αとβという赤と白のISが一つとなり、より迫力を増大させた完全体のゴーレムⅡ――
和麻により破壊されたαの腕が肩に装着され、四本腕となったゴーレム・ノーヴァは、まず元々あった純白の両腕を突出す。
すると、その装甲が変形し始め、砲身が現れる。
それはゴーレムⅠにも搭載されていたものと同じ、ビーム砲だった。
二つの光が一瞬煌めく。
両腕の砲口から二つの閃光が同時に放たれ、一夏と鈴が吹き飛ばされる。
今までの戦闘でエネルギーがほぼなくなっていた二人はその一撃で戦闘不能になってしまう。
ISの操縦者保護機能により、全エネルギーを防御に回すことで二人の命は守られたが、ISの補助を深く受けてしまいISのエネルギーが回復するまで意識を失ってしまう。
『…………』
二人を無力化したゴーレム・ノーヴァがゆっくりと和麻に近づく。
そして、目の前までやって来たゴーレム・ノーヴァの肩にある、紅い腕が開きそこからワイヤーネットが飛び出す。
ワイヤーネットはそのまま和麻を包み込み、絡め取る。
今の和麻にもはや抵抗するだけの力はない。
先ほどの
このまま捕まってしまうと思われた、その時アリーナの壁の一部が大爆発を起こした。
いきなりの事態にゴーレム・ノーヴァが、顔の部分を向けると、そこから二機のISが飛び出した。
――機体識別開始。完了。
――ロシア第三世代IS『
――敵対行動を確認。
「はぁあああああっっ!!」
先行した『
刃の部分をアクア・ナノマシンの水が高圧で循環することで、抜群の斬れ味を発揮する
その刃をゴーレム・ノーヴァは避けるが、和麻を捕らえていたネットまではそうはいかなかった。
ゴーレム・ノーヴァを斬ると見せかけて、左手に瞬時にもう一本の羽々斬を展開し、ネットを斬り裂く。
流無は解放された和麻の体を掴むと全力でその場を離脱する。
離れていく流無を、ゴーレム・ノーヴァは追いかけようとするが、刀奈が超高圧水弾ガトリングガン『バイタル・スパイラル』で牽制。そのまま戦いを引き継ぐ。
「大丈夫和麻君!?」
流無はアリーナの隅に和麻を下ろして無事を確認する。
「……なん、とかな。ぶっちゃけ、今すぐ寝たい」
「そう。安心して。あいつは何とかしてあげるわ」
「そう、か。……頼ん、だぜ。生徒……会長」
そこで和麻の意識は無くなった。
身体へのダメージと、肉体の限界を超えた力を発揮させる代わりに過度の負担をかける
「……こんなにぼろぼろになって」
ボロボロになった和麻を見ながら、流無は呟く。
生徒を守る生徒会長の立場にあるのに、こんなになるまで戦わせてしまったことへの申し訳なさがこみあげてくるが、今はそれを抑える。
流無は今すぐにでも刀奈に加勢しに行きたかったが、まずは気を失っている一夏と鈴を助けに向かった。
ゴーレム・ノーヴァと闘っていた刀奈は攻めあぐねていた。
バイタル・スパイラルで攻撃するが、ゴーレム・ノーヴァは水弾をものともせずに突っ込んでくる。
接近したゴーレム・ノーヴァは両腕両肩の四本腕で刀奈に殴りかかる。
別々に繰り出される四つの拳を、刀奈はその卓越した槍裁き防ぎ、後退しながら避ける。反撃に展開したランス『蒼流旋』を突き出すが、それは機体に届く前に弾かれてしまう。
ゴーレム・ノーヴァのエネルギー・シールドだ。
しかも、通常のISより遥かに頑丈な不可視の壁だった。
さきほどのバイタル・スパイラルの水弾もこのシールドに無力化され、ゴーレム・ノーヴァ本体に届かなかったのだ。
(おそらく、さっき取り込んだ赤い機体のコアのエネルギーが全部回されているのね。IS一機分のエネルギーで造られた防壁……まるで砦ね)
