食堂から生徒会に運ばれてきた昼食、いわゆる出前を生徒会室に備え付けられていた机の上で食べる。
メニューは食堂の日替わりランチだったが、国立のIS学園では日替わりのメニューと言えども食材は一級品であり、食堂の料理人は元三ツ星レストランのシェフである。絶品だった。
食事を終えて虚の入れた紅茶で一息ついたころ、再びシャーリーへの質問タイムが始まった。
「叢雲のあの能力ってなんなの?」
流無が言う能力とは、ゴーレム・ノーヴァに刀奈と流無が攻撃されそうになった時に発動した光の鎖のことだ。
「
サラサラと応えるシャーリーだが、その内容の凄まじさはとても無視できることではない。
「……後方支援としては破格の能力ね。コアネットワークを介しているから距離なんて関係ない。望んだときに、好きな相手を強化できる」
「いえ、そうでもありませんよ。この能力は極めて限定的で誰とでも使えるわけではありません」
顎に指を添えて思案する刀奈に、シャーリーの補足が入る。
「周知のとおり
例えば、白式の『
かつては織斑千冬の、今は一夏の手にあるあらゆるエネルギーを無に帰す必殺の刃は家族を守りたいという思いのもとに出現する。ならば、『
「マスターの思いが引き金となるのですが……」
シャーリーと三人の目線が和麻に向けられるが、本人は無駄に優雅な仕草で淹れ直された紅茶を啜って一言。
「全く分からん」
ふーやれやれとそう言う和麻に、全員がため息を吐く。
「クスクス♪」
シャーリーだけはそんな
「もう質問は終わりですか?」
「そうね。今聞きたいことは聞いたし、また何かあったら聞きに行くけどいいかしら?」
「マスターがいいというのなら」
「別に俺良いぜ」
「最後に、さっきシャーリーちゃんが話したことだけど、コア人格のことや
刀奈の言葉に沙夜と流無も同意する。
「確かに、知られればどうなるかわからない」
「欲の強い人間は、何をしでかすかわからないものだもんね。やれやれ」
首を振って呆れたように言う流無の言葉は確かにその通りだ。
和麻もその欲の強い人間のせいで危うく研究用のモルモットにされそうになった。その可能性がまだ残っているのに、さらに狙われる危険性を高めるのは得策ではないだろう。
和麻もそれには同意するように強く頷く。
これで話は終わりだと全員が席を立とうとしたその時、
「更識姉妹はいるか!」
生徒会室のドアを職員が持つ特別キーでロックを解除して入ってきたのは、黒いスーツをビシッと着こなした織斑千冬だった。
生徒会室に足を踏み入れた彼女は、和麻の姿を見つけると眼を見開いた。
「八神、目を覚ましていたことは聞いていたがここにいたのか」
「ええ。ちょっと話がありまして」
「なんの話かは聞かないが、大事無いようで何よりだ。だが後ほど私との事情聴取も受けてもらうぞ」
僅かに千冬がほほ笑んだように和麻に見えた。肩の荷が下りたとでもいうような笑みだった。
「どうしたんですか、織斑先生?」
そこに刀奈が千冬がここにやって来た理由を尋ねる。
「そうだった。更識姉。お前たちの仕業なのか、整備室のあれは」
「整備室?」
不思議そうな顔をして首を傾げる刀奈。
他の面々も同じような反応をする中、シャーリーが「あっ」と声を上げる。
「整備室の叢雲が置かれていたハンガーの天井がぽっかり抉れている。整備室を管轄にしている先生や整備科の生徒たちから苦情が来ているのだぞ!」
全員の視線が原因であると思われる存在――シャーリーに集中する。彼女は申し訳なさそうな顔をしながら理由を話す。
「それはおそらく私の体を構築するときに天井の物質を吸収したからです。申し訳ありません」
シャーリーは整備室の天井を量子化し、吸収。肉体を構築するための材料にしたのだ。
なお、最初に肉体を持って現れた時は研究所の一角を材料にしていた。
「はあ。後で直すよう手配しておきます」
刀奈は本当に疲れたと溜息を吐いた。
生徒会室での話し合いが終わった後、刀奈は整備室の修理の手配に、沙夜は自分にあてがわれた自室(IS学園に整備士として在籍する沙夜は自分だけの研究室とでもいうべき部屋を与えられている)に向かった。
そして、和麻とシャーリー、流無の三人は寮の三人部屋へと足を進める。
ほどなくして二年生寮に到着。そのまま2001号室に向かう。
