「八神君おはよー!シャーリーちゃんもおはよー!」
「おう、おはよー。今日も元気だな相川」
「えへへ~。元気なのが私の取り柄よ!」
「おはようございます、清香」
月曜日の朝、教室にやって来た和麻とシャーリーに清香が声をかける。二人が挨拶を返していると、ほかのクラスメイト達もやってきて口々に和麻に挨拶をする。それが終われば、和麻は彼女たちのおしゃべりに混ざる。
「ねえねえ、八神君は転校生の噂聞いた?」
「何でも二組の生徒で中国の代表候補生なんだって」
「転校生?中国?……ああ、そう言えば」
和麻は今朝、起き掛けに流無が行っていた話を和麻は思い出す。
中国から代表候補生がやって来ると。しかも、第三世代ISの専用機持ち。
この不自然な時期に転入というのは、何か裏があるのではないかということで注意するよう言われた。例えば、男性操縦者の籠絡とか。
和麻が今朝の出来事を思い出していると、何やら教室が慌ただしくなる。
「何てこというのよあんたは!?」
「……何だあのちんちくりんは?」
ドアの前で叫んでいる小さなツインテールの少女。彼女と話をしているのは一夏だった。
「あれが噂の転校生みたいだよ」
「……あれが?中国の候補生?」
隣にいた静寐の言葉に和麻は目を見張る。どう見ても、あれが自分たちを籠絡できるような女子には見えない。が、
「へーえ……」
今、一夏と言い争いをしている中国の候補生を見ていると何やら無性にからかいたくなってくる。精いっぱい背伸びして強気にふるまっている様が、なにやら構ってほしいのに素直に成れない子猫に見えるのだ。そういったやつをからかってしまうのが、和麻の
和麻はゆっくりとした動作で、一夏と言い争いをしている中国の候補生に近づく。
言い争いをしている二人は近づいてくる和麻に気が付かない。
そして、ついに和麻は中国の候補生の後ろに回り込んで、右手でヒョイッとその首根っこを掴んで持ち上げる。
「うぇ!?ちょちょ?一体何!?」
手足をバタバタさせる中国の候補生を右手一本で持ち上げる和麻に、クラス中がおおっと驚嘆の声を上げる。
そのまま和麻は中国の候補生をくるりと自分の目の前に向かい合わせる。
その時、和麻と目があった中国の候補生――凰鈴音は自分の体に悪寒が駆け巡るのを感じた。
目の前の男は危険だ。いくら専用機を持っている候補生だろうが、勝てるビジョンが浮かばない。自分にとって、もしかしたら最大最強最悪の相手かもしれない。
ニヤアァーと和麻の口が三日月型に歪む。
「ひぅっ!?」
その顔に悪寒がさらに強くなる。「あわわわ……」と言葉にならない声が口から漏れ出し、嫌な汗が噴き出す。
そんな鈴音の様子を見て満足した和麻は、彼女を教室のドアに運んでやり、そこで下ろす。
「ほら、もうすぐSHRの時間だ。早く戻らないと
「誰が鬼だ誰が」
和麻の言葉に続けられた声に、鈴音が恐る恐る振り向くと、そこにはいつの間にか教室の前までやってきていた千冬の姿があった。
「ち、千冬さん……」
「織斑先生だ。SHRの時間だ。早く自分の教室に戻れ」
「は、はい。また後で来るからね!逃げないでよ、一夏!」
一言言い残して教室を後にする鈴音。
「お前も速く席に着け、八神」
「了解」
和麻は千冬に言われたとおり、席に戻った。
午前の授業が終わり、昼休みに入る。
「お前の所為だ!」「あなたの所為ですわ!」
「何でだよ……」
昼休みが始まるなり箒とセシリアが一夏へ突っかかる。
授業中、彼女は何度も千冬や真耶に注意されていた。見ている分には面白かったのだが、それを他人のせいにするのはどうかと思う。考え事をするにしても時と場合をわきまえろと。
それにしても、最近セシリアは一夏への遠慮という物が無くなってきたなと和麻は思う。
あのバトルロイヤルの後、彼女はよく一夏の指導を買って出ている。そのことに箒は激しく不満を覚えており、よく二人は言い争いをしている。大抵はセシリアの理路整然とした正論に言い負かされているのだが。
「見ている分には面白いよな」
「何が~?」
和麻の独り言に隣を歩いていた本音が反応する。
先を歩く一夏たちを眺めながら、和麻とシャーリーは本音、清香、静寐の最近よく一緒に居ることの多い三人と食堂に向かっていた。