内心で愚痴をこぼしながらも責める手を緩めない。
二、三度ランスを突き立ててみるがむなしく弾かれるだけ。拳による攻撃が行われるまでにその場を離脱しようとするが、そうはさせないとゴーレム・ノーヴァの両腕からビーム砲の砲身が現れる。
放たれたビームを防ぐために刀奈は水のヴェールを展開する。
だが、そのヴェールの大きさはいつも展開しるヴェールの10分の一ほどの大きさしかなかった。それは、刀奈と流無がアリーナの中に侵入するために、壁を破壊した時に『
全てのナノマシンを一点集中させて放つ『ミストルティンの槍』は、気化爆弾四発に匹敵する破壊力を持っているが、防御用のナノマシンまで攻撃に使ってしまう。
装甲を薄くし、ナノマシンのヴェールがその代わりを果たしている『
(三人は流無ちゃんが回収してくれたわね。ならそろそろ離れたほうがいいかしら)
和麻たちをアリーナの端に置いた流無が、こちらに向かってくるのを確認した刀奈は蒼流旋に搭載されている四連装ガトリングを発砲しながら後退する。
後退しながら、刀奈はハイパーセンサーの360°の視界で状況を把握する。
そして、この戦いのシナリオを構築した。
ガトリングの弾丸をゴーレム・ノーヴァに当てるのではなく、牽制するために放つ。
その隙に背後から接近した流無が羽々斬で斬りかかるが、エネルギー・シールドに阻まれ、羽々斬の刀身が上に向かって弾かれる。
その隙をついてゴーレム・ノーヴァの4つの拳が流無に迫る。
「させないわよ」
流無に意識を向けたゴーレム・ノーヴァの背中に蒼流旋のガトリングを叩き込む。
やはりエネルギー・シールドに阻まれるが、再びゴーレム・ノーヴァが刀奈のほうへ目標を変更する。
「こっちも忘れてもらったら困るわね!」
伸ばされた2本の腕を回避しながら、流無が細かい静止制御を繰り返し、舞うように身体を反転させながら羽々斬を振るう。
エネルギー・シールドに阻まれて攻撃は届かないが、敵と認識された瞬間に片方が攻撃し、また敵への認識が行われた瞬間にもう片方が攻撃を仕掛けるという、息の合った連係攻撃でゴーレム・ノーヴァを翻弄する。
((やっぱり固い))
攻撃を加えながらも二人は堅牢な防御力に舌を巻く。
「ま、そこは予想通りね」
刀奈は全力でその場を離脱する。
その意図を読み取ったのか、流無は両手に持った羽々斬に水を纏わせ、刃を伸ばして攻撃の手をさらに強める。
「『ヴァルデンホルト』チャージ開始」
十分な距離を取った刀奈は、手持ちの兵器の中からシールドを破壊できる可能性のある武器を取り出す。
紗々宮式荷電粒子砲『ヴァルデンホルト』。
従妹が作り上げた試作兵器の最大火力は、危険だからと使用を禁止されているが無人機相手ならば問題ないだろう。むしろ、データが取れたと喜んでくれるはずだ。
エネルギーが砲身に蓄積され、熱を放ち始める。
「チャージ完了まであと30秒」
一方、流無は両手の羽々斬から水を垂らす。その水はナノマシンの氷結能力によって、一瞬で凍りつき、無数の氷の刃を形成する。
そうしてゴーレム・ノーヴァの注意をひきつけようとするが、流石にヴァルデンホルトの高エネルギー反応を見逃すはずもなく、すぐさま刀奈へ攻撃しようと両手のビーム砲を構える。
「させない!」
ビームの射線上に流無が割り込み、右腕を突き出す。
するとアクア・クリスタルを埋め込まれた右腕の多機能武装腕『ミヅチ』から水の楯が形成され、放たれたビームを受け止める。
そのあまりの威力に流無は吹き飛ばされるが、刀奈へ砲撃が当たることだけは防いで見せた。
「あと、20秒」