相変わらず豪華な部屋だが、ここ一週間は流無しか寝泊まりしていなかったせいか、部屋の半分が不自然に片付いていた。
「あー疲れた。今日はこのまま寝たいぜ」
ベッドに手足を広げて横になる和麻。病み上がりの体はまだまだ休息を欲しているのか、倦怠感が体を包み込んでいた。
「寝るのは良いけどちゃんとシャワー浴びてよね。今まで濡れたタオルで体拭いていただけなんだし」
「わかっているさ。お前やシャーリーに体が臭うなんて思われたくない」
「では、マスター。準備は私が整えておきます」
シャーリーがクローゼットからタオルと和麻の服を出し始め、体を起こした和麻はそれを受け取ってシャワールームに入る。
熱いシャワーを浴びていると、血行が良くなっていくのか体が温かくなっていき、疲れが取れて行った。
シャワールームから出て、ドライヤーで髪を乾かし、体を丹念に拭いて水気をとる。
シャツと短パンという薄着に着替えて部屋に戻ると流無とシャーリーがなにやら話をしていた。
「上がったぞ。何話しているんだ?」
「あ、マスター。もう上がられたのですか」
「もうちょっとゆっくりしていてもよかったのに。はい、和麻君。牛乳」
流無がどこからか差し出した牛乳を和麻は受け取ってグイッと飲む。
「ん、さんきゅ。それで何を話してたんだ」
「和麻君の事情聴取の予定よ。明日いっぱいを使って行うみたい」
流石に今日くらいは休ませようという配慮なのだろう。
「そうか。聞いたほうがいいのかもしれんが、少しきついからまた後でいいか?」
「ええ。ちょっと早いけどおやすみなさい」
「早すぎるけどな」
時計はまだ15時。確かに早いが、ベッドに横になった和麻の意識はあっさりと遠のいて行った。
ベッドに横になった和麻は夜に一度目を覚まして夕食を食べた後、再び就寝。
再び目を覚ました時にはもう体の調子はほとんど元に戻っていた。もっとも、なぜか体の上にシャーリーが乗っていたせいでとても重かったが。
「またかよ」
以前も似たようなことがあったなと思い出しながら、和麻はシャーリーを起こさないように下から抜け出す。
部屋のデジタル時計を見てみれば6時45分と表示されていた。
(自分用の簡易ベッドがあるんだからそっちで寝てもらいたい。というかシャーリーはISなんだし、眠る必要なんてないんじゃないか?)
疑問を覚えながらも和麻は洗面台に向かい、歯を磨き顔を洗う。
部屋に戻って隣の流無のベッドを見てみるともぬけの空だった。
代わりに『ちょっと用事に行ってくるわね。朝ごはんはキッチンの方に用意しておくわ。た・べ・て♪』という書き置きが残されていた。
キッチンの方に向かってみると、二人分のサンドイッチが用意されていた。
和麻はシャーリーを起こし、二人で流無特製のサンドイッチを頬張る。
ハムやチーズにレタス、卵といったスタンダードな具が挟まれたものだったが、塩コショウによる下味の加減や、うっすらとパンに塗られたマスタードなどの隠し味がおいしかった。
食べ終えてこれから授業に出るべきかどうか和麻が悩んでいると、ドアがノックされた。
「はい?」
ドアを開けるとそこには一組の副担任、山田真耶がいた。
「八神君、もう大丈夫ですか?」
「はい。ご心配をおかけしました」
頭を下げる和麻に、真耶は「ご無事で何よりです」と言い和麻の無事を喜んだ。
「それで何か俺に用でしょうか?」
「あ、はい。八神君とシャーリーさんに今から事件のことについて事情聴取を受けてもらいたいんです」
真耶は和麻に申し訳なさそうにそう伝える。
今日やると聞いていたがまさか朝からやることになるとは思っていなかった和麻だが、事件の詳細を国際IS委員会などの上層機関に迅速に伝えるためには、自分の証言が必要なのだろうと察しを付ける。
和麻は一言「わかりました」と伝えると、真耶に部屋の前で待ってもらい制服への着替えを手早く済ませると、同じく制服に着替えたシャーリーと共に部屋の外に出た。
真耶に案内されて事情聴取が行われる取調室に向かった和麻とシャーリーは、そのまま事件の時のことを話した。
ただし生徒会室で取り決めた通り、コア人格のことについてや
そして、事件における犯人について、執拗に狙われた和麻には知らされた。
