「はい、お疲れー♪」
ミステリアス・レイディを纏った刀奈が舞い降りてくるのを、和麻はアリーナの地面に大の字で寝ころびながら眺める。
ヴァルデンホルトの荷電粒子砲撃を受けて敗北した後も、二回刀奈と模擬戦を行ったのだが、全て和麻の敗北。
分かりきっていた結果だが、流石は国家代表。手も足も出なかった。
加えて和麻がまだまだ未熟だというのもあった。
身体能力や戦闘におけるセンスはあるのだが、いかんせんISの技術が不足している。
シャーリーのサポートがあればそれらを学ぶ必要はないが、それでは彼女に負担をかけてしまう。
和麻の技術が向上して彼女の負担が減れば、その分余裕が生まれ、さらに強くなることができるだろう。
技術を磨くなら学園の訓練機を使えば、機体性能に頼らずに鍛えられると思うのだが、生憎と和麻のIS適性値では起動させ歩行させるだけで精一杯。
叢雲こそが和麻が世界でただ一つ、自由自在に空を駆け抜けることのできる翼なのだ。
「大分動きはよくなってきたけれど、それもまだシャーリーちゃんのサポートあってのこと。最後なんか瞬殺だったわね」
「……言い訳はしねえ。まだまだ弱いからな」
三回行った模擬戦。最後の一回はシャーリーのサポートを完全になくして臨んだのだが、1分も持たずに撃墜された。
戦闘
「ねえ、ずっと思っていたことがあるんだけど、いいかな?」
「なんだよ?」
「和麻君ってさ、剣術やっていたんだよね?しかも古流剣術」
和麻は「ああ」と肯定する。
「今じゃ身内しか門下生がいないようなさびれた道場で、妹と一緒にやっていたよ。それがどうかしたのか?」
「あなたの剣筋だけど、全然剣術らしくないわ」
「…………」
刀奈の指摘に和麻は黙り込む。
「突き、払い、振り下ろし。全部ただ振り回している感じがする。もしくは剣道の延長線。古い剣術に見られる動きが全くない。どうして?」
「…………言わなきゃいけないか?」
和麻はばつが悪そうに言う。
「無理にとは言わないけど、自分に合った戦い方はしたほうがいいと私は思うわね」
「……大した理由じゃないぜ。ただ単に俺が無能だっただけさ」
和麻は自嘲ように言葉を紡ぐ。
「詳しいことは言えないけど、俺の家の剣術っていうのは特殊でな。いろんな流派の技盗んでは、取り込んで作り上げられた
「そう……」
何でもないように語る和麻。だが、その裏にどれほどの修練を重ねたのだろうか。
もしも、大した努力をせずにあきらめたのなら蔑むところなのだが、この一か月ほどの付き合いで和麻が軽そうな言動とは裏腹に、勤勉な一面を持っていることを刀奈は知っている。
刀奈にはそんな和麻の気持ちを想像できない。
今まで勉強運動問わず、才能と努力で習得してきた故に挫折した者の気持ちがわからない。
個人的には、漫画や小説だとそういうキャラは大抵痛いしっぺ返しに合うので、内心では戦々恐々としているのは秘密である。
今度千冬に挑んでみようかなと思っているのも秘密である。
「さて、そろそろアリーナの使用時間が終わるわね。先に戻っているわ」
「ああ、分かった」
刀奈がアリーナを後にするのを見送りながら、和麻も体を起こす。そして、叢雲が光の粒子になり、彼の隣にシャーリーの姿となって現れる。
「すみません、マスター。勝てませんでした」
いつも通りの無表情なシャーリーだが、顔を俯かせて沈んだ声でそう言う。
そんなシャーリーの頭の上に和麻は手を置き、ガシガシと少し乱暴な手つきで撫でる。
「仕方ない、なんて言わねえ。お前は今何を思っている?」
「……勝ち、たいです」
ポツリと漏らしたその言葉に、和麻は少しうれしそうに小さく笑うとポンポンと頭を叩く。
