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夢現……後に嵐の前触れ
夢を見ていた。
ひどく鮮明で、夢を夢と認識する、明晰夢といわれるものだ。
目の前で振るわれる刀が空気を斬り裂く音。その刀を振るう人物の息遣い。それらがはっきりと聞こえる。
振るっているのはひどく見覚えのある少女だ。
物心ついた時から、もしかしたらこの世に生まれ落ちた瞬間から、常に傍らに在り続けたその少女のことを、更識流無は知っている。
双子の姉、更識刀奈。
10歳くらいの幼い頃の姉が、生家である屋敷の裏の山の中で、鍛錬用の刃を潰した刀を振るっているのを、同じく幼い頃の流無がこっそり覗き見している――過去の出来事を夢としてみていた。
『はっ!せいっ!』
普通の同い年の女の子が振り回せば、まず間違いなく体が引っ張られてしまう鋼鉄の塊である刀を振るう刀奈。
まるで舞うようなその動きは、華の上を飛び回る蝶のようで、時折大空を翔る隼のような力強さも垣間見せる。
腰まで伸ばしたロングヘアがふわりと広がり、綺麗に元にまとまる様は
とても普通の小学生ができる動きではない。
『やあっ!』
それを早朝から、家族にも隠れて続ける彼女の姿を、流無はずっと見続けた。
努力を続ける姉の姿に幼い日の流無は尊敬と憧れを抱き、今の二人が見れば首をかしげてしまうほど、愛していた。
(幼き日の思い出とは何とも美しいものだな)
知らない声が聞こえたと思えば、唐突に場面が切り替わる。
今度は屋敷の中央にある大広間だった。
そこでは更識家に連なる親戚一同が集まる年に数回ある集会が行われており、強面をした更識に先祖代々から使える家の当主や、協力組織の代表者たちがずらりと並んでいる。
全員が一筋縄ではいかない者たちばかりで、とてつもない威圧感を放っている。その中でも一番桁外れた存在感を持っているのは上座に座る父、更識家当主である更識楯無だった。
更識家の当主となるものは『楯無』の名前を襲名することが習わしとなっており、父で十六代目だ。
楯無から見て右側の更識本家の者が座る席に刀奈、流無の順に座っており、さらに流無の
隣には一番下の妹の簪の姿もあった。
もっとも簪は緊張しすぎてその小柄な体をプルプル震わせている。
姉二人と違って内側にはねたくせ毛の髪とたれ目が相まって、まるで猛犬の前にさらされたチワワの様だ。
こんな時は姉である流無が手を握ってあげるべきなのだろうが、流無も緊張しており刀奈の手を握り絞めてしまっており、そこまで気が回っていない。
『そろそろ皆に紹介しようと思う。私の娘たちだ』
楯無の言葉に大広間に座っている全員の視線が姉妹三人に向く。
ますます緊張してしまう二人とは対照的に、刀奈はしっかりと背を伸ばして大広間にいる全員の視線を受け止める。
『皆も知ってのとおり、今世界はISを巡って大きく動いている。これからIS中心の世の中になるだろう。私は今後十年を目途にこの娘たちを中心に更識を動かしていきたいと思う』
楯無の言葉に誰も異論をはさまない。
全員、二年前に突如として現れた女性にしか動かすことのできないマルチフォーム・スーツ『インフィニット・ストラトス』が世界を大きく変えるという楯無の言葉に同意しているからだ。
『表も裏も、いい意味でも悪い意味でもISによって変わる。我々が今後も日の本の守護を担う一柱であるため、娘たちに力を貸してほしい』
そう言って楯無は頭を下げる。
全員、そんな楯無に頷いたり、言葉を出すなどの程度の差はあるが同意の意思を示していく。
『ありがとう。最後に娘たちの実力を見てもらいたい。刀奈、流無やれるな?簪は今日は見学していてくれ。お前はまだ修行中の身だ。二人をよく見て参考にしなさい』
『はい!』
『は、はい!』
『はははは、はいッ……』
刀奈、流無、簪の三人はそれぞれの緊張具合から三者三様の返事をする。
そして、楯無の言葉の意味を理解していた刀奈はすぐにその場を立ち上がり大広間から出ていき、少し遅れながら流無も立ち上がってその後を追う。
行先は屋敷の武道場。
今から二人は、全員の前でその実力を見せるのだ。
『ま、待ってお姉ちゃん!』
すたすたと先を歩く刀奈に流無は駆け足で追いついて手を握る。
すると刀奈は『ひぅ!?』というすっとんきょうな声を上げる。
どうやら流無のことに気が付いていなかったようだ。
『なんだ……お姉ちゃんも緊張してたんだ』
『ま、まあね』
恥ずかしそうに刀奈はそっぽを向いて小さく答える。
流無はそんな刀奈がとてもかわいく見えた――。
(お姉ちゃん……大好き。もう――見せてもいいかな?きっと喜んでくれるはず)
そして、流無はこっそりとある決意を固める。
大好きな姉を驚かせて、そして褒めてもらうために今まで隠してきたものを見せることを。
それが、刀奈の心にどんな影響を与えるのか気づくこともできずに……。
――この日この時を、私は忘れない。この日から、今の私たちの姉妹喧嘩は始まったんだ。
(もう少し見てみたいが、時間のようだ。そろそろ眠りから覚めるぞ)
また声が聞こえた。
夢は何かの前触れと言われる。
迷信かもしれないが、それに人は意味を見出したがるもの。
故に流無もいつもの時間よりも少し速く目が覚めたのにもかかわらず、過去の記憶を夢で見たせいで、二度寝という至福の時間を過ごせず、寝起きの頭でぼんやりと見た夢の内容を思い出す。
(もう、七年も前なのね……)
10歳の時の記憶。
更識家という組織の重鎮たちの前で刀奈と試合をした出来事。
あの日までは、どこにでもいる仲のいい姉妹だった。
あの日までは、いつも一緒だった。
あの日までは、大好きだった。
(あの日から、変わった)
あの日の刀奈が忘れられない。
あの日の言葉が忘れられない。
あの日の刀奈が……理解できない。
(私は……間違っていない。間違っていないんだ)
柔らかいベッドと布団、枕の感触に体を埋めながら心の中で呟く流無。
そうしていると、
「ひ、やぁ……うあ」
「感じているのか?シャーリー」
「ま、ますたぁ……ご、ごえんなさあい」
「ふ、いい声で鳴くじゃねえか。どれ次はここだ」
「ひゃふあああああっっ!!?」
隣のベッドから聞こえた声に目が覚めた。
女の子の艶っぽい声に、男の子のいじわるな声だ。
(な、ななな何が?!)
寝起きの頭がパニックになりながら、流無は顔を声のする隣のベッドのほうに向ける。
そこには……、
「ま、マスターって、意外と、きちくなのねぇ……ッ!?」
「毎朝勝手にベッドに入ってくるお前が悪い」
ベッドの上で和麻にうつぶせにされて、両足をくすぐられて息も絶え絶えになっているシャーリーの姿だった。
「ん?起きたのか流無」
流無が見ていることに気が付いた和麻が振り向く。
流無は顔を上げると「お、おはよう」と朝の挨拶をする。
「おう、おはよう。待っててくれ。もう少しで仕置きを終わらせる」
「仕置きって、シャーリーちゃん何かしたの?」
「こいつまた俺の布団に潜り込んできたんだよ」
和麻は呆れたように言う。
この和麻と流無の相部屋には二人のベッドの間にシャーリー専用の簡易ベッドがあり、そこで寝ることになっているのだが、彼女はよく和麻のベッドに潜り込んでくる。
そのことを流無もよく知っており、和麻の困った顔を面白がったりもした。
「流石に俺もそろそろ我慢の限界だったからな。今日はこいつにたっぷりとお仕置きをしてやる。クククッ」
黒い笑みを浮かべながらそう言う和麻は、そのままシャーリーへのくすぐりを再開する。
再び呂律のまわらない悲鳴を上げるシャーリーを視界に収めながら、流無は和麻をあまり怒らせないようにしようと心に決めた。
クラス対抗戦から数週間が過ぎ、六月に入った。
この頃になるとIS学園の生徒たちも新しい生活に慣れて、生活にも一定のリズムが生まれる。
シャーリーへのお仕置きといういつもとは違った出来事はあったものの、時間通りに教室にやって来た和麻は自分の机に座る。そしてその後ろの席に和麻の後をついてきたシャーリーも座る。もっともすぐに机に突っ伏してしまったが。
そこに二人の生徒がやって来る。
「おはよー八神君」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?ってシャーリーちゃんどうしたの?」
話しかけてきたのは相川清香に鏡ナギ。ともに明るく活発的なスポーツ少女で、清香はハンドボール部、ナギは陸上部に入っている。
「シャーリーは気にしなくていいぞ。問題ないからな。それでなんのようだ?」
「そ、そう?えっとね、八神君のISスーツってどこのやつなの?」
「ISスーツを選ぶ参考意見にしたいのよ」
ナギがその手に持っていたISスーツのカタログを広げてみせる。
この時期になると一年生は学園から支給された物ではなく、自分専用のISスーツを用意する。
十人十色の仕様に変化するISに合わせて、固有のスタイルを確立するためだ。
あとはお洒落を楽しみたい乙女心とかもあるのだろう。
そのため、ISスーツには多くのIS企業がデザインしたさまざまな種類が存在している。
「俺のは紗々宮グループの特注品だからあまり参考にならないぜ。男の俺専用にいろいろカスタマイズされているし、データ取るために全身タイツみたいな感じになっている試作品だからな」
ちなみに普通のISスーツはタンクトップにスパッツを合わせた物がスタンダードとなっている。
「でもさ、紗々宮グループのやつって結構評判良いんだよね。日本の代表や候補生には愛用している人が多いっていうじゃない?そこのところどうなの?」
「まあ使いやすいのは確かだな」
「やっぱそうなんだ」
「十分参考になるよ」
「だったらよかったよ」
和麻が申し訳なさそうにそう言うと教室のドアが開き、一組のもう一人の男子である一夏が入ってきた。
一夏のところにも他の女子が向かい、和麻と同じことを聞き、そこに一組の副担任である真耶も現れて生徒たちに補足説明を披露する。
山田先生の説明に生徒たちは感心したり、真耶をいろんなあだ名で呼んで困惑させたりしていると、担任の千冬がやってきて、SHRの時間となる。
「諸君、おはよう」
教室に入ってきた千冬の声に教室中から私語は消え去り、生徒たちは姿勢を正して着席する。シャーリーは突っ伏したままだが。
千冬は出席簿を片手に持ちながらゆっくりと教壇に上る。
「今日から本格的な実戦訓練を行う。訓練機とはいえISを使う以上ISスーツは必須だ。それぞれ注文したISスーツが届くまでは学園指定の物を使うように。もしも忘れた場合は学園指定の水着で受けてもらう。それすらも忘れた者は下着で授業を受けてもらうから覚悟するように」
『はい!』
千冬の言葉にハキハキとした返事を返す生徒たち。
男子がいる前で下着にはなりたくないという思いがひしひしと伝わってくる。
ちなみに、学園指定の水着というのは今はコスプレショップでしか置いていないだろう旧型スクール水着だ。
「では、山田先生。続きを頼む」
「は、はいっ」
千冬とバトンタッチした真耶が教壇に上がる。
「えー今日はなんとみなさんに転校生を紹介します!しかも二名です!」
「え……」
「「「ええええええっっ!!!???」」」
不意打ちの転校生紹介に、千冬がいるのにも関わらずクラス中がざわめく。
和麻も自身が取り入った女子の情報網にかからなかったこの不意の一報に目を見開く。
「では、入ってきてください」
「失礼します」
「……」
真耶に促されて、教室のドアが開き二人の転校生が入ってきた。
その二人を見て、ざわめいていた教室が一気に静かになる。
「え……?」
「お、男……?」
誰かが呟いた通り、転校生の一人は和麻や一夏と同じ制服を着た男子生徒だったのだ。
そんななか和麻は――バタンッと机に倒れ伏した。
遅れた理由としましては大学のテストや帰省に伴うゴタゴタや、急な大学の呼び出しやらで忙しかったことがあげられますね。うん。
これから少しずつ更新速度を上げていきたいです。
さて、二巻に入りました。
シャルルとラウラ登場ですが、ぶっちゃけあまりクローズアップしません。
ここからついに刀奈と流無の関係に踏み込んでいきたいと思います。こうご期待!
次話でみんなをびっくりさせるぜ。