「・・・・はぁ」
アイズは一度アスフィから時間を取ってもらい、全身にこびり付いたモンスターの血を洗い流していた。
所々乾いてしまい取れなくなってしまった所もあるが、それは帰ってから洗い落とせばいい。誰もいないこの泉でアイズは水を髪にかける。
冷たい水が肌に流れていくが、それを気にせずに髪にも付いた血を落とす。
洗い落とした血が泉へと流れていき、もとに戻った金色の髪がアイズの身体へと張り付いていく。
「・・・・・これでいいかな」
返り血を全て洗い流したアイズはそう呟いた後、泉からバシャバシャと音を立てながら服を乾かしてある岩場へと足を進めて、服を手に取ったその時。
「終わった?」
「・・・み、三日月?」
アイズのいる岩場の反対側から三日月の声が聞こえてきた事に、アイズは急いで身体をまだ着ていない服で隠す。
もしかして・・・と、アイズは思いながら岩場の反対側にいる三日月へと声をかけた。
「・・・なんで、そこにいる、の?」
困惑と羞恥を混ぜ合わせたような声がアイズの喉を震わせる。
そんなアイズに三日月は坦々と答えた。
「護衛。最初は眼鏡の人に任せてたけど、覗く奴らが多いからって言われて俺に回ってきた」
「・・・・・」
アイズは三日月の言葉に納得してしまう。
まあ有り得そうな事ではあったが、本当にやるとは。
今頃、アスフィが【ファミリア】の男性陣を捕まえている所だろう。なんとなく予想出来る分、アスフィの苦労も目に浮かんだ。
そんな三日月にアイズは先ほどもしかしてと思った事を口にする。
「三日月は・・・その・・・興味ないの?」
アイズは三日月に自分は興味があるのか聞いてみる。
そんなアイズの問いに三日月は言った。
「興味ない」
短く返された言葉にアイズは少しがっかりする。
せめてそこは嘘ついてでも言ってくれれば────
「・・・・!・・・私、何考えていたんだろ」
アイズは首をブンブンと振りながらそう呟く。
そんな事を考えた事など一度も無かったというのに、最近になって色々と頭の中がグチャグチャになってくる。
そんなアイズに三日月は言う。
「そう言うアイズはどうなの?」
「えっ?」
唐突な言葉にアイズは声を上げるが、そんなアイズに三日月は言った。
「最近、アイズ何か考えてるでしょ。そんなんじゃ戦う時に集中できないよ。この依頼を受けた時だって何か考えていたみたいだし。何かあった?」
「・・・・・」
三日月の言葉にアイズは少しだけ息を呑む。どうやら三日月はある程度分かっていたようだったが、事情の詳しい事を聞かないままアイズの様子を見ていたらしい。
そんな三日月にアイズはポツリと呟く。
「あの調教師の事・・・三日月は覚えてる?」
「ああ・・・あの赤い髪の奴?」
「・・・うん」
三日月の言葉にアイズは頷いた後、さらに言葉を続けた。
「あの調教師の人・・・私のお母さんの名前を言っていたから・・・どうして知っているのか気になったから、もしかしたらって考えてたの」
「・・・へぇ」
三日月は短くそう答えると、アイズに言った。
「なら、アイズは親の手かがりを探す為にあの女を追っているのか」
「・・・うん」
そう頷くアイズに三日月はポケットから取り出したデーツを一つ口に含み咀嚼する。
そして飲み込んだ後、アイズに言った。
「なら、俺はアイズのやりたい事を手伝うよ」
「・・・え?」
三日月の言葉にアイズは顔を上げる。
そんなアイズの様子を知ってか知らずか、三日月は言葉を続ける。
「アイズだって街にいる時、オルガの事を聞いて回ったりしているってフィンから聞いてる。アイズがそうやって頑張ってるから、俺もアイズのやりたい事を一緒に手伝うよ」
「なら・・・私が困っている時は助けてくれる?」
そう言うアイズに三日月は岩陰で頷く。
「うん。その時は助けにいく」
三日月の言葉を聞いてアイズは小さく笑った。
「・・・ありがとう」
その言葉に三日月は何も返さなかった。だが立ち上がる音が反対側から耳に届く。
「俺は先に行くよ。それとアイズもそろそろ着替えた方がいいよ。皆待ってるみたいだし」
「うん・・・先に待ってて」
アイズは立ち去る三日月にそう言って着替え始めた。
三日月と話した事で少しだけ、胸の奥が軽くなるのを実感しながら。
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