「重畳だ。その気持ちを大事にしな。いつか役に立つぜ」
「はい。マスター」
よっと、という掛け声を出して起き上がり、和麻はアリーナを出る。その後をシャーリーが付いて行く。
二人の姿が見えなくなったところで、アリーナの隅で和麻と刀奈の模擬戦を見学していた一夏たちは訓練を再開する。
和麻と刀奈の模擬戦は三戦も行いながらも三十分しか経っていなかった。だが、その印象は強烈に焼き付けられていた。
候補生のセシリアを圧倒する刀奈相手に、一夏たちにとっては強者のイメージを持っていた和麻がいいようにあしらわれたその光景は、自分たちがまだまだ未熟だということを嫌が応でも叩きつけられ、三人はその後の訓練にさらに打ち込むのだった。
更衣室で着替えを済ませた和麻はシャーリーを伴って図書館に向かった。
いつもなら模擬戦の後もアリーナで操縦訓練に打ち込むところなのだが、今日は一夏たちがいた。
あの三人の騒動を見るのは面白いが、流石に一週間も同じようなやり取りを見せられていれば飽きが来る。中国の候補生が混じれば面白かったが、和麻が後で来るよう言ってしまったため、面白そうな展開はまだまだ先だろう。
だったら、一夏たちと一緒に訓練する理由はない。というか最近一夏が馴れ馴れしくて鬱陶しくなってきた。
何故、休み時間のたびにこちらに話しかけてくる?
トイレに行こうとすると一緒に行こうとする?
部屋がどこなのかしつこく聞いてくる?
一緒に飯を食おうとうるさい。
どうせなら一緒に訓練しようぜ、ISの勉強しようぜと声を掛けてくる。
段々ストーカーじみてきているのだ。
だからこれからは座学に励むことにした和麻は、図書室でIS関連――特に空中制動技術関連の専門書を読むことにする。
そこいらから引っ張り出してきた、日本神話の本を読んでいるシャーリーが隣に腰掛けた。
二人はそのまま図書館の閉館時間ギリギリまで本を読み漁っていた。
図書館が閉館時間になったので、寮に戻った和麻とシャーリー。
この三週間でこの二年生寮にも慣れてきた二人。
たまにすれ違う寮生たちとも挨拶を交わす仲になった。特に新聞部副部長の黛薫子や、整備科の生徒たちはシャーリーという人の姿を得たISへの興味からかよく話をする。
部屋の前まで来た和麻がドアを開けると、
「おかえりなさ~い♪ご飯にします?お風呂にします?そ・れ・と・も……私?」
純白にひらひらのフリルの付いたエプロンを着た流無が二人を出迎える。
問題なのは、彼女がそれしか着ていないのだ。
エプロンで隠された部分以外は、淡い肌色の素肌が覗いている。
俗にいう裸エプロンという格好だった。
「…………」
突然の事態に、流石の和麻もしばし思考が止まってしまうが、徐々に目の前の光景を理解する。
何の反応も返さない和麻に、流無が首をかしげていると、和麻は落ち着いた様子で部屋の中に入り、ドアを閉める。ついでに鍵もかける。
がちゃりという音がやけにはっきりと響く中、和麻は流無に近づく。
「そういう格好をするってことは……そういうことなんだな?」
右手を流無の顎に添え、クイッと持ち上げる。
「え、あ、そ、それは……」
和麻の行動に戸惑う流無。
その様子に和麻は笑みを浮かべる。彼がよく浮かべる、シニカルな笑みを。
そのまま左手で流無の体を軽く押すと、彼女の体はあっさりと後退して壁に背中を付く。
「ふ、ふふ。私をどうにかできるかな~?」
「さて、どうかな?お前こそ、俺をどうにかできるのか?」
なんとかいつもの調子を取り戻す流無だが、和麻には内心ではまだテンパっていることが手に取るように分かった。
おそらく、彼女はこういう色仕掛けには慣れているが、こういう反応は初めてなのだろう。
