二人の生徒会長 氷霧の姫たちは叢雲と共に   作:竜羽

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初日の授業 悪だくみ

視線地獄。

それが一限目の授業を過ごした八神和麻の感想だった。

ISなどという、女にしか動かすことのできない兵器を動かしてしまったせいで放り込まれてしまったIS学園。

学園の生徒は自分を含めた二人を覗いて全員女子。教員まで女ばかりで唯一の男が用務員の爺さんとのことだ。

何ともアウェーなところに来たものだ。

 

――人生っていうのは何が起こるのかわからない、予測不能な事象っていうのがある。

 

並行世界のもう一人の自分がそう言うのも納得だ。

 

「って並行世界のもう一人の自分ってなんだ?」

 

「マスターは何を言っているのですか?」

 

思わずつぶやいてしまった言葉に、シャーリーが無表情に、抑揚のない声で応える。

その声は和麻の真下から聞こえた。

なぜなら、和麻が彼女を抱きかかえているからだ。

小柄な彼女が椅子に座る和麻の足の間に座って、和麻が後ろから抱きかかえている。まるで年下の妹をあやす兄のようだ。

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

そんな二人に声をかける人物。和麻と同じ男性IS操縦者の織斑一夏だ。

 

「ん?なんだ織斑?」

 

「いや、同じ男子だし仲良くしようと思ってさ」

 

「ふ~ん、仲良くね~」

 

にこやかに右手を差し出す一夏に、和麻は後ろの方に目を向ける。そこにはポニーテールの女生徒が一夏を睨みつけるように見ていた。その顔は不機嫌そうにへの字に口を結んでいる。

 

「俺よりもあっちの子と仲良くした方がいいんじゃないか?お前のことをものすごく睨みつけているぜ」

 

「ん?げっ!?箒……」

 

「知り合いだろ?」

 

「幼馴染なんだけど。あいつのこと昔から苦手で……」

 

そう言いながらも律儀なのか一夏は少女――篠ノ之箒のもとに歩いて行った。

そして、なぜか怒鳴られて教室の外に引っ張られていってしまった。

 

「マスター。あれが痴話喧嘩ですか?」

 

先ほどと全く変わらない抑揚のない声でシャーリーが和麻に質問する。

 

「いや、どちらかというと情けない男が気の強い女に一方的に怒られている感じだな」

 

「……よくわかりません」

 

「分からなくていい。これから学んでいけ」

 

「はい。マスター」

 

シャーリーが頷き、その頭を和麻は撫でる。

和麻は、目を細めながら気持ちよさそうに撫でられるシャーリーを優しげに眺めながら、周囲から注がれる視線をどうにかするために行動を起こす。

 

「はいちゅーもーく!」

 

いきなり大声を上げた和麻に教室にいた全員だけでなく、教室の外に集まっていたほかのクラスの生徒たちの視線が集中する。

 

「何か俺、もしくは俺たちについて何か質問ある人いるかー?今なら気軽に応えるかもしれないぜ。好きな食べ物から好きな映画……あとは好きなタイプとか」

 

和麻の言葉に生徒たちがざわめき始める。

ざわめきを収めるように和麻はパンパンと手を鳴らす。

 

「休み時間もあと5分。何もないなら次の休み時間は質問受け付けないぜ」

 

その言葉に生徒たちが和麻の席に群がった。

 

「はいはい!八神君ってどんな子がタイプなの!?」

 

「あ、ちょっとズルい!八神君って恋人いるの!?」

 

「シャーリーちゃんって本当にISなの!?」

 

押し寄せる生徒たちを和麻は手慣れたように一人ひとり相手していった。

 

 

 

 

 

休み時間の終わりを知らせるチャイムが鳴り、質問攻めにする生徒たちに戻るよう促した和麻は、シャーリーを膝から下ろし、授業の準備をする。

ほどなくして、授業を担当する真耶が入室してきて授業が始まった。

内容としてはISの基礎と言えるような内容で、事前に渡された参考書に目を通していた和麻は問題なくついて行けた。

ただ、一夏が参考書を紛失したせいで全くついて行けていないという事態が発生。

しかも、その紛失した理由というのが、

 

