「シャルル・デュノアです。フランスからやって来ました。この国では不慣れなことが多いと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
そう言い足を一歩後ろに引いて一礼するシャルル。
背中まで伸ばした黄金に輝く金髪を結わえ、中性的な顔立ちをしている。男にしては華奢な体つきだがシュッとした四肢は美しくも見え、シャルルはその礼儀正しい仕草と身に纏う紳士のような雰囲気も相まってまさに『貴公子』だ。
クラスのほとんどの女子はシャルルから目を話すことが出来なくなっていた。
「お、男?」
「はい。IS学園に僕と同じ境遇の方がいるので、遅ればせながら本国から転入を――」
笑顔を浮かべるシャルルからは一切の嫌味は感じられない。
「きゃ……」
「はい?」
「「「きゃあああああああああああ!!!!!!!!」」」
一斉にクラスのほとんどが歓声を上げる。
それは音響兵器もかくやといわんばかりの衝撃を伴っていた。
「男子!三人目の男子!!」
「しかもうちのクラス!」
「織斑君や和麻君と違って守ってあげたくなる系の男の子!」
「今年IS学園に編入できて本当によかったぁ!」
「騒ぐな馬鹿者ども!まだ自己紹介の途中だ!」
口々に騒ぎ始めるクラスの女子一同。それを千冬は面倒くさそうにしながらも一喝して収める。
「そ、それではもう一人の転校生さんに自己紹介を――あれ?」
シャルルの隣にいたはずのもう一人の転校生に自己紹介をしてもらおうとした真耶だが、肝心のその転校生の姿が無かった。
どこに行ったのだろうと教室を見回すと――いた。
いつの間にか教室の廊下側の最後尾の席、つまりさっきから机に顔を突っ伏している和麻の前に、小柄な少女が立っていた。
艶やかな黒髪は夜の様な優しい雰囲気を連想させ、その金色の瞳は見る者すべてを虜にするような輝きを放っている、全体的にはおっとりとした印象を与える可愛らしい少女だ。
自由に改造できるIS学園の制服を、ノースリーブにして、羽衣のような純白のケープを羽織っている。
雰囲気はまるで春の木漏れ日のような暖かな美少女。
彼女はその小さな蕾のような唇で笑みを作り――
「お久しぶりでございます、お兄様。あなたの妹、八神遥香。まいりました」
そう言って和麻に向かって優雅に頭を下げた。
八神遥香。
苗字からわかるとおり八神和麻の一つ年下である実の妹。
以前、和麻に電話で話した通りに世界で最も難しいと言われるIS学園に編入してきたのだ。
「ああ、まさか本当に、しかもこんなすぐにやって来るなんてな……」
机に顔を突っ伏したまま、遥香の顔を見ようともせずに言う和麻。
実の妹に対する態度ではないが、遥香は全く気にせずニコニコと笑ったまま、座っている和麻に目線を合わせるために屈みこむ。
「当然ですわ。お兄様のいる所へ行くためならば、どんな困難も私にとっては困難たりえません。というわけで……」
遥香はそう言うと和麻の頭に手を伸ばす。
嫌な予感を感じた和麻は、咄嗟にその手から逃れようとするが、その動きを読んでいた遥香が制服の胸元を掴むと、合気道の要領で和麻の体勢を崩して自分の方に引き寄せる。
あまりに鮮やかなその手際に、和麻はなす術もなくそのまま遥香に向かって倒れる。
そして、和麻が倒れていく先には微笑みを浮かべたままの遥香が待ち構えていて、
ちゅ……。
「は?」
「え?」
「へ?」
「「「な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!!???」」」
倒れてきた和麻の顔、正確にはその口に向かって遥香は立ち上がりながら唇を突き出す。そうなれば自然と二人の唇は一つに重なる。
唇を絡めあう二人の姿に、一夏も箒もセシリアもシャルルも千冬と真耶も、他のクラスメイト達も唖然とし、絶叫した。
そんな周囲の混乱にも構わず遥香は唇を動かし、さらに深い口づけをしようとする。が、その前に和麻は慌てて遥香を引っぺがす。
もっとも、それでも周りは静かにならない。
「ええええっっ!!?あの子妹だよね!?」
「ま、まさか義理の妹だから……」
クラスメイト達の言葉に、
「何を言っていらっしゃるんですか?わたくしとお兄様はれっきとした実の兄妹。義理などという無粋な言葉はやめてください。不愉快です」
ちょっと不機嫌そうに遥香が応える。
その答えを聞いてさらにクラス中は唖然とする。
「お、お前は、じ、じじじじ実の兄に向かって口づけなどというふしだらなことをしたというのか!?」
顔を真っ赤にしてポニーテールを振り乱しながら立ち上がり、遥香を非難したのは箒だった。厳格な性格をした彼女にとって、実の兄に対して口づけをした遥香の行為は目に余ることのだ。
そんな箒に対して、遥香はまるでかわいそうなものを見るような目を向けながら、
「はあ……。いいですか。口づけとは親愛の証。恋人などという浅く脆く粗末な間柄の男女ですら行う程度の行為です。ならば、同じ血と骨と肉と魂を分けた、例え天変地異が起きて世界が滅亡しようとも消えることのない、世界の理でさえも超越してしまうほどの固い絆で結ばれた兄と妹が口づけを交わすことなどごくごく自然なことなのです。いえむしろしなければ不自然なほどで、それを非難するなど……あなた頭は大丈夫なのですか?」
「えあ、そ、そうなのか?セシリア?」
「ちょ!?そこでわたくしにふるんですの!?……た、確かに我がイギリスでも親愛の証としてキスはしますが、ご兄弟で唇同士にすることなんてわたくしは知りませんわよ!」
「ふん、所詮それはあなたたちの愛がその程度だということ。どうせ恥ずかしいなどというくだらない世間体を気にし、縛られていることしかできない愛ということです。でも私とお兄様は違います。世間などという人の批判しかできない、愚かな者たちの目など私たちの前ではゴミ屑同然。さあ、お兄様。今一度、今度はもっと深く私と口づけを」
「しねえよ!!」
再び遥香の白い腕が蛇のように和麻の首に回され、口づけを交わそうとするが、和麻は身をかがめてそれを躱す。
「あら?お兄様ったら恥ずかしがらなくてもいいのに」
「恥ずかしいとか、そうゆう次元を超えているんだよお前は!久しぶりに会ってもお前は変化なしか!?」
「たかだか二カ月程度会っていないだけで私のお兄様への思いが揺らぐことなんてありえません。それこそ、神様が死んだとしても」
「できれば揺らいでいて欲しかった……」
疲れたように肩を落とす和麻。
久しぶりにあった妹は相変わらずの様子で喜ぶべきか、嘆くべきか分からなくなってしまう。
遥香は昔から、正確には和麻がシャノンと付き合いだした時からこんな調子だった。
なぜか恋人ができたと言ったら、大いに取り乱し、挙句の果てにはシャノンから和麻を解放する、自分こそが和麻にふさわしいと人目もはばからず公言していた。
簡単に言えば、八神遥香という少女は空前絶後の、ブラザー・コンプレックスを超えた愛情を兄に抱いているのだ。小学生のころから。
「とりあえず、自己紹介の途中だろ?さっさと前に出て挨拶しろ」
「挨拶なら先ほど「やったら後で好きなところを撫でてやる」了解しましたお兄様」
遥香は笑顔の輝きを三割増しにしながら教壇に戻る。
「みなさん初めまして。本日からIS学園一年一組でみなさんと一緒に勉学に励むことになりました八神遥香と言います。専用機はありませんがお兄様と同じ紗々宮グループのテストパイロット兼IS開発室にも所属しています。この中にお兄様に寄りつく害虫はいないと思いますので、みなさんとはよろしくしていきたいです」
遥香はにこやかな笑顔で自己紹介を終えると、先ほどと同じ優雅な一礼をした。
内容と、先ほどの行動によりショックでクラスメイト達はどういう反応をしたらいいのか分からず困惑するばかりだったが、そこに朝のHRの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「……そうなのか?兄妹で接吻が普通なら姉弟でも……はっ!これでHRを終える。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合するように!」
何事かをぶつぶつと呟いていた千冬はチャイムの音に我に返ると、連絡事項を告げて行動を促す。
和麻と一夏だけは空いている第二アリーナの更衣室に行こうとするが、
「織斑と八神。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろ?」
千冬にそう言われる。
二人のもとにシャルルが近づいてくる。
「君たちが織斑君に八神君?僕は――」
「ああ、いいから。とにかく移動しないと、女子たちが着替え始める」
「先に行くぞ」
シャルルの手を握って引っ張る一夏に構わず、和麻は教室から全力で飛び出す。
和麻が一組の廊下を駆け抜けたその直後、ほかのクラスの女子たちが現れて出遅れた一夏とシャルルを包囲する。
「ああっ!転校生発見!」
「しかも織斑君と一緒!」
「織斑君の黒髪もいいけど金髪もいいわあ」
「八神君がいないのは残念だけど、二人っていうのもそれはそれで……」
そんな声を横耳に、和麻は更衣室に急いだ。
一方、一組ではクラスメイト達が着替えている中、
「はっ!私は一体何を?ってマスターいません!?」
ずっとダウンしていたシャーリーが置いてきぼりにされたことに騒いでいたりした。
はい、もう一人の転校生はラウラじゃありませんでした!
遥香は協奏曲からこんな感じのキャラになる危険性があったんですよねー。いや、もう遅いか。
今回は短いので、もしかしたらあとで加筆して投稿しなおすかもしれません。
あとしばらくは他の作品のストックチャージなどをしたいので、また投稿が遅れる恐れがありますがご容赦ください。