ソード・オラトリア・オルフェンズ   作:鉄血

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第十九話

「・・・貴方は、ここで何をやっているの?」

 

アイズの問いに赤髪の女は答える。

 

「さぁな」

 

「これは、このダンジョンは何?貴方が作ったもの?」

 

「知る必要はない」

 

視線を絡め合い、油断なく構えながら、アイズは相手の様子を窺う。

あたかも追い剥ぎをしたかのように、どこか傷んだ形跡のある戦闘衣。防具を始め、武器は何も携行していない。

こちらの質問に対し、やはり相手はまともに取り合う気はなさそうだった。

以前遭遇した時と似たように、ばっさり切り捨ててくる。

 

「お前は黙って付いてくればいい。会いたがっている奴がいる。来てもらうぞ、『アリア』」

 

その言葉に、アイズは視線を鋭くした。

 

「私は、『アリア』じゃない」

 

否定するアイズに、女は怪訝そうな顔付きをする。

 

「『アリア』は、私のお母さん」

 

「世迷い言を抜かすな。仮に・・・お前が『アリア』本人でなくとも、関係ないことだ」

 

言葉を交わす中、アイズは身を乗り出す。

 

「貴方は、どうして『アリア』を知っているの?『アリア』の何を知っているの?」

 

「名を知っているだけだ。『アリア』に会いたいと何度もせっつかれてな・・・うざったらしい声に従って探していれば、お前に会った。それだけだ」

 

要らない言葉を吐いた、と言うように彼女は会話を切り上げる。

 

「無駄な話は終わりだ。お前を連れていく」

 

そう言って、女は地面に片手を“突き刺さした“。

ズズッ、と水が巻くような音が発せられる。

やがて勢いよく手を引き抜くと、赤い液体を撒き散らしながら長い棒状の塊が吐き出された。

柄が存在する、紛れもない“長剣“。

口を閉ざすアイズは、そんな長剣に視線を向けながらも、静かに身体から余計な力を抜いた。

三日月の事が心配だったが、今はその事に割ける思考はない。

臨戦態勢の強敵を前に、己の全てを愛剣へと委ねる。

もし─────勝てなかった時の〈ヴィダール〉の力を使う事も考慮に入れて、アイズは剣を構える。

 

「行くぞ」

 

瞬時、女は突撃した。

赤い髪が血飛沫のような斜線を描きながら、長剣を振り下ろす。

アイズは真っ向から受け止め、《デスペレート》で弾き返した。

響き渡るサーベルの金属音と鉄塊を殴りつけたような鈍い音。

だが、その感触にアイズはいけると思った。

一発一発が三日月の攻撃より重くなく、それでいてバルバトスと違ってテイルブレードが飛んで来ないぶん随分とやりやすい。

激しく打ち合う最中、女の表情が怪訝なものに変わる。

眉を曲げていた彼女にアイズは切り払いの一閃。

体勢を崩すほど、長剣が大きく弾かれる。

 

「なっ!?」

 

動揺する暇も与えず、アイズは無言で追撃する。

アイズの連撃を浴びる女はぎりぎりの防御を積み重ね、次の一撃で堪らず大きく後退した。

ようやく勢いが止まった時、女は呆然とした。

そして鋭い眼差しで依然自分を見据えてくるアイズに対し、次には、盛大に眉間を歪める。

 

「【ステイタス】を昇華させたか・・・・!?」

 

十日前とは見違えたアイズの能力に、相手もとうとう気づいたようだった。

 

「あぁ、面倒なッ・・・・!!」

 

吐き捨てられた言葉には、苛立ちが滲み出ていた。

忌々しそうに睨みつけてくる女に対し、アイズは静かに言い返した。

 

「貴方に負けたくないし、三日月に追いつきたいだけ」

 

己の意思を表すように、アイズは愛剣の切っ先を向けた。

 

「ちッ・・・・・」

 

舌打ちをし、長剣を構え直す女と睨み合う。

常に冷淡であった表情を打ち消し、相手はこちらを明確な敵として鋭い視線の矛で射抜いてくる。

そんな二人の睨み合いが続く中、“地面が揺れた”。

 

「・・・・・?」

 

「・・・なに?」

 

揺れる地面にアイズと赤髪の女は顔を壁へと向ける。その壁からは─────

 

スブッ!!

 

壁の中から“巨大過ぎる大剣“が突き出してきた。

そして─────

横に振られる巨大な幅広の大剣。そしてその先から現れたのは─────。

 

「邪魔」

 

そう言ってダンジョンの壁をぶち破って現れたバルバトスの姿がそこにあった。




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