「あいつらのやり取り。見た感じ篠ノ之よりもオルコットがリードしているな」
「あー確かに。どちらかというとオルコットさんのほうが専用機持ちで一緒に訓練しているし」
「でも、今朝やって来た二組の転校生の子も織斑君の知り合いみたいだけど」
「それはもうすぐわかるはずだぜ」
ほどなくして食堂に到着。
食事のためにやって来た大勢の生徒たちにまぎれて、食券を買うために券売機の前に並ぶ。
順番が回ってくるのを待っていると、一夏たちの番のあたりで何やら騒がしくなった。
見れ見れば、食堂の職権販売機の前に噂の転校生である凰鈴音が立っており、一夏たちと話をしていた。
だが、そこで話をされると食券が出しにくい。
和麻はそれを言いに行こうとするが、その前に一夏が注意して彼女をどかせたのでやめた。
昼食を注文し、トレイを手に和麻たちはテーブルに腰を下ろす。
そのすぐ隣の席には一夏たちが座り、話声がはっきり届く。
話の内容によると、なんでも凰鈴音こと鈴は一夏の幼馴染で、箒がIS開発者の関係者として保護させるために要人保護プログラムで転校させられた直後に、一夏の通う小学校に転校してきた。一夏曰くセカンド幼馴染。ちなみに箒はファースト幼馴染。
幼馴染にセカンドもファーストもないだろうと和麻は突っ込みたくなったが、一夏がどこかずれているのは今更である。
それから、一夏が鈴の家で食事をした云々の話になってから、鈴が一夏の訓練を見るだの言いだしたり、其れに箒たちが怒って食って掛かったり、セシリアが自己紹介をしたら相手にしていない風に返されて絶句したり。
傍から見れば随分愉快な食事風景だったが、一夏が和麻の名前を呼んだ。
「おーい、和麻。お前もこっち来いよ」
どうやら一夏は、箒たちを自己紹介させた流れで和麻も自己紹介させたいらしい。
だが、折り悪く和麻のスマホが振動し、メールが届いた。
それに目を通した和麻は一夏の言葉を無視してさっさと食事を食べ、一言断ってから食堂を後にした。
「こんなところに呼び出して、どうしたんだよ?」
和麻はIS学園の整備室に足を運んでいた。
アリーナに併設された其処はISのパーツや工具が並べられ、いくつかのハンガーには学園に配備された訓練機ISが置いてある。
目の前には呼び出した張本人である刀奈が、扇子を開いて優雅に扇いでいた。
「あれよあれ。シャーリーちゃんの定期健診よ。一応あなた達は
「ああ、確か何とかグループだっけ?」
和麻の所属は更識家が傘下に置いている企業ということになっている。
人型ISであるシャーリーと貴重な男性操縦者を取り込んだことに各国からの避難が集中したのだが、下手なところに所属させてまたさらわれた時に対処できるのか?責任を取ることができるのか?という、半ば脅しのような交渉で跳ね除けた。
「あなたね。自分が所属している企業くらい覚えたほうがいいわよ。いい?あなた達の所属している企業の名前は――」
「――沙々宮グループ」
刀奈の言葉を掻っ攫ったのは一人の小柄な少女だった。
刀奈と同じ水色の髪をした小柄な少女だった。もっとも目はくりくりと大きく、あどけない顔立ちをしている。どちらかといえば本音に似た雰囲気を纏っている。
ぶかぶかの白衣を身に纏ったその姿は、人形のような愛らしさがある。
「あ、紗夜ちゃん。遅かったわね」
「お布団には勝てない」
ふぁ~と大きく口を開けて欠伸をする紗夜。寝不足なのか目をクシクシと擦る。
「刀奈。誰だこいつ?お前の妹か?」
和麻は紗夜の髪の色からそう尋ねる。
「いいえ。紗夜ちゃんは私の従妹なの。紗夜ちゃんのお母さんが私のお母さんの妹さんでね。昔からよく遊んだ仲よ」
「うん。ちょお仲良し」
「ふーん。で、その仲良しの従妹さんが何でここにいるんだ?」
「それは紗夜ちゃんがあなたの叢雲の整備責任者だからよ」
その言葉に和麻は驚いて紗夜を見る。どう見ても年下にしか見えないこの少女が、叢雲の整備責任者と言われて驚くなという方が無理だ。
「そうそう。紗夜ちゃんは二年前に大学を飛び級で卒業した才女よ」
「は?」
「しかも、今では沙々宮グループのIS武器開発における開発主任よ」
「いぇい」
刀奈の説明に紗夜がピースをする。
刀奈がこんな冗談を言うはずないので、本当の事なのだろう。
それにしても、更識の系譜は化け物だらけなのか?
最年少の国家代表の双子に、目の前の天才研究者。規格外ばかりだ。
「さて、時間が無いから早くやりましょう」
そう言えばそろそろ昼休みが終わるころだと気が付いた和麻はシャーリーに声をかける。
シャーリーがハンガーに入り、その姿が光に包まれると次の瞬間には漆黒のIS――叢雲が鎮座していた。
「和麻君はもうすぐ授業でしょ?放課後にまたここに来てくれればいいわよ」
「分かった。シャーリーのこと、頼んだぜ」
刀奈と紗夜にそう言った後、和麻は整備室を後にした。
放課後。和麻は整備室に向かうためにアリーナの近くまで来たのだが、その時アリーナの中に入る一夏とセシリアの姿があった。そして、その後ろをちょこちょこついていく鈴の姿も。
ふむ……。
和麻は少し考えると鈴の背後に回り込み、
「おい」
「ひゃ!?」
声をかけると鈴は驚き飛び上がる。
そして、振り返って和麻の姿を目に納めると、警戒するように後ずさる。
「あ、あんたは!?」
「何してんだ、お前?織斑のストーカーか?」
呆れた風に言う和麻の言葉に、自分が一夏を尾行していたところを見られたことに気が付いた鈴は顔を赤くする。
「だ、誰がストーカーよ!」
「さっきから織斑たちの後ろをこそこそつけてただろ?」
「そ、それは……」
和麻の指摘にしどろもどろになる鈴。その様子に和麻はますますこの目の前の少女をからかいたくなってきた。
だが、流石に用事があるから仕方ないとばかりに教えてやる。
「ちなみに、織斑は毎日このアリーナで使用時間ぎりぎりまで訓練をしている。終わったあたりで更衣室にいるあいつに飲み物でも差し入れしてやれ」
「え?」
「じゃあな」
そこまで言うと和麻はその場を後にしようとする。そんな和麻に鈴は慌てて「あ、ああありがと!」と言った。
「来たわね」
整備室に入った和麻を出迎えたのは刀奈だった。そばには紗夜もいる。
「機体に問題は無し。武器もオールオッケー。でも、新しい武器はインストールできなかった」
最後のあたりで肩を落とす紗夜。
ふと彼女の後ろを見てみれば、そこにはドデカい大砲が転がっていた。
「沙々宮式荷電粒子砲ヴァルデンホルト。紗夜ちゃんが新しく作った武器なのよ」
「まさか、あれを叢雲に入れようとしたのか?」
「……エネルギー収束率と伝導率を従来の荷電粒子砲よりも高めて、連射性能も上げた自信作。データがほしかった」
しょぼーんと肩を落とす紗夜。
「でも、流石にこれは叢雲に合わないんじゃないか?」
「そうよねえ。高機動近接格闘型なんだし、これはどちらかと言うと私向きの武器かも」
そう言うと刀奈は隣のハンガーに自分の専用機を展開させる。
刀奈の専用機『
「紗夜ちゃん。その武器
「わかった」
起き上がった紗夜はトコトコと刀奈のもとに向かい、ディスプレイに何やら入力を始める。
その様子を眺めながら、さてシャーリーはどこだろうと探すとすぐに見つかった。
備え付けられたシートの上でくたりと横になっていた、刀奈たちよりも濃い蒼い髪の小さな体は見紛うことなき和麻の相棒だった。
「どうした?シャーリー」
「マスター……お嫁にいけません」
「お前に一体何があった!?」
柄にもなく和麻は驚きの声を上げる。
え?整備だよな?整備しただけだよな?
混乱する和麻に、作業を終えた刀奈が近づく。
「ねえねえ、和麻君。今から私と模擬戦しない?武器のテストも兼ねてさ」
「え?あ、ああ。俺は別にいいけど」
和麻はちらりとシャーリーに目を向ける。彼女は疲れた様子だったが、何とか起き上がって「大丈夫です」とアピールする。
「じゃ、決まりね」
二人がISスーツに着替えてアリーナに出ると、そこでは一夏を箒とセシリアが二対一でフルボッコにしていた。
一夏とセシリアはそれぞれの専用機を纏っているが、箒は学園の訓練機である『打鉄』を装備していた。
日本の第二世代ISである打鉄は量産機として、世界でも高い評価を受けている。防御を重視した安定した性能に、初心者でも扱いやすい。
両肩に装備された物理シールドに、武器の近接ブレードと鎧武者と言う言葉がぴったり当てはまる。そのため、日本好きの外国人からも人気のある機体だ。
「ほかの生徒は、いないな」
おそらくあの訓練に巻き込まれないように退散したのだろう。
セシリアのレーザー流れ弾の跡がそこらじゅうにあるし、一夏が二人から逃げるためにアリーナをあちこち飛び回っている。
『ちょっといいかしら?今からここで模擬戦がしたいんだけど』
三人に刀奈が通信回線で話しかけて、場所を開けてもらう。
流石に生徒会長の刀奈に逆らうつもりはないのか、三人はアリーナの隅に行く。箒だけは不服そうだが。
「さあ、やりましょうか。和麻君!」
ISを展開する刀奈。右手にはドデカイ
和麻とシャーリーも叢雲を展開。
天叢雲剣を構える。
「それじゃあ、始め!」
刀奈の合図と同時に、和麻は雷撃を飛ばす。
小手調べにと放たれたその一撃は、刀奈の前に展開されていた水のヴェールに阻まれる。
機体の周りを浮遊するアクア・クリスタルから生成されるナノマシンで自在に操作される水は、刀奈を守るように包み込んでおり、和麻の雷撃は全く歯が立たない。
流無と闘った時と同じだ。
叢雲の第三世代兵装『雷禍』は、彼女たちのISと相性が悪い。
遠距離攻撃は水の壁に封殺されてしまうので、残された手は接近戦闘しかない。
スラスターを噴かして刀奈に迫る和麻だが、その進路上にいきなり現れた水球に回避を余儀なくされる。
「ほらほら。まだまだいくわよ!」
ドンドン水球を和麻に向けて放つ刀奈。それを必死に回避する和麻。
あの水球に攻撃力はない。だが、和麻はそれを受けるわけにはいかなかった。
なにせ、もしも水をかぶってしまえば、雷禍によって発生した電撃が自分に流れてしまい、感電する恐れがあるのだ。
流無と闘った時にいきなりそれをやられて、感電。大きな隙を見せてしまいそこから怒涛の連続斬を叩き込まれたのは苦い記憶だ。
「さて、どうするか……」
自分にどんどん襲い掛かってくる水球。それに一発も被弾せず、刀奈に接近しなければ和麻に勝機はない。
和麻はこっそりと左手の中に、小さな黒い球体――投擲用炸裂焼夷弾の
そして、アリーナの上空に飛び上がり、刀奈の上を取る。
水がまるで蛇のように追いかけてくるがそこに向かって
空中で爆発する
黒煙が立ち込める中、和麻は高度を下げてその中に突っ込む。
この程度の煙はハイパーセンサーの前に意味はない。すぐに刀奈の姿を見つけた和麻は斬りかかる。
ガキンッという金属音を上げてぶつかる天叢雲剣とランス蒼流旋。二人がつばぜり合いをする中、和麻は刀奈に水を呼び戻される前に雷禍の電撃を流そうとして、
「スプラッシュ!」
刀奈の体から飛び出した水しぶきに目を見開く。どうやら彼女は自分の体に薄い水の膜を張り巡らせていたようだ。
水しぶきを飛ばしたと同時に蒼流線を捨てて、後ろ向きの
「くっ!」
慌てて雷禍の使用をやめる和麻だが、その瞬間、体に着いた水が一気に熱を放ち始める。
「
パチンという刀奈の指の音に、一気に起爆。
熱伝導するナノマシンによって一気に気化された水が起こす水蒸気爆発――
シールドエネルギーを半分ほど持っていかれた和麻の目に、ロックオン警告が映る。
身体を起き上がらせてみれば、先ほど整備室で見た大型荷電粒子砲ヴァルデンホルトを構えた刀奈の姿。
「どーん♪」
可愛い掛け声と同時に放たれた光の本流に、和麻のシールドエネルギーは一撃で0になった。
紗夜やヴァルデンホルトの元ネタは学戦都市アスタリスクです。好きなラノベですので。
もしかしたらこれからも定期的にアスタリスクのキャラが登場するかも。
紗夜のプロフィールは作品設定に載せておきます。
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