ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第十六話

着替えが終わったアイズ達は目的地である北の食料庫へと足を進めた。

北への選択は正しかったのか、断続的にモンスターの行列が通路の奥から押し寄せる。乱戦と精神力の松皮を嫌うアスフィの頼みで、群れの相手はアイズと三日月が交互に受け持った。

お互いにローテーションをしながら足を進めていると、ダンジョンに変化が現れる。

大樹のごとき樹皮の天井や壁面が、ある場所を境にして、岩場のようなでこぼことした構造を作り始める。色は薄い赤色となり、道は完璧に洞窟然としたものに変わった。

食料庫に近づいている証拠である。腹を空かせたモンスターが集まる給養の間は大空洞の奥に石英の大柱が存在し、そこから栄養価の高い液体が流れ出す。これを中心に、食料庫近辺の迷宮は形状を変えるのだ。

モンスター大量発生の原因。

自分達を待ち受けるものは一体何なのか。

ルルネ達が今まで以上に緊張を纏い一歩一歩通路を進んでいく中、アイズも感覚を鋭敏にさせていく。モンスターの気配はいつの間にか途絶え、不気味な静寂が彼女達の耳を突き刺してきた。

そして、地図を持つルルネとアイズが先導する形で道を行き、パーティが進行することしばらく。

 

「なっ・・・・・」

 

冒険者達は、とうとう“それ“を目撃した。

 

「か、壁が・・・・」

 

「・・・・植物?」

 

アイズ達の目の前に現れたのは、通路を塞ぐ巨大な大壁だった。

不気味な光沢とぶよぶよと膨れ上がる表面。気色悪い緑色の肉壁はアイズ達の前に立ち上がり、進路を見事に遮っている。明らかに周囲の石質の壁面とは作りも性質も異なっていた。

生物のようであり、ともすれば誰かが呟いた通り植物のようですらある。あるいは、ダンジョンが患わったガンのような。

アスフィ達はもとより『深層』に何度も進行しているアイズでさえ、こんなもの、今までお目にかかったことがない。

目を疑うような光景に、パーティ全体がざわめく。

 

「・・・ルルネ、この道で確かなのですか」

 

「ま、間違いないよっ。私は食料庫に繋がる道を選んできたんだ、こんな障害物は存在しない・・・筈なんだ」

 

アスフィの確認に、慌てて地図を見直すルルネ。

食料庫が存在する大空洞まで、まだ道半ば。

自分達の行く手を阻む謎の肉壁を、アイズは瞠目しながら仰いだ。

 

「・・・他の経路を調べます。ファルガー、セイン、他の者を引き連れて二手に分かれてください。深入りは禁じます」

 

アスフィの指示に、大柄な虎人とエルフの青年は頷いた。

彼等は予備の地図を片手に五名ずつ団員を従え、来た道を戻る。

引き返していく彼等の姿を見送った後、アイズ達は肉壁を眺めた。

場にはアイズ、三日月、ルルネ、アスフィ、そしてサポーターの五人だけだ。

アイズ達はお互いに周囲を調べ始める。

周囲の広がる通常の壁に別段変わった所はない。ダンジョンが変調をきたしているというより、この肉壁本体が異質であるようだ。アイズは三日月とともに近付く。

24階層の巨大な通路を完全に塞いでいる肉壁はおよそ十Mといったところか。

鼻を突く異臭・・・腐臭がわずかに漂ってくる。

生理的嫌悪を催す肉壁に、アイズはそっと片腕を伸ばす。

それを見たルルネの止めておけという制止を他所に、壁の表面に触れた。

 

(生きている・・・)

 

確かな熱と、そして鼓動にも似た微かな律動が、手の平越しに伝わってくる。

警戒を絶えず払いながら、アイズはじっと壁を見据えた。

そんな中で、アイズの耳にアスフィ達の声が届く。

 

「アスフィ、戻った」

 

「どうでしたか」

 

調査を終えた彼らの話が断片的に聞こえてくる。

 

「あのモンスターの大群は大量発生が原因のものではなさそうですね」

 

「ど、どういうことだ?」

 

ルルネの疑問が耳に届く。

 

「食料庫には腹を空かせたモンスターが階層中から集まってきます。もし、とある食料庫に入れない事態に直面したら・・・モンスターの群れはどのような行動を取ると思いますか?」

 

「あっ・・・」

 

ルルネが言葉を漏らすのと同時に三日月がアイズに言う。

 

「つまりあのモンスターは別の場所に向かう最中だったわけって事なんじゃない?」

 

「じゃあ・・・」

 

自分達の目的であるモンスター大量発生の原因はそれが原因だという事になる。

なら、この壁の向こう側にある物は?

アイズのその疑問に三日月はただ黙ったままだった。




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