ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第十ニ話

「も、もう無理・・・限界です」

 

ハッシュは机に突っ伏しながら、向かい側に座っているレフィーヤにそう返答を返す。

そんなハッシュにレフィーヤはニコニコと笑顔のまま、突っ伏すハッシュに言った。

 

「まだ休んじゃ駄目ですよ?ハッシュさん。まだこんなにもやる事があるんですから」

 

そう言って、大量の辞書や魔導書に指を指しながら答えた。

それを聞いたハッシュはさらに深く顔を机に埋め込む。

 

「「・・・・・・・うわぁ」」

 

その様子を離れた所で見ていたティオネとティオナも若干引き気味だ。

レフィーヤが気絶したハッシュを引きずって帰ってきた時からずっとこうだ。 

ハッシュが限界に近づくたびにレフィーヤの鞭の言葉が突き刺さる。ハッシュも半ば忘れかけていた魔法の勉強をツーマンセルでレフィーヤが行っているのだが、これはあまりにも鬼畜だ。

最初の頃は始めての生徒だと喜んでいたレフィーヤの姿が今や見る影もなく、今となってはスパルタ先生だ。

見るに絶えない姿を晒すハッシュに助け舟を出すようにティオナがレフィーヤに言う。

 

「えーっと・・・レフィーヤ?ハッシュも限界だって言ってるんだし、ちょっとは休ませてあげたら?帰ってからずっとやってるから流石にやりすぎだよ」

 

ハッシュに助け舟を出すティオナはレフィーヤにそう言うと、レフィーヤはティオナに答える。

 

「そうですか?私はそうは思いませんけど?」

 

そう答えるレフィーヤにティオネが口を開く。

 

「そう思うのはあんただけよ。ハッシュだって、あんたみたいに頭がいい訳じゃないんだから。一気に覚えさせても、すぐに忘れるだけよ」

 

ティオネの言葉を理解したのか、レフィーヤは苦い顔をする。

どうやらある程度は理解していたようだが、そこまで頭が回っていなかったらしい。

 

「なら、30分程休憩しましょうか」

 

そう言うレフィーヤにハッシュがガバッと顔を上げる。

 

「うっす!!」

 

「まだあんだけ元気だったんだ・・・」

 

「それほど勉強が得意そうな顔でもないし、ただ苦痛なだけだったんじゃない?」

 

嬉しそうに顔を上げるハッシュに二人はそう呟いていると、ベートとロキが帰ってくるのが目に映った。

 

「あ、お帰りーロキ」

 

ティオナは頭だけを向けてロキに視線を向ける。

と、ベートがハッシュの向かい側に座っていたレフィーヤに言った。

 

「おい、レフィーヤ。今すぐダンジョンに行くぞ。24階層だ」

 

ベートがレフィーヤを誘うという、滅多にない事にティオナ達は目を開いた。

そんな二人を横にベートが言葉を続ける。

 

「アイズとあのガキが24階層に行きやがった」

 

ベートの言葉にレフィーヤは立ち上がった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

銀の剣、《デスペレート》が唸る。

 

『オオォ────!?』

 

放たれた斜め一閃の斬撃が雄鹿のモンスター───『ソード・スタッグ』の剣角を切断し、そのまま顔面を断ち切った。

モンスターの巨体がぐらりと傾き、音を立ててダンジョンの地面に横たわる。

 

「ひゃ〜。やっぱり強いなぁ〜」

 

ソード・スタッグを瞬殺したアイズを見て、ルルネは感嘆した。

得物を手にしたままアイズは油断なく周囲を警戒しつつ、彼女とその仲間を見やる。臨時パーティの隊員達もまた、遭遇したモンスターの群れを倒し終えていた。

樹皮に一帯が覆われた通路、幾多の光の粒を灯す苔。階層を経る事に強さが増していくモンスターを蹴散らし、アイズ達は目的地である24階層に足を踏み入れていた。

下層域が間近に迫った24階層は、通路一本取っても『上層』やこれまでの中層域と比べ物にならないほど広い。

アイズと三日月を含めた十七人規模のパーティが贅沢に空間を使い、悠々と移動できるほどだ。

伴って一度に遭遇するモンスターの数も格段に増えているが、ルルネ達【ヘルメス・ファミリア】は苦もなく敵を片付けていた。

 

「ルルネさん達も、すごいですね・・・」

 

「ルルネ、でいいよ。私達、結構年近いだろ」

 

年齢を十八だと語る彼女は気軽に接するよう求めてくる。

アイズがこくりと頷いて応じていると、彼女達の前方からパーティのリーダーであるアスフィが「前進します」と指示を出すところだった。

そんな中、アイズは三日月の姿を探す。

きょろきょろと、首を回すアイズはその視界に三日月の姿を視認できた。

パーティのほぼ後ろ側。一人でただ黙々とついて来ていた。三日月の周りには誰も近寄ろうとはせず、それどころか距離を離す一方に見える。

なぜこんな事になっているのかと言うと、要するに他の冒険者達がアイズ達が『リヴィラの街』で行った模擬戦に文句を言い始めた人達がいたからだ。

 

模擬戦で勝ったのは『剣姫』が手加減したからだと。

 

そんな事を言った冒険者達に三日月が彼等に言った言葉がその冒険者達の神経を逆撫でしたのだ。

 

気に入らないなら纏めてかかってくれば?───と。 

 

三日月の絹を隠さない言葉に冒険者達は激昂し、三日月と模擬戦をした結果────。

五分。その短い間で三日月は“十数人もの冒険者達を半殺し“にした。

圧倒的な暴力による蹂躪。

一言で例えるならそれが一番しっくりくる。その模擬戦にもならない蹂躪劇を見て、【ヘルメス・ファミリア】の隊員達は三日月に話しかけるどころか、近づくこともしなくなったのだ。

一人になっている三日月にアイズは近づいていく。

三日月もアイズの姿が視界に入ったのか、顔を此方へ向けてきた。

 

「どうしたの?アイズ」

 

「アスフィさんが前進するって」

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

アイズと三日月の短い会話のやり取り。だが、アイズにとって一番三日月と近くに居られると感じる一時だった。

そんなアイズに三日月が言う。

 

「アイズは彼奴等に前を任されてるんでしょ。ならもうそろそろ言ったら?」

 

「・・・・うん」

 

三日月の言葉にアイズは名残惜しそうに頷いてルルネ達のもとへと戻っていった。




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