ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第十一話

アイズ達は酒場では迷惑になるという事で、『リヴィラの街』の広場に来ていた。

周りには二人の模擬戦を一目見ようと、街中から冒険者達が集まっていた。

中には、どっちが勝つのか賭けをしているものもいる。

そんな周りを他所に三日月がアイズに言った。

 

「アイズ、変な手加減はしなくていいから。全力で来てね」

 

「うん」

 

三日月の言葉にアイズは頷いて、愛剣《デスペレート》を鞘から引き抜く。

三日月もそんなアイズに合わせるように《バルバトス》を出すと、その姿を見た周りの冒険者が、驚嘆や動揺の声が耳に届いてくる。

 

「おい、確かアイツって・・・」

 

「ああ・・・前の大進行の時に湖側のモンスターを一人で全滅させた奴だ・・・」

 

「まさか、あのガキが?」

 

そんな話が耳に入る中、アイズはジッと金の瞳で三日月を観察する。と────三日月の武器が何時もとは違うということにアイズは気が付いた。

竜のアギトの様な先端の巨大なレンチ。最初に見た印象はソレだった。

見た目がペンチの様な武器にアイズは困惑と疑問の表情を作りつつも、アイズは《デスペレート》を構えた。

──────そして。

 

「─────ッ!!」

 

アイズは三日月目掛けて駆け出した。

三日月もそれに合わせるように《バルバトス》のスラスターを吹かせる。

スピードだけで言えば、アイズが三日月の上を取っている。だが、三日月にはそのアドバンテージを押さえつける程のパワーと耐久力があった。

 

まずは先制攻撃を仕掛ける!

 

アイズは《デスペレート》を振るう。

銀色の一閃が三日月の腕目掛けて放たれた。だが────

 

ギィィィン!!

 

三日月の持つ《レンチメイス》の持ち手のグリップによって防がれた。アイズの先制攻撃を防いだ三日月はアイズめがけて拳を振るうが、アイズも後ろへ跳躍する事によってその拳を回避する。

三日月から離れたアイズは着地すると同時に三日月を見据えた。

 

「──────ッ!?」

 

アイズの目と鼻の先。

巨大な金属の塊がアイズを叩き潰そうと迫ってくる。

 

「くっ・・・あッ・・・!!」

 

《デスペレート》でその一撃を防いだアイズだったが、愛剣で防いだその衝撃は〈ウダイオス〉の一撃をも上回る威力だった。

つくづくその小さな身体から放たれるその力にアイズは羨ましいと思いながらも、アイズのその身体は吹き飛ばされた。

木製の壁を粉砕しながらアイズはその瓦礫に飲み込まれる。が────

 

「・・・・・」

 

三日月は周囲の悲鳴と歓声が上がる中、アイズを飲み込んだ瓦礫の山から視線を外さない。

次の追撃に備えて、三日月が《レンチメイス》を構えた直後だった。

強烈な風が瓦礫を吹き飛ばす。

吹き飛ばされた瓦礫の中から現れたアイズは剣に風を纏わせている。いつも使う魔法と言う奴だ。

三日月はそんな彼女に合わせるように《テイルブレード》をゆらゆらと揺らしながらアイズを見ると、先程までとの表情が違った。

最初は突っ込む気でいたのだろうが、《テイルブレード》が視界に入った瞬間、露骨に表情を変えたのだ。

 

「・・・ちょっと損したかもね」

 

三日月としては突っ込んで来てくれた方がありがたかったのだが、アイズがこうも警戒してくるとなってくると話は変わってくる。

嫌そうにするアイズに三日月はスラスターを吹かせて、アイズへ向けて勢いよく疾走した。

 

「・・・・来る!!」

 

アイズは此方へと突撃してくる三日月へ全神経を集中させる。

下からかち上げるように振り上げられる巨大な鉄塊をアイズは後ろへ下がる事によって回避し、振り上げた状態で隙だらけになっている三日月に目掛けて愛剣を振るう。

だが、それを妨げるようにテイルブレードがアイズの《デスペレート》を三日月の直撃を妨害する。

姿勢を取り直した三日月は、今度はアイズ目掛けてレンチメイスを振り下ろす。

石畳の上に振り下ろされたレンチメイスは周囲の石畳を叩き割り、その細かい破片がアイズと三日月目掛けて散弾のように跳弾する。

 

「──────っ!」

 

メイスの衝撃波でアイズは吹き飛ばされる。土煙の風を一瞬吹き飛ばそうと考えたアイズだったが、その考えを止め《ヴィダール》を使い、三日月に向けて全力で疾走した。

アイズの肌に石畳の破片が傷をつける。だが、それに気にすることなく走り続けた。

もうすぐ。もうすぐ三日月の姿が見える。

土煙の中、アイズは三日月の後ろ姿を捉えた。

まだ此方に気付いていない絶好のチャンス。

そんな三日月にアイズは《デスペレート》を振り上げる。

これなら三日月を・・・“殺しきれる“。

 

(あ・・・れ・・・?)

 

なんで私はそんな事を考えて─────

アイズはそう思いながら無意識に剣を振り降ろす。模擬戦だからこんな事をしなくてもいいのに。三日月に迫るサーベルを扱っているアイズも止める事が出来ない。

このままだと三日月に直撃する。アイズはそう確信した瞬間だった。

 

ガキン!!

 

サーベルが火花を上げながら弾かれる。

三日月が背中に収納されたテイルブレードをアイズが手に持つ《デスペレート》の剣筋を勘で弾いたのだ。

コンマ一つ合わなかったらアイズの剣は《バルバトス》の装甲を切り裂いていただろう。

テイルブレードの一番硬い金属部分に刀身がヒットしたせいで腕がビリビリと痺れる。

そんなアイズに向けて三日月は拳を脇腹辺りに叩きこんだ。

 

「うッ・・・・!?」

 

鎧越しから衝撃が走る。

鈍い痛みがアイズの腹部から全身へと走る中、アイズは地面へと押し倒された。

そして両手を踏みつけられ拘束されると、アイズの視界にはバルバトスが自身を拘束している姿がはっきりと映っていた。

 

「みか・・・」

 

アイズがそう口を開いた瞬間。

 

「アイズ。今すぐそれを消した方がいいよ」

 

「え?」

 

三日月の言葉にアイズは開いた口を止める。

そんなアイズに三日月は周りを見回しながら言った。

 

「今、一瞬だけアイズ呑まれてたでしょ。だからさっさとソレを消した方がいい」

 

三日月の忠告にアイズは大人しく《ヴィダール》を使うのを止める。と、先程まで自身の中にあった高揚感が一気に冷めていく。

アイズが元の調子に戻ったのを悟ってか、三日月もアイズの両手から拘束していた足を除ける。

そして三日月が近くにいたアスフィに言う。

 

「これでいいでしょ」

 

そう言う三日月にアスフィは少しだけ目を見開けながらも答える。

 

「・・・え、ええ」

 

『リヴィラの街』の冒険者達が『剣姫』が負けたとざわめく中、アイズは一人、三日月に対して負い目を感じるのだった。




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