彼女のような容姿端麗な美少女に、このように迫られれば大抵の男は少しとはいえ狼狽し、その隙から突き崩されるだろう。
だが、今の和麻にはそんな様子が皆無だ。まるで、
「ね、ねえ?和麻君?」
「うん?なんだ」
「もしかして、刀奈に同じことやられた?」
その問いに和麻は応えない。代わりに流無の耳元に口を近づける。
「こんなことでもお前は刀奈と張り合うのか?」
「う、そ、それは……」
「大方最近俺と刀奈が一緒に居ることに、刀奈への対抗意識でも持ったってところか。お前、実は結構子供だろ?」
「そんな、こと……私は子供なんかじゃ…………」
「そういうやつほど、子供なんだよ」
和麻はそう言い放つと流無から離れる。
シャーリーはベッドの上で図書館から借りてきた本を広げている。和麻も荷物を自分のデスクの上に置く。荷物の中から引っ張り出した専門書を広げる。
しばし、その様子を眺めていた流無だが、バスルームに入って着替えに行く。
「ああ、そうそう。さっきの問いの答えだけどな」
かけられた言葉に流無は足を止める。
「確かに同じことを俺はやられたよ。もっとも、刀奈じゃなくて、幼馴染だけどな。その水着エプロン」
初めて聞いた、和麻の過去を懐かしむような響きを含む声だった。
鈴が編入した翌日から、彼女は可笑しな行動をしていた。
あれだけ一日目に一夏に対してアプローチをかけていたのに、翌日から威嚇する猫のように一夏へ敵意を向けていた。
一夏はそんな鈴に対して、話しかけようとするが、鈴はすぐに避けてしまうのでうまくいっていないようだった。
一晩のうちに一体二人の間に何があったのか、一組と二組のみんなは気になっていた。
「というわけでいろいろゲロっちまえ」
「何がというわけよー!!??」
暗闇に閉ざされた教室の真ん中に置かれた椅子に、縄でがんじがらめに縛られた鈴。
放課後にいきなり、拉致された彼女は目隠しをされここに連れ込まれた。
専用機持ちである彼女は、とっさに専用機を展開しようとするが、なぜかできず、待機形態の腕輪を取られ、そのまま縛られたのだ。
そして、目隠しを取られた彼女の目の前に現れたのは和麻だった。
その手に火のともった蝋燭を持って。
顔を蝋燭の炎で照らしながら現れた和麻。
真っ暗闇でそんなことをすればどうなるか?
答えは――むちゃくちゃ怖い。
実際、鈴はあまりの不気味さに「みぎゃあああああああああっっ!!!!???」と悲鳴を上げてしまった。
「だからさー。一体お前と織斑は何があったんだよ?ここのところ、その話題でもちきりだぜ?」
「何であんたに話さなきゃいけないのよ!」
「んなもん、決まっているだろ。面白そうだからだ!」
一切の迷いなく応える和麻はとても清々しい笑顔を浮かべていた。この暗闇と蝋燭の炎に照らされた空間に不釣り合いなほどに。
「あ、あんたねえ!」
「なあ、凰」
八重歯をむき出しにして、怒りを見せる鈴に構わず和麻はしゃがみこんで目線を合わせる。
「少し昔話をしてやろう」
「は?昔話」
「ああ。むかしむかーし。あるところに一人の男の子と女の子がいました」
生まれた時から、家が近いことと親同士が親しいこともあり、二人は一緒に成長しました。
どこに行くのも、何をするのも一緒。
お互い、何があってもこのまま変わらないのだと思っていました。
ある日、二人は喧嘩をしてしまいました。
男の子が女の子を怒らせてしまったのです。
ですが、男の子はまたいつものように仲直りできると思っていました。今まで、喧嘩しても数日すれば仲直りできたのだから。
でも、それは叶いませんでした。
女の子は突然死んでしまったのです。
