嘆息交じりに「ええ」と答える。

 

「この金に目がない駄犬のせいで、【ファミリア】全体が迷惑を被っています」

 

「ア、アスフィ〜」

 

容赦ない言葉にルルネが情けない声を出す。

アイズが目を向けると、彼女は決まりが悪そうな顔で事情を聞かせてくれた。

 

「【剣姫】も会ったと思うけど・・・ほんの何日か前にあの黒ローブのやつが現れてさ、『協力してほしい』って。最初は『もうご免だ』って突っぱねたんだけど・・・」

 

歯切れが悪くなったルルネを押しのけるように、アスフィが言葉を継いだ。

 

「Lv.を偽っていることをバラす、と脅されたそうです」

 

「・・・・・」

 

「その挙げ句、私達に皺寄せまで・・・」

 

「そこにいる奴は弱みを握られた訳か。で、ソイツの仲間のアンタらにツケが回ってきたんでしょ」

 

と、入り口の壁に背中を預けていた三日月が此方へと歩み寄ってくる。

 

「貴方は・・・・」

 

「俺やあんた等の事情なんてどうでもいいよ。どうせ依頼された内容も俺達が知っている内容と同じなんでしょ。なら、さっさと終わらせよう」

 

三日月はアスフィに言葉を入れさせる時間も与えずに、依頼内容の話を進めるよう彼女に言う。

 

「・・・・まぁ、いいでしょう。今回の依頼内容を確認しますが、目的地は24階層の食料庫。モンスターの大量発生の原因を探り、それを排除する。間違いないありませんか?」

 

「はい」

 

「では、次にこちらの戦力を伝えておきます。私を合わせ総勢十五名、全て【ヘルメス・ファミリア】の人間です。能力は大半がLv.3」

 

依頼内容の照らし合わせと戦力の確認を進めていくアイズ達。

その中でも一番の問題点はやはり三日月だった。

 

「それで、貴方は一体何者ですか?三日月・オーガス。【ロキ・ファミリア】に新しい団員が入った事は【剣姫】から聞きましたが、そうなると貴方のLv.は1の筈です。例えLv.が2に上がったばかりだとしても、戦力として足手纏いになるのは此方としては遠慮したいのですが」

 

アスフィの言葉に対し、三日月は言った。

 

「んじゃ、此処で確かめる?」

 

「確かめるとは・・・貴方の実力をですか?」

 

アスフィは三日月に問いを投げ返すが、三日月はそれに言葉は返さず、アイズに言った。

 

「アイズ。コイツ等を一旦納得させるから、全力で模擬戦やろう」

 

「え?う、うん。分かった」

 

アイズは三日月の言葉にキョトンとしながらから言葉を返すのだった。

 




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