―金虎視点―
冷泉と再会した数日後、起きてから、特にすることもなく、暇だったので、庭で正拳突きを繰り返していたら、夜になっていた。
「爺様も、婆様も、寝てしまったか。」
起こしてはいけないな、仕方ないが、食事は外で済ませよう。手早く身支度を終え、家を出る。
寝静まった道を進む、確か近所にラーメン屋があった筈だ。子どもの頃、家族で何度か行った店だ。しばらく歩くと、ラーメン、と書かれた看板が目に入る。
「おお、ここだ。」
見覚えのある店の看板、間違いないだろう。しかし、シャッターがしまって、『本日閉店しました。』の木札が掛かっている。
「なんだと、今は何時だ?」
ポケットに突っ込んだスマホを見ると、23:50の数字が目に映る。こんな時間になっていたのか。しかし、参った。この近辺だと、もう店は開いていない。
「仕方ない、街に出るか。」
道を一気に駆け抜けていく。途中、24時間営業の牛丼屋やらが目に映るが、今はすっかりラーメンの気分になっている。ラーメン屋がありそうな場所、呑み屋街に向かう。
ガヤガヤと騒がしい街に着く。道には、酔っ払いの集団や、客引き、それらを避けながら、ラーメン屋を探す。数店舗あるが、
「何処にするか…」
そもそも、ラーメンを食べるのが数年だし、詳しくもない。醤油に味噌、豚骨に塩…、魚介豚骨や醤油豚骨などもあるようだ。しかし、ここは響き的に豚骨だろうか。
「よし、豚骨にするか。」
こういう時は、即決するに限る、悩む程、答えが出なくなる。豚骨ラーメンの店に足を進めていると、別のラーメン屋に入っていく、サラリーマン2人組の会話が聞こえる。
「やっぱり、〆はラーメンだな。」
「普通に食っても旨いけど、〆で食うとなんか、いつもより旨いよな。」
なるほど、〆のラーメン。聞いたことはあるが、やったことはない。しかし、そっちの方が旨いのだろうか?折角食べるのなら、旨い方がいいに決まっている。
「では、酒を飲まなければならないな。」
しかし、呑み屋に入って、ラーメン屋の位置を忘れると困る。
「なにやら分からぬが、目の前の店に入るか。」
それなら、店を出た瞬間に、ラーメン屋が目に入る。そう考え、目の前の呑み屋へ行くことにした。
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―灘視点―
週末の今日、仕事終わり、獅堂に誘われて吞みに繰り出したが、男くさい居酒屋をはしごして、三軒目、「いい加減、女の子と飲みてぇ」
と言った俺を、獅堂はスナックに連れて行きやがった。そういう事じゃねぇんだよ。キャバクラとか、クラブとか、他にもあるだろうが。店の前でそう言うと、
「まあ、いいじゃねぇか。奢ってやるからよ。」
と言いやがる。まあ、奢りならいいか。女の子は、明日休みだし、その時に。そう考え、ふたりで店に入る。
カランカランと、扉を開けると、ベルが鳴り、
「いらっしゃいませ。」
スナックのママが、音に反応し、そう言って、カウンターにおしぼりとお通しを置く。まだ、他に客はおらず、俺たちだけみたいだ。
席に着き、獅堂のキープしている焼酎をふたりで飲みながら、時折ママを交えながら会話をしていた。一時間程経っただろうか、そろそろ日付が変わろうかという時に、カランカランと、扉が開く音がする。
「いらっしゃいませ。…あら、ひとりですか?」
入ってきた客をママが見て、そう言う。なんだ常連だろうか?その客を見た獅堂が、間抜けに口を開けている。
「いや、ひとりだ。ここで酒は飲めるのだろか?」
少し低音の、若い女の声がする。おお、と思い店の入り口を見ると、ブロンド髪の超美人が立っている。しかも、スーツに包まれた、そのスタイルも抜群だ。こんないい女が、ひとりでスナックに来る。違和感はあるが、そんなのは些細な問題だ。今日一のテンションになる。
「ええ、ここはお酒を飲む所だけど…、こういう店は初めて?」
ママがそう言いながら、おしぼりとお通しを、俺の隣の席に置く。ナイスだママさん。
「初めてだ、何の店か分からなかったが、酒が飲めればそれでいい。」
俺の隣に座り、おしぼりで手を拭きながら、そう言う女。思わず大きく開いたワイシャツの胸元に目がいく。
「なかなかに度胸があるわね。若い女の子が、ひとりでスナックに入るなんて。何飲む?」
ふふ、とママが笑いながら、注文をとる。
「とりあえず、ビールを。この向かいのラーメン屋に行こうと思っていたが、ラーメンは〆で食うのが旨いと聞いてな。それでとりあえず、飲もうと思ったのだ。」
なんとも珍妙な理由で入店したらしい。しかし、これはチャンスだな。
「ああ、〆で食うラーメンは、格別なんだよなぁ。」
俺が、合いの手をいれると、
「やはりそうなのか、私は、〆のラーメンをしたことがなかったのでな、今回挑戦してみようと…、ん?」
俺の方を向き、そう言っていたが、何かを見つけたのか、言葉が止まる。しかし、近くで見ると、ますます美人っぷりが分かるな。しかし、この美人さん、どこかで見た気がするな。こんな美人がいんのに、獅堂の奴は、さっきからずっと黙り込んで、俺を壁にして隠れているし、どうしやがったんだ?そう思っていると、
「お久しぶり。」
美人さんが、獅堂を見て、そんなことを言う。
「なっ!?獅堂、お前、知り合いなのかよ。」
なのになんで黙り込んでんだよ。
「いや、人違いじゃないか?」
獅堂を見ると、顔に、尋常じゃない量の汗を浮かべてそう言う。明らかに怪しい。
「いや、この気、間違いなく獅堂殿であろう。」
「ああ、こいつは獅堂で間違いないが、知り合いか?」
明らかに、何かしらの異常が出ている獅堂を見て、俺が聞く。もしかしたら、昔の女だったりするのか?
「一度、腕相撲をしただけだが、よく覚えている。今のところ対戦相手としては、暫定一位だからな。」
そりゃあ一位だろうな。獅堂は、金剛力士のモデルとなった仁王の子孫で、常人の256倍の力が出せる特異体質だからな。しかし、なんで腕相撲を…?そう思い、獅堂を見ると、なにかを思い出したのか、右腕を擦っている。
「へぇー、俺ともしてみねぇか?」
合法的に触れるチャンス。そう思い、右腕をカウンターに置こうとした瞬間。
「やめろっ‼」
獅堂が、俺を止める。
「なんだよ。」
俺が、少し不機嫌に獅堂がを睨むと、
「バカか、死ぬぞ。というより、お前、なんでまだ気付いてねぇんだ。」
なに言ってんだこいつ?
「GT」
ボソッと俺の耳元で、獅堂が囁く。秘匿名称GT、特別機密:遠山金虎。その資料が頭に蘇る。その顔写真…、
「噓だろ、なんでこんなとこにっ‼」
なんか見覚えがあると思っていたが、機密資料かよ。
「遠山さんよぉ、お前さん、この間、暴れたらしいじゃねぇか。」
獅堂が、焼酎を飲みながらそう言う。
「この間…?ああ、あれは金一の作戦通りにしただけだ。暴れてなどおらん。」
遠山かなこも、グラスのビールを一気に飲み干してそう言う。
「普通、元とはいえ、SDAランク総合13位とやり合うことは、暴れたことになるんだぜ。」
獅堂が、呆れた様に言う。元SDAランク総合13位…、この間、武検が秘密裏に逮捕して、英国に引き渡したフレディ・ジェイソンかよ。俺も密かに狙っていたが、正直、一対一だと、勝ち目が薄かった相手だ。
「金一や金三が騒ぐので、どれ程の強敵かと思ったが、がっかりだったな。あれでは相手にもならんな、弱すぎる。逃がすなと言われていたので、仕方なく殴りはしたが、本来ならば、逃げる相手に手は出さんよ。」
また、グラスのビールを呷り、そう言う。フレディを弱いって…、噂通りの化け物かよ。こんな美人なのに…。
「逃がすなって言われて、背骨と頭蓋骨以外の骨を全部砕くかねぇ。」
「砕くつもりはなかった。思っていたよりも脆かっただけだ。」
怖ぇよ。死刑が確定しているような野郎だが、少し同情してしまう。
「それよりも、獅堂殿、少しは強くなったか?」
「多少はな、あんたからしたら、相変わらずミジンコだがな。」
自嘲気味に獅堂が答える。いや、あんたも十分強いよ。
「そんなことはないぞ、現に腕相撲は、獅堂殿が暫定一位だ。」
「腕相撲の話はやめてくれ。痛みが蘇っちまう。」
獅堂が、右腕を擦りながら、そう言う。
「いや、あの時はすまなかった。少し力を入れてもいい相手が現れ、嬉しくて、加減を間違えた。」
「だからって、折るかよ、普通。」
獅堂は、トラウマが蘇ったのか、また、顔に汗が浮かび上がる。馬鹿力の獅堂を腕相撲で倒すどころか、腕まで折る化け物。獅堂の様子からしても、事実のようだな。獅堂、あの時、止めてくれてありがとよ。折られずに済んだ右腕を見つめる。
「どうだろう、久しぶりにやるか?」
遠山かなこが、カウンターに腕を置く。
「安心してくれ、あれから加減は上手くなった。」
いや、あんた、さっき思ったより脆かった、ってフレディの骨を砕いた話してただろ。
「俺の実力を見るだけでなら、してやる。反撃は勘弁してくれ。」
獅堂が右腕を置く。
「仕方ないが、いいだろう。」
ガシッ、とふたりが手を握る。
「いつでもいいぞ。」
「んじゃ、遠慮なく。」
獅堂が力を込め始め、
「~~~っ‼‼」
顔が真っ赤になる程に、遠山かなこの腕を倒そうと力を込めるが、ビクともしない。
「っ、はーっ。参った。」
獅堂が息を乱しながら、手を放す。
「確かに、以前よりも強くなっているな。」
「そいつはどうも、ちっとも傾きもしなかったがな。」
そう、遠山かなこの腕は、全く動かなかった。
「私も、日々鍛錬を積んで、強くなってるからな。」
あんたは、これ以上強くなったらダメな気がする。
「おめぇさんからも、うちに来いって言ってくれよぉ。」
完全に酔いの回った獅堂が、遠山かなこに遠山キンジの勧誘を頼んでいる。そういや、姉弟だったな。全然似てないから、忘れてたぜ。
「キンジは、武装検事になるつもりだ。私は、それを応援する。」
「はーっ、人手は足りねぇ、事業仕分けで武検の部下扱い…、なんでこうなるのかねぇ。」
ベロベロになり、愚痴りだす獅堂。
「そもそも、最近の武検の新人にせよ、いや、公安もだな、どっちにしても、あんたを知らない…、名前だけ知ってる奴らは、どこかで舐めてる、自分の強さを過信してんだ…。一回くらい、組み手くらいしてやってくんねぇか…。」
限界みてぇだな。もう、瞼が閉じかかってる。そりゃあ、焼酎を二瓶開けてるんだ、仕方ねえか。
「考えておこう。」
こっちは、焼酎もビールも、ウィスキーまで、二瓶ずつ開けておきながら、酔った様子さえない。酒まで化け物なのかよ。
「会計を頼む。あと、水を一杯頼む。」
そう言って、俺たち含めた三人分を支払い、獅堂に水を渡す。
「いや、俺の分くらい出すぜ。」
そう言って、財布を出す俺を手で制し、
「それでは、ラーメン代をお願いする。」
そう言って、ふわりと笑う。あれだな、こいつが普通の女だったら惚れてるな。
「おい、獅堂、ラーメン食いに行くぞ。」
俺が潰れてる獅堂を揺するも…、ダメだなこりゃ。
「仕方ない。」
そう言って、軽々と獅堂を俵担ぎする遠山かなこ。
「失礼する。」
そう言って、扉を開け、出ていく。漢らしい後ろ姿だった。
「あー、なんでこんなに旨いんだろう。酒の後のラーメンは。」
麵をすすり、そう言う。
「確かに、普通に食べるのとは、なにか違う旨さがあるな。」
人生初の〆ラーメン(叉焼大盛り)を食らいつくした、遠山かなこがそう言う。食うの早えな。
「うめぇ…、あれ、なんでラーメン食ってんだ?」
ラーメンをすすりながら、酔いが醒めたのか、獅堂がそう言う。
ラーメンを食い終わり、店を出る。
「なんやかんや、世話かけたな。いつまで日本にいるつもりだ?」
獅堂が遠山に問いかける。
「特に決まっていない。気の向くままだな。」
羨ましい生活してんな。
「そうかい、まあ、暴れなけりゃ、それでいいさ。」
「暴れたことなどをないのだが。」
その言葉を無視し、
「そんじゃあ、酒代ありがとよ。」
獅堂が、軽く手を振り帰路に着く。
「ああ、失礼する。それと獅堂殿、あの話、受けることにしたので、よろしく頼む。」
そう言って、
「灘殿も、今日は楽しかった。」
俺を見て、小さく笑って言う。
「おお、それじゃあ、またな。」
思わず、惚れてしまいそうな笑顔だった。ダメだ、あんなのに惚れたら、碌なことにならねぇ。獅堂に追いつき、
「初めて会ったが、ヤベェ相手だな。敵じゃなくてよかったよ。」
「ホントにな。」
そんな感想を言い合う。
「ところで、あの話ってなんだ。」
獅堂が、そんなことを言う。
「いや、俺が知るわけねぇだろ。泥酔するから、そうなんだよ。」
まさか、酔った獅堂の愚痴じゃねえよな…。
酔いの残る帰路、眠気とアルコールの入った頭は、深く考えることを拒否してしまった。
公安0課って、武装検事よりも弱いみたいな描写がありましたけど。どうやって獅堂に勝つんですかね?原作の今後に期待しております。
今回は、かなり迷走しました。
次回に続くっぽい終わり方にしてしまいましたが、次回は決まってません。思いつきで始めたツケが、最近回ってきてます。