二人の生徒会長 氷霧の姫たちは叢雲と共に   作:竜羽

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書き直し以前の完全アンチルートです。消すのも惜しいのでまとめました

あ、言うまでもありませんがセシリア激アンチですのでオルコッ党の方は見ないことを推奨します。


IFルート(セシリア激アンチ)

箒の手を握り、食堂に向かう一夏を眺めながら、和麻はある女子生徒をこっそりとおっていた。

セシリア・オルコット。

和麻と一夏が来週戦う相手だ。

食堂でセシリアが洋食定食を注文し、座ったところを見計らって和麻は月見とろろうどんを手に持って彼女の座っているテーブルに向かう。

後ろには和麻と同じものを持ったシャーリーもトコトコついてきている。

 

「ここいいか?」

 

和麻はセシリアの目の前の席に指をさしながら話しかける。

 

「なんですの、あなたは?」

 

「おいおい。クラスメイトに御挨拶だな。混んでいるから相席させてほしいんだよ」

 

「ふん、極東の猿風情がわたくしの優雅なランチタイムに割りこむなど許されるはずがありませんでしょう?」

 

取りつく島もなく和麻を拒絶するセシリア。彼女の眼は和麻を完全に見下している。

その様子に和麻は内心ほくそ笑む。

こう言う相手ほど、やりがいがある。

和麻はこっそりと、右足のつま先を床に二回たたきつける。

すると、それを合図に一人の女子生徒が近づいてくる。

 

「どうしたの?和麻君」

 

その女子生徒とは和風御膳を手に持った流無だった。

 

「おう、流無。お前も昼飯か?」

 

「ええ。さっきとってきたところ。でも席が空いてなくて」

 

「なっ!?」

 

いきなり現れた流無にセシリアは唖然とする。なにせ、流無は代表候補生なら誰でも知っている最年少でロシアの国家代表になった天才だ。

彼女の噂は世界中に轟いており、強さも折り紙つき。

セシリア自身も彼女については国の代表から聞かされており、IS学園での要注意人物だと認識していた。

その彼女がまさか和麻と親しげに話をするなど、露ほども思っていなかった。

 

「ねえ、セシリア・オルコットさん」

 

いきなりの事態に混乱していたセシリアはその一言で我に返る。

 

「な、なんでしょうか?」

 

「ここ、私と和麻君、シャーリーちゃんが座ってもいい?」

 

セシリアの座っていたのは六人掛けのテーブルで、片方には三人座ることができる。

 

「い、いえ、あの……」

 

「いいわよね?」

 

和麻のほうを睨みながら、否定の言葉を言おうとするが流無の威圧感に切りだすことができなかった。

それに、もし断ったら流無を敵に回すかもしれないと考えたセシリアは仕方なく「ど、どうぞ」と了承した。

 

「ありがと。さあ、一緒に食べましょ和麻君、シャーリーちゃん」

 

「おう。そうだな」

 

「はい」

 

流無とシャーリーが先に座り、和麻がセシリアの前に座る。

そのことにセシリアは不満そうな顔をするが、流無がいるせいで文句も言えない。

 

しばらく和麻たちは何事もなかったかのように食事をし始めるが、セシリアは和麻を睨んでいた。

そして、セシリアが洋風定食を食べ終わろうとしたその時、食堂に設置されたスピーカーからポップな音楽が流れ始めた。

 

『お食事中のみなさんこんにちはー!今年度最初のIS学園ラジオの時間がやってまいりました!お相手は放送部部長の大原京(おおはらきょう)と――』

 

『同じく放送部副部長の静峰京(しずみねみやこ)がお送りします』

 

始まったのは去年から始まったIS学園のラジオで、毎回寄せられたはがきを読んだり、リクエストされた曲を流したりしている。

余談だが、今放送をしている二人は姉妹でもなんでもない。偶然名前の文字が同じだけである。

 

『さて、記念すべき今年度第一回のラジオ。内容はいま学園でホットな話題にまつわるお話をしようと思います』

 

『そうですか。京さん、今一番の話題というとやっぱりあれですか?』

 

ラジオに構わず、食べ終わったセシリアは席を立とうとするが、続けられた(きょう)の言葉で立ち上がるのをやめる。

 

『はい。一年一組のクラス代表決定バトルロイヤルについてです』

 

なにせ、セシリア自身が当事者である内容だったのだから。

 

『学園唯一の男子が所属するクラスのクラス代表の決定戦。これは注目ですよ』

 

『情報では全員専用機持ちらしいですよ』

 

『かー!うらやましいねえ。私ら二年には三人しかいないのに、一年は四人!そのうち三人が同じクラスってどういうことよ!?』

 

『さあ?何はともあれ面白い戦いになりそうですね』

 

『相変わらずクールだね、(みやこ)ちゃん。実はなんと、このバトルロイヤルについて、面白そうなものを入手しちゃいました!』

 

『なんですか?』

 

そして、(きょう)はその先の言葉を口にする。

 

 

 

 

 

『なんとなんと!イギリス代表候補生セシリア・オルコットさんの宣戦布告を録音したデータの入ったUSBメモリです!』 

 

