隻腕の赫王とお人好し   作:疾風怒号

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色々書きたいことが渋滞している新章です。短いプロローグですがお楽しみください。







往クモ帰ルモ合縁奇縁
8:いざ往くも、影分かつ


 

 

 

 

 

「旅行?」

「ああ、リアが帰ってくるのが一月遅れるからな。……墓参りも兼ねて、ユクモに行ってみようかなって」

「ミセルさん……ですか」

「上位ハンターになったら行くって、決めてたからな」

 

 

珍しく雨模様のバルバレ、集会所に併設された食堂兼酒場も今日ばかりはいつもの喧騒は鳴りを潜め、ほどほどに賑わっていた。腰から下に防具を、上半身に木綿の服と垂皮竜のポンチョを纏ったノイルの背中には、レッドウイングを含めて大きな荷物がくくられている。

 

 

「もう三年になるんですね」

「『まだ』三年だ、何も出来ちゃいない。アイツの太刀も返しにいかないと」

「太刀と言えば、お揃いだったのに、打ち直して良かったんですか?」

「捨てた訳じゃない、大丈夫だ」

 

 

レッドウイングと同軸に括り付けられた二振りの太刀、片方は一虎刀、もう片方は、半ばで折れ飛んだ抜き身の鉄刀。長く磨かれず曇った毀れ刃を指先で撫ぜてノイルは振り返った。

 

 

「アイツの言葉通りだけど、俺の為でもある。いつまでも縛られてる場合じゃないからな」

 

 

その言葉に受付嬢が応えなかったのは、彼が思う以上に張りつめた声音を感じ取ったからだろう。

 

 

「……良い心がけですけど、ノイルさんはそれより手荷物の心配をするべきですね」

「な!?」

「知りませんよ、そんな大荷物持ってギルドカードとか落としても」

「あのなぁ……、ああもういい!行ってくる!」

「お土産期待してますねー!」

 

 

投げやり気味に歩き出し、背中越しに手を振ったノイルを見送って、受付嬢は細く息をついた。()()()()()()()に関わることとなれば、普段の気さくさが嘘のように彼は意固地で、少し自己中心的になる。

 

 

「あんなことされたら、私が薄情みたいじゃないですか」

 

 

普通、狩人は同業者が狩場で死んだ『程度』のことを引き摺りはしない。友人だろうが恋人だろうが、それはそれ、これはこれ。いつまでも未練や約束を抱えて生きようとするような奴は、どこでも早死にするものだ。口約束を本気にして、ああやって墓参りまでしようとするのは、やっぱり彼がどこまでも『お人好し』だからなのだろう。

 

 

「ほんと、ミセルちゃんは幸せものですね」

 

 

大陸中、延いては世界中にその名が知られる温泉地、ユクモ村。ほぼ年中湯煙と喧騒の絶えない通りは、行き交う人々でごった返している。

 

 

「悪いね兄ちゃん!こんな重いもの持たせて!」

「いやいや、上に向かうついでだよ」

「上ってことは兄ちゃん、旅行かい?」

「ああ、ユクモと言えば温泉だろ?」

 

 

荷運び手伝いの駄賃に頂いたメンマの小瓶を右手で弄びながら、折れた太刀を腰に括ったノイルが歩いていく。発酵させた特産タケノコの塩漬けを水に戻し、肉と炒めて食べると絶品なのだと力説されたのを思い出し、ふとほろ苦い笑みが零れた。

 

 

 

###

 

 

 

「お前さん、陸路で一人旅なんて珍しいなァ」

「そうだな、私自身初めての試みだよ。いい土産話が出来た」

「このままユクモに向かっていいのか?」

「ああ、私はそこで降りるよ」

 

 

緋色のハット、同色の服装。肩に猛禽の類を止まらせた壮年の男がポポがゆったりと牽く車内に振り返る。片腕と脚で器用に太刀を磨く人影は視線に気付いたのか、不思議そうに首を傾げた。赤い鎧、長大な太刀、垂皮竜のマントとフードで身体を隠すように覆った若い狩人だ、下顎左方から伸びる爛れた傷痕は潜り抜けた死線の証明だろうか、僅かに除く瞳と低い声からは性別を判別するのは難しい。

 

 

「どうかしたのか?」

「いや、お前さん、ユクモからは歩くつもりか?」

「まさか、飛行船でバルバレに帰るつもりだ」

「おおそうか!近頃バルバレにも繋がったんだったか!」

 

合点がいったと頷いた男に、人影が聞き返す。

 

「ああ、あと半月で着かないといけないから……、貴方たちは?」

 

目深に被ったフードの奥からの声に、男は顎を擦って視線を上向ける。

 

 

「そうだなァ、一先ずユクモでポポを休ませてからバルバレに向かって……、そこで二人仲間と合流して、その次はナグリ村に____」

 

 

男がそこまで言いかけたところで、突然車体が大きく揺れた。思わず尻餅をつきそうになった男の手を、人影が掴んで支える。

 

「どうした!」

「ジャギイだ」

 

男の問いにポポの手綱を握っていた竜人が応える。幌の隙間から様子を窺えば、なるほど特徴的な紫の影が見えた。が、どうにも様子がおかしい。狩人の耳に届く足音が『多すぎる』。普通、少なからず整備された道に迷い出てくるジャギイの数など精々が2~3匹、それも群れの中で特に若輩の、経験の浅い個体に限られる。だがこれは違う、茂みの中から更に近付いて来る。

 

「ポポを走らせるんだ!」

 

男と竜人の間にあった逡巡を切り裂くように狩人が叫ぶ。同時に懐から取り出したナイフを構え、ポポの巨体を睨みつけていた三匹の内、進路を塞ぐ一匹に投げ付けた。

 

「群れが来る、早く!」

「……わかった」

 

短く答えて、竜人は手綱を強くしならせた。走り出す前に一拍置いて放たれた投擲物は狙い違わずジャギイの足元に突き立ち、大きく飛び退かせた。その隙を突くようにポポの蹄が地面を蹴った。一瞬遅れて茂みから飛び出して来た数頭のジャギィがポポを追うが、投げナイフを警戒してかやや遠巻きの追跡だった。そのままその姿が見えなくなったことを確認して、狩人は太刀に添えていた手を離した。

 

「ここいらで停めるつもりだったが……、このまま村まで行く」

「だなァ。日暮れまでに着けるか?」

「どちらにせよ、此処に留まるよりはいい。お前も、それでいいか?」

 

竜人の言葉に狩人が首肯する。ポポの手綱を握る手に力を込め、竜人もまた表情を引き締めた。

 

 

 

 

 

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