「あらかた片付けましたね・・・」
長剣をサポーターに投げ返しながら、アスフィは周囲を見回す。
後方では最後の一体をちょうどルルネが仕留め終えたところだった。灰の山から魔石を割ったダガーを回収し、ふぃ〜、とアイズ達のもとに戻ってくる。
「落ち着いて戦えば、何とかなるもんだなぁ」
「攻撃が通らなかった時はどうなるかと思いましたが・・・まぁ良しとしましょう」
街襲撃時、食人花に苦い記憶を植え付けられていたルルネは、パーティの連携のもと自信を取り戻したようだった。
アスフィも爆炸薬の消費を気にしつつ、戦果を前向きに捉える。
「聞いてはいましたが、あれが例の新種のモンスターですか・・・」
「固くて、速くて・・・しかも数が多い。やになるよなー」
そう呟く二人の話を聞きながら、アイズは意識を周りから自身へと切り替える。
(食人花が出た・・・なら、この先に)
待ち受けている可能性は高い。
食人花のモンスターとともに連想される赤髪の女の姿のが、頭の中を過ぎる。
ぎゅっと握られる左手。
そんなアイズに三日月は口を開いた。
「少し力を抜けば?ずっとその状態だと疲れるよ」
「・・・え?」
三日月の言葉がアイズの耳に入る。
振り向いたアイズに対し、三日月は言った。
「ちゃんと休める時に休んどかないと、全力で戦えないし、ミスも増える。そんなに突き詰めてると肝心な時に戦えなくなるから、今は休んだら?」
三日月の言葉にアイズは黙り込む。確かにその通りなのかもしれない。
「わかった。じゃあ、少しだけ休むね」
「じゃあ、前線は俺がやるね」
「うん」
アイズは頷いて、パーティの後ろ側へと下がる。
と、再び岐路に差しかかり、パーティの歩みが止まった。
広く左右に開けた二つの道を前に、ルルネがアスフィの指示を仰ぐ。
「アスフィ、今度はどっちに────」
その時だった。
ルルネの声を遮り、ずるずると体躯を引きずる音を響かせながら、左右の道からモンスターの毒々しい花頭が現れる。
「両方からかよ・・・」
「違う。後ろからも来るよ」
「げっ」
三日月の声にアイズは振り向くと、そこにも食人花の花頭が覗かせていた。
左右後方、三方向から挟み撃ちだ。天井と地面を這って出現する多くの食人花に、【ヘルメス・ファミリア】の他団員も顔を顰める。
退路が完璧に断たれた。
「・・・・【剣姫】に三日月、片方の通路を受け持ってくれますか?」
「わかりました」
「わかった」
アスフィの要請をアイズと三日月は了承する。
ただ一人第一級冒険者であるアイズと三日月に片側の通路の敵を押さえ込んでもらい、その間にニ方向からのモンスターを殲滅する作戦だ。
間もなくアスフィの鋭い号令によって、総勢十六名の冒険者達は飛び出した。
後方に八、右に七、そして左にアイズと三日月が接敵する。
そして、誰よりも早くアイズの《デスペレート》が食人花を斬り伏せた────次の瞬間。
見計らったかのように、天井より巨大な柱が彼女のもとへ落下した。
「っっ!?」
すぐさま反応したアイズは緊急退避する。
地面を蹴りつけ後転飛び。ドンッ、ドンッ、となおも発射される巨大な緑柱を次々に回避し続け、気が付くと。
左方の道が完璧に塞がり、アスフィ達と隔離されてしまった。
「分断!?」
「チッ。まずいな」
極厚の壁と化した柱の奥からルルネの悲鳴が届く。
三日月も短く舌打ちをしながらそう呟く。
アイズもまた金の双眸を見開いた。通常のダンジョンではありえない罠に、離れ離れになった仲間と同様驚愕に見舞われる。
────引き離された!
アイズはすぐさま残る食人花を斬り伏せると、三日月と合流しようと駆け抜ける。
だが────
「!!」
三日月の足元から“柱が三日月を呑み込むように伸びてくる“。
「ッ!?三日月!!」
アイズが手を伸ばすが三日月には届かず、三日月の姿はそのまま柱の先へと消えていった。
「ッ!」
アイズは壁にすぐさま駆け寄り、壁の奥へと閉じ込められた三日月を助けようと壁を破壊しようとする。
だが、放たれた獰猛な殺気が、それを許さなかった。
強烈な戦意に、アイズは肩を揺さぶられる。
振り返り、薄闇が続く通路の奥を見つめる。
あの暗がりの先にいる、無視できない、何より覚えのある圧倒的な存在感。
薄闇の通路の奥から闇を切り裂いて歩み出てくる人影が一つ。
「────そちらから出向いてくれるとはな。願ったりだ」
そうして現れたのは、赤髪の、調教師の女だった。
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