その瞬間、和麻と流無はにやりと誰にもわからないように笑った。

 

 

『大体、男がクラス代表など恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱に一年間耐えろとおっしゃるんですの!?』

 

昼時に生徒たちでごった返す食堂。そこに響き渡る甲高い声。

 

『物珍しいからという理由で極東の猿にクラス代表をやらせるなど困りますわ。わたくしはこのような島国までISを学びに来ているのであって、サーカスをしに来たのではありません!』

 

ヒステリックを起こしたように喚くその声は間違いなくセシリア・オルコットの物。

 

『大体、文化としても後進的で低俗な国に暮らさなくてはいけないこと自体耐えがたい屈辱で――』

 

内容は――ひどい。

 

『…………』

 

『…………』

 

「「「「「…………」」」」」

 

その内容のあまりのひどさに、食堂の生徒どころかラジオの二人、さらには食堂で働いていたおばさんや教師たちまでも絶句する。

そんな食堂の様子を眺めながら、和麻はちらりと自分の目の前のセシリアを見る。

 

「え……あ?」

 

彼女は一体何が起こったのか理解していないような顔をしていた。

なにせ、いきなり自分の発言が勝手に学園内のラジオ番組で流れたのだ。

 

『え、ええとこれは……』

 

『本当にセシリアさんの言葉なのですか?』

 

ようやく我に返ったラジオ部の二人。だが、未だ信じられないようだ。

 

(きょう)さん。これ偽造とかじゃないのですか?』

 

(みやこ)が冷静な口調で、(きょう)に事実確認をする。

 

『ええ。私も今聞いたばかりですが、これは生徒会に匿名で送られたものを解析し、事実だと判定されたデータを再生しましたから』

 

『生徒会が。とするとこれは事実ということですね。IS学園の生徒会がいい加減なデータを流させるはずがありません』

 

生徒会が解析したという言葉に、セシリアは目の前にいる流無を見る。その顔には驚愕が浮かんでいる。

そんなセシリアを流無は無表情で見返す。

 

『それにしても、これが事実だとすると……ちょっとカチンときますね』

 

『はい。私たち日本人を極東の猿扱いですか……』

 

スピーカー越しでも二人の声が怒りで震えていることがわかる。

いや、二人だけではない。食堂にいた日本人である生徒全員が怒りで顔を険しくしている。

 

「さて、そろそろ言わせてもらいましょうか」

 

流無は携帯を取り出し、ラジオを止めるように放送部の二人に連絡をする。

そして、静まり返った食堂で立ち上がり、まっすぐとその目をセシリアに向ける。その目には、和麻が冷や汗を流してしまうほどの怒気が滲んでおり、反射的にシャーリーを引き寄せる。

近くにいるだけの和麻がこれほどの圧力を感じているのだ。それを叩きつけられているセシリアは顔面を蒼白にしている。

 

「このデータは匿名で生徒会に届けられたデータよ。私が何度も見直したけれど、偽装された跡はなかった。つまり、あれはウソ偽りないあなたが言った言葉よ、セシリア・オルコット!!」

 

最後のほうは怒鳴り声だった。それは沈黙が支配していた食堂で大きく響いた。

その言葉にセシリアは「ひぅ」という声にもならない悲鳴を上げ、食堂の全員の視線が殺到する。

その視線が物語っていた。セシリアに対する怒りを。日本人だけでなく、同じイギリス出身の生徒まで、セシリアを睨みつけている。

 

「ずいぶんと面白いことを言うじゃないの?日本人が極東の猿?じゃあ、私も、この学園にいる日本人全員が猿だということね?世界最強になった織斑先生も、IS学園を運営している学園長も、日本の部門受賞者(ヴァルキリー)たちも!」

 

「わ、わたくしは、お、おとこを……」

 

「男?つまりあなたは日本の男を猿だというの?いえ、そう言えばあなたは日本だけでなく男が恥さらしだと言っていたわね?つまり、私を育ててくれたお父さんを、お爺様を恥さらしだと?私の家族を馬鹿にするということなのね?いいえ、其れだけじゃないわ。ここにいる生徒全員の父親や祖父、兄弟が恥さらしの猿だということなのね?」

 

「そ、それは……」

 

「しかも、日本を後進的で低俗な国と言っているそうじゃないの?じゃあ、日本を経済大国だと評したアメリカなんかの国々も後進的で低俗というわけね?日本の車を利用している諸国も後進的だと!」

 

「あ、あぁ……」

 

「そもそもあなたがその耳に付けているIS。それは誰が作ったのかしら?言ってみなさい。出身も一緒に!」

 

「し、しの……」

 

「聞こえない!!!」

 

「し、篠ノ之束!日本じ……ん……」

 

「あなたの言葉を借りるなら、その後進的で低俗な国の人間が作ったのがISということね」

 

「ち、ちが……」

 

「違わないでしょう?それとも何?イギリスは独力でISを開発。しかも発展させたとでもいうの?あなたのISがそれだと?だというのなら来週のバトルロイヤルが楽しみね。私のISよりも強力なんでしょう?それは?あれだけ大言壮語を言ったんですものね!!」