「古い電話帳と間違えて捨ててしまいましイダッ!?」

 

あまりにあほらしい理由に、和麻は笑う気も起きず、千冬の出席簿で沈められた一夏を馬鹿を見るような目で眺めた。

 

そんな授業が終わり、再びの休み時間。

 

「はいはーい!八神君今度は――」

 

「ちょっと!?あなたまた――」

 

「ねえねえ!シャーリーちゃんってどんなISなの!?」

 

和麻の席の周りには大勢の生徒たちが押し寄せていた。しかもさっきの時間よりも人数が多い。

さっきの休み時間は幼馴染の篠ノ之箒と屋上に行っていた一夏は何事かと唖然としていた。

そんな一夏に一人の女子が忍び寄るのを横目に見つつ、和麻は目の前の女子生徒の質問に答える。

 

「はいはい。次はえ~と……」

 

「布仏本音だよ~かずやん」

 

「お、あだ名つけてくれるのか?だったら俺もつけてやろうか?」

 

「ホント!わ~い!」

 

和麻の言葉に、布仏本音という少女はうれしそうにまのびした声で応える。

ダボダボの長袖を着たのんびりした雰囲気の少女だ。見ているだけでも心が和んでしまう。まるで動物園のナマケモノを見ているような気分にさせられる少女だ。

よし、と和麻は彼女に付けるあだ名を決めた。

 

「のほほんとかどうだ?苗字と名前の前二文字を繋げてみたらお前にぴったりになった」

 

「お~いいねえかずや~ん」

 

「気に入ってくれてよかったぜ。あ、シャーリーはどうする?」

 

「う~ん……しゃりりんとかどう?」

 

「どうだ?シャーリー」

 

和麻は前の休み時間同様膝の上に座るシャーリーに問いかける。

その顔には相変わらず表情の浮かんでいないが、少し考えるように首をかしげる。

 

「……どう、と言われても。私の名前はシャーリーです。マスター」

 

「あだ名だ。ニックネーム。親しい間柄のやつにしか許さない愛称のことだ。のほほんにおまえをしゃりりんと呼ばせてもいいか?」

 

しばらく和麻の言葉を吟味するシャーリーだったが、しばらくしてこくりと頷く。

 

「いいってさ。よかったな、のほほん」

 

「うわ~い!ありがとう、しゃりりん!!」

 

本音はうれしそうに袖に完全に隠れた両手でシャーリーの手を握ってぶんぶんと振り回す。

本音のいきなりの行動に、シャーリーは目を白黒させながら和麻に助け舟を出すが、和麻は意地悪そうに笑うだけだった。

そうして、また休み時間が終わった。

 

 

 

 

 

一日の授業が終わって、和麻はシャーリーの頭を撫でながら机の上で考えに耽っていた。

今彼はシャーリーを撫でながら、頭の中で今後の予定を立てていた。

目下の最大の問題。それは一週間後の模擬戦だった。

 

本音とあだ名をつけあった休み時間の次の授業。

それは千冬が教壇に立つ授業であり、生徒だけでなく副担任の真耶までノートを広げて聞く準備を整えていた。当然和麻もしかるべき準備(・・・・・・・)を用意して臨んでいたのだが、その出鼻は挫かれた。

 

 

 

 

 

クラス代表。

簡単に言えば学級委員長のような役職で、いきなりそれを決めると千冬が言い出したのだ。

クラスのまとめ役といえば聞こえはいいが、実際は生徒会の主催する会議にでたり、クラスの雑用を引き受ける存在。

しかも、このクラス代表に選ばれた者は、近くに迫っているクラス対抗戦でクラスの代表として出席しなければいけない。

ようは、クラスの顔だ。

そんなクラス代表なら話題性がある方がいいと、クラスの女子たちはこぞって一夏と和麻、二人の男性IS操縦者を推薦し始めたのだ。

 