ビームを連射し刀奈の砲撃を止めようとするゴーレム・ノーヴァだが、流無がそれをミヅチの楯で懸命に受け止める。
「10秒」
ゴーレム・ノーヴァはついにじれったくなったのか、姿勢を低くすると両腕両肩の4本腕を構える。
そして、αを彷彿とされる圧倒的な機動力で流無に迫ると、4本の腕を高速で繰り出し始める。
高速で繰り出される拳の嵐は、水の楯を流無もろともで吹き飛ばし、そのままのスピードで刀奈に肉薄する。
「くっ、発射!」
エネルギーは完全にチャージできなかったが、そんなことも言っていられない。
引き金を引き、砲口から溢れた莫大な光が放たれ、ゴーレム・ノーヴァに向かって押し寄せる。あまりの反動に刀奈は吹き飛ばされそうになるが、なんとかこらえる。
放たれた砲撃はそのままゴーレム・ノーヴァに向かって突き進み、荷電粒子砲の光とシールドのエネルギーがぶつかり拮抗する。
「く、くぅぅぅ……!!」
限界までチャージしていないのにこのエネルギー量。なるほど、紗夜が使用を禁止するはずだ。
というかこんな威力の砲撃ができる武装、試合では完全にオーバーキルではないか。何て物を作るんだ。今度文句を言いに行こうと、刀奈は頭の片隅で思いながら、反動で暴れる砲身を抑え込む。そして――
「いっけえ!!」
拮抗していたシールドが砲撃に押し切られ、ゴーレム・ノーヴァは光に飲み込まれた。
光に飲み込まれながらもゴーレム・ノーヴァは、なんとか耐えていたが徐々に光の本流に押されていき――爆発した。
爆炎と爆風が吹き荒れるなか、ゴーレム・ノーヴァは――健在だった。
しかも、ほぼ無傷である。
流石に少し機能に異常が出たのか緩慢な動きだが、止まる気配はない。
ヴァルデンホルトの砲身から排熱のための水蒸気が立ち上り、しばらくの間使用不能になる。
砲口を地面に落とし、膝をついて刀奈はゆっくりと動き出したゴーレム・ノーヴァを見つめる。
「まさか、あれでも倒せないなんてね」
なんて防御力よ、とため息交じりにぼやく刀奈。
「ああ~。ほんと、あれで決めたかったのにな。まったく……ついてないわね」
一歩一歩、膝をついたままその場から動こうとしない刀奈にゴーレム・ノーヴァが近づいていく。
「今回はあなたの勝ちよ。アホ流無」
ゴーレム・ノーヴァのセンサーが自分の真上に高エネルギー反応を検出する。そちらにカメラアイを向けてみれば、そこには莫大な水を羽々斬に纏わせ、切っ先を地面に向けている流無の姿があった。
「私の全ナノマシンを攻撃に転用したこの一撃。耐えられる?」
それは刀奈のミストルティンの槍と同じ一撃。ただし流無の攻撃はブレード状になっており、技の名前もない。
「地獄に堕ちなさい」
そのまま巨大な水の剣をゴーレム・ノーヴァに向かって落とす。
避けることのできないゴーレム・ノーヴァはそのまま押しつぶされ、エネルギーを攻勢変換した爆発に飲み込まれた。
これが刀奈の作戦。
ヴォルデンホルトの砲撃と流無の全力攻撃の二段構えで確実に止めを刺す。
一撃でも強力無比な攻撃を連続で放つ連撃に耐えられるISは存在せず、それはゴーレム・ノーヴァも例外ではないはずだった。
やがて爆風が収まると、アリーナの地面が大きく陥没し、ひび割れていた。
その中心にゴーレム・ノーヴァがいた。
4本の腕がすべてちぎれてぼろぼろだが、ゆっくりと動き始めた。
あれほどの威力の攻撃でも、完全に破壊することはできなかった。だが、
『狙い撃ちますわ!』
先ほど二人が侵入した壁の穴からアリーナに入った、セシリアがブルー・ティアーズ4基による一斉射撃を放ち、シールドに阻まれることなくゴーレム・ノーヴァを撃ちぬく。