それからというもの、男の子の心の中にはポッカリとした穴が開き続けるのでした。
「以上だ」
和麻はそう締めくくる。
話の内容に、鈴は今の自分と一夏の状況に似ていると思った。
そして、話をしている最中の和麻の口調が、まるで自分の過去を語るかのように流暢だった。しかも、その雰囲気までもどこか辛そうだった。
大雑把な性格をしているが、人の機微には敏感なところがある鈴(ただし、一夏が絡むとそうではなくなる時もある)は、もしかしてと思いつき、目を見開く。
「あんた、もしかして」
「どうだ?この即興で考えた作り話は?」
「へ?」
その言葉に、さっきまでの雰囲気もなく、和麻はシニカルな笑みを浮かべる。
「構想に10分を要した俺の作り話。気に入ってもらえたか?」
「あ、あんたねえ!」
今度こそ、鈴の怒りが爆発する。
「こんなことして、何がしたのよ!人を縛って嘘くさい作り話を話して!私が今どんな気持ちなのか知らない癖に、好き勝手してさあ!!」
それからしばらく、鈴は和麻に向かって有らん限りの罵詈雑言を吐きだし続け、和麻はそれを聞き続けた。
十数分後、鈴はハァハァと息を付きながらぐったりとしていた。
大声で怒鳴り続けたので、仕方のないことだった。
「どうだ?調子は」
「な、なに、がよ……」
「すっきりしたか?」
和麻の言葉の意味が分からなかったが、そう言えば何やらすっきりしたような感覚を鈴は感じていた。
「あまり不満を溜め込むのはやめたほうがいいぜ。不満っていうのは溜めずに吐きだすのが一番だ」
そういうと和麻はその手に持っていた。蝋燭の火を吹き消す。
同時に教室の電気が付く。
鈴がまぶしさに目を細める中、和麻は教室のカーテンを開けていく。
もう夕方になっており、夕日が差し込んでくる。
「お前と織斑に何があったのかはもう聞かない。というか最初から聞く気なんてなかった」
「なら、あんたは結局何をしたかったのよ?」
「最初に言っただろ?面白そうだったから。それだけだ。だからお前は俺に対して怒るなりなんなりすればいい。そうしてちゃんと織斑にぶつかりに行け」
そういうと和麻はさっさと教室を後にする。
残された鈴は一言「変な奴」と呟いて、それから窓から見える夕焼けを、晴れやかな笑顔で見つめていた。
「……って、私縛られたままじゃないの!?こらー!!ほどけええええええええっっ!!!」
こうして、IS学園の日常は過ぎていき、ついにクラス対抗戦の日を迎えるのであった』
「放置するな!というか何よ。さっき流れていたナレーションは!?」
鈴がそういうと教室のスピーカーから声が流れる。
『どうも。八神和麻の専用機『叢雲』のコア人格のシャーリーです。以後お見知りおきを』
「あいつの専用機!?」
『ついでに、あなたのISを一時的にフリーズさせたのも私です。安心してください。耐性が付いたのでもうできません』
方法は空気中にばらまいたナノマシン経由で電気をばちっっと。
「あんたのせいかあああ!!」
『では、凰鈴音さん。また明日』
ブツッ
「あ、ちょ!?切るなあああああ!!縄をほどきなさいよおおおっ!!」
ガタンゴトンと椅子を揺らす鈴。それから数分後。隠れてその様子を撮影していた和麻とシャーリーを、縄をほどかれた彼女が怒り心頭で追いかけたのは余談である。
ただこの一件以来、鈴は和麻たちとたまにつるむようになった。
あとがき
お気に入り200人突破。ありがとうございます。
今回は少し遊びました。最後なんか完全にギャグですね。
Z/Xのアニメを見終わって思った。
消えて行ったtypeⅡをポラリスが回収して、IS世に送ったらどうなるかな?なぜか生徒会室で楯無さんの真上。