無人機に関してはどこから送り込まれてきたものなのかは全く分からず、捜査をしていた人間の音声データはどこにも残っていなかったらしい。ハッキングされデータが破壊されたのだろう。
あの時、機能を停止したISについても外部からのハッキングでコアを強制停止させられたという見解だった。もっとも一時的なことで、停止させられたISはどれも今では普通に動いている。
結局、犯人はわからずじまいとのことだった。
事情聴取が終わったのは昼前だった。
二人は午後の授業に出席することを許され食堂で昼食をとることにした。
もっとも、すぐにそのことを後悔したが。
食堂は昼食を食べに来た生徒たちであふれており、ほとんどの席が埋まっていた。
食券売り場のところに向かうと、そこには袖の長い制服を着たのほほんとした生徒――布仏本音がいた。
相変わらず眠そうな顔をした本音の隣には出席番号一番のスポーツ少女、相川清香とクラスのしっかり者である鷹月静寐がいた。
顔見知りの姿を見つけた和麻は声をかける。
「久しぶりだな、のほほん、相川、鷹月」
和麻の声に三人がバッと振り向く。
動きの遅い本音も素早く振り向いたので、和麻は少し驚きながらも手を上げて自分の存在を示す。
三人は和麻の姿を確認すると、
「「八神君!?」」「かずやん!!」
三人揃って驚愕の叫びをあげる。
三人の声に食堂の生徒たちも反応し、こちらの方へ目を向ける。
『『『『『きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!???!!!』』』』』
食堂にいた生徒たち、特に一年生たちが一斉に歓声を上げて和麻とシャーリーに突撃し始めた。
「ぎゃあああああああっっ!!!??」
「きゃあああああああっっ!!!??」
いきなりの事態に二人は悲鳴を上げる。だが、そんなことには構わず生徒たちは二人に殺到し、次々に質問を口にし始める。
「八神君もう大丈夫なの!?」「私心配していたんだからね!」「襲撃犯から学園を守ってくれたのってやっぱり八神君だったってホント!?」「シャーリーちゃんも無事で良かった!」「相変わらずキャワイイ!」「くんかくんか!!」「お見舞い行ったよ!私!」「千羽鶴折ったよ!」「メロン持って行ったよ!」「バナナもってった!」「私なんかココナッツを!」「ハワイ産ヤシのみおいしかった!?」「蝮ドリンク飲んだら元気百倍さー!!」
「ちょ、ま、まってくれえっ!?」
群がってくる一年生たちにもみくちゃにされる和麻とシャーリー。
二人が四苦八苦している様子を偶然食堂にいた刀奈たちは眺めていた。
「まあ、女子のネットワークと関わりを持った弊害よね。何だかんだで人気だったし」
一夏と違って初日から積極的に女子と会話し、彼女たちの話に入っていた和麻は何気に人気が高くなっていた。しかも、世にも珍しい人格を持ったISの担い手だ。そんな彼が襲撃事件で一週間も寝込んでいたとなれば、何かしらの憶測が飛び交い、気にしてしまうのは女の子の性だ。
そんなところにひょっこり和麻たちが現れれば、こうなるのも仕方がない。
女子たちの勢いは昼休み終了まで止まらないだろう。
その後もしばらく和麻とシャーリーは生徒たちにむちゃくちゃにされながらも、何とか昼食の注文をもらうことに成功したのだった。
食堂のテーブルに座った後も質問攻めにあったのだが。
何はともあれ、IS学園に騒がしい日々が戻ってきたのだった。
つぶやき
簪魔改造で刀奈さんのプライドがズタボロになる作品をほかのサイトで見つけました。
そこでオリ主に共感して、少し闇落ちした簪に更識を追放された刀奈さんという小説が思い浮かんだ。
たまに見かける簪妹改造物を見て思ったありえた展開です。ぶっちゃけ刀奈さんの立場がなくなってしまい、居場所をなくす感じです。
そこで彼女は呆然自失になって更識の敷地内の樹海に入り、その祠の中で・・・
千年竜王――キングギドラの亡骸を見つけます。そしてその幽体である三人の幽霊の少女と出会った刀奈は導かれて・・・・・・盟約を結び、竜王への道を歩む僭主(テュラノス)へとなる。
カンピオーネ作者の丈月城さんのライトノベル「盟約のリヴァイアサン」とISのクロスですね。
何となく思いついたけど、絶対書かないかな。よくてIS書庫で不定期連載。