緋弾のアリアif~遠山家最強の姉~   作:トリプルツレー

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 予告通り、オリキャラ出ます。




姉を追う者

―キンジ視点―

 

 

 あの『女子会』から数日後、カナから戻り、長い睡眠を終えた兄さんから、連絡が入った。例の武装検事が、実家の方に来るらしい。兄弟全員集合するから、来いとのこと。謝礼を受け取る為に、俺はウキウキと実家に向かう。

 

「ただいま。」

 実家の玄関を潜る。

「おお、兄貴、来たか。」

 GⅢが、出迎える。

「爺ちゃんたちは?」

「昨日から、箱根に旅行中だ、姉貴の金でな。」

 姉さんが、割と孝行していることに驚く。まあ、実際は、兄さんがそうさせたんだろうけど。すると、二階から、かなでがトテトテと下りてきた。

「あ、お兄ちゃん様。」

「かなで、何してたんだ?」

 かなでが、手に持っているものを、俺に見せる。小学生の計算ドリル。

「お姉ちゃん様と、お昼寝してました。これを、かなこお姉ちゃん様に見せて…。」

「えっ、じゃあ、姉さんまだ、爆睡してるんじゃ…。」

「はい、ぐっすりとお休みです。」

 小学一年生の計算ドリルですら、姉さんには難解なのに、かなでの持つ小学五年生の計算ドリルなんて見たら、一瞬で眠りに落ちてしまっているだろう。以前、俺が姉さんを怒らせて、しばかれてた時に、眠らせようと問題言ったら、「知らん」の一言で効かなかったけど。どうやら、殴るモードに入ると、殴るということ以外、考えてないらしく、眠くならないみたいだ。まあ、それはそれとして、

「なんで、姉さんを眠らせたんだ?武検も来るのに。」

「話がややこしくならない様に、俺が、かなでに頼んだ。」

 居間から出てきた兄さんが、そう言って、

「とりあえず、居間に来い。」

 と、俺たちに指示する。

 

 

 居間に、姉さんを除く5人が座る。

「全員分かっていると思うが、もうすぐ武装検事が来る。用件は、先日の事となっているが、本題は、姉さんについてになるはずだ。」

 俺以外が、こくりと頷く。あれ、俺だけ分かってないパターンだ、これ。俺は、完全にこの間の口止めと、謝礼と言う名の口止め料を貰えると思い込んでいた。

「この間の件で、姉さんの評価が、変わっているのか、そのままなのかは、分からないが、一手打ってくるのは間違いない。俺としては、姉さんの自由を奪う様な、内容なら、拒否するつもりだが。」

 兄さんが、お前たちはどうだ、と目で語りかける。俺と兄さんは、姉さんが、解き放たれる、メリットとデメリットを分かっている。だから、今の扱いにも、多少の不満はあれど、納得している。しかし、その扱いを悪い方に方向転換された場合―拘束や、完全な隔離等―、どうするつもりか、ということらしい。姉さんを眠らせた理由はこれか。

「そんなの決まってる。断固拒否だ。それで、攻めてくるなら、徹底抗戦、最悪、姉さんに全力で暴れてもらおう。」

 そう、滅茶苦茶な姉さんだけど、俺たちの姉さん、家族なんだ。他の都合なんて知ったことか。

「俺も同じ意見だ。」

「私も。」

「私もです。」

 全員、意見が一致する。

「分かった、その時は、覚悟を決めろ。まあ、恐らく、姉さんをぞんざいに扱うことはないと思うが、最悪は想定しておくものだからな。」

 そう、それは最悪の可能性。相手も馬鹿ではない、姉さんの怒りを買うリスクは、分かっている以上、下手は打たないはずだ。

「今回は、現状維持、あとは、俺たちへの注意喚起だろう。家族も増え、姉さんを知る者も増えたからな。」

 兄さんが、新しい弟と妹たちを見る。

「話は以上だな、確認しておきたいことはあるか?」

「姉さんを起こすタイミングは?」

 兄さんに、俺が尋ねる。

「恐らく、睡眠に入った時間から逆算すると、ちょうどいいタイミングで起きてくるはずだが、起きなかった場合は、かなめとかなでに頼む。」

「りょーかーい。」

「分かりました。」

 かなめとかなでが返事をする。

「そろそろだな、お茶とお菓子の準備を頼む。」

 兄さんが時計を見て、そう言って、玄関に向かい、妹たちが、台所へ向かった。

 

 

「すみません、お邪魔します。」

「ご足労いただき、ありがとうございます。」

 玄関が開き、武装検事と兄さんの声が聞こえてくる。来たな、兄さんの誘導で、この間の若い武装検事が、居間に入ってくる。

「皆さん、集まって頂いて、ありがとうございます。…、あれ?遠山かなこさんは?」

 頭を軽く下げて、姉さんの不在に気付く。

「ちょっと、色々とありまして、今、二階で休んでいます。」

「まさか、体調でもわるいのでしょうか!?」

 兄さんのぼかした回答に対して、驚いた様子で、そう言う。その顔は、本気で心配している感じがする。

「いえ、その、ただ、寝ているだけです。末の妹と昼寝をしていたので…。」

 兄さんが、歯切れの悪い返事をする。まあ、アホ過ぎて寝てますとは、言えんわな。

「そうですか、怪我や体調不良ではないんですね。よかった…。」

 武装検事が、心底安心した様に、ひと息つく。なんか、姉さんをやたらと気遣ってるなこの人。

「どうぞ、座って下さい。」

「ああ、すみません。失礼します。」

 そいつが座ると、かなめが、お茶とお菓子を持ってくる、それに、礼を言い、全員が座るのを待ってから、

「まずは、先日は、ご協力ありがとうございました。」

 座ったまま、頭を下げ、

「ええっと、自己紹介がまだでしたね。私、冷泉為和と申します。武装検事としては、まだ新米ですが、よろしくお願いいたします。」

 また、ペコペコと頭を下げる。この人、サラリーマン並に腰が低いなぁ。武装検事は、プライドが高い人が多いイメージだったから違和感あるなぁ。

「それで、この間の謝礼をと来た次第でして。」

 おお、きたぞ口止め料。

「謝礼ですが、俺は結構です。元は弟が持ち込んだ厄介事、それに協力頂いたわけなので。第一、そんなものがなくとも、一切公言しませんよ。」

 兄さんが、そう言うと。

「俺もだ、悔しいが、俺が自力で解決出来なかったのが、原因だからな。」

「私も、GⅢ助けてくれたんだしぃ。」

「私も大丈夫です。それに、食事代も出して頂いてるので。」

 みんな無欲だね。貰えるものは貰っとくのが、俺の流儀なので、俺は貰うけどね。

「それじゃあ―」

「ところで、奴の身柄は?」

 俺の発言を遮り、兄さんが尋ねる。

「ああ、悩んだのですが、英国に引き渡しました。」

「アメリカじゃねえのかよ。」

 少しGⅢがガッカリしている。

「ええ、外交上の機密なので、あまり詳しくは言えませんが、最近、英国で暴れた日本人が…、MI6の、007と喧嘩した人と、負傷させた人がいましてね。前者は、その他にも色々とやっちゃったみたいですが。その火消しもありましてね…。ああ、それが全ての理由では勿論、ないんですけどね。」

 冷泉は、少し疲れた様な笑みを浮かべながら、そう言う。途中、俺に目を向けながら。たらたらと、冷や汗が流れる。これじゃあ、謝礼下さい。って言えねぇじゃねぇか。だって、それやったの俺と姉さんだもん。最初から謝礼払う気なかったな、こいつ。

「あのぉ、俺も謝礼いらないです。」

 仕方なく、俺も謝礼を辞退する。

「そうですか、噂通り、遠山家の皆さんは、義の方々なんですね。」

 冷泉がニッコリと笑う。先手打っといてよく言うぜ。尽く金運に見放された俺は、今回もただ働きだ。いや、飯代は出してもらってんのか。普段よりはましだな。

「それで、遠山かなこさんの謝礼なんですが、ご本人がおられませんが…。」

「いえ、それも結構です。多大なご迷惑をお掛けしていますし。」

 兄さんが、そう言う。

「そ、そうですか…。分かりました。」

 冷泉が、少しガッカリした様にそう返す。俺と姉さんの扱いが違いすぎませんか?

 

 

「さて、もうひとつお話しがありまして。」

 口止め料の話が終わり、冷泉が本題を切り出す。その瞬間から、纏う空気が変わる。ああ、どんなに物腰柔らかでも、間違いなく、こいつは武装検事だな。雰囲気で分かる、強い、それもかなり。これからの話に対して、拒否・反対はない。そういう無言の圧力がある。

「遠山かなこさんの扱いですが、変更事項があります。まず、彼女の担当者に私が任命されました。前任者の時には、一度も連絡がありませんでしたが、今回からは、改善をお願いします。」

「すみません、その連絡とは?」

 兄さんが、尋ねる。

「ご存知でありませんでしたか。彼女が、何かしらの行動を起こす際、例えば、海外等へ行く時などは、所在地が分かるように、事前に連絡をして頂くはずだったんです。まあ、そもそも、パスポートを所持していないので、海外に行かれるのは困るのですがね。」

「えっ、姉さんパスポート持って無かったの‼」

 俺が驚きの声を上げる。兄さんも声には出さないが、同様に驚いている。当然の様に海外に行ってるから、てっきり姉さん専用のパスポートでも、渡されてると思ってた。何やってんのあの人。

「今までは、渡航許可を日本政府としては、出していなかったので…。今回から、こちらを用意させて頂きました。」

 冷泉がそう言って、テーブルの上に、スマホとパスポート、更に、分厚い封筒を置く。

「これは、本人に直接お渡しする決まりですが、一応ご家族でも、確認をお願いします。」

 兄さんが代表して、それらを確認する。スマホは、最新型で、連絡先に冷泉が既に登録されている。というより、電話以外特に何も機能を入れてない。勿体ないな。パスポートは、パッと見では分からないが、特殊な細工をしているのだろう。中身は完全に偽造してあるし。そして、封筒、これには何故か札束が入っている。

「この金は?」

 兄さんが尋ねる。

「それは、前回同様、特別手当です。金銭的困窮から、犯罪組織等に雇われない様にという配慮です。必要でしたら、毎月支給致します。まあ、前任者の時は、最初の支給以外必要なかったようですが。」

 無職の姉さんが金を持ってるのはそれか。姉さんはどうせ使わないんだから、俺に支給してくれないかな。

「実質、変更があるのは、担当者だけです。私としては、正直、遠山さんには申し訳なく思っておりまして、改善していける様に努めていきたいと考えています。」

「申し訳なく思うとは?」

 兄さんがピクリと反応する。裏で何かしらの取り決めでもあったのかと、疑いを向ける。それを察したのか、

「ああ、違うんです。私個人の感情の問題でして。武装検事になって知ったんです。遠山さんが、政府の圧力で武偵高の入学を拒否されたって。だから…。」

 それは、当時、父さんの同僚たちも言っていた。『子どもの夢を潰すのは心苦しい』って、冷泉も同じことを考えたのだろうか。まあ、実際はアホ過ぎて、普通に落ちたんだけど。そのことを、冷泉は、知らないようで、

「遠山さん、武偵になるのが夢だって言ってたのに、あんまりですよ。」

 と、本当に悔しさをにじませながらそう言う。なんか、申し訳ないなぁ。あれ、言ってたのに…?

「あれ、冷泉さん、姉さんと知りなんですか?」

 俺が、冷泉の発言から生じた疑問を口にする。すると、冷泉が、しまったという顔になる。

「いや、その、た、ただ中学校の同級生ってだけです‼」

 両手をバタバタと振りながら、そう言うが、明らかに同様している。

「かなこお姉ちゃんの、中学生の時ってどんな感じだったの?」

「私も知りたいです。」

 その頃を知らない妹ふたりが、目を輝かせて、冷泉に詰め寄る。確かに、家での姉さんは知ってるけど、学校での姉さんは知らないな。少し俺も気になる。

「その…、遠山さんは、入学時から、とても注目を集める人でして、その、大変魅力的な容姿でしたし、誰とも関わらずに孤高の存在と言いますか、僕みたいな人間にっとっては、高嶺の花で―」

 学生時代の姉さんの話しになった途端、饒舌になる冷泉。なんか、アニメとかゲームの話してる理子に近いな。一人称も『僕』になってるし。

「もしかして、冷泉さんて、お姉ちゃん様を好きなのでしょうか?」

 かなでが、冷泉の語りを聞きながら、かなめにぼそぼそ耳打ちする。冷泉に、それが聞こえたのか、

「す、好きとか、そんな、畏れ多いことは…。」

 顔を真っ赤にして俯く。その反応を見て、妹たちは、キャーキャー騒ぎ始める。俺と兄さんは、

「おい、キンジ。この人、ヤバいぞ。」

「ああ、あの姉さんに惚れるなんて、かなりの変人だ。」

 と冷泉に憐みの目を向ける。見た目はともかく、中身を知ってこれなら、救いようがない。

 妹たちに質問攻めに合う冷泉をよそに、冷泉の悲しき恋から救うべく、俺たちはGⅢを巻き込み、緊急会議を行う。双方白熱し、喧騒が起こる。

「お前たち、五月蠅い…。」

 寝起きの姉さんが、不機嫌な顔で立っていた。姉さんは、眠たげな目で、俺たちを見渡す。その姉さんの姿を見た冷泉が、顔を赤くしてぶっ倒れた。

 わーっ、と言って妹たちが、下着姿の姉さんを二階に押していく。

「かなこお姉ちゃん、なんで服着てないのっ‼」

「ん?ああ、寝ている間に脱いでしまったか。」

「お客様も来てるんですよっ‼」

 妹たちの説教を受けながら、姉さんたちが退席した。

 

 残された男どもは、倒れた冷泉を見る。

「どうすんだ、これ…。」

 

 

 

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―冷泉為和視点―

 

 

 

 中学生受験、都内でも最高峰の進学校の試験、その最中、緊張のせいか、お腹を下してしまい、模試でも、合格確実だったのに、失敗してしまった僕は、都内の公立中学校に通うこととなった。

 入学式の日、憂鬱な気分で校門を潜る僕の横を、ブロンド髪の女子が過ぎ去っていく。髪、染めてるのかな、不良なのかも。いや、ハーフだったりするのかもしれない。その時は、その後ろ姿に、そんな、感想を抱いた。

 入学式、苗字が冷泉の僕は、体育館の後方に座っていた。ちょうど、真ん中辺りに、先程のブロンド髪が見える。周囲と異なるその色は、大変目立っており、彼女の周囲も、チラチラと見ていた。入学式が終わり、割り振られたクラスに移動する。それぞれが、決められた席に座る中、空席がひとつある。クラスの全員が、その空席をチラ見しながら、各々が、席の前後と会話したりしていた。

 ガラガラと、教室の扉を開ける音と共に、担任と、ブロンド髪の彼女が現れる。

「遠山、お前の席はあそこね。」

 担任がそう言って、席を指し、彼女が頷き、全員の注目を集めながら、席に着く。注文の理由は、遅れてきたことと、髪の色もそうだが、何よりも、その容姿にあった。まだ、幼さは残るが、テレビや雑誌で見るアイドルや女優、そんな、いや、それ以上、そう思う程に美しい。そんな周囲に気を留めることなく、彼女は、黒板を眺めている。それから、自己紹介が始まる。生徒たちが起立し、名前や出身小学校などを言っていく。そして、彼女の番となった。起立した彼女は、

「遠山金虎。」

 そう言って、座る。それだけ?と周囲がざわめき、担任が、

「あー、遠山、小学校は何処だった?」

 と、質問して場を鎮めようとした。遠山さんは、少し考え込み、

「すみません、忘れました。」

 と、言った。ざわめきが大きくなる。

「わ、分かった。それじゃあ、次の人。」

 担任がそう言って、無理やり、場を進行させた。それから、ざわめきは小さくなったが、全員が、遠山さんを気にせずにはいられず、他の人のことなんて、入ってこなかった。その後、オリエンテーションが終わり、解散となった。それと同時に、一斉に女子が遠山さんに駆け寄ろうとしていた。しかし、彼女は既にいなかった。突然消えた彼女に、騒然となり、教員も総動員で捜索が行われたが、見つからず、家に連絡したところ、帰宅していたそうで、彼女への謎は、深まった。

 

 学校初日、入学式の騒動などどこ吹く風で、遅刻寸前で登校した遠山さんは、朝礼終了後、席を女子と一部の男子に囲まれ、質問攻めに合い、その輪に入っていない僕も、聞き耳を立てる。

「その髪、染めてるの?」 

「生まれつき。」

「じゃあ、ハーフ?」

「ハーフ?分からん。」

「なんで入学式の時、遅れてクラスに来たの?」

「迷った。」

「あの後、なんで消えたの?」

「帰った。」

 と質問に対して、碌な説明をもらえず、謎が深まっていく。

 そんな喧騒も、授業開始のチャイムと、教員の入場によって終了する。教員が自己紹介し、授業が始まる。全員が教科書を開いた数秒後、遠山さんが爆睡していた。教員が起こすが、全く目覚めず、病気を疑われ、保険医が呼ばれる事態となったが、診断は、ただ寝ているだけだった。その後の授業でも眠り続けた遠山さんは、昼休みに目覚め、ひとりで弁当を食べていた。その昼休み明けの授業で、事件が起こった。

 いかにも怖そうな教員が、教室に入ってきた。その教員が高圧的な雰囲気を出しながら、授業を開始した数秒後に、遠山さんがまた爆睡した。教員が隣りの生徒に起こさせるも起きず、遠山さんの前に、教員が行き、怒鳴っても起きず、周囲が戦々恐々とする中、教員が遠山さんの頭を何度も叩いた。それでも起きない遠山さんに、怒髪冠を衝いた教員が、遂に拳を遠山さんに振り下ろした。全員が、教員の度を越した怒りへの恐怖と、遠山さんがどうなるかという好奇心に支配された。

 振り下ろされる拳、それが遠山さんの頭に当たる直前で止められる。その拳の付け根―手首―を遠山さんの右手が掴んでいた。それを掴んだまま、左手で目を擦りながら、顔を上げた遠山さんは、

「五月蠅い…。」

 と言って、教員を見た。それと同時に教員から、大量の汗が噴出し、呼吸が乱れ、掴まれた手首を放されると同時に、膝から崩れ落ちた。遠山さんは、ぐーっと伸びをして、ひとつ欠伸をした後、誰もいない教卓を見て、

「終わった?」

 と言って帰り支度をし、教室を後にした。

 

 その事件以来、寝ている遠山さんを起こそうとする者は現れず、クラスでも、誰もが彼女を避ける様になった。いい大学に入って、人よりも少しだけいい生活をする。そんな将来を描いていた僕も、同様に彼女に関わらないようにした。

 それでも、彼女の容姿に惹かれる者はおり、他のクラスの生徒や、先輩たちが、彼女に告白し、振られたと言う噂も流れた。中には、遠山さんに強引に迫り、反撃した彼女に気絶させられた先輩まで現れた。それから、遠山さんは、『ヤクザの跡取り娘』なんて噂を立てられて。気が弱く、喧嘩なんてしたこともない僕は、益々遠山さんを避ける様になった。

 そんな日々が続き、2年生に進級した僕は、又しても遠山さんと同じクラスになった。だからといって、関係は変わらず、少ない友人と生活を送る僕と、ひとりぼっちの遠山さんは、今まで、挨拶すら交わしたことはなかった。

 

 

 その日、僕は、酷く後悔していた。

 学校が終わり、普段は私服に着替えて通っていた塾に、その日に限って制服のまま行き、ひとりで帰ってしまった。だから、

「おらっ、中坊が粋がってんじゃねぇよっ‼」

「これっぽちなわけねぇだろっ‼」

 バキッ、と顔を殴られ、鼻血が出る。帰り道の途中、ガラの悪い男たちに絡まれて、小道に連れ込まれて、カツアゲされていた。武偵制度が導入される程に、治安が悪化した街をなめていた。小道から聞こえる男たちの声に、チラッとこちらを見る人はいるが、立ち止まったり、助けてくれたり、警察に連絡してくれる人もいない。あの人たちからすれば、夜出歩いている中学生の僕も、彼らと同じに見えるのだろう。更に、腹を殴られる。ゲホゲホと咳き込みながら、倒れる。誰か、助けて。そんな思いは届かず、男たちの蹴りが僕を襲う。痛みと恐怖で、涙が零れ落ちる。そんな最中、

「どいてくれ、通りたいのだが。」

 女性の声がした。

「なんだてめぇ‼」 

 男たちが振り返る、

「おい、この女、こいつと同じ学校じゃね。」

「かなりいい女だな。大人しくしてたら、優しくしてやるよ。」

 ゲラゲラと男たちが笑いながら、そちらに寄っていく。今なら逃げられるかも、そう思って立ち上がろうとするが、散々蹴られた体が痛み、立ち上がれない。それでも、芋虫の様に地面に這いつくばりながら、逃げようとする僕は、

「邪魔だ。」

 その声に思わず振り向く。群がっていた男たちが、倒れており、遠山さんが立っていた。遠山さんは、無様に這いつくばった僕を見下ろす。

「お前、同じ学校の生徒か…、大丈夫か?」

 そう言って、軽々と僕を持ち上げ、立たせる。男たちを倒したことや、僕を持ち上げれることや、色々と言いたいことはあったけど、

「あ、ありがとう、と、遠山さん…。」

 ボロボロになった僕は、立たせてもらっても、膝が笑って、がくがくとしながら、遠山さんにお礼を言う。

「ん?私を知ってるのか?」

 じっと、僕の顔を見てくる遠山さんに、思わず俯いて、

「う、うん。一応同じクラスだから…。」

「そうか、すまぬが、名前は?歩けるか?」

「れ、冷泉です。」

 そう答え、一歩踏み出そうとしたら、力が入らず、倒れる。

「仕方ないな。」

 遠山さんがそう言って、僕を抱える。何故か、お姫様抱っこで。

「えっ、えっ…?」

 突然のことに驚きと、今の自分を、客観的に見た時の恥ずかしさで、小さく抵抗してしまう。

「あまり動くな、持ちにくくなる。家はどこだ?」

 抱えている僕を見下ろして、遠山さんが尋ねてきた。そのきれいな顔立ちに見惚れ、目が合った事の恥ずかしさで、言葉が出ず、五月蠅い程に、自分の心臓の鼓動が、耳に響く。

「おい、黙ってないで答えろ。」

 呆然としている僕に、遠山さんが少し強くそう言った。

「ご、ごめんなさい。えっと…。」

 彼女に、場所を伝えると、

「分かった。」

 そう言って、遠山さんが僕を抱えたまま、小道を出て、街を歩いていく。セーラー服の美少女が、ボロボロの中学生を抱えて歩く姿に、行きかう人々の視線が集まる。当然、その視線は、僕にも向けられる為、顔から火が出る思いだ。そんな視線も気にせず、遠山さんが僕に尋ねる。

「何故、こんな時間に出歩いていたのだ?」

「その、塾の帰りだったから…。それこそ、遠山さんだってなんで?それになんであの場所に?」

「私は、仕事が忙しく、泊まり込みになった父上に、荷物を届けに行ってただけだ。あの道は、近道だったからな。」

「そうなんだ、お父さんは何してるの?」

「武装検事だ。」

 僕の質問に、遠山さんは嬉しそうに答える。武装検事…、『ヤクザの跡取り娘』の噂とは、真逆の仕事だ。物騒なのには変わりないけど。

「私も、高校は武偵高に行って、ゆくゆくは父上と同じ、武装検事になるのだ。」

 目を輝かせて、夢を語る遠山さん。学校では見たこともない、生き生きとした表情だった。

 

「あの、ここで大丈夫です。もう歩けるので。」

 自宅付近にきたところで、遠山さんにそう言う。流石に、この姿を親に見られるのは、恥ずかし過ぎるし、勘違いで、遠山さんに迷惑をかけるのも嫌だった。

「そうか。」

 そう言って、遠山さんが僕を降ろす。

「あの、本当にありがとうございました。」

 深々と頭を下げる僕に、

「気にするな。しかし、せめて自衛する力くらいは、つけた方がいいぞ。」

 そう言って、遠山さんが去って行く。それから、家に帰り、ボロボロの僕を見た母が、大騒ぎしたりしたが、頭の中は、遠山さんの姿と言葉が、何度もフラッシュバックしていた。

 翌日になっても、脳裏に遠山さんの姿が映り、爆睡する彼女を盗み見る。本当は、話しかけたかったけど、僕に、その勇気はなかった。

 そんな日々が続き、遂に受験シーズンとなる。志望校を書くプリントに、僕は、『東京武偵高校』を第一志望と書いた。

 

 

 武偵高受験の日、受験者の中に、この2年間、眺め続けたブロンド髪を見かけた。受験生のグループでは、一緒にならなかったが、筆記は簡単だったし、楽勝だと思っていた。

 筆記の後、射撃やら、格闘の試験があり、心が折れかけた。挙句の果てに、模擬戦闘の試験が待ち構えている。何故か、一時中断となっているが、辞退しようかな。そんなことを思った時、

「おい、聞いたか、ひとつ前のグループにいた、外部受験生の話。」

 恐らく、武偵中からの内部受験生たちの会話が耳に入る。

「あのブロンド髪の美人?」

「そうそう、そいつ、模擬戦闘、ひとりで全員倒したらしいぜ。」

「まじか、とんでもない奴が入ってくるな。強襲科の首席候補になるかもな。」

「ちげぇよ、全員って、教官たちも含めて全員だ。しかも、最上階からのスタートで、2分以内で終わらせたんだよ‼」

「それって、SDAランクの上位ランカー並なんじゃ…。」

 遠山さんだ‼彼らの言葉を聞くに、どうやら合格確定のようだ。

「武装検事…。」

 無意識に口が動く。彼女の夢、この2年間、彼女への思いが募り、それが僕の夢にもなってしまっていた。辞退する、そんな気は失せていた。どんなに無様でも、食らいついてやる。彼女に相応しい男になるた為に。

 

 

 結果は、ボロボロだった、普通の気弱な中学生として生きてきた僕が、武偵としての教育を受けてきた、彼らに敵うはずもなかった。不合格かも…、そう思い、トボトボと歩く。

「おい、お前、般中出身だろ?いい根性だったぜ。」

 男らしい豪快な笑顔浮かべた少年が、僕の肩を掴みそう言う。模擬戦闘で僕を倒した人だ。

「あ、ありがとう。でも、全然ダメだった…、不合格だと思う。」

 絶望に満ちた顔と声で答える。

「大丈夫だ、『誰でも合格出来る武偵高』だ、それに、外部生が、そういうことを出来る方が珍しいんだ。気にすんな!」

 バシバシと、僕の背中を叩く。

「入学したら、色々と教えてやるよ。」

 じゃあ、と言って去って行く彼を見送る。彼なりの励ましなのだろうか、落ち込んだ気持ちは戻ることはなく、しょぼくれながらも遠山さんを探しつつ帰路に着く。結局、彼女を見つけることは出来なかった。

 

 

 後日、武偵高の合格通知書が届いた。落ちたと思い込んでいた分、僕は舞い上がって喜んだ。高校も遠山さんと同じ学校に行ける。思いを伝えることも出来なかった中学生活、高校では必ず…。

 

 東京武偵高校入学式、並ぶ生徒の中に、遠山さんはいなかった。僕と同様に、彼女を探していた生徒は多かったらしい。模擬戦闘で残した圧倒的な成績、実際に彼女に倒された生徒たちは、血眼で彼女を探した。自分たちに圧倒的な力を見せた彼女が、不合格なんて有り得ないと。しかし、彼女は入学すらしていなかった。名簿のどこにも名前が無かった。

「引き抜かれたんじゃないか?」

 誰かがそう言う。

「あれだけ圧倒的な力を見せたんだ、人員不足の武検あたりは欲しがるだろうな。」

 その話を盗み聞きしていた僕は思わず、彼らに尋ねてしまった。 

「そんなこと、あり得るの!?」

 全員が、誰だこいつ?という目で僕を見る。

「まあ、有り得ない話ではないと思うぞ…。」

 僕の熱に引きつつもそう答えた。遠山さんは一足先に夢を叶えたのか…。武装検事、新たな目標が定まる。絶対になってみせる。そうして、彼女に認めて欲しい。それから、死に物狂いで武偵高の授業と環境に食らいついていった。入学時の武偵ランクはEだったが、鍛錬と勉強を続け、試験や武偵ランク定期外考査を受け、卒業時にはSランクにまで登り詰めた。教官たちからは、

「才能もあったが、なによりも狂気にも似た努力で成長した。」

 と評価されたが、好きになった女の子を追いかける為に、ここまで出来たのは、自分でも狂気を感じてしまった。そして、東大文Ⅰに合格し、武偵兼大学生として過ごす。そして、遂にその日が来た。武装検事の試験をギリギリで合格し、東京地検特捜部、武装検事の本拠地に入る。教育担当となった先輩が色々と教えてくれ、最後に、

「何か聞きたいことはあるか?」

 その質問に、武偵高入学以来、胸にしまっていた名前を出す。

「遠山金虎さんは、どこにおられますか?」

 その瞬間、先輩だけでなく、周囲にいた武装検事たちも、一斉に殺気を僕に向ける。

「てめぇ…どこで知った。新人はまだ、説明を受けてねぇぞ。」

 言わなければ殺す、言っても殺す。殺気のこもった声で先輩がそう言う。

「えっ。」

 どういうことだ!?彼女は武装検事になっているんじゃ…

「さっさと言え!まさかここに潜り込むとはな…。」

 ガンッ、一瞬で押さえ込まれ、頭に銃を突き付けられる。

「ま、待って下さい。遠山さんは武装検事になってないんですかっ!?」

「どこでそんな話になったかは知らねえが、今話せば、楽に死ねる。話さねぇなら…、分かるよな。」

 さーっ、と血の気が引いていく、彼女を追いかけて7年間頑張った、しかし、彼女はいないどころか、人生の幕を下ろしそうになっている。

「中学校の同級生なんです‼武装検事に引き抜かれたって聞いたから…。」

「おい!」

 先輩が、誰かに声をかけた様だ。それからしばらく、押さえつけられたまま、長い時間が過ぎる。

「間違い、同級生で同じクラスだ。しかも、三年間。経歴の詐称もなかった。」

 その声で、拘束が解かれ、殺気も収まる。

「悪かったな。まあ、なんでこうなったかは、すぐに分かる。」

 先輩が手を差し伸べ、起こしてくれる。

「どういうことですか?」

「後で新人に、部長から話がある。聞けば分かる。」

 

 部長から、守秘義務や色々と聞かされたが、先輩の言葉の意味が分かった。遠山さんは武装検事になったんじゃない。彼らが隠さなければならない、危険な切り札であった。話が終わり、席に戻ると、先輩がニヤニヤしながら話しかけきた。

「分かっただろ。しかし、愛しの彼女を追って、武装検事になるとか前代未聞だな。しかも、それがねえ…。」

 それから、他の検事たちからもイジられ、僕の彼女への思いは、この場の全員が知ることになってしまった。本人には、告白どころか、7年会ってすらいないのに…。

 一年後、遂に僕は遠山さん係に任命された。前任者は引継ぎ後、

「ようやく解放された。ほれ、餞別だ。」

 と言って胃薬と頭痛薬を渡してきた。

 

 

 そして、その時がきた。日本に凶悪犯、フレディ・ジェイソンが侵入したという連絡が、元・武偵庁特命武偵、遠山金一から入った。武装検事も、犠牲を覚悟で逮捕に踏み出そうとした時、彼から、ある策を提案された。上からの許可もおり、それが実行された。そして、それらが終わった時、カナという女装した遠山金一に接触する。その時、遂に彼女を見れた。彼と話しながらも、遠山さんを何度も盗み見てしまった。

 

 

 

 遠山さんのお家にお邪魔し、先日のことについて話すこととなったが、彼女はその場にいなかった。体調でも悪いのではと心配したが、寝ているだけらしい。相変わらず、よく寝る人だなぁ、と中学時代、いつも寝ていた彼女の姿を思い出す。

 それからしばらく、仕事の話を終え、ボロが出た。色々とバレてしまい、彼女の妹たちに質問攻めに合う。場が想像しくなった時、

「お前たち、五月蠅い…。」

 遠山さんの声が聞こえた。以前より、少し低くなった声は、大人の女性という感じがする。彼女との再会、追いかけても、追いかけても、すり抜けていく存在が、振り返ると目の前にいるんだ。これまでの8年が報われた気がする。意を決し、振り返った。

 

 

 

 

 何故か、下着姿の遠山さんがいた。8年間恋焦がれた、念願の再会は、余りにも刺激的過ぎた。彼女の下着姿を脳裏に焼き付け、僕は卒倒した。

 




 今回、長くなってしまいました。
 
 次回は、この続きをしつつ、話を進める予定です。


※オリキャラの名前は上冷泉家7代当主からですが、本当に何の理由もありません。
 名前を決められずにいた時、突然の記憶の引き出しから、冷泉為和が出てきたので、これでいいか、と適当につけました。
 当初、予定では、もう少し努力の人のイメージだったのですが、書いているうちに、何故か、ストーカーみたいになってしまいました。
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