ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第十七話

「・・・アスフィ、ここからは?」

 

「・・・行くしかないでしょう」

 

尻込みするルルネに、アスフィは溜息をついた。

乗り気ではなかったルルネも「だよな」と肩を落として、すぐに意識を切り替える。

 

「一応、『門』みたいなものはあるけど・・・」

 

肉壁の中心には花の花弁が折り重なったような『門』、あるいは『口』のような器官がある。

直径は大型級のモンスターでも優に通り抜けられるほどだ。これが出入り口だとしたらいずれ開口する瞬間が訪れるかもしれないが・・・微動だにする気配もない。

 

「やはり、破壊するしかなさそうですね」

 

出入り口を含め、分厚そうな構造の肉壁をアスフィは注視する。

 

「植物を思わせる外見から、炎が有効そうですが・・・」

 

「斬りますか?」

 

「大人しそうな顔してさらっと物騒な事をいうな、剣姫・・・」

 

アイズは鞘から剣をひきぬくと、ルルネが呆れた視線を送ってくる。

 

「こいつを壊すなら俺も手伝おうか?」

 

三日月もそう言うが、アスフィは首を横に振る。

 

「いえ。ここは一度、魔法を使います」

 

彼女に命じられ、小人族の魔導士がパーティの前に出る。

みなに見守られる中、アイズの腰ほどの小柄な少女は小人族用の短い金属杖を構え、詠唱を始めた。

かぶっているとんがり帽子がぴょこぴょこと揺れる。

魔法円を展開する上位魔導士は、静かに魔法名を口ずさむと、炎の大火球を放った。

着弾と同時に、轟音と衝撃、そして炎上する。

燃焼音と共に火の粉を散らしながら、出入り口に当たる『門』の部分が完全に焼け落ちた。

肉壁は焼け焦げた跡を残し、ぽっかりと口を開ける。

そしてアイズ達は内部へと侵入した。

 

「壁が・・・・」

 

気色悪い音を立てて盛り上がっていく────修復していく肉壁に、ルルネが振り返る。

壁は時間をかけて完璧に塞がってしまった。

まるで自分達を閉じ込めるかのような動きに、ルルネと団員達は口を閉ざす。

 

「脱出出来なくなったわけではありません。帰路の際は、また風穴を開ければいいだけのことです」

 

呼びかけたアスフィの声に、ルルネ達はすぐに平静を取り戻したようだった。彼等と並んで、アイズもあらためて周囲を見回す。

まるで生物の体内を思わせる中に、アイズは壁の一角に歩み寄った。

《デスペレート》を持ち、壁面を斬りつける。

あっさりと切れた割れ目の先には、石壁────24階層本来の壁が視認できた。

 

(“何かが“、ダンジョンの上に被さっている・・・?)

 

まるで迷宮にこの肉壁が取り付いているみたいだと、アイズは思った。

 

「・・・ん?」

 

三日月が唐突に開けた通路でしゃがみ込む。

アイズも三日月の不自然な行動に首をかしげていると、三日月が言った。

 

「モンスターがここで死んでる。すぐ近くにいるよ」 

 

三日月は灰の中から『魔石』の代わりに『ドロップアイテム』を見つけ出し、アイズへと投げてバルバトスを展開してから上を見上げる。

そのドロップアイテムをキャッチしたアイズは同時に、頭上を見上げた。

 

「────上」

 

アイズの呟きと同時に────

 

『オオオオオオオオオオオオッ!!』

 

破鐘の咆哮とともに迫る敵を前に、アスフィは叫ぶ。

 

「各自、迎撃しなさい!」

 

多数の巨躯の降下を回避し、アイズ達はモンスターに斬りかかった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「レヴィス、侵入者だ」

 

赤光に照らされる不気味な大空洞で、男の警告がもたらされる。

 

「モンスターか?」

 

「いや、冒険者だ」

 

赤髪の女、レヴィスの問いに、白ずくめの男は「やはり来た」と憎々しげに答える。

二人の周囲では、ローブに身を包んだ者達がにわかに浮足立っていた。侵入者の存在を危ぶんでいるのか、互いに声を張り合いながら慌ただしく駆けずり回っている。

その光景を、レヴィスはくだらなさそうに一瞥した。

 

「相手は中規模のパーティ・・・全員手練のようだ」

 

肉壁の一部、月の表面を思わせる蒼白い水膜には、食人花と交戦する一団が映し出されていた。

興味の欠片も示していないレヴィスだったが────水膜の中に美しい金髪金眼の少女が現れた瞬間、目の色を変える。

座り込んだその場から、素早く立ち上がった。

 

「『アリア』だ」

 

「なにっ?」

 

彼女の呟きに、男も反応した。

レヴィスの緑色の瞳がアイズに食いついているとわかると、彼の口唇は解せないと言うように歪む。

 

「【剣姫】が『アリア』・・・?信じられん」

 

「確かだ」

 

短く返す赤髪の女は先ほどまでと打って変わって雰囲気を豹変させていた。

 

「私が行く。『アリア』の周りを奴等から引き剥がせ」

 

「・・・わかった。だが、あの“白いの“はどうする?アレを引き剥がすのは相当キツイぞ」

 

「やれ。無理矢理でもな」

 

返事を待たず背を向けて、女は大空洞から動き出す。

放たれる血のごとく赤い光が、彼女の姿を禍々しく照らし出した。




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