二人の攻撃はゴーレム・ノーヴァを破壊することは叶わなかったが、シールドを無力化することはできたのだ。
今ではブルー・ティアーズの通常攻撃でも致命傷を与えることができるほどにまで耐久力をそぎ落とすことができた。
そして、ゴーレム・ノーヴァはどさりと倒れ、その動きを止めたのだった。
セシリアがアリーナの中に入り、彼女に続いて教員たちのIS部隊も入ってくる。
教員たちが倒れていた一夏や鈴、そして和麻をアリーナから運び出す様子を眺めながら、刀奈と流無はこのあとの後始末について考える。
間違いなく襲撃してきた無人機ISについて、国際IS委員会や世界各国から説明が殺到するだろう。
刀奈はその作業に少し湯鬱になりながら、蒼流旋を展開して杖代わりにして起き上がり、流無も地面に着地する。
まあ、そんなことは後で考えよう。
今は、ここの所自分とよく関わるようになった少年の様子をもう一度見ておこうと思ったその時――。
『やあやあ、みんなおつかれちゃーん♪』
いきなりアリーナに響く、底抜けに明るくてお気楽な声。
あまりに場違いなそれにその場にいた全員が動きを止める。
『まさかまさかゴーレム・ノーヴァが負けるなんて思いもしなかったよ。やるねえ、そこの水色二人』
がばっ、と先ほど動きを止めて破壊されたはずのゴーレム・ノーヴァが起き上がる。
『でもでも、これ以上邪魔されるのは不愉快だからあ……消えてよ君たち』
その瞬間、その場のゴーレム・ノーヴァ以外のISが――停止した。
教師部隊の訓練機であるラファール・リヴァイブと打鉄も。
セシリアのブルー・ティアーズも。
そして、刀奈と流無の
全てのISが機能を停止し、ただの鈍重な鉄の塊と化してしまった。
『じゃ、
ゴーレム・ノーヴァが再び、和麻を捕らえるために動き始めた。
「させない!」
それに対し、最初に反応したのは流無だった。
動かなくなった
和麻のもとに辿り着いた彼女は、和麻をそこから運び出そうとするが、叢雲を纏った彼は抱えることができない。
どうにかしようと四苦八苦しているうちに、ゴーレム・ノーヴァが目の前に辿り着いた。
『ありゃりゃ。まーだ邪魔するの?』
驚くべきことにゴーレム・ノーヴァの壊れた機体の一部が粒子に代わり、次の瞬間には新しい装甲が現れる。
なんと自己修復を行っているのだ。
一体どんな技術がつかわれているのか流無にはさっぱりだが、今はそんなことを気にしている暇はない。
速く速く、逃げなくてはいけないのだ。
だが、以前として流無には叢雲を解除する方法が無い。
『ま、関係ないけどさ。どきなよ』
真っ先に修復された白い右腕。それを無造作に振るい流無を殴り飛ばそうとするが、後ろからいきなり脇腹を殴られてしまい、空を切る。
「やらせない!」
その手に蒼流旋を持った刀奈だった。
刀奈はそのまま流無とゴーレム・ノーヴァの間に割り込み、蒼流旋を構える。
『あーあーもー!なんなのさなんなのさ!邪魔すんなあああああああ!!!』
駄々をこねるような声を出しながら、ゴーレム・ノーヴァは左腕も再生させる。
そして、両手をむちゃくちゃに振り回し始める。
「く、この!」
それを刀奈が蒼流旋で捌くが、IS――それも機械の塊である無人機と生身の人間では勝負にならず、蒼流旋は弾かれてしまう。
そして、ついに二人に向かってゴーレム・ノーヴァの腕がのばされた。その時――
叢雲の装甲が眩い光を放ち始めた。
――
――対象
――発動
この回で終わらせるつもりだったんだけどな。次話に持ち越しです。
ついに、やりたかったことへの伏線を張れる。