 

「…………」

 

もはや、セシリアは流無の顔を見ることができず、言葉さえも届いていなかった。

だんだんと増していく流無の威圧感に意識を保つことができずに、顔を蒼白にして気絶していたのだ。

 

「……サラちゃん、いる?」

 

「……ここにいるわ」

 

さっきまでの怒鳴り声と違って落ち着いた様子の流無の言葉に、一人の生徒が返事をする。

彼女の名前はサラ・ウェルキン。

セシリアと同じイギリスの代表候補生で、流無とも親しい少女だ。

 

「保健室に運んで行ってもらえないかしら?多分あなた以外に任せたら、この子どうなるかわからないわ」

 

周りのほとんどの生徒たちは全員セシリアに対して、敵意をむき出しにしていた。

 

「ええ。一応、私の後輩だしね。でも、その前に……」

 

サラはその場で生徒全員に深く頭を下げる。

 

「みなさん、特に日本人のみなさん。我が国の候補生が、大変失礼なことをいたしました!」

 

その謝罪は食堂にいる全員の耳に届いていく。サラはしばらく頭を下げたままだったが流無が上げるよう促す。

 

「頭を上げてサラちゃん。貴女が謝ることはないわ。私はあなたが去年からずっと学園のみんなを差別することなく接してきたことを知っているもの。みんなも、今回の事は一応この辺で手打ちとします!」

 

パンと手を大きくたたく流無。だが、大部分の生徒たちが不満げな顔をするが、

 

「セシリア・オルコットは私の生徒会長権限で来週の一年一組のクラス代表決定バトルロイヤルまで生徒指導室で謹慎とします!」

 

IS学園の生徒指導室にはいくつか種類がある。中には罰を侵した生徒を反省させるために長期間閉じ込める部屋もあるのだ。

 

「一週間後、彼女が反省し終わるまで待っていただけないでしょうか?それから彼女のことを判断してください。お願いします」

 

頭を下げる流無。流石に流無まで頭を下げられれば、全員怒りを収めていく。

サラはもう一度謝罪の言葉を口にするとセシリアを背負って食堂から出て行った。

 

「マスター。流無怖かったです」

 

「よしよし、悪かったな。怖がらせて」

 

「私もごめんなさいね、シャーリーちゃん」

 

和麻と流無は少し怯えていたシャーリーに謝罪をし、食事に戻ったのだった。

 

翌日、一組の教室にセシリアの姿はなく、千冬の口から謹慎になったことが伝えられた。

 

 

 

 

 

一週間というものは存外早く過ぎ去るものだなと、和麻は放課後の更衣室で一人呟く。

IS学園に入学してから初めての日曜日は、流無とのIS訓練に丸々一日費やして終わった。

今日にいたるまで、和麻は空いた時間にそれなりに準備を進めてきた。

授業の予習復習は当然。むしろ一年生の教科書を最後まで目を通し、ISの専門書を図書館に探しに行ったりなんかもした。

流石に全部を覚えることはできないが、自分にとって有益だと思った情報は片っ端から覚えて行った。

また、実技に関しても、できるだけアリーナの使用時間ぎりぎりまで残って、流無に指導してもらいながらISを動かした。

おかげで大分思い通りに動けるようになった。これなら明日のバトルロイヤルも大丈夫だろう。

 

「明日、オルコットがどうなっているかが鍵だな」

 

反省し、心を入れ替えたならよし。和麻としてはそれでもありだと思う。

この間の食堂でラジオで大暴露されたときのセシリアの反応で十分楽しめた。

そうなればこのバトルロイヤルも、貴重な実戦経験を積むことのできる機会だと楽しむことができる。

だが、もしもセシリアが心を入れ替えていなかったら……。

 

「確かめるか」

 

鞄の中に入っているボイスレコーダーを確認し、和麻は更衣室を出た。

 

「やあ」

 

瞬間、足を止めた。

更衣室のドアの前にいた女子生徒に話しかけられた。

流無と同じ髪と瞳。

違いは髪の長さか。

腰のあたりまで伸ばしている流無と違って、目の前の少女の髪は肩の少し上にかかるくらいのショートヘアー。くせ毛なのか外側にはねている。

実は流無の髪もくせ毛で、いつもつけているリボンを外すと外側に広がってしまう。

その少女を和麻は知っていた。流無と双璧をなすこのIS学園のもう一人の生徒会長。

 

「お久しぶりだね?八神和麻君♪」

 

「ああ、久しぶりだな。更識刀奈」

 

和麻に会えてご機嫌です、という雰囲気を隠すことをしない刀奈は、ニコニコ笑いながら『無病息災?』と書かれた扇子を広げる。

 

「入学早々さっそくやらかしちゃったみたいね~。大いに楽しませてもらったわ」

 

「おいおい?一体何のこと――」

 

「セシリア・オルコットの一件。あなたが糸を引いていたんでしょ?」

 

とぼけようとした和麻を、刀奈はそれを許さない。

 

「あの録音データを収集できるのは一組の人間だけ。しかも、それを入学して一日足らずで生徒会長である流無のもとに届けるなんて、誰にでもできることじゃないわ。せめて、流無と旧知の間柄じゃないと。とても話を持ちかけるなんてできない」

 

刀奈の言うとおりだ。

そもそも流無はIS学園の生徒会長というだけあってカリスマ性も高く、最年少国家代表として有名だ。それゆえに新入生にとって話しかけるのに勇気がいる相手であり、こんな短時間にことを計画することはできない。

 

「あのクラスには本音ちゃんっていう幼馴染がいるけれど、あの子がこんなことをするのは性格的に無理ね。流無の単独犯っていう線もなし。だったら、犯人は偶然録音機器を持ち歩いている流無と面識のある――」

 

刀奈は和麻のカバンをするりと奪い取り中からボイスレコーダーを取り出して見せる。

 

「君だけね」

 

ウインクしてみせる刀奈に、和麻は流無と出会った時のような高揚感を覚える。

流石双子の姉妹。どうやら姉のほうも自分と気が合うらしい。

 

「正解だ。刀奈って呼んでいいか?あんたとは仲良くなれそうだ」

 

「あら奇遇ね。私もそう思うわ」

 

「ほんと、奇遇だな」

 

「うふふ……」

 

「くくく……」

 

しばらく二人は、あくどい笑みを浮かべて笑った。

どうやら和麻は更識姉妹と本当に気が合うのだろう。

 

「うふふ。さて、いつまでも笑っていてもしょうがないわね」

 

「くく、そうだな。食堂まで行くか?」

 

「ええ。そういえば、あなたのパートナーは?」

 

ふと刀奈が和麻といつも一緒に居るシャーリーがいないことに気が付いた。

 

「シャーリーならいま少し外している。ちょっと汚れたから流無に大浴場に連れて行ってもらったんだ。たまには風呂に入れさせてやりたいからな」

 

汚れたというのが、訓練中に無茶な機動をして壁にぶつかったことだというのは余談である。

 

「ふ~ん、じゃあ問題ないわね。行きましょ」

 

刀奈がそう言って歩き始めるのを、和麻は少し後ろの位置を歩きながら着いて行く。

アリーナを出た二人はそのまま何事もなく寮の食堂に辿り着き、夕食を注文する。

和麻はカルボナーラ、刀奈は前に流無が頼んでいた和風御膳だった。

それぞれの夕食を手に持って席に着き、食べ始める。

半分ほど食べ進めたところで刀奈が口を開く。

 

「で?」

 

「で?ってなんだ?」

 

「まだあるんでしょ?セシリア・オルコットをはめる策が」

 

「おいおい。人聞きの悪いこと言うなよ」

 

「あらそうかしら?私としては、あなた達二人はまだ何か隠している気がしてならないのよ」

 

「女の勘か?」

 

「そんなところね」

 

くるくるとパスタをフォークで絡め取り、ソースをつけて口に運ぶ和麻。刀奈も味噌汁の残りを全部飲む。

 

「まあ、そうだな。もしもオルコットが反省していたら何もしないぜ?」

 

「ふ~んへ~え」

 

和麻の言葉に刀奈は面白そうな顔をする。つまり、もしも反省していなかったら何かをまたやらかすということだ。

 

「楽しみにしているわ」

 

「おう、楽しみにしておけ」

 

 

 

 

 

そして翌日。ついにクラス代表を決めるバトルロイヤルが始まることになった。

すでに放課後となっており、バトルロイヤルが行われる第三アリーナは観戦しに来た生徒たちでいっぱいになっていた。

一組のクラス代表を決める戦いなのだが、いろいろ注目度が高い。

 

男性操縦者の一夏と和麻がどれほどの腕前なのか?

和麻のISシャーリーはどんなISなのか?

そして、セシリア・オルコットは果たして反省しているのか?

 

一年生だけでなく二、三年生も押し寄せ、さらには教師の姿もちらほら見える。

 

ダイビングスーツのような漆黒のISスーツに着替えた和麻とシャーリーは、更衣室で最後の打ち合わせをしていた。

 

「仕込みは十分できた。あとはどこまでやれるか」

 

「大丈夫ですマスター。マスターの期待に必ず応えてみせます。私はマスターの専用機なのですから」

 

相変わらず無表情だが、どこか張り切っているように見えるシャーリーに、和麻は「頼りにしてるぜ」と一声かけて更衣室を出る。

廊下を歩き、アリーナへと飛翔するためのピットに入る。

すると、そこには一夏となぜか箒がいた。

一瞬、なぜ無関係の箒がいるのかわからなかった和麻だが、そう言えば箒が一夏のコーチをしているという話を聞いたなと思いだす。

だが、二人の間にあるのは何とも言えない気まずい空気だった。

 

「なあ、箒?ISのこと教えてくれるはずだったよな?一週間、剣道しかしなかったんだが?」

 

「しょ、しょうがないだろ!お前のISはまだ届いていなかったんだから」

 

「だとしても、知識とかいろいろあっただろ!?教科書の内容を教えてくれるとかさ!」

 

「む……」

 

「目をそらすな!」

 

何となく和麻は事情を察した。

どうやら二人はこの一週間の間、ひたすら剣道ばかりしていたらしい。

コーチにふさわしくない相手を選んでしまった一夏を哀れに思うが、そう思うならなんで自分から行動しなかったのだろうか?

和麻は自主的に教科書を眺め、図書館にまで足を運んでISのことを勉強している。何も流無に強制されたことではない。生徒会長でもある彼女は付きっきりで和麻に付き合えないため、その分は自分で何とかしようと行動したのだ。

一夏もそれくらいできたはずだ。

なのにそれをしていないということは、この少年はまだこのバトルロイヤルを舐めている。

先日協力すると言っておきながら、一度も和麻のところに作戦などの相談に来なかったのが何よりの証拠だ。

 

「シャーリー」

 

「はい」

 

「勝つぞ」

 

「はい」

 

誰にとは言うまでもない。ただ流されているやつに、和麻は負けるつもりなど微塵もなかった。それは頼れるパートナーであるシャーリーも同じである。

と、そこに千冬と真耶がやって来た。千冬は落ち着いているが、真耶は慌てて走ってきたのか息を切らしている。

 

「お、織斑君織斑君!」

 

テンパる真耶の様子を横に見ながら、和麻は千冬に近づく。

 

「織斑先生。もうアリーナに出ても構わないでしょうか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「では、いくぞ。シャーリー」

 

「はい。マスター」

 

和麻はシャーリーの手を掴むと、そのままISを撃ち出すカタパルトの上を走り始める。

一夏たちが慌てるのに構わず、二人はカタパルトの先端までたどり着き、走ったことでつけた勢いを殺すことなくアリーナに向かって飛び降りた。

真耶が悲鳴を上げ、観客席からも、いきなり飛び出した和麻とシャーリーに気が付いた生徒たちの悲鳴が聞こえる。

カタパルトからアリーナの地面までの高さは10メートルほどで、もしも落ちたらひとたまりもない。

だが、和麻とシャーリーは慌てない。

ただ、自分たちの信じる力を具現化させるため、その名前を呼ぶ。

 

「行くぜ、叢雲!!」

 

シャーリーの体が光に包まれ、粒子に返還される。

それは和麻の体を包み込み、彼の鎧となる。

 

シャープな曲線をした騎士甲冑を思わせる漆黒の装甲。

装甲を走る蒼いラインは爛々と輝きを放ち、機体を美しく彩る。

背中に装備された超大型スラスターが巨大な猛禽の翼を思わせる。

 

完全に展開され、その全容をあらわにした和麻の専用機IS『叢雲(むらくも)』。

地面スレスレを滑空するように飛行し、一気に上昇。

なめらかで美しい飛行で指定されていた位置に滞空する。

その姿、存在感に客席は歓声に包まれた。

 

 

 

 

猛禽類のような翼を広げた黒い騎士。それが一夏の抱いた『叢雲』の印象だった。

真耶から提示されたISデータ。

そこに記されているのは日本の第三世代ISであることと、近接仕様のISであることだけ。

待機形態のシャーリーの様子から女の子らしいISなのかと思っていたが、ずいぶんと威圧感のあるISだ。

装甲に奔る蒼いラインの輝きは脈動するように波打ち、まるで生きているかのような錯覚を与える。

 

「気分は悪くないか?一夏」

 

千冬の言葉に一夏は叢雲の機体データから目を離す。

今の彼は先ほど届いた専用機『白式』を身に纏っていた。

叢雲と同じ騎士甲冑のような灰色の機体だが、角ばっていて叢雲よりも厳つい感じだ。

 

「大丈夫だぜ、千冬姉」

 

「オルコットさんもアリーナに飛び出しました。データを表示しますね」

 

一夏の目の前に今度はセシリアのISデータが映し出される。

 

「イギリスの第三世代IS『ブルー・ティアーズ』です。遠距離型の機体ですね」

 

名称と一般公開されている情報のみだが、素人の一夏には詳細な情報など渡されてもどうしていいのかわからないので、それで十分だった。

 

「白式の一次移行(ファースト・シフト)は済んでいない。初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)は実戦で行え」

 

千冬の言葉の半分も理解できなかった一夏だが、とりあえず頷いておく。

 

「それではいきますよ」

 

真耶に誘導されカタパルトに足を乗せる。

 

「い、一夏!」

 

今から戦いに赴こうとしている一夏に対し、箒は何と言葉をかければいいのかわからなかったが、それでもどうにか言葉を告げる。

 

「勝ってこい!」

 

「おう!」

 

力を込めて返す一夏。

そして、カタパルトが起動し、一夏はアリーナへ飛び出していった。

残された三人のうち、箒は速くアリーナの中の様子を見るために開け放たれていた管制室のドアに向かう。

その様子を千冬は頭を押さえながらやれやれと首を振る。

 

「それにしても、オルコットさんは大丈夫でしょうか?」

 

真耶が心配そうに言う。

ここ一週間、学園の中でセシリアに対しての風当たりは強く、たまに小耳にはさむ話でもセシリアの悪評が多かった。

 

「この一週間の状況はオルコットの自業自得だ。原因はあいつの無責任な発言なのだからな。それに、まだこの程度で済んでましな方だぞ?本当なら日本政府から英国政府への非難が殺到し、三日と待たずにあいつは本国に強制送還。専用機を取り上げられ、候補生の肩書を剥奪される。そうなれば後は転がり落ちていくだけだ。なのに、この一週間、両政府が動くどころか、この問題が全く伝わっていない(・・・・・・・・・・・・・・)のは更識妹のおかげだ」

 

「そうなんですよねぇ……」

 

千冬の言葉に真耶は不思議そうにつぶやく。

 

「まったく。一体何を考えているんだ?去年のようにまた大騒ぎを起こすつもりなのか?いや、もう十分大騒ぎにうっ、少し胃が……」

 

「織斑先生胃薬です」

 

去年のことを思い出し、胃のあたりを押さえだした千冬に手慣れた様子で真耶がポケットの胃薬を渡す。

それを「いい、少し思い出しただけだ。問題ない」と言って千冬は断るが、一応もらっておく。

 

「あいつに何の企みがあるのかはわからん。だが、すでにあいつは英国に対する強力な外交カードを握っている。その価値はかなり大きい。……せめてそれをマシに使ってほしいものだ」

 

 

 

 

 

アリーナの中心に浮遊する黒、白、青の三機のIS。

 

叢雲

 

白式

 

ブルー・ティアーズ

 

日本製の二機に、イギリス製の一機。

しかもすべてが最新鋭の第三世代IS。現行するISの最先端だ。

 

「間に合ったのか、織斑」

 

「あ、あぁ――おっと、と……何とかな」

 

ふらふらとした飛行で自分の隣にやって来た一夏に声をかける和麻。慣れない飛行動作で悪戦苦闘しながらも、一夏はそれに返す。

 

「危なっかしい飛行だな。ちゃんと練習してきたのか?」

 

「いや、全然できなかった」

 

「おいおい……」

 

一夏の言葉に呆れる演技をしながら、和麻はゆっくりと仕込みをしていく。

 

「誰かに教えてもらわなかったのか?」

 

「いや、ずっと剣道ばっかりやっていた。和麻は?」

 

「ん?親切なルームメイトに指導してもらった。すっげぇ助かった」

 

にこやかに言う和麻に、一夏はうらやましそうな目を向ける。

そんな目を男に向けられても気持ち悪いだけだった。

一夏を横目に、和麻はちらりと二人と少し離れて空中にたたずむセシリアに目を向ける。

 

『それでは、試合を――』

 

その目を、その先を見て和麻は確信した。

 

『開始してください』

 

 

 

 

 

ダメだこりゃ――と。

 

 

 

 

 

試合開始直後。和麻は背中のスラスターを噴かせ、一気に上空に翔けあがる。

空に蒼い軌跡を残し、さながら大鷲や隼のようにスラスターを大きく動かしながらの飛翔する。

アリーナの中を縦横無尽に舞うその姿は美しささえも感じられる。

 

「……気持ちいいなあ。シャーリー」

 

『よく、わかりません。今は何も感じられませんから』

 

和麻のつぶやいた言葉に今はISとなって和麻の体を包んでいるシャーリーが答える。

ISに備わっているオープン・チャンネルやプライベート・チャンネルなどの通信回線をベースに和麻とシャーリーの間だけで使えるように設定した回線を通して二人は話している。

この内容は試合を見ている観客や管制室の千冬たち、そして戦っている一夏とセシリアにも聞こえない便利なものだ。

 

「前から聞きたかったんだが、ISを展開している時はお前どうなっているんだ?」

 

『うまく言えないのですが、空に浮いています』

 

「すまん、よくわからん」

 

『簡単に言えば夢の中にいます』

 

「もっとわからん」

 

シャーリーの言葉に和麻は首をかしげる。

その和麻のすぐ後ろを青いレーザーが通り過ぎた。

 

「おっと……!」

 

それに気が付いた和麻は視線を向ける。

視線の先には、三メートルはあろうかという長大なレーザーライフル――スターライトmkⅢを構えたセシリアが和麻に狙いを定めていた。

 

少し離れた個所には一夏の姿もあったのだが、彼は四つのフィンのような浮遊物――ビット型兵器ブルー・ティアーズに囲まれ射撃の雨にさらされていた。

本体と独立したそのビットの集中砲火に今までまともにISを動かしたことのない一夏は翻弄され、手も足も出ないようだ。

 

『いつまでも逃げられるとは思わないでくださいまし!』

 

今度は続けて三発のレーザーが撃ち込まれる。

それを上下に動くことで避けるが、その先を読んでいたかのように四発目のレーザーが撃ち込まれる。

 

「ちっ……」

 

舌打ちをしながら体をひねり錐もみ回転をするように避ける。

だが、少し掠ってしまったようでシールドエネルギーが少し減少してしまった。

 

ISの勝負というのは、ISに搭載された操縦者を守るためのエネルギーシールドを展開するためのエネルギーの削りあいだ。

どちらがより威力の高い攻撃を叩き込むか、またはより多くの攻撃を当てることができるかに焦点があてられる。

攻撃を与える場所も重要で、クリーンヒットを与えられる場所――たとえば無防備な頭部などに与えられれば操縦者を守るためにISの最後の防御システムである絶対防御が発動し、エネルギーを大きく削れる。

 

簡単で分かりやすいISでの戦い。

そして、今回のバトルロイヤルでは和麻と一夏は圧倒的に不利だった。

セシリアが遠距離型なのに対し、二人は近接戦闘型。

一夏のISに関して和麻は全く情報を持っていないが、さっき見たときブレードを一本だけ展開して振り回していたことからまず間違いない。

 

対する和麻も持っている武装は三つだけで、遠距離武器は皆無だ。

 

『先ほどから逃げるだけとは。男とは所詮そのような存在ですか』

 

セシリアからプライベート・チャンネル――個人間での通信回線で和麻に声が飛んでくる。

 

セシリアの言葉はもっともだった。

何せ和麻は開始直後からずっとアリーナの中を飛び回っていただけで攻撃を全くしない。一夏のように武器だけでも展開するそぶりもない。

高機動型ISの持ち味である速度を駆使してセシリアの攻撃を避けるしかしていないのだ。

その空中制動はISに触れて少しの素人にしては見事だが、代表候補生のセシリアからしたらまだまだ無駄のあるお粗末なものだ。

 

『言い返すこともしないとは。流石わたくしをはめることでしか勝てない卑怯者の小物ですわね』

 

和麻が黙っているのをいいことにセシリアはプライベート・チャンネルでしゃべり続ける。

 

『あなたでしょう?生徒会長にあの録音データを渡したのは?』

 

『……根拠はなんだ?』

 

『はっ!堂々とわたくしの前でボイスレコーダーを見せびらかしておきながら、よくもぬけぬけと言いますわね!』

 

今日の授業にて、セシリアの謹慎が解かれ授業に出席した。

周囲から突き刺さる敵意の視線のなか、彼女は見たのだ。

授業内容を録音するためにボイスレコーダーをいじっていた和麻の姿を。

その瞬間、セシリアの頭は和麻がすべて裏で糸を引いていたのだと理解した。

流無もデータを渡しに行った際に、口八丁で丸め込んだと思い込んだ。

その結果、ふつふつとわいてきた怒りを、今和麻にぶつけている。

 

『わたくしを貶め、試合での不戦勝を狙ったのでしょうが無駄な努力でしたわね!あなたのような人を貶める最低最悪の下郎はここで成敗します!』

 

まくしたてるように言うセシリア。

一応、オープン・チャンネルで周囲に聞かせないのは、まわりのセシリアに対するアウェーな空気を読むくらいの理性は残っているようだ。この状況で観客に聞こえるように言っても、セシリアへの印象は覆らないと理解しているのだろう。

 

『あなたの指導をしたルームメイトもどうせ脅して無理やりやらせたのでしょう!その所業も白日の下にさらします!』

 

そこまで聞いて和麻はその場で急停止する。

その隙を逃すまいとセシリアは、先ほどの四連射を超える五連射のレーザーを叩き込む。

 

両手両足そして胸を撃ちぬく五条の光弾は――

 

『射線計算完了』

 

和麻に紙一重で避けられた。

 

「なっ!?」

 

必殺だと思った一撃を躱され、セシリアに動揺が走る。

 

その隙を見逃す和麻ではない。

一瞬にしてスラスターを最大出力で噴かせ、セシリアに接近する。

 

瞬間加速(イグニッション・ブースト)ですって!?」

 

一瞬でトップスピードに乗る近接戦闘の高等技術にセシリアは驚愕する。

和麻が一週間をかけて習得した切り札だった。

元々高機動型のISである叢雲が使えば、文字通り一瞬で相手に近づくことができる。

 

セシリアの目の前に現れた和麻は、驚愕する彼女に構わず蹴りを放つ。

それはセシリアの腹の部分にクリーンヒットし、彼女を地面にたたき落とす。

スピードも乗せたその一撃は勢いよくセシリアを吹き飛ばし、落下した地面からは砂煙が立ち込める。

そして、頃合を見計らい和麻はさっきから開きっぱなしになっていたプライベート・チャンネルでセシリアに話しかける。

 

『――お前はさっきから何を言っているんだ?』

 

『げほっがはっ!』

 

綺麗に決まった蹴りと、地面に叩きつけられた衝撃でせき込んでいるが和麻は構わない。

 

『まあ、俺がデータを流したのは認めてやろう』

 

『ぐっ、やはり……!』

 

『だがな、その後の推理は大外れだ』

 

心底呆れたという風に言う和麻。

 

『試合の不戦勝?下郎を成敗?脅された俺のルームメイトを助ける?何言ってんのお前?そもそも俺が望んだのはこの試合の勝利なんかじゃない』

 

『なん、ですって?』

 

『お前さ――ノブレス・オブリージュって知っているか?』

 

ノブレス・オブリージュ――

日本語に訳すと「高貴さは強制する」「高貴なる者の務め」。

 

財産・権力・社会的地位の保持には責任が生じることをさす言葉で、貴族などの特権と贅沢を正当化する隠れ蓑にもなったことがある。

 

つまり、人よりも優れた力を持つのなら、其れゆえに生じる義務もあるということだ。

 

『この言葉の発祥地はお前の国イギリスだ。『高貴なる者の務め』とはなかなか言えているなあ。だが、今のお前って全くこの言葉が当てはまらないよな?』

 

砂煙が完全に晴れた瞬間、和麻は猛然と殴りかかる――

 

 

 

 

一夏に向かって。

 

「へ?うおおおおっ!?」

 

いきなり自分に攻撃してきた和麻に一夏は混乱する。

 

「何するんだよ和麻!?俺とお前は味方じゃ――」

 

「いや、お前何言ってんの?これつぶし合い(バトルロイヤル)だぜ?自分以外全員敵だろ。あと、お前に名前呼び許したっけ?」

 

「え?いや、ちょ!?」

 

パンチ、キックを一夏に叩き込みながら和麻はセシリアにしゃべり続ける。

 

『そもそもの発端はお前の発言だ。あの発言が果たして人の上に立つべき人間の発言か?相手のことをよく知りもしないでこき下ろし、あまつさえ生まれ故郷を侮辱する。そんな人間を周りがどう思うのか。あの食堂で思い知っただろ?』

 

『!?』

 

フラッシュバックするあの昼休みの光景。

周りの生徒たちが向けてくる敵意の込められた視線。

あれの原因となったのはラジオの放送だが、そもそも流れたのはセシリアの言ったウソ偽りない言葉だった。和麻の手の全く加えられていない。

 

『今回、俺は期待していたんだぜ?お前がまず最初に謝ることを。だったら清々しい勝負ができた。俺も最初から出し惜しみなんかしないで武装を全部使って戦っていた。だが、お前は俺達や観客の生徒たちに詫びの言葉を入れるでもなく、ただ俺を睨みつけるだけ。つまり、反省していなかったってことだ』

 

『それは……それは……』

 

『それはじゃねえよ。真っ先にしなかった時点で説得力皆無だ。そもそもなんでお前が謹慎を解かれたと思う?この試合でお前が反省したかどうか生徒たちに見せるためだ』

 

あの食堂で流無は生徒たちに言った言葉を和麻は復唱する。

 

『一週間後、彼女が反省し終わるまで待っていただけないでしょうか?それから彼女のことを判断してください。お願いします――流無がお前を気遣ってそう言ったのに、お前は謝罪をするでもなく一方的な思い込みと妄想に怒りを燃やしただけだった。

いい加減気が付け。今ここでお前が戦えているのは流無が手を回したからだ。本来ならこの発言をした時点でイギリスから日本への侮辱として国際問題に発展。三日待たずして強制送還されていてもおかしくないのに、まだ政府から何の通達も来ていないのも流無が手を尽くしたからだ。お前が間違いに気が付き、更生するようにってな』

 

ガクリとセシリアは膝をつく。

和麻の言い分はどこまでも正しい。

 

『流無はこの先、お前がこのままだと必ず破滅すると危惧していた。国の威信を背負う代表の候補生が、それも専用機をもらうような努力を重ねた人間が、あんな発言をするのが許せなかったんだと。だから、俺が偶然録音した(・・・・・・)データを貸したんだ。そんできつい灸をすえたんだが……無駄だったようだな』

 

もはやセシリアは応えない。

自分の今までの行いにようやく気が付いた。代表候補生にあるまじき発言と態度。

反論のしようのない正論。

否定したい。

和麻が言った出鱈目だと。

だが、あの食堂での流無の目が思い出される。

浮かんでいた怒りと感じた怒気の記憶がセシリアの否定を言わせなかった。

 

ここでセシリアは戦意を喪失した。

 

 

 

 

おまけ

 

 

・バトルロイヤル前

 

「じゃあ、計画を確認しましょうか」

 

前日に迫ったバトルロイヤルのことで和麻と流無は就寝前の最後の確認をしていた。

 

「まずはプランAだな。『何もしない』だ」

 

「これはセシリアちゃんが反省していた場合ね。その場合は私もこの話を英国と日本政府に流させないようにするわ。生徒のほうもフォローは任せて」

 

親指を立てて言い切る流無。結構男前だ。

 

「次がプランB。『強制送還』」

 

「あいつが反省していなかった場合だな。その時は多分俺に突っかかってくるはずだ。作戦の開始は俺のシールドエネルギーが30%を切った。もしくはあいつが俺以外の人間を馬鹿にした時だ」

 

「分かっているわ。その時は遠慮なくこの話を両政府にばらして、ついでに英国からむしり取れるだけむしり取ってもらいましょう」

 

「くくく、いいなあ」

 

「ええ、いいわねえ」

 

黒い笑みを浮かぶ二人を眺めながら、ベッドに座ったシャーリーが一言ボソッと呟く。

 

「プランC――屠る」

 

両手を使って大きなCの字を作りながら言う。

その言葉に二人は大爆笑した。

 

 

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