隻腕の赫王とお人好し   作:疾風怒号

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明けましておめでとうございます、疾風怒号です。

新年一発目は幕間、又の名をお茶濁し。ふんわり雰囲気で楽しんで頂ければ幸いです。それではどうぞ!







幕間・其の二
赫王の独り言、或いは手紙・前


 

 

古代林狩猟区、第六エリア。一人の狩人を取り囲む複数体の鳥竜が騒いでいた。ぎゃんぎゃん、ぎゃあぎゃあと喧しく、子供かチンピラのように囃し立てる。

 

対して囲まれている狩人は、あくまでも沈黙を保ったまま腰を落としていた。以前は鎧らしい堅牢な装甲にすっぽりと覆われていた脚部は、地面を掴み易いよう薄手だが靭性に長ける貫と脛当てに分割され、腰に懸架した大太刀に添えられた隻腕にも同じような改修が加えられている。

 

鎧には元々の燃え立つシルエットを損なわないまま全身に加工が施されているようで、僅かに身動ぐ度に全てのパーツが音もなく可動する様は、まるで身体と一体化しているかのようだ。

 

本来左腕があるべき、がらんとした空間を包む黒い布は、得物が鞘越しに発する熱に煽られてふぅわりと浮き上がる。握り締められ、今は微動だにしないその細身の刃に一体どれ程の熱量が閉じ込められているのか……。

 

 

慌てる事も、動く素振りもない人間(えもの)を見てより一層の騒ぎ声を上げた鳥竜を、人は『マッカォ』と呼ぶ。若葉色の体色と赤い頭部から生えた真っ黄色の飾り羽、第三の後脚として機能する発達した尻尾が特徴で、この古代林では一般的な群れを成す捕食者だ。そして包囲網の奥で一際大きな叫びを上げるのが、群れのボスである『ドスマッカォ』。 他の個体と比べて一回りも二回りも大きい体躯に飾り羽の王冠を揺らし、忠実な部下を飛び掛からせるタイミングを今か今かと見計らっている。

 

本来ドスマッカォは統率者としての力が弱く、狩りに於いても粗雑な連携しか取れない種とされているがこの個体は違った。多くの群れを吸収して部下を従え、時には敢えて外敵と一騎討ちを演じる事で実力を誇示し、特に忠誠心に優れる古株の個体を常に侍らせるまでの力を得た老獪な個体が彼だ。

 

故に依頼を受けた狩人は一切の油断なく構える。彼の一党は大きく()()()()()のだ、肥大した鳥竜の群れは、時にこうして環境を乱す原因となり得る。その証拠としてここ数ヶ月の古代林では草食種の個体数が減少傾向にあり、連鎖して行動範囲を拡大した捕食者同士の衝突が激化、近隣の集落や調査に出掛ける龍歴院職員にも被害が出始めていた。

 

人がその身一つで竜と相対するなど、凡そ正気の沙汰ではない。しかし、()()()()()()狩らねばならず、そこに情け容赦がある筈も無く。短く吐くは鋭い呼気、長の一声で跳び上がり襲い掛かる先頭四匹の影を見とめては腰を捻り、火花散らして鯉口が鳴いた。

 

 

「ゼアァッ!!!!」

 

 

地を叩く踏み込みと同時に隙間風じみた音を残して青色混じりの炎が奔り、空中に浮かぶ四つの痩躯を焼き焦がす。斜めに弧を描いて振り撒かれた火焔を突き破って、視界を奪われたまま立ち尽くすドスマッカォに紫電が迫った。だが跳狗竜も然る者、グローブ状に発達した前脚を交差させて剣尖を受け流す。木にナイフを突き立てたような異音。

 

確かな、しかし命を奪うには余りにも僅かな出血が飛び、彼は大きく跳び退いた。

 

細長い瞳孔がきろりと狩人を観察する。噴き出した火焔、赤熱し未だ残滓を纏う()、視界を奪われていたとは言え一瞬で距離を詰め、間合いに入り込んだ健脚、そして全身を焼かれて未だに転げ回っている部下達が映り、すぐさまドスマッカォはけたたましい号令の声を上げた。

 

声を受けて比較的軽傷だった二頭が、残った二頭をそれぞれ咥えて引き下がる。即ち撤退、徒らに戦力を消費するよりも、自らが直接討ち取った方が良いと判断したらしい。

 

 

「好都合だ」

 

 

それを見て刀を収めて発された呟きの意味を、ドスマッカォが理解する事は無く。狩人は幾度かの改修を経て、大鉈のように重厚なシルエットに変化した鞘を腰のラックから取り外して上段に構えた。 がちんと響いた金属音は、きっと開戦の合図だったのだろう。暫くの間、だだっ広い平原に土を抉る音が鳴り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各可動は問題無し、大殿油の加熱システムは……少しムラがあるか、酸素ビンは良い感じ、斬れ味も想像以上、寧ろ私の腕が追い付いていない…………と」

 

 

龍歴院のとある一室、整備作業を終えた装備が並ぶ一室に人影があった。隻腕の肘で器用に紙を押さえ、つらつらと文章を書き込んでいく。微妙にインク染みを作りながら書かれたそれを眼前に掲げて一通り眼を通し、満足したのかベッドに身体を投げ出した。

 

 

「しかし、よくも私の思いつきを形にしてくれたものだな、ベルナの爺様は。

 その分値は張ったが……、まぁ、どうせ使い道のない金だ、せめてぱっと使うのがいいだろう」

 

 

照明としては些か心許ない天井のランプに手を翳しながら、狩人は独り言を零し続ける。どうせ誰にも聞かせる事も無いと放置していたら、いつの間にか染み付いた癖だ。直す気も無い上に、考えを纏めようとすれば便利なのだ、直す意味も見出せない。それに一人きりの沈黙は、きっと私には耐えられない。

 

 

「イキツギ藻は何とか取り寄せるとして、問題は籠手だな、今日一日でインナーが焦げてしまった。…………"彼"の翼膜が残っていたな、明日持って行こうか……、太刀の調整にも時間が欲しい……あぁ駄目だ、早くバルバレに行きたい!墓参りも!」

 

 

こうしている間にも時間を無為に消費している気がして、立て掛けてあった得物を握って軽く振る。吸い付く様な握り心地、並の太刀の二倍近い重さに、少しだけ心が落ち着いた。

 

 

「そういえば銘を考えろと言われていたな、銘か……、確かに、いつまでも『これ』では格好が付かない。 そうだ、手紙がてらノイルに聞こう、うむ、それが良い」

 

 

『善は急げ』と巷では言う、ならば私もそれに倣おう。さて、封筒はどこにやったか…………。

 

 

 

 

 

 

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