その時点で和麻は頭の中でどうやってこのクラス代表を一夏に押し付けるか、頭の中で算段を立てていた。

何を隠そう、和麻はこう言う仕事が大嫌いなのだ。

クラスをまとめるなんて面白みの全くない立場だ。どちらかと言えば、クラスの騒動を眺め、時には悪化させて面白おかしくする方が和麻の好みなのだ。

推薦の辞退は担任である千冬が却下していたため無理。

なら一夏に押し付けるしかないなと方法を考えていたら、一人の女子生徒が机をたたきながら立ち上がった。

 

その様子を、和麻はにやりと音が付きそうな顔で笑いながら眺めていた。

 

女子生徒の名前はセシリア・オルコット。

イギリスの代表候補生で主席入学の優等生。しかも、専用機持ちのエリートのようだ。

彼女はISが現れてから広まった女尊男卑思想に染まった典型的な少女で、推薦された和麻たちを散々こき下ろした。それに対し一夏もいい返し、後は買い言葉に売り言葉。二人のIS を使った決闘が決まり、勝った方がクラス代表になることになった。

ちなみに、千冬の提案、というか命令でこの決闘とやらには一夏と同じく推薦されていた和麻も参加することになった。

それを聞いた和麻はフムと頷き、

 

「試合形式はどうするんですか?」

 

と千冬に質問した。

それに対し千冬は総当たり戦と答えたが、

 

「それじゃあ、俺達が不利すぎませんか?」

 

そもそもISでの強さとは、ISを動かした時間に比例するのが通説だ。

代表候補生として300時間は乗りこなしているセシリアに対し、和麻は一時間、一夏に至っては10分くらいしか動かしていない。

どちらが勝つのか分かりきっている。

 

「ならばどうしろというのだ?八神」

 

「三人全員によるバトルロイヤルを提案します」

 

面白そうに提案した和麻の言葉に、千冬はしばらく考え込み「いいだろう」と答えた。

 

こうして、一組のクラス代表を決めるバトルロイヤルの開催が決定した。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろかな」

 

「何がそろそろなんだよ?」

 

右手に持った機械を(いじ)りながら呟いた和麻の言葉に、いつの間にか目の前に来ていた一夏が反応する。

 

「別に何でもない」

 

「そうか。それより和麻、なんでお前セシリアの時言い返さなかったんだよ?」

 

「ん?何が?」

 

「何がって、あれだけ馬鹿にされたんだぞ!?」

 

何でもないように言う和麻に、一夏は声を荒げる。

 

「別にどうでもいいだろ。それに俺って愛国心あるわけじゃないし……それに」

 

イギリスは結構好きだしな――という言葉は小さすぎて一夏には聞こえず、首をかしげる。

 

「それより、お前は勝算あるのか?」

 

「勝算?」

 

「決闘のだ。正直、俺達にとってはかなり厳しいぞ」

 

「大丈夫だって!俺と和麻が協力すれば勝てるさ!」

 

笑顔で言う一夏に和麻は内心ため息をつく。こいつ何もわかっていない。

協力すれば、というが一夏はわかっているのだろうか?

和麻が提案したのは一夏&和麻VSセシリアという二対一の戦いじゃない。

一夏VS和麻VSセシリアというバトルロイヤル――つまり全員が敵だということだ。

和麻がわざわざそう提案したことに気が付いていない。

何という楽天的な思考回路なのだろうか。

和麻は右手に持っている機械を再び弄びながら、一夏という少年の純粋さというか天然な頭にため息を吐いた。

 

「なあ、さっきから何を持っているんだ?」

 

「ん?これか?」

 

一夏の質問に和麻はその手に持っていた機械を見せる。

大体片手で握れるくらいの大きさの細長い機械で、ボタンがいくつか付いていて、スピーカーのような部分がある。

 

ボイスレコーダー(・・・・・・・・)だ。授業内容を録音して後で復習するときにもう一回聞くためのな」

 

「へーやっぱそう言うのって要るのかな?」

 

「まあ、必需品じゃないが有って損はしないぞ。いろいろ面白いことにも使えるしな」

 

にやりと和麻はあくどい笑みを浮かべて、そのボイスレコーダーを再生させる。そして、繋がれたイヤホンを耳に当てる。

そこから聞こえてきたのは、セシリアの声――

 

『大体、男がクラス代表など恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱に一年間耐えろとおっしゃるんですの!?』

 

『物珍しいからという理由で極東の猿にクラス代表をやらせるなど困りますわ。わたくしはこのような島国までISを学びに来ているのであって、サーカスをしに来たのではありません!』

 

『大体、文化としても後進的で低俗な国に暮らさなくてはいけないこと自体耐えがたい屈辱で――』

 

「ホント、面白いものが録音出来たぜ」

 

「?」

 

 

 

 

 

「あ、いました!織斑君に八神君!」

 

教室に入って和麻たちの名前を呼んだのは真耶だった。

 

「どうしたんですか、山田先生?」

 

一夏はなぜ彼女がここに来たのかわからないようだったが、和麻はようやくかと呟き席を立つ。

 

「寮のお部屋が決まりましたので、ルームキーを渡しに来ました」

 

「寮?確かしばらくは自宅通学と聞いていたのですが」

 

「やはり危険だということで、保護することになったんです。そこのところ、政府から聞いていませんか?」

 

「あーそういえば……」

 

「ありがとうございまーす、山田先生」

 

一夏がおぼろげな記憶を呼び起こしている間に和麻は真耶からルームキーを受け取る。

 

「じゃ、お先にな。行くぞ、シャーリー」

 

「はい、マスター」

 

シャーリーを伴って教室を後にする和麻。

放課後も相変わらず集まっていた生徒たちの中を物おじせず歩いていく。

その後ろをぞろぞろと女子たちが様子を窺うように着いて行った。

 

 

 

 

 

大名行列のようについてきた生徒たちも寮に入るとそれぞれの部屋に戻っていった。

部屋の番号は2001号室。二年生寮にある。

二年生寮に入り、寮長にあずかってもらっていた荷物を受け取った和麻たちは部屋に向かった。

和麻の持つルームキーに書かれた番号は2001号室。

とりあえず鍵がかかっていないことを確認した和麻は、ルームキーでドアを開けて中に入る。

 

中には二つのベッドが並び、壁際には勉強用のデスクと椅子。そしてソファーがある。備え付けられたシャワー室の隣には簡単なキッチンに小型冷蔵庫が置かれていて、自炊もできそうだ。

ベッドの間には小型の組み立て式簡易ベッド――和麻が頼んで届けてもらったもの――が置かれている。

 

荷物を下ろした和麻はシャーリーのための簡易ベッドを組み立てることにする。

工具もネジもいらない仕組みなのですぐに出来上がった。

シャーリーのベッドの上に布団を敷いて一息ついたところで、部屋のドアが開いた。

シャーリーはソファーの上でボーっとしている。ならばドアを開けた人物は第三者だ。

その人物は高確率で――和麻の相部屋相手だ。

 

「あら?もう来ていたの?」

 

よく通るソプラノボイスだった。歌手や声優と言われても納得するような声音だ。その声の主がほどなくして和麻の前に姿を現す。

 

動くたびに揺れる水色という珍しい色の長髪。

女性なら誰もが嫉妬しそうな見事なスタイルに、きめ細やかな肌。

顔に浮かぶ笑みは自信の表れ。

真紅に輝く瞳には何者にも屈しない強い光が宿っている。

 

「お久しぶりね、八神和麻君」

 

「ああ、久しぶりだな。更識流無」

 

更識流無――このIS学園で生徒会長の片翼として名を響かせている少女だった。

そして、和麻がISを初めてシャーリーを動かした現場に立ち会った少女でもあった。